オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました

こたま

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「木村様、大変申し訳ございませんでした」

 ハイヤーの運転手である白髪の男性が、帽子を小脇に抱えたまま、僕が横たわっているベッドに向かって土下座をした。

 運転手さんが田中さんに連れられて入室してすぐの事だ。土下座されるなんて初めての事で千尋はとてもびっくりした。

「えっ!…と。取り敢えず頭を上げて頂けませんか?」
「いえいえ、とても顔を上げられる状況ではございません。私の不注意により大変なお怪我をされ、全くもってお詫びのしようもございません。危うく重傷になられるところでした。本当に申し訳ございません」
「まあ、とりあえず頭を上げましょう」

 田中さんが運転手さんに近寄って促す。運転手さんは、目に涙を溜めて謝罪を繰り返した。

「不幸中の幸いにも腕の怪我だけで済みそうですよ」
「そんなにお優しいお言葉を本当にありがとうございます。重ねて申し訳ございませんでした。長い運転手生活で初の事故です。もう仕事は引退します。よるとしなみには勝てないと言うことでございました。木村様にご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません」

「えっと。ところで過失割合とかはどうなっているんでしょうか?」
「はい。車のドライブレコーダーに記録があり、警察に提出致しました。何より社長が一部始終をご覧になっておられました。全て当方の過失であるとして、治療や補償に関する全責任を負わせて頂くと仰せです」
「社長さん…?」

 また社長さんという方が出てきた。

「えっと、すみません。その社長さんという方はどんな方なんですか?」
「個人や企業、ITを含むセキュリティ全般や医療機関を運営する会社の経営者です。うちのハイヤーも関連企業でございまして、社長と秘書の二人を後部座席に乗せて移動している途中でした。時間を急いだ事で私が判断を誤りまして、申し訳ございません」

 田中さんの補足もあり、どうやら手広く会社を経営しているグループ企業の社長さんである東条秀之《とうじょうひでゆき》という人が秘書の人とハイヤーに乗っていて移動途中で僕とぶつかったらしいことがわかった。
 ハイヤーの会社も病院もそのグループで、素早く搬送されたようである。個室代もそちらで負担してくれるらしい。

 やっと事情がわかってきて、金銭的な補償には少し安心していると、個室のドアがノックされて開けられ、入室があった。背の高い男の人が二人、静かに入って来た。

「木村さん、この度は誠に申し訳ございませんでした。治療費は勿論、入院中や退院後の生活、お休みする大学の学業での困り事など出来る限りの補償を行わせてください。お困りの事は何なりとおっしゃってください」

 事故の時、真っ先に大丈夫?って声をかけてくれた人だとわかった。三つ揃いのぴったりフィットした高級そうなスーツを着た格好良い男性が膝をついて、ピシッと腰を折って深く頭をさげた。またも土下座である。
 後ろに控えるスーツ姿の男性も一緒に膝をついて頭をさげ、二人から土下座で謝罪される。
 同時にまた運転手さんが一緒に膝をついて頭をさげるので、三人に初めての土下座攻撃を受けてどうしたらいいのかと田中さんの方に視線を送った。

「社長さん、皆さん、木村さんがお困りですからとりあえず頭を上げてお話しましょうか」

 少し体を起こして良いと言われて、ベッドのリクライニングをゆっくり上げてもらった。痛み止めの効果が続いていて、耐えられる痛みである。

「本当に申し訳ありません。うちのハイヤーの一時停止違反です。ドライブレコーダーでも記録が残っていますし、私が様子を見ていました。あっと思った時には木村さんの自転車の前輪に車体が当たっていました。当方の不注意です。誠にすみませんでした」

 また立礼で謝罪を受けた。

「私は、東条グループ代表取締役の東条秀之です」

 この人がさっきから話に出ている社長さんであるとわかった。年齢は30歳くらいと思われ、オールバックの髪形で三つ揃いのスーツが良く似合う。
 爽やかなフェロモンが少しだけ感じられるからおそらくアルファなんだろう。大きな会社の社長さんはほとんどがアルファだ。

 後ろに控える人が一歩前に出てきた。こちらの方はベータかも知れない。

「東条の秘書の成田と申します。こちらに木村さんが持っていらしたリュックサックをお持ちしています」
「あ、そうです。僕のリュックです」
「はい。警察の方と中身を拝見させて頂きました。木村さんの身元や保証人の方の情報が必要でしたので、プライバシーに配慮出来ず大変失礼致しました。本、ノート、筆記具などは概ね大丈夫でしたが、大変申し訳無いことに水筒とスマートフォンが破損しておりまして、タブレットPC はデータは無事であるも液晶画面が割れていました。木村さんがセキュリティをかけていらっしゃらなかったため、起動状況を確認して判明致しました。水筒、スマホ、タブレットにつきましてはこちらに代替品をご用意致させて頂きました」

 紙袋から新品で同じサイズ感の水筒が、次に真新しい最高品質のスマートフォンが出てきた。スマホは僕の使っていたものよりも上位機種だ。それからやはり持っていたものより上位機種で薄く綺麗なタブレットが出てくる。

「事情を説明して専門店にて可能な範囲でデータを復元し、新しいものに移動してありますが消えてしまったデータがあれば大変申し訳ありません。何とか代替方法を検討いたしますので確認頂いて何かお困りの点がございましたら直ぐに私にご指示ください」

 スーツで銀縁メガネの真面目そうな年上の社会人の人が理路整然と説明するので面食らってしまった。成田さんも30歳くらいか。

「とりあえず、スマホとタブレットを確認させて頂きます」

 利き手ではない左手でさわってみた。タブレットには、書きかけのレポートのデータが残っていたので、とりあえずこれだけでも安心した。
 スマホは、電話帳やライン、メールなどの設定はほぼ生かされている。よくこんな短時間で、他人のスマホを復元出来たものだと感心して見ていると

「大変恐縮ですが今後はパスワードなどのロックをご検討なさるほうが安全かと...」
「あ。すみません。初期のままで」
「いえ。出すぎた事を申し上げました」

 再度、社長さんからもお話があった。

「木村さん。いや。千尋さんとお呼びしても良いですか?私は全力で貴方が回復するサポートをさせて頂きたいと思っております。どうか何なりとおっしゃってください。私の事は秀之と呼んで頂ければ幸いです」
「秀之さんですか…」
「はい。どうぞ宜しくお願いします」

 にっこりと極上の笑みを浮かべたアルファ男性。この場でなければぽーっとしてしまいそうな美丈夫だった。

「では、これから夕食の時間ですので皆様お引き取りください。明日は木村さんのご家族、警察の方がいらっしゃると思いますので再訪ください」

 田中さんの説明で、一旦この顔合わせは終了になった。

「木村さん、左手で食べられる全粥と刻み食を配膳しますね。食べられる分だけ、召し上がって痛み止めと抗生物質は飲めたら内服にしましょう。先生から指示を受けています。飲めなかったら点滴に入りますので心配は要りませんよ」

「ありがとうございます。朝から食べていなかったので食べられそうな気分です。実家も連絡ついたんですね。ありがとうございました」

 薄味のお粥と刻んだ野菜とそぼろを煮たような食事を取った。食後に薬も飲んだら、また疲れが出て眠気に襲われた。コップや歯ブラシを持って来てくれて、顔を拭いたり歯磨きしたり。トイレを介助で済ませて身体を清拭して貰ったらさっぱりして眠りに落ちた。とても長い怒涛の1日だった。こんな経験をするなんて。うつらうつらしながら、先程お会いした社長さんの爽やかな香りを思い出した。あんなに良い香り、嗅いだことがない。なんて素敵な人だったんだろう…
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