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第1章 【side 敦貴】

43.不安と喜び

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「アツキ、コウスケくんを信じよう?」

 潤一の言葉は、包み込むように温かい。それでも、大きな不安に押し潰されて壊れてしまいそうだった。
 
 ――どうしよう。またこのまま会えなくなってしまったら。

 付き合うことを決めたあの日、皇祐の傍を離れなければ良かったのだろうか。
 ずっと一緒にいれば、こんな思いをしなくて済んだのに。

 恋人同士になったからといっても、皇祐と必ず会えるという保証はない。
 自分の家に閉じ込めておけば安心だろうか。そこまで考えて頭を横に振った。
 強い不安感からおかしな考えにいきつきそうになり、自分が怖くなる。

 「もうやだよ……」

 考えたくないのに、皇祐のことばかりを思い浮かべてしまう。
 目からは自然と涙が溢れていた。

 こぼれてくる涙を手の甲で拭いながら、携帯電話をテーブルに置いた。
 すると、突然メロディーを奏で始める。画面には登録されいる『コウちゃん』の文字が表示されていた。

「コウちゃん……っ」

 鼻をすすりながら、半泣きの声で電話に出た。

『敦貴、ごめん。電話くれたか?』

 皇祐の優しい声に、さらに涙が溢れ出てきた。

「うん、電話した。今、終わったよ。今日会える?」
『お疲れさま。大丈夫、会えるよ。ファミレスで時間潰してるから、ゆっくりおいで』
「待っててね」

 電話を切ったあと、顔を上げれば、潤一が安心したように笑った。

「良かったね、アツキ」

 彼は、自分のことのように喜んでくれていた。

「潤ちゃん、ありがとう。作ったカレー、少し持っててもいい?」
「ああ、コウスケくんと食べるのか?」
「さすがにラーメンは持っていけないから」
「きっと喜ぶよ」

 プラスチック容器にカレーを詰めて、敦貴は皇祐が待つファミリーレストランに向かったのだ。
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