3 / 6
3
「まあ。何のご心配もありませんわ。どうぞお気になさらずに」
「そうですよ。多少は陛下からの書状で伺っておりました。こちらは王都からは遠く滅多に参りません。貴族付き合いは不要です。城と領地のことだけ知って頂いて、息子と仲良くして頂ければ有難い」
「本当に。私達だってね…」
伯爵家は辺境にあり冬は雪に覆われ、また戦がちなので昔から嫁入り先として厭われやすかった。
伯爵婦人にご自身の過去の話まで披露されたところによると。侯爵令息と婚約していたが地味で本好きな婦人は嫌だと浮気されて婚約破棄になった。
貴族社会で噂されて傷つき、年齢からも新しい縁談に消極的になっていたところ、国王陛下から良い男がいると親友の伯爵を勧められ結婚したという。
「夫はとても素晴らしい方です。国を守るために命がけで、大変尊敬しています。私を大事にしてくれ、こちらに来て良かったと思っています。貴族社会と付き合わなくて済むのも楽です。年齢が高い同士だったので息子一人ですが、子宝にも恵まれて幸せですよ」
「そうだったんですか」
「礼儀作法はうちの家令に習えば良い。本は沢山有りますから勉強には困りません」
「ありがとうございます。こんなご縁を頂けておそれ多いほどです」
「いいえ。中々縁談に恵まれませんでしたので有難い限りですわ。只でさえ難しいのに、エメリックの噂ときたら…事実無根の噂を聞いて、どなたも釣書をお断りなさるの」
「北方を守る軍の司令官になるのだから、恐ろしいという噂は放って置いたのだが。実際は戦場では勇敢に戦うが戦争を嫌っている。誰も死なせず被害を少なくしようと策を練る人間だ。うちの軍は、軍人を守るために軽く強い鎧と仮面を纏う。それを怖れたのもあるだろうがなあ」
「痣についても。赤ちゃんの時、神殿で鑑定を受けた時に額にあったサーモンパッチという痣は2歳頃には消えていたんですのよ。エメリックは優しいし、真面目だし…」
「学園時代にふわふわと噂や装飾品ばかりの女性は好まずに、お付き合いのアプローチを断ったことがあったらしいが…尾ひれが着いてとんでもない噂が流されているようでな」
「我が家は無駄な装飾は好まず、質実剛健なだけですのに」
「さあ、話はそんなところで終わりにして、休んで頂きましょう。長旅でお疲れでしょう?」
エメリックが話を継いだ。
「そうね。これからサシャさん、エレアさんと呼ばせて頂くわ。ここはもうお二人にとってご自分の家ですから、気楽に寛いで下さいね」
「ありがとうございます」
エメリックが二人を部屋に案内する。
「私の部屋の隣がサシャさんの部屋です。浴室を隔て繋がっています。寝室と衣装室、応接間を兼ねた書斎があります」
まずはサシャの居室を案内したエメリック。広い部屋には品の良い家具が配置されている。大きな寝台には綺麗なシーツが敷かれ、衣装室には既に幾つかの衣装が掛けられてあった。
「隣がお母上の部屋です」
続いて母の部屋へ。こちらも広い寝室には簡単な応接セットと文机や書棚、衣装棚もあり、バスルームが付属された豪華な一室。来客用の居室のようであった。
「こちらがサシャさんを担当するメイドさん達です。それからこちらはお母上のメイドさんです」
「エメリック様。私は息子のメイドのお仕事をするつもりで参りました」
「少ないですが我が城にもお勤め頂いている方がいますからご心配ありません」
「そんな。申し訳ございません…」
「お母上は、サシャさんを支えてあげてください」
「ありがとうございます」
エレアは、目に涙を湛えて感謝の言葉を述べた。これまでの不遇を思えば、いかに丁重に扱われていることか。サシャはこれで幸せになれるかも知れないと安堵の気持ちで出た涙であった。
二人は、それぞれの居室でお茶をのみ、長旅の疲れを癒す。夕食の時には、家令、軍の副司令官といった主だった家臣を紹介されると説明を受けた。
「サシャ様、こちらにお召し変え下さいませ」
「こちらのお色もお似合いになりそう」
「お髪も飾らせて頂けますか?」
若いメイドさん達が、サシャをお人形のように飾り立てる。かわいらしいサシャが可愛い服を着ると大変似合って嬉しくなるのだ。
「まああ。可愛いですわ」
「本当に。どれもお似合いになります」
サシャには過分な衣装に思えたが貴族としては簡易な物で、しかし素材は上質だ。
「恥ずかしいです。こんなに綺麗なお洋服は着たことが無くて」
「とっっても、お似合いですよ」
「はい。かわいいです」
頬を染めているサシャが可愛くて、さらに髪を結ってとめるとより美しい様子であった。
「さあ、そろそろお迎えが参られますよ」
執事の迎えでダイニングルームに行くと、既に母が到着していた。
「お母様、とっても綺麗」
「ありがとう。私にまでドレスが用意して下さってあったの。恥ずかしいわね」
「ううん。きれいで似合ってる…お母様が幸せそうで良かった」
「あなたのお陰よ。こんなに良くして頂くなんて」
「サシャさん、とても似合うね。可愛くてきれいだ」
「エメリック様」
「両親が来るまで、サシャさんの好きな物やこれまでのことを聞いても良いですか?」
「はい。勿論です」
食事の前にエメリックに問われるまま、これまでの生活や教会での学びを話した。
エメリックが否定したり蔑むことなしに聞いていることで安心して話す事が出来た。
「素晴らしいね。こんなに真面目で頑張りやさん。とても素敵です」
「ありがとうございます。お恥ずかしい話を聞いて下さって感謝します」
「いや。そういう方ならこの地は過ごしやすいと思う。でも困ったことや足りないものがあれば遠慮なくおっしゃってください。なるべくご希望に沿います」
「そうですよ。多少は陛下からの書状で伺っておりました。こちらは王都からは遠く滅多に参りません。貴族付き合いは不要です。城と領地のことだけ知って頂いて、息子と仲良くして頂ければ有難い」
「本当に。私達だってね…」
伯爵家は辺境にあり冬は雪に覆われ、また戦がちなので昔から嫁入り先として厭われやすかった。
伯爵婦人にご自身の過去の話まで披露されたところによると。侯爵令息と婚約していたが地味で本好きな婦人は嫌だと浮気されて婚約破棄になった。
貴族社会で噂されて傷つき、年齢からも新しい縁談に消極的になっていたところ、国王陛下から良い男がいると親友の伯爵を勧められ結婚したという。
「夫はとても素晴らしい方です。国を守るために命がけで、大変尊敬しています。私を大事にしてくれ、こちらに来て良かったと思っています。貴族社会と付き合わなくて済むのも楽です。年齢が高い同士だったので息子一人ですが、子宝にも恵まれて幸せですよ」
「そうだったんですか」
「礼儀作法はうちの家令に習えば良い。本は沢山有りますから勉強には困りません」
「ありがとうございます。こんなご縁を頂けておそれ多いほどです」
「いいえ。中々縁談に恵まれませんでしたので有難い限りですわ。只でさえ難しいのに、エメリックの噂ときたら…事実無根の噂を聞いて、どなたも釣書をお断りなさるの」
「北方を守る軍の司令官になるのだから、恐ろしいという噂は放って置いたのだが。実際は戦場では勇敢に戦うが戦争を嫌っている。誰も死なせず被害を少なくしようと策を練る人間だ。うちの軍は、軍人を守るために軽く強い鎧と仮面を纏う。それを怖れたのもあるだろうがなあ」
「痣についても。赤ちゃんの時、神殿で鑑定を受けた時に額にあったサーモンパッチという痣は2歳頃には消えていたんですのよ。エメリックは優しいし、真面目だし…」
「学園時代にふわふわと噂や装飾品ばかりの女性は好まずに、お付き合いのアプローチを断ったことがあったらしいが…尾ひれが着いてとんでもない噂が流されているようでな」
「我が家は無駄な装飾は好まず、質実剛健なだけですのに」
「さあ、話はそんなところで終わりにして、休んで頂きましょう。長旅でお疲れでしょう?」
エメリックが話を継いだ。
「そうね。これからサシャさん、エレアさんと呼ばせて頂くわ。ここはもうお二人にとってご自分の家ですから、気楽に寛いで下さいね」
「ありがとうございます」
エメリックが二人を部屋に案内する。
「私の部屋の隣がサシャさんの部屋です。浴室を隔て繋がっています。寝室と衣装室、応接間を兼ねた書斎があります」
まずはサシャの居室を案内したエメリック。広い部屋には品の良い家具が配置されている。大きな寝台には綺麗なシーツが敷かれ、衣装室には既に幾つかの衣装が掛けられてあった。
「隣がお母上の部屋です」
続いて母の部屋へ。こちらも広い寝室には簡単な応接セットと文机や書棚、衣装棚もあり、バスルームが付属された豪華な一室。来客用の居室のようであった。
「こちらがサシャさんを担当するメイドさん達です。それからこちらはお母上のメイドさんです」
「エメリック様。私は息子のメイドのお仕事をするつもりで参りました」
「少ないですが我が城にもお勤め頂いている方がいますからご心配ありません」
「そんな。申し訳ございません…」
「お母上は、サシャさんを支えてあげてください」
「ありがとうございます」
エレアは、目に涙を湛えて感謝の言葉を述べた。これまでの不遇を思えば、いかに丁重に扱われていることか。サシャはこれで幸せになれるかも知れないと安堵の気持ちで出た涙であった。
二人は、それぞれの居室でお茶をのみ、長旅の疲れを癒す。夕食の時には、家令、軍の副司令官といった主だった家臣を紹介されると説明を受けた。
「サシャ様、こちらにお召し変え下さいませ」
「こちらのお色もお似合いになりそう」
「お髪も飾らせて頂けますか?」
若いメイドさん達が、サシャをお人形のように飾り立てる。かわいらしいサシャが可愛い服を着ると大変似合って嬉しくなるのだ。
「まああ。可愛いですわ」
「本当に。どれもお似合いになります」
サシャには過分な衣装に思えたが貴族としては簡易な物で、しかし素材は上質だ。
「恥ずかしいです。こんなに綺麗なお洋服は着たことが無くて」
「とっっても、お似合いですよ」
「はい。かわいいです」
頬を染めているサシャが可愛くて、さらに髪を結ってとめるとより美しい様子であった。
「さあ、そろそろお迎えが参られますよ」
執事の迎えでダイニングルームに行くと、既に母が到着していた。
「お母様、とっても綺麗」
「ありがとう。私にまでドレスが用意して下さってあったの。恥ずかしいわね」
「ううん。きれいで似合ってる…お母様が幸せそうで良かった」
「あなたのお陰よ。こんなに良くして頂くなんて」
「サシャさん、とても似合うね。可愛くてきれいだ」
「エメリック様」
「両親が来るまで、サシャさんの好きな物やこれまでのことを聞いても良いですか?」
「はい。勿論です」
食事の前にエメリックに問われるまま、これまでの生活や教会での学びを話した。
エメリックが否定したり蔑むことなしに聞いていることで安心して話す事が出来た。
「素晴らしいね。こんなに真面目で頑張りやさん。とても素敵です」
「ありがとうございます。お恥ずかしい話を聞いて下さって感謝します」
「いや。そういう方ならこの地は過ごしやすいと思う。でも困ったことや足りないものがあれば遠慮なくおっしゃってください。なるべくご希望に沿います」
あなたにおすすめの小説
断られるのが確定してるのに、ずっと好きだった相手と見合いすることになったΩの話。
叶崎みお
BL
ΩらしくないΩは、Ωが苦手なハイスペックαに恋をした。初めて恋をした相手と見合いをすることになり浮かれるΩだったが、αは見合いを断りたい様子で──。
オメガバース設定の話ですが、作中ではヒートしてません。両片想いのハピエンです。
他サイト様にも投稿しております。
昨日まで塩対応だった侯爵令息様が泣きながら求婚してくる
遠間千早
BL
憧れていたけど塩対応だった侯爵令息様が、ある日突然屋敷の玄関を破壊して押し入ってきた。
「愛してる。許してくれ」と言われて呆気にとられるものの、話を聞くと彼は最悪な未来から時を巻き戻ってきたと言う。
未来で受を失ってしまった侯爵令息様(アルファ)×ずっと塩対応されていたのに突然求婚されてぽかんとする貧乏子爵の令息(オメガ)
自分のメンタルを救済するために書いた、短い話です。
ムーンライトで突発的に出した話ですが、こちらまだだったので上げておきます。
少し長いので、分割して更新します。受け視点→攻め視点になります。
耳が聞こえない公爵令息と子爵令息の幸せな結婚
竜鳴躍
BL
マナ=クレイソンは公爵家の末っ子だが、耳が聞こえない。幼い頃、自分に文字を教え、絵の道を開いてくれた、母の友達の子爵令息のことを、ずっと大好きだ。
だが、自分は母親が乱暴されたときに出来た子どもで……。
耳が聞こえない、体も弱い。
そんな僕。
爵位が低いから、結婚を断れないだけなの?
結婚式を前に、マナは疑心暗鬼になっていた。
悪役令息上等です。悪の華は可憐に咲き誇る
竜鳴躍
BL
異性間でも子どもが産まれにくくなった世界。
子どもは魔法の力を借りて同性間でも産めるようになったため、性別に関係なく結婚するようになった世界。
ファーマ王国のアレン=ファーメット公爵令息は、白銀に近い髪に真っ赤な瞳、真っ白な肌を持つ。
神秘的で美しい姿に王子に見初められた彼は公爵家の長男でありながら唯一の王子の婚約者に選ばれてしまった。どこに行くにも欠かせない大きな日傘。日に焼けると爛れてしまいかねない皮膚。
公爵家は両親とも黒髪黒目であるが、彼一人が色が違う。
それは彼が全てアルビノだったからなのに、成長した教養のない王子は、アレンを魔女扱いした上、聖女らしき男爵令嬢に現を抜かして婚約破棄の上スラム街に追放してしまう。
だが、王子は知らない。
アレンにも王位継承権があることを。
従者を一人連れてスラムに行ったアレンは、イケメンでスパダリな従者に溺愛されながらスラムを改革していって……!?
*誤字報告ありがとうございます!
*カエサル=プレート 修正しました。
王子様との婚約回避のために友達と形だけの結婚をしたつもりが溺愛されました
竜鳴躍
BL
アレックス=コンフォートはコンフォート公爵の長男でオメガである!
これは、見た目は磨けば美人で優秀だが中身は残念な主人公が大嫌いな王子との婚約を回避するため、友達と形だけの結婚をしたつもりが、あれよあれよと溺愛されて満更ではなくなる話である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1/10から5日くらいBL1位、ありがとうございました。
番外編が2つあるのですが、Rな閑話の番外編と子どもの話の番外編が章分けされています。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※僕はわがまま 時系列修正
※ヤード×サンドル終わったのでラブラブ番外編を末尾に移動 2023.1.20
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
可愛いあの子には敵わない【完】
おはぎ
BL
騎士科の人気者のエドワードとは最近、一緒に勉強をする仲。共に過ごす内に好きになってしまったが、新入生として入ってきたエドワードの幼馴染は誰が見ても可憐な美少年で。お似合いの二人を見ていられずエドワードを避けてしまうようになったが……。
βな俺は王太子に愛されてΩとなる
ふき
BL
王太子ユリウスの“運命”として幼い時から共にいるルカ。
けれど彼は、Ωではなくβだった。
それを知るのは、ユリウスただ一人。
真実を知りながら二人は、穏やかで、誰にも触れられない日々を過ごす。
だが、王太子としての責務が二人の運命を軋ませていく。
偽りとも言える関係の中で、それでも手を離さなかったのは――
愛か、執着か。
※性描写あり
※独自オメガバース設定あり
※ビッチングあり