バッドエンドを回避したい。これは予知夢かタイムリープか。

こたま

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 産業革命で、王都には自動車が行き交い、その空には石炭を燃やす黒い雲があちらこちらの工場からあがるようになった。便利になる一方で、貧富の格差が拡大し、環境は悪化していた。
 元々の貴族家でも、富める者はさらに工場を作り、農地を整備して富を増す。才覚の無い家は、細々と生計を立てる。平民は労働者として搾取されないよう、より条件の良い領地に移ったり王都に出稼ぎをするものもいた。

 田舎男爵のルッフォ家は、王都から遠いものの気候の温暖な広い領地を持っていた。山、川、平地に恵まれ小麦や葡萄といった農作物とワインやウイスキーといった付加価値のある商品を上手く販売しており、経営力のある家である。
 また、領民を大切に扱い税金も安いことから多くの住民から慕われていた。

 ルッフォ家には、オメガの可愛く優しい一人息子ジョナがいた。両親はジョナのために、貴族家で爵位の見込みがないアルファを婿養子に迎える事にした。

 そうして条件に合うとして他貴族家から紹介され、やってきたのがとある男爵家三男のレンツォであった。
 三番目に産まれた、という意味の名前を持ち、茶髪でヒョロと背の高いレンツォはアルファと言っても凡庸な男であった。家族の中でも優秀な兄に比べて期待されずに育った。

「私はジョナさんを大切にし、生涯愛します。領地経営をご両親から学び、方針を違えないと誓います」

 能力も外見もベータに近く本当にアルファであるかも疑わしかった。しかし家督の継げない婿養子であることを了承し、尚且つ可愛い息子ジョナを大切にするのならと両親は彼の家族に支度金を渡して契約書を作成した上で婿養子に迎える事になったのだった。

 数年後、ジョナには色の白く美しい男児が産まれた。ジョナと同じ金髪、青い瞳がキラキラと輝く。祖父母はとても喜ぶと、勝利を意味するニコラと名付けた。

 田舎の空気や自然が好きなジョナは出産前後から数年は領地で暮らした。山や川で遊び、乗馬や狩りを楽しんだ。
 ニコラが9歳になる頃。今後の貴族学園への入学や貴族社会での付き合い、商会との取引を考えるとレンツォが数年前に住み始めた王都のタウンハウスに共に住んだ方が良いかと考え二人で引っ越した。
 ジョナがレンツォと番であれば、数年も離れて暮らせないはずであったが、両親はそれを詮索せず、ジョナも明かさなかった。

 ところがこの間にレンツォは領地経営の上手くいっているルッフォ家の経済力を笠に着て、王都の酒場で夜な夜な遊んでいた。
 自身の産まれた実家やルッフォ家の領地でと違い、このタウンハウスでは自分が次期当主として偉ぶることが出来ていた。仕事の能力はそこそこで、実際には現当主やその息子である妻が実際には取り仕切っていても、夜の店では彼を太い客であると歓待していた。
 そして酒場で働く平民のベータ女性を気に入り、こっそりと小さな部屋を借りて囲っていたのだった。

 そうとは知らず、タウンハウスに住み始めたジョナとニコラ。夫のよそよそしい態度に引っ掛かるものがあっても、大人しく優しいジョナは都会の生活になれようと日々必死に生活するのみ。
 そして、空気の悪い王都の生活にジョナは喘息発作を繰り返すようになり、体調を悪化させていった。

「お母様、領地に戻りましょう?お体を治して下さい」
「私は大丈夫だよ。ニコラの学園入学とバース判定が近い。体調を整えながらそれらにもあたるから、心配しないでね」
「学園だって、絶対に行かなくてはならないものではないんでしょう?領地で家庭教師を頼みましょう。お祖父様にお願いすればきっと大丈夫です」
「ごめんねニコラ。お母様も頑張るからもう少しここにいようね」

 バース判定の時が来た。13歳の入学を前に貴族子弟は神殿に両親と赴く。神妙な面持ちのニコラに、神官様が告げた。

「ニコラ様は大変高位のオメガであると判定されました。きっと素晴らしいアルファのかたとご縁を得られ、お子様に恵まれることでしょう」

「「ありがとうございます」」

「ニコラ、あなたの婚約者を探さないとね。素敵な方を見つけなければ」
「お母様。僕の事より身体をお大事になさってください」
「もう少しだよ。すぐに学園にも入学するんだ。大丈夫」

 母は、祖父母に何度も手紙をしたためてはニコラの婚約者を探し、入学準備をしてくれた。
 咳でつらい身体をおして、ニコラにオメガの心得を話し、大切に慈しんで育てていた。

「ニコラ。オメガは大事にされる存在なんだよ。発情期があって休む時もあるけど、誰にも粗末にされるような事は許されない。お母様がこれだけ愛している可愛い息子。きっと大事にしてくれる人に出会えるよ」


「お母様!しっかり!」

 ニコラが13で学園に入るとき、子爵家の次男に産まれたアルファの方と婚約が内定した。あとは、両家が詳細を決めて王家の了解を得れば婚約が全て整う。

 ところがその大事なときに無理が祟ってジョナが倒れてしまった。医師の治療や屋敷の皆とニコラの手厚い看病にもかかわらず、呆気なく儚くなってしまう。

「お母様。うう...」

 泣き続けるニコラに、更なる悲劇が襲った。

「ニコラ様。私達皆、レンツォ様に解雇されてしまいました。領地の御当主様に事と次第を訴えに参ります」
「えっ!?解雇なんて。セバスチャンさんも皆さんも、お祖父様が採用してタウンハウスに来て貰ったのに。そんな勝手な…」
「ニコラ様もどうかお早めに学園の寮か領地にお移りくださいませ。誰もお世話をする者がおりません」
「そんな…。皆すみません。父が勝手な事を。僕も早くどうするかしないと。祖父にどうか伝えてください。僕も手紙を書いて知らせます。皆お心遣いありがとうございました」
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