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第一章
32、 無意識と不器用
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「今のは……すみません、忘れて下さいっ!」
エレオノーラは慌てて自分の言葉を取り消そうとしたけれど遅かった。
「エル、俺には結婚前に特別に想う女性は居なかったし、エルと結婚した今、別の女性と関係を持つことはあり得ない」
ルートヴィッヒはエレオノーラの涙を指で拭う。
「今日ずっと元気が無かったのはそのせいか? 辛い思いをさせてすまなかった」
ルートヴィッヒの紫の瞳がエレオノーラを見つめた。
「違うんです、これはその……もしルートヴィッヒ様に好きな女性がいらっしゃるなら、私は離婚した方が良いんじゃないかとか、もしくは離婚しないまでも、私は何処かに引っ越して、ルートヴィッヒ様はその方と暮らされる方が良いんじゃないかとか、それも考えたのですが……」
「ですが?」
「何よりルートヴィッヒ様があんなに嬉しそうにお話しなさるのを初めて見て、何だかとても……すみません、私のわがままなんです……」
エレオノーラは自分でも何を言っているのか、分からなくなってきた。
「嬉しそうに? それはいつの話だ?」
思い当たる節が全くないのでエレオノーラに尋ねる。
「昨日、ルートヴィッヒ様がイレーネ様とお話している時です……」
「イレーネと? それは何かの間違いだ。あいつとはただの腐れ縁の仲だ」
「でも……」
「エルにそう言う誤解を与えてしまった事は謝る。だが今までもこれからもあいつとどうこうなる事は絶対にない」
「そうだったのですか……すみません、私の早とちりで……」
「気にするな。エルは何も悪くない。それよりも──」
ルートヴィッヒはそこで一度言葉を切った。
いつも率直なルートヴィッヒにしては珍しい。
エレオノーラが続きを待ってルートヴィッヒを見つめる。
「つまり……今までの話を聞くに、エルは俺とイレーネの事で嫉妬してくれたと言う事でいいのか?」
「嫉妬──っ!?」
エレオノーラはルートヴィッヒの言葉に衝撃を受けた。
「──今の発言はあまりに自意識過剰だった。すまない、忘れてくれ」
ルートヴィッヒは苦笑しながらエルの頭を撫でた。
(嫉妬……? 私はイレーネ様に嫉妬していたの? そんな、それじゃまるで私がルートヴィッヒ様を好きみたいじゃ──)
エレオノーラはみるみる内に赤くなっていく頬を両手で隠した。
「ルートヴィッヒ様、私……ルートヴィッヒ様のことを好きなのでしょうか……?」
か細い声でエレオノーラが言った時、ルートヴィッヒは耳と目を疑った。
エレオノーラは真っ赤で、純真無垢な碧い瞳はさっきの涙でまだ潤んでいて、自信無さげなのに、どこか高揚している様にも見える。
(これは多少、自惚れても良いと言うことか……?)
ルートヴィッヒは確かめるようにエレオノーラにキスをした。
(何度触れても甘く柔らかいな……)
エレオノーラの唇を味わうように何度も触れては離れるキスを繰り返す。
泣いたせいか、エレオノーラの熱を持った唇はいつも以上に蕩けそうな感触で、この唇で色々してもらえたらさぞ気持ち良いのだろうなと邪な考えをルートヴィッヒに抱かせる。
「ぅん……」
鼻に抜けたエレオノーラの言葉にならない声がルートヴィッヒを更なる劣情へと駆り立てる。
歯止めが利かなくなりそうになってキスを中断すると、上気した頬とキスの余韻で濡れた唇のエレオノーラが「ルートヴィッヒ様、私、実は昨日から月の物が……」と申し訳無さそうに囁いた。
「そんな顔をするな。身体を重ねる事だけが重要な訳じゃない」
「ですが……」
「エル、今はエルの気持ちが少しだけでも俺の方へ向いて来ていると知れただけで十分だ」
ルートヴィッヒは本心を伝えたが、エレオノーラの表情は晴れない。
「今晩はゆっくり眠れ。睡眠不足は身体に良くない」
そう言うとルートヴィッヒはエレオノーラを寝かせて掛け布団を掛けた。
「お休み、エル」
エレオノーラの額に口付ける。
「……お休みなさい、ルートヴィッヒ様。あの、ルートヴィッヒ様は…………いえ、何でもありません……お休みなさい」
何か言い掛けたエレオノーラは、言い淀んだままで、それ以上何も言わなかった。
エレオノーラは慌てて自分の言葉を取り消そうとしたけれど遅かった。
「エル、俺には結婚前に特別に想う女性は居なかったし、エルと結婚した今、別の女性と関係を持つことはあり得ない」
ルートヴィッヒはエレオノーラの涙を指で拭う。
「今日ずっと元気が無かったのはそのせいか? 辛い思いをさせてすまなかった」
ルートヴィッヒの紫の瞳がエレオノーラを見つめた。
「違うんです、これはその……もしルートヴィッヒ様に好きな女性がいらっしゃるなら、私は離婚した方が良いんじゃないかとか、もしくは離婚しないまでも、私は何処かに引っ越して、ルートヴィッヒ様はその方と暮らされる方が良いんじゃないかとか、それも考えたのですが……」
「ですが?」
「何よりルートヴィッヒ様があんなに嬉しそうにお話しなさるのを初めて見て、何だかとても……すみません、私のわがままなんです……」
エレオノーラは自分でも何を言っているのか、分からなくなってきた。
「嬉しそうに? それはいつの話だ?」
思い当たる節が全くないのでエレオノーラに尋ねる。
「昨日、ルートヴィッヒ様がイレーネ様とお話している時です……」
「イレーネと? それは何かの間違いだ。あいつとはただの腐れ縁の仲だ」
「でも……」
「エルにそう言う誤解を与えてしまった事は謝る。だが今までもこれからもあいつとどうこうなる事は絶対にない」
「そうだったのですか……すみません、私の早とちりで……」
「気にするな。エルは何も悪くない。それよりも──」
ルートヴィッヒはそこで一度言葉を切った。
いつも率直なルートヴィッヒにしては珍しい。
エレオノーラが続きを待ってルートヴィッヒを見つめる。
「つまり……今までの話を聞くに、エルは俺とイレーネの事で嫉妬してくれたと言う事でいいのか?」
「嫉妬──っ!?」
エレオノーラはルートヴィッヒの言葉に衝撃を受けた。
「──今の発言はあまりに自意識過剰だった。すまない、忘れてくれ」
ルートヴィッヒは苦笑しながらエルの頭を撫でた。
(嫉妬……? 私はイレーネ様に嫉妬していたの? そんな、それじゃまるで私がルートヴィッヒ様を好きみたいじゃ──)
エレオノーラはみるみる内に赤くなっていく頬を両手で隠した。
「ルートヴィッヒ様、私……ルートヴィッヒ様のことを好きなのでしょうか……?」
か細い声でエレオノーラが言った時、ルートヴィッヒは耳と目を疑った。
エレオノーラは真っ赤で、純真無垢な碧い瞳はさっきの涙でまだ潤んでいて、自信無さげなのに、どこか高揚している様にも見える。
(これは多少、自惚れても良いと言うことか……?)
ルートヴィッヒは確かめるようにエレオノーラにキスをした。
(何度触れても甘く柔らかいな……)
エレオノーラの唇を味わうように何度も触れては離れるキスを繰り返す。
泣いたせいか、エレオノーラの熱を持った唇はいつも以上に蕩けそうな感触で、この唇で色々してもらえたらさぞ気持ち良いのだろうなと邪な考えをルートヴィッヒに抱かせる。
「ぅん……」
鼻に抜けたエレオノーラの言葉にならない声がルートヴィッヒを更なる劣情へと駆り立てる。
歯止めが利かなくなりそうになってキスを中断すると、上気した頬とキスの余韻で濡れた唇のエレオノーラが「ルートヴィッヒ様、私、実は昨日から月の物が……」と申し訳無さそうに囁いた。
「そんな顔をするな。身体を重ねる事だけが重要な訳じゃない」
「ですが……」
「エル、今はエルの気持ちが少しだけでも俺の方へ向いて来ていると知れただけで十分だ」
ルートヴィッヒは本心を伝えたが、エレオノーラの表情は晴れない。
「今晩はゆっくり眠れ。睡眠不足は身体に良くない」
そう言うとルートヴィッヒはエレオノーラを寝かせて掛け布団を掛けた。
「お休み、エル」
エレオノーラの額に口付ける。
「……お休みなさい、ルートヴィッヒ様。あの、ルートヴィッヒ様は…………いえ、何でもありません……お休みなさい」
何か言い掛けたエレオノーラは、言い淀んだままで、それ以上何も言わなかった。
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