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第一章
30.ただの同居 ②
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「名前はなんて言うんですか?」
「……ペルシャ」
「ああ、ペルシャってすごく毛が長いから手入れ大変ですね。それで猫の名前は?」
「……だから、ペルシャだって言ってんだろ」
「ペルシャ? それって猫の種類の名前ですよね?」
「何だよ、オレが飼い主なんだからどんな名前つけようが勝手だろ! ペルシャ猫だからペルシャで悪いか!」
いろいろ突っ込まれるのが面倒で強気に出れば、遠野は何も言い返さなくなる。
「……悪くないです」
「ペルとかペルにゃーとか、その時によって呼び方が変わるんだよ」
「可愛いですね」
「そうだろ」
自分の意見と一致して嬉しくなった矢神は、大きく頷いた。
「いえ、矢神さんがです」
しかし、すぐに違う答えが返ってきて愕然とする。
「おまえ、感覚がおかしいよ」
「そうですか? おいで、ペルシャ」
遠野は猫の目線になるようにしゃがんで、猫に話しかけた。すると、遠野の方を見ていた猫が急にぷいっと横を向き、部屋の中に入ってしまった。人間でいえば、かなり感じが悪い態度だ。
「あれ、おかしいな。オレ、動物に好かれる方なのに」
首を傾げた遠野が、少し残念そうな声を出した。
「嫌われてやんの」
遠野と猫のやり取りが妙に面白くてツボに入った矢神は、お腹を抱えて可笑しそうに笑った。
「そんなに笑わなくても……」
普段学校では、あまりこんな姿を見せない矢神だが、自分の家だということで気が緩んでいたのだろう。
「はぁ、腹痛い。おまえでも嫌われることあるんだな」
「飼い主に似るって本当ですよね」
「何だそれ」
少し不貞腐れたように言った遠野の言葉の意味はわからなかった。
「それにしても広い部屋ですね。2LDKですか? きちんと片付いているし、ゴミとか汚れとかほとんどないですよ。どうしよう、オレ、すぐ汚しちゃいそうです。いつもこんなにきれいにしてるんですか?」
トイレからバスルーム、キッチンやリビングなど一通り眺めながら、遠野がはしゃぐような声を上げた。
矢神は普段から部屋を散らかす方ではないが、ここまで大袈裟な程に言われると居たたまれなくなる。
「おまえが来るから掃除して、ちょっと片付けただけだよ。きれいに見えるのは新しいからだろ」
この部屋を契約したのは一年前。気に入ったのは、前の彼女だった。
デートの帰りにたまたま冷やかしで寄っただけだったのに、彼女はかなり乗り気で矢神は内心焦った。一人で住むには広すぎるし、毎月の家賃だって払えるかどうか不安だった。
だけど、「こんなキッチンだったら毎日ごはん作りたい」なんて可愛く言うもんだから、思わず契約してしまったのだ。
将来一緒に住めばいいとかノンキなことを考えていたあの頃の自分を罵倒したい。
矢神はそう本気で思っていた。
別れたと同時に解約しても良かったが、賃貸契約期間は二年。あと一年の我慢だった。
「……ペルシャ」
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「……だから、ペルシャだって言ってんだろ」
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「……悪くないです」
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「可愛いですね」
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「いえ、矢神さんがです」
しかし、すぐに違う答えが返ってきて愕然とする。
「おまえ、感覚がおかしいよ」
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「あれ、おかしいな。オレ、動物に好かれる方なのに」
首を傾げた遠野が、少し残念そうな声を出した。
「嫌われてやんの」
遠野と猫のやり取りが妙に面白くてツボに入った矢神は、お腹を抱えて可笑しそうに笑った。
「そんなに笑わなくても……」
普段学校では、あまりこんな姿を見せない矢神だが、自分の家だということで気が緩んでいたのだろう。
「はぁ、腹痛い。おまえでも嫌われることあるんだな」
「飼い主に似るって本当ですよね」
「何だそれ」
少し不貞腐れたように言った遠野の言葉の意味はわからなかった。
「それにしても広い部屋ですね。2LDKですか? きちんと片付いているし、ゴミとか汚れとかほとんどないですよ。どうしよう、オレ、すぐ汚しちゃいそうです。いつもこんなにきれいにしてるんですか?」
トイレからバスルーム、キッチンやリビングなど一通り眺めながら、遠野がはしゃぐような声を上げた。
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