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「実は...」
事の発端は会社で噂の真偽をたずねられたことだ。ちなみに噂とは僕達のお付き合いのことではない。
総務に僕が和樹さんの家への転居届けを出した時から、既に皆がそれを悟って祝福してくれているからだ。
それではなく、和樹さんの事である。どうも部長への昇進の打診を保留している、もしかしたら退社する可能性があるというのだ。本当なのか?丹羽課長、辞めちゃうの?ってたずねられたのだ。
「僕、そんなこと初めて聞きました。和樹さん、どこかにいってしまうんですか?」
話しながら、恥ずかしいが涙が出てきた。和樹さん、もしかしたら僕の事は捨ててどこかに行っちゃうの?
「亮、話しておかなくてごめん、違うんだよ」
和樹さんが僕をぎゅっと抱きしめた。そして、つむじにチュとキスをした。暖かい。愛されてるよね?捨てられないよね?
「まだ何も決まってはいないんだ。亮にも相談してから決めるつもりだった。実家のことなんだが…」
「ご実家ですか?」
「ああ。兄から最近相談を受けた」
和樹さんのご実家の会社。元は代々の同族経営でお父様は和樹さんに継がせたがっていた。しかし後を継いで、後継の男児を設けろと言われて実家には帰らないつもりでわが社に就職した。
優しい性格のお兄様は和樹さんの理解者でもあり、あと継ぎになったが会社が傾いてきた。
自分の代で長く勤めてくれている社員や家族を路頭に迷わせる事になっては申し訳ない。会社を立て直してくれないかとお兄様から打診を受けたという。
「俺なら元から業務内容はわかっているし、他に適任者がいないと泣きつかれた。兄とは実家を出てからも連絡を取り合っていた。実家に残ってくれた兄には感謝もしているから、何とか出来ないかと悩んでいたんだ」
「そうだったんですか。和樹さんは、どうされたいんですか?」
「いずれは会社は同族経営ではなく、優秀な人材に任せたほうが良いとは思う。ただ、今の状況は何とかしてやりたい。俺自身は、いずれは自分の力を試してみたい、起業したいという希望はあるんだ」
「そうなんですね。わかりました」
「資産は働かなくても生きられる程度には作れた。このマンションも今は物件価格があがっているから、売るのに丁度良い時期かも知れない。会社が盛り返せなくとも自分と亮の生活くらいなら大丈夫ではあるんだ。亮、よければ一緒に行ってくれないか?」
「和樹さん。僕はあなたと居たいです。連れていってください」
「ありがとう。愛してるよ」
急転直下、一緒に名古屋に引っ越しして転職することになった。実家にはその旨を連絡して、後日和樹さんのお兄様とお会いする約束をしている。
会社は、切り良く年度末での退社となり、最後のほうは有給休暇を消化させてくれるらしい。
「初めまして。奥川亮です」
「初めまして。和樹の兄です。今回は迷惑をかけて申し訳ない。和樹と一緒に会社を手伝ってくれるそうだね?本当にありがとう。よろしくお願いします」
お兄様は、ばっと頭を下げておっしゃった。
「いえ。僕も和樹さんと一緒に居たいので。出来ることがあればお手伝いさせて頂く所存です」
「どうもありがとう。親父には引退して貰ってある。今後は同族経営をやめようと説得したが、今は和樹以上の適任者はいなくて」
「そのように伺っています」
「うちの夫婦も子供は出来ない。跡継ぎなんて声は気にしないで。私は二人を応援しているんだ」
「ありがとうございます。僕は何が出来るかわかりませんが、精一杯勤めます」
「ありがとう。家族としてもよろしくお願いします」
「はい。こちらこそお願いします」
和樹さんと週末を使って賃貸物件を探した。駐車場のある戸建て物件にしてみようと話した。休みにドライブをしたり、旅行に行きやすくなる。家は都心よりは安く借りられ、引っ越しをした。
僕も秘書とSE業務をして和樹さんを手伝う。会社でも家でもいつも一緒に過ごせるのは幸せだ。
「亮、おはよう」
「おはようございます」
「朝食を作ってくれたの?ありがとう」
「いいえ。和樹さん、忙しいですから、朝からしっかり食べて頑張りましょう?」
「そうだね。ではいただきます」
「召し上がれ」
二人で出勤する。古い体制の会社を効率化、DX化して、営業から現場まで。和樹さんは休日も時々出勤して頑張っていた。そのかいあって、会社は持ち直した。さらに業績を伸ばしてしっかり利益を出せるようになっている。
僕は奨学金も全て繰り上げ返済をおえて、気分爽快である。和樹さんとの関係も家族に説明して、会って貰ってある。
僕達は、ずっと仲良く二人で暮らしている。仕事もプライベートもとても順調で、あのあとポメラニアンになることはもうなかった。
「週末は温泉旅行だ。そこを目標に頑張ろう」
「はい。そうですね」
出勤時間。玄関先に姿見がある。スーツ姿の自分と和樹さんにおかしな点がないかチェックする。
いつも通り格好良い和樹さん。僕もよれたり変なところは無さそうだ。そして、出るときふとまた振り返ると。
一瞬だが鏡の僕と重なるように、淡い白いポメラニアンが笑顔で尻尾を振っているように見えた。
「あれ?」
「どうした?」
「いえ。何でもありません」
「そう?亮は今日も可愛いよ」
「和樹さんは格好良いです」
「ありがとう。いつも愛してる」
「はい。僕もです」
(^ω^U)おしまい
事の発端は会社で噂の真偽をたずねられたことだ。ちなみに噂とは僕達のお付き合いのことではない。
総務に僕が和樹さんの家への転居届けを出した時から、既に皆がそれを悟って祝福してくれているからだ。
それではなく、和樹さんの事である。どうも部長への昇進の打診を保留している、もしかしたら退社する可能性があるというのだ。本当なのか?丹羽課長、辞めちゃうの?ってたずねられたのだ。
「僕、そんなこと初めて聞きました。和樹さん、どこかにいってしまうんですか?」
話しながら、恥ずかしいが涙が出てきた。和樹さん、もしかしたら僕の事は捨ててどこかに行っちゃうの?
「亮、話しておかなくてごめん、違うんだよ」
和樹さんが僕をぎゅっと抱きしめた。そして、つむじにチュとキスをした。暖かい。愛されてるよね?捨てられないよね?
「まだ何も決まってはいないんだ。亮にも相談してから決めるつもりだった。実家のことなんだが…」
「ご実家ですか?」
「ああ。兄から最近相談を受けた」
和樹さんのご実家の会社。元は代々の同族経営でお父様は和樹さんに継がせたがっていた。しかし後を継いで、後継の男児を設けろと言われて実家には帰らないつもりでわが社に就職した。
優しい性格のお兄様は和樹さんの理解者でもあり、あと継ぎになったが会社が傾いてきた。
自分の代で長く勤めてくれている社員や家族を路頭に迷わせる事になっては申し訳ない。会社を立て直してくれないかとお兄様から打診を受けたという。
「俺なら元から業務内容はわかっているし、他に適任者がいないと泣きつかれた。兄とは実家を出てからも連絡を取り合っていた。実家に残ってくれた兄には感謝もしているから、何とか出来ないかと悩んでいたんだ」
「そうだったんですか。和樹さんは、どうされたいんですか?」
「いずれは会社は同族経営ではなく、優秀な人材に任せたほうが良いとは思う。ただ、今の状況は何とかしてやりたい。俺自身は、いずれは自分の力を試してみたい、起業したいという希望はあるんだ」
「そうなんですね。わかりました」
「資産は働かなくても生きられる程度には作れた。このマンションも今は物件価格があがっているから、売るのに丁度良い時期かも知れない。会社が盛り返せなくとも自分と亮の生活くらいなら大丈夫ではあるんだ。亮、よければ一緒に行ってくれないか?」
「和樹さん。僕はあなたと居たいです。連れていってください」
「ありがとう。愛してるよ」
急転直下、一緒に名古屋に引っ越しして転職することになった。実家にはその旨を連絡して、後日和樹さんのお兄様とお会いする約束をしている。
会社は、切り良く年度末での退社となり、最後のほうは有給休暇を消化させてくれるらしい。
「初めまして。奥川亮です」
「初めまして。和樹の兄です。今回は迷惑をかけて申し訳ない。和樹と一緒に会社を手伝ってくれるそうだね?本当にありがとう。よろしくお願いします」
お兄様は、ばっと頭を下げておっしゃった。
「いえ。僕も和樹さんと一緒に居たいので。出来ることがあればお手伝いさせて頂く所存です」
「どうもありがとう。親父には引退して貰ってある。今後は同族経営をやめようと説得したが、今は和樹以上の適任者はいなくて」
「そのように伺っています」
「うちの夫婦も子供は出来ない。跡継ぎなんて声は気にしないで。私は二人を応援しているんだ」
「ありがとうございます。僕は何が出来るかわかりませんが、精一杯勤めます」
「ありがとう。家族としてもよろしくお願いします」
「はい。こちらこそお願いします」
和樹さんと週末を使って賃貸物件を探した。駐車場のある戸建て物件にしてみようと話した。休みにドライブをしたり、旅行に行きやすくなる。家は都心よりは安く借りられ、引っ越しをした。
僕も秘書とSE業務をして和樹さんを手伝う。会社でも家でもいつも一緒に過ごせるのは幸せだ。
「亮、おはよう」
「おはようございます」
「朝食を作ってくれたの?ありがとう」
「いいえ。和樹さん、忙しいですから、朝からしっかり食べて頑張りましょう?」
「そうだね。ではいただきます」
「召し上がれ」
二人で出勤する。古い体制の会社を効率化、DX化して、営業から現場まで。和樹さんは休日も時々出勤して頑張っていた。そのかいあって、会社は持ち直した。さらに業績を伸ばしてしっかり利益を出せるようになっている。
僕は奨学金も全て繰り上げ返済をおえて、気分爽快である。和樹さんとの関係も家族に説明して、会って貰ってある。
僕達は、ずっと仲良く二人で暮らしている。仕事もプライベートもとても順調で、あのあとポメラニアンになることはもうなかった。
「週末は温泉旅行だ。そこを目標に頑張ろう」
「はい。そうですね」
出勤時間。玄関先に姿見がある。スーツ姿の自分と和樹さんにおかしな点がないかチェックする。
いつも通り格好良い和樹さん。僕もよれたり変なところは無さそうだ。そして、出るときふとまた振り返ると。
一瞬だが鏡の僕と重なるように、淡い白いポメラニアンが笑顔で尻尾を振っているように見えた。
「あれ?」
「どうした?」
「いえ。何でもありません」
「そう?亮は今日も可愛いよ」
「和樹さんは格好良いです」
「ありがとう。いつも愛してる」
「はい。僕もです」
(^ω^U)おしまい
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