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第一章

04.悪いことは続くもの? ④

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「これ、矢神先生のですよね? 印刷したまま放置されてました」

 テスト問題を印刷したまま忘れていた矢神のところに、嘉村が親切に持ってきてくれる。
 あれから嘉村とは、何事もなかったように接していた。
 お互いあのことには一切触れず、業務だけをこなして過ごしていたのだ。
 だが、仕事だと割り切っていても、平然と話しかけてくる嘉村が時には苛立ちを覚えることもあった。
 礼も言わずに無言で用紙を受け取れば、即座に間違いを指摘してくる。

「五問目と六問目、同じ問題です」

 頼んだわけでもないのに、勝手にチェックされたことに腹が立った。
 しかし、用紙を確認すると、確かに五問目と六問目が全く同じ問題になっている。その他にも間違いが多く、いったい自分は何を作っていたのかと問い質したくなった。
 溜め息を吐きながら再びパソコンに向かうと、自分の席に着いた嘉村が静かなトーンで呟くように言う。

「矢神先生、最近ミスが多いですよね。気をつけてください」

 ――誰のせいだと思っているんだ。

 叫びたい気持ちを押さえつつ、嘉村の発言は無視して、テスト問題を作るのに専念した。
 放課後のせいか、職員室には矢神と嘉村の二人しかいなかった。
 遠くから生徒の楽しそうな声は聞こえていたが、二人の間には沈黙がひたすら流れ、その空間がとても嫌な雰囲気だと矢神は感じていた。
 
 嘉村がどう思っているのかはわからなかったが、矢神にとっては、彼と一緒にいることが苦痛で仕方がなかった。
 同じ職場なのだから、避けるといっても限度がある。嫌でも話をしなきゃいけない時は訪れる。

 矢神は真面目な人間だから、仕事に支障がきたすのはどうにも許せなかった。ましてや生徒にまでこの影響が及んでも困る。
 自分の弱さを知っていたから、この状況を続けていくのは無理があると思っていた。

 どうすべきなのかは、矢神自身が一番理解しているのだ。
 作業を一端止めた矢神は、思いきってずっと胸にあったことを口にした。

「嘉村が本気なら、それでいいよ」

 校内で、相手を呼び捨てにすることはほとんどなかった。
 あえて普段の呼び方にしたのは、プライベートのことだからだ。
 それは、負け惜しみにも聞こえる言葉だったかもしれないが、矢神の本心だった。

 彼女のことは大切だったが、それと同じく同僚の嘉村のことも大切に思っていた。
 聞こえていないのか、意味がわからなかったのか、嘉村は何も答えなかった。
 だが、それでも矢神は、自分の気持ちに一区切りをつけたのである。
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