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理人がモテてる
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大学は自宅から電車通学できる。学部が理人とは違うから、授業や実験は別で行き帰りも一緒ではなくなった。
発情周期が安定してきたし、フェロモンチェッカーによって数値を測れるようになったこともあり、通学が楽になっている。
「バイトしてみたい」
「いやいや。心配だからやめとこ?俺と一緒なら良いけどさ」
それでも何かと心配されて、新しい冒険はまだ出来ていない。夏休みには、理人と短期のアルバイトをしようと探しているところ。
大学は高偏差値有名私大のためかアルファが多くて、オメガが少ないようだ。
同じ学科にもアルファが多くて、授業のあととか昼時にナンパっていうのか、声をかけられて食事や遊びに誘われる。
人数の多い集まりには行くけど、二人で会いたい相手は今のところいない。僕が出歩くと理人は心配そうに眉を下げて、でも我慢するみたいな表情をする。
授業後にグループワークについて数人で相談していたら、アルファの男子から
「千颯くん、そのべったりついたアルファの匂い、恋人?親兄弟?ネックガードしてるから番はいないよね?」
「えっ?匂いする?」
「なんか、攻撃的では無いけど静かに存在感を知らしめるようなフェロモンが纏わり付いてる」
「そ、そう?分からなかった」
「うん、それだとその匂いを凌駕できる程高位の本気のアルファしか近寄れないから、家族に守られてる感じなのかな?」
僕の周りには理人しかアルファがいないから、多分理人だろうな。子供の頃から一緒で理人のフェロモンも普通にいつも近くにあったから、付いてるとかどうとか考えてなかった。
直近の発情期の時にアルファのフェロモンが嗅ぎたいと思って、理人の服を借りたこともあったから匂いがついたのかな。
大学のカフェテリアに移動してもう少しワークの内容を詰めようということになった。カフェテリアで広めのテーブルに椅子を囲んで話をしていたら、理人が同じ学科の人達と入ってくるのが見えた。
綺麗で背の高い女の子が理人に腕を絡めて見上げるように話かけていた。親密そうなお似合いの二人。
あ。理人に声をかける事はしなかった。むしろ見てはいけないような気がして目線を反らした。
次の週にも、同じくグループワークのために今度は図書館に数人で資料を探しに行った。
「このへんの資料があればいいよね」
「大体揃ったから、あとは纏めていこうか」
僕の匂いを指摘したアルファ男子がサクサク進めてくれた。皆でまたカフェテリアに行って話し合いながら続きをしようと決まった。
「あ」
小さい声が出てしまった。カフェテリアに向かう図書館裏の通路に、理人が背の低いかわいい女の子と二人でいた。
明らかに告白みたいな空気感が漂っていた。僕達のグループは、しまったって感じでさっと道を戻り
「邪魔しちゃったかな?」
「すぐ離れたから大丈夫じゃない?」
「あの男の子、先端理工で一番人気らしいよ」
「アルファっぽいよね」
自分達のグループの女の子がそう噂話をした。理人がそんなにモテてるなんて知らなかった。とても喜ばしいのに、心がチクッ、とした。
理人は優しく格好良い。頭も良くて努力家だ。モテないわけないのに。何でわかっていなかったのか。わかっていたのに気付かないようにしていた。
僕の心はここにあらずのまま課題はすすんで帰宅した。部屋で一人、あの娘と理人が手をつないで歩いたりキスしたりする場面を思い浮かべたら眠れなくなってしまった。
僕は理人が好きなの?いつも隣にいた人がいなくなるのがさみしいだけなの?自分の大事なものを取られるみたいに感じてしまうのは何だろう。とても自分勝手なことかな?
あの娘とお付き合いするのかな、気になったけど聞けなかった。それからの理人が普段通り、休みには僕と映画や買い物に出かけるので、お付き合いはしてないのかな、今までも他に告白されていたのかなとモヤモヤと安堵が入り雑じって心がスッキリ晴れなかった。
夏休みに入った。大学の夏休みは長いので、以前からアルバイトをしようと言っていた。大学近くに高校受験向けの個人指導塾があって、夏期講習中の講師を募集していたから理人と応募して二人とも受かった。
塾には様々なバースの中学生が通ってきており、トラブル防止のために同性を教える。僕はオメガ男子数人を教える。
皆かわいくて良い子達だ。僕の経験が役に立って、憧れてくれるのがとてもくすぐったくて嬉しい。授業準備も無給でもあれこれ考えて頑張ってしまった。
理人もアルファ男子を教えていて、なつかれてる感じだ。同性同士だから恋愛トラブルは無いと思っていたが、同じ大学からバイトに来ている女性から理人が告白された。講師室で人が少ない時、入ろうとしたら中から声が聞こえてきた。
「好きです。付き合ってください」
「すみません。お付き合いはできません」
「友達からでもだめ?」
「全く考えられないので、お断りします。すみません」
「私のどこがだめ?…。…」
あれ?何か、いつもの理人っぽくない話しかた?けんもほろろっていうか…。素っ気なくて。
話は続いていた。僕はこんなふうな盗み聞きはいけなかったとその場を離れてトイレに向かった。
時間をおいて部屋に入ると、理人と他の講師がいて女の子はいなくなっていた。話は終わっていたみたい。お付き合いはやっぱりしないのかな。
理人と帰り道、自宅近くになってから
「ごめん。さっき告白されてたの、ちょっとだけ聞いちゃって。盗み聞きみたいでごめん。謝るね」
「別にいいよ。断っただけ」
「そっか、何か、理人何時もより優しく無い感じじゃない?嫌なこと言われたりでもしたの?」
「もともと俺は千颯以外に優しくしないから。冷たいとか、配慮がないとか言われたかも。あんまり良く覚えてないけど」
「そうなの?理人すごく優しくて、僕の事良く見て褒めてくれるのに」
「千颯だからだ」
「そっか。どうもありがとう。でも理人が誤解されちゃうから他の人にも優しいほうが良いのかも」
「期待させないように冷たい態度になったのかも知れないから、今後は少し気を付けるよ」
理人がモテるのはやっぱりちょっと心がチクッてする。
発情周期が安定してきたし、フェロモンチェッカーによって数値を測れるようになったこともあり、通学が楽になっている。
「バイトしてみたい」
「いやいや。心配だからやめとこ?俺と一緒なら良いけどさ」
それでも何かと心配されて、新しい冒険はまだ出来ていない。夏休みには、理人と短期のアルバイトをしようと探しているところ。
大学は高偏差値有名私大のためかアルファが多くて、オメガが少ないようだ。
同じ学科にもアルファが多くて、授業のあととか昼時にナンパっていうのか、声をかけられて食事や遊びに誘われる。
人数の多い集まりには行くけど、二人で会いたい相手は今のところいない。僕が出歩くと理人は心配そうに眉を下げて、でも我慢するみたいな表情をする。
授業後にグループワークについて数人で相談していたら、アルファの男子から
「千颯くん、そのべったりついたアルファの匂い、恋人?親兄弟?ネックガードしてるから番はいないよね?」
「えっ?匂いする?」
「なんか、攻撃的では無いけど静かに存在感を知らしめるようなフェロモンが纏わり付いてる」
「そ、そう?分からなかった」
「うん、それだとその匂いを凌駕できる程高位の本気のアルファしか近寄れないから、家族に守られてる感じなのかな?」
僕の周りには理人しかアルファがいないから、多分理人だろうな。子供の頃から一緒で理人のフェロモンも普通にいつも近くにあったから、付いてるとかどうとか考えてなかった。
直近の発情期の時にアルファのフェロモンが嗅ぎたいと思って、理人の服を借りたこともあったから匂いがついたのかな。
大学のカフェテリアに移動してもう少しワークの内容を詰めようということになった。カフェテリアで広めのテーブルに椅子を囲んで話をしていたら、理人が同じ学科の人達と入ってくるのが見えた。
綺麗で背の高い女の子が理人に腕を絡めて見上げるように話かけていた。親密そうなお似合いの二人。
あ。理人に声をかける事はしなかった。むしろ見てはいけないような気がして目線を反らした。
次の週にも、同じくグループワークのために今度は図書館に数人で資料を探しに行った。
「このへんの資料があればいいよね」
「大体揃ったから、あとは纏めていこうか」
僕の匂いを指摘したアルファ男子がサクサク進めてくれた。皆でまたカフェテリアに行って話し合いながら続きをしようと決まった。
「あ」
小さい声が出てしまった。カフェテリアに向かう図書館裏の通路に、理人が背の低いかわいい女の子と二人でいた。
明らかに告白みたいな空気感が漂っていた。僕達のグループは、しまったって感じでさっと道を戻り
「邪魔しちゃったかな?」
「すぐ離れたから大丈夫じゃない?」
「あの男の子、先端理工で一番人気らしいよ」
「アルファっぽいよね」
自分達のグループの女の子がそう噂話をした。理人がそんなにモテてるなんて知らなかった。とても喜ばしいのに、心がチクッ、とした。
理人は優しく格好良い。頭も良くて努力家だ。モテないわけないのに。何でわかっていなかったのか。わかっていたのに気付かないようにしていた。
僕の心はここにあらずのまま課題はすすんで帰宅した。部屋で一人、あの娘と理人が手をつないで歩いたりキスしたりする場面を思い浮かべたら眠れなくなってしまった。
僕は理人が好きなの?いつも隣にいた人がいなくなるのがさみしいだけなの?自分の大事なものを取られるみたいに感じてしまうのは何だろう。とても自分勝手なことかな?
あの娘とお付き合いするのかな、気になったけど聞けなかった。それからの理人が普段通り、休みには僕と映画や買い物に出かけるので、お付き合いはしてないのかな、今までも他に告白されていたのかなとモヤモヤと安堵が入り雑じって心がスッキリ晴れなかった。
夏休みに入った。大学の夏休みは長いので、以前からアルバイトをしようと言っていた。大学近くに高校受験向けの個人指導塾があって、夏期講習中の講師を募集していたから理人と応募して二人とも受かった。
塾には様々なバースの中学生が通ってきており、トラブル防止のために同性を教える。僕はオメガ男子数人を教える。
皆かわいくて良い子達だ。僕の経験が役に立って、憧れてくれるのがとてもくすぐったくて嬉しい。授業準備も無給でもあれこれ考えて頑張ってしまった。
理人もアルファ男子を教えていて、なつかれてる感じだ。同性同士だから恋愛トラブルは無いと思っていたが、同じ大学からバイトに来ている女性から理人が告白された。講師室で人が少ない時、入ろうとしたら中から声が聞こえてきた。
「好きです。付き合ってください」
「すみません。お付き合いはできません」
「友達からでもだめ?」
「全く考えられないので、お断りします。すみません」
「私のどこがだめ?…。…」
あれ?何か、いつもの理人っぽくない話しかた?けんもほろろっていうか…。素っ気なくて。
話は続いていた。僕はこんなふうな盗み聞きはいけなかったとその場を離れてトイレに向かった。
時間をおいて部屋に入ると、理人と他の講師がいて女の子はいなくなっていた。話は終わっていたみたい。お付き合いはやっぱりしないのかな。
理人と帰り道、自宅近くになってから
「ごめん。さっき告白されてたの、ちょっとだけ聞いちゃって。盗み聞きみたいでごめん。謝るね」
「別にいいよ。断っただけ」
「そっか、何か、理人何時もより優しく無い感じじゃない?嫌なこと言われたりでもしたの?」
「もともと俺は千颯以外に優しくしないから。冷たいとか、配慮がないとか言われたかも。あんまり良く覚えてないけど」
「そうなの?理人すごく優しくて、僕の事良く見て褒めてくれるのに」
「千颯だからだ」
「そっか。どうもありがとう。でも理人が誤解されちゃうから他の人にも優しいほうが良いのかも」
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理人がモテるのはやっぱりちょっと心がチクッてする。
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