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「旦那様がお見えです」
伯爵夫妻とともに、一人男性が同行して現れた。伯爵以上に大きな体で黒髪黒目で40代程の精悍な顔つき。黒い髭も蓄えている。目付きは鋭いが笑顔を浮かべているので親しみもある。
「はじめに紹介しよう。我が軍の副司令官、アロイスだ」
「はじめまして。副司令官のアロイスです。代々我が家は副司令官を勤めております。私の兄弟や甥も軍に属しております。以後お見知りおきください」
「それから家令のセバスチャン」
「セバスチャンでございます、当家を差配させて頂いております。サシャ様の礼儀作法は今後私がお教え致します」
夫妻と二人も同席して食事が始まった。和やかに会話しながら料理長自慢の食事が提供されている。
「我が家は、戦では軍の皆同じ釜の飯を食べるし、格式張ってはいないのでこのように二人が同席することもある。二人とも家族と同じだからな」
「ふふ。素敵でしょう?」
「はい。賑やかで楽しいです」
「良かった。他の皆にもまた紹介するね」
「時に司令官殿、こちらの可愛い女性は若奥様のお母上と?」
「ああ。そうだ」
「何と美しい。私アロイス。独身のまま軍に身を捧げて参りましたが、先般の戦において、戦勝のご褒美を頂けると伺っておりました。是非この方を所望させて頂きたい」
「アロイス。…。功労の褒美は確かに約束したが、エレアさんは物では無いのだからご本人のご了承なく許可は出来んよ。惚れたのなら迷惑にならない限り、自分で攻め落とせ。断られたら速やかに退け」
「はっ。では今後遠慮なく、交際のお誘いをさせて頂きます」
「え?、そんな…」
「エレアさん、籍は入っていらっしゃらないのでしょう?なら宜しいのではなくて?」
「そうですが。私のような平民の経産婦‥男爵の手つきで御座いますからとてもとても。恐れ多いことです。ご冗談でしたらこれで」
「冗談ではございません。私の事を知った上でお答え下さい」
母のエレアにまで新たな恋の予感が垣間見えた楽しい食事会。サシャとエレアは緊張感と長旅の疲れを次第にほどいていったのだった。
「サシャ様。優秀ですね。既に読み書きは御出来になっておいでですし、手紙の型もご存知で計算も御出来になるとは」
「ほんのさわりだけなんです。まだまだですから、色々教えてください」
「承知致しました。次は伝票の読み方を。昼は食事のマナー、午後にはダンスも練習致します。ダンスはエメリック様がお相手をなさいます。田舎貴族ですが念のためダンスも踊れるように致しましょう」
「はい。お願いいたします」
サシャは素直で優秀な生徒であった。年も若く、辺境が雪で閉ざされる間に礼儀作法や伯爵婦人としての素養を学びながら婚礼衣装や祝宴の準備をする。春になり雪が溶けたら婚礼の式典と祝宴が行われることになった。
「サシャ、ダンスも上達したね。私に任せて、気を抜いて躍りを楽しめば大丈夫」
「はい。エメリック様のリードがお上手だから楽しいです」
「良かった。夜は音楽を聞きに行こうね。席を予約してあるよ」
「わあっ、楽しみです」
「サシャが笑顔を見せてくれると、とても嬉しい。明日の昼には街のカフェで流行りのケーキを食べよう。果実を沢山使ってあるそうだ」
「素敵ですね。初めてのことばかりです。ありがとうございます、エメリック様」
「サシャ。かわいい。結婚が楽しみだ。ここに来てくれてありがとう」
冬の間戦争の爪痕を回復する仕事がある他は、負けて被害の大きい隣国も数年は攻め入っては来ないだろうと軍の皆も家族と過ごす時間を増やしている。
春に若夫婦が挙式をすることが領内みんなの楽しみであり、来年一番のイベントである。
「エレアさん、ジャムを作るのお上手ね」
「農家の方に教えて頂いたんです」
「料理全般お上手です。果実酒もお上手ですし、それだけ乾物の調理が御出来になるのは珍しいですよ」
厨房では、貴族らしくはないが伯爵婦人と料理長、そしてエレアも冬に備えて保存食を作っていた。
伯爵家では、戦に備えて城では作物を作ると供に夏から秋の収穫物を保存食に加工する。これは有事の城の蓄えとしても利用され、大事な作業であった。
「サシャにも保存食作りを少しは教えていましたが、もっと勉強しないといけませんね」
「婚礼が終わってからゆっくり、少しずつで良いんですよ。私なんて嫁いで来たとき何も出来ませんでしたから。それだけお料理されていたのなら十分以上。素晴らしいお嫁さんね」
「エレア殿、そちらの作業が終わられましたら私と観劇、食事に行きましょう」
「アロイスさん、こんにちは。もうすぐ終わりますが先にエレアさんをお連れになってもよろしいですよ」
「ありがとうございます奥様」
「奥様。そんな、申し訳ございません」
「行ってらっしゃいな」
「はっ!では失礼して。エレアさん、行きましょう」
アロイスは、あの後頻繁に現れてはエレアをデートに連れ出した。
誰かと出掛けたり遊ぶ経験のなかったエレアは伯爵婦人の勧めもありアロイスと楽しく出掛けさせて貰って過ごしている。
サシャが城の皆に大事にされ、エメリックにもデートに連れられたり夫妻に可愛がられて安心しているからこそ出来ることであった。
伯爵夫妻とともに、一人男性が同行して現れた。伯爵以上に大きな体で黒髪黒目で40代程の精悍な顔つき。黒い髭も蓄えている。目付きは鋭いが笑顔を浮かべているので親しみもある。
「はじめに紹介しよう。我が軍の副司令官、アロイスだ」
「はじめまして。副司令官のアロイスです。代々我が家は副司令官を勤めております。私の兄弟や甥も軍に属しております。以後お見知りおきください」
「それから家令のセバスチャン」
「セバスチャンでございます、当家を差配させて頂いております。サシャ様の礼儀作法は今後私がお教え致します」
夫妻と二人も同席して食事が始まった。和やかに会話しながら料理長自慢の食事が提供されている。
「我が家は、戦では軍の皆同じ釜の飯を食べるし、格式張ってはいないのでこのように二人が同席することもある。二人とも家族と同じだからな」
「ふふ。素敵でしょう?」
「はい。賑やかで楽しいです」
「良かった。他の皆にもまた紹介するね」
「時に司令官殿、こちらの可愛い女性は若奥様のお母上と?」
「ああ。そうだ」
「何と美しい。私アロイス。独身のまま軍に身を捧げて参りましたが、先般の戦において、戦勝のご褒美を頂けると伺っておりました。是非この方を所望させて頂きたい」
「アロイス。…。功労の褒美は確かに約束したが、エレアさんは物では無いのだからご本人のご了承なく許可は出来んよ。惚れたのなら迷惑にならない限り、自分で攻め落とせ。断られたら速やかに退け」
「はっ。では今後遠慮なく、交際のお誘いをさせて頂きます」
「え?、そんな…」
「エレアさん、籍は入っていらっしゃらないのでしょう?なら宜しいのではなくて?」
「そうですが。私のような平民の経産婦‥男爵の手つきで御座いますからとてもとても。恐れ多いことです。ご冗談でしたらこれで」
「冗談ではございません。私の事を知った上でお答え下さい」
母のエレアにまで新たな恋の予感が垣間見えた楽しい食事会。サシャとエレアは緊張感と長旅の疲れを次第にほどいていったのだった。
「サシャ様。優秀ですね。既に読み書きは御出来になっておいでですし、手紙の型もご存知で計算も御出来になるとは」
「ほんのさわりだけなんです。まだまだですから、色々教えてください」
「承知致しました。次は伝票の読み方を。昼は食事のマナー、午後にはダンスも練習致します。ダンスはエメリック様がお相手をなさいます。田舎貴族ですが念のためダンスも踊れるように致しましょう」
「はい。お願いいたします」
サシャは素直で優秀な生徒であった。年も若く、辺境が雪で閉ざされる間に礼儀作法や伯爵婦人としての素養を学びながら婚礼衣装や祝宴の準備をする。春になり雪が溶けたら婚礼の式典と祝宴が行われることになった。
「サシャ、ダンスも上達したね。私に任せて、気を抜いて躍りを楽しめば大丈夫」
「はい。エメリック様のリードがお上手だから楽しいです」
「良かった。夜は音楽を聞きに行こうね。席を予約してあるよ」
「わあっ、楽しみです」
「サシャが笑顔を見せてくれると、とても嬉しい。明日の昼には街のカフェで流行りのケーキを食べよう。果実を沢山使ってあるそうだ」
「素敵ですね。初めてのことばかりです。ありがとうございます、エメリック様」
「サシャ。かわいい。結婚が楽しみだ。ここに来てくれてありがとう」
冬の間戦争の爪痕を回復する仕事がある他は、負けて被害の大きい隣国も数年は攻め入っては来ないだろうと軍の皆も家族と過ごす時間を増やしている。
春に若夫婦が挙式をすることが領内みんなの楽しみであり、来年一番のイベントである。
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「農家の方に教えて頂いたんです」
「料理全般お上手です。果実酒もお上手ですし、それだけ乾物の調理が御出来になるのは珍しいですよ」
厨房では、貴族らしくはないが伯爵婦人と料理長、そしてエレアも冬に備えて保存食を作っていた。
伯爵家では、戦に備えて城では作物を作ると供に夏から秋の収穫物を保存食に加工する。これは有事の城の蓄えとしても利用され、大事な作業であった。
「サシャにも保存食作りを少しは教えていましたが、もっと勉強しないといけませんね」
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「エレア殿、そちらの作業が終わられましたら私と観劇、食事に行きましょう」
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「ありがとうございます奥様」
「奥様。そんな、申し訳ございません」
「行ってらっしゃいな」
「はっ!では失礼して。エレアさん、行きましょう」
アロイスは、あの後頻繁に現れてはエレアをデートに連れ出した。
誰かと出掛けたり遊ぶ経験のなかったエレアは伯爵婦人の勧めもありアロイスと楽しく出掛けさせて貰って過ごしている。
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