迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~

月音真琴

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第1章 【side 敦貴】

21.遠い思い出の断片 ①

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「待って、そういうつもりで来たわけじゃないよ」

 敦貴の言葉に、怪訝そうな表情をして首を傾げる。

「じゃあ、どういうつもりで来たんだ?」
「コウちゃんに電話したのに出てくれないし、連絡くれないから……」

 皇祐は急に、申し訳なさそうに顔を俯かせた。

「……ごめん、忙しかったから」
「うん、大丈夫。だから会いに来たの。話がしたくて」
「話? 何の?」
「うーん、何でもいいよ。ほら、ご飯食べに行こうって言ったじゃん」
「そうだな」

 皇祐が再びソファに腰を下ろしたので、敦貴もそっと近づいて隣に座る。

「見つけたよ。ウマい店。定食屋さんだよ」
「それは、いいな」
「でしょ、でしょ。行こうよ」
「……今は、ちょっと忙しいから、休みが取れたらな」
「うん」

 元気な敦貴に比べて、皇祐は物静かなタイプだ。だけど今は、この場がつまらないんじゃないかと思うほど、暗く重苦しい印象が彼にはあった。

「コウちゃん、やっぱり怒ってる?」
「もう怒ってないよ」
「なら、いいんだけど……」

 懸念を抱いていた。それは、海外に留学した皇祐と連絡が取れなくなった原因は自分にあったのではないかということ。隣にいる皇祐を見ているとそんな思いが強くなる。

「ねえ、コウちゃん。何であの時、電話通じなくなったの?」

 皇祐の答えを聞くのは怖い。だけど、事実を知らないでいるのも苦しかった。

「あの時?」
「コウちゃんが海外に行った時」
「……ああ」

 少しの間、沈黙が流れる。どんな答えが返ってくるのか息を飲んで待った。
 ふと思い出す。皇祐と友だちでいる敦貴に、ある同級生が放った言葉を。

『仲谷と友だちって、レベルが違いすぎるだろ』
『頭良すぎて何考えてるかわかんないよな。仲谷とどんな話するんだよ』

 あの頃は誰に何を言われようとも気にしなかった。だけど、皇祐と連絡を取れなくなってからは、少しずつ不安が積み重なっていった。
 もしかしたら、皇祐は自分に合わせていただけだったのかもしれない。
 一緒にいるのが楽しかった。かけがいのない親友だった。そう思っていたのは自分だけなのか。

 締め付けられるような息苦しさを感じる。胸が痛くて我慢できないほど辛かった。嫌なら、はっきり言ってもらった方がいい。
 しびれを切らした敦貴は、自分から聞いていた。

「オレ、何かした?」
「してないよ。あれは、僕が携帯電話をトイレに落として……」

 皇祐の言葉に驚き、距離感を考えずに大きな声を出す。

「え!? コウちゃんでも、そんなヘマするの?」
「するよ……それで、携帯電話が使えなくなったんだ」

 学生の頃、敦貴が財布や携帯電話をあちこちに忘れてくることはよくあった。それでも、毎回一緒にいる皇祐の方が真っ先に気づいてくれたから、大事に至らず済んでいたのだ。
 
「データ、バックアップ取ってなかったの?」
「取ってない」
「コウちゃんが? 信じられない」
「そういうこともあるよ」

 びっくりしすぎて、呆然として目をぱちくりさせた。
 しっかりしている皇祐は、いつも計画的で完璧にしている。そんな失敗をするなんて想像がつかなかった。
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