親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま

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 都立T高校は、地域で最も高偏差値の優秀な学校として知られていた。
 西井朔空(にしいさく)は、何とかギリギリこの学校に合格した。桜花がその多くを落とし葉桜になりかけた4月、無事に入学式を迎える事が出来た。

 新入生は真新しいやや大きめで昔ながらの制服に身を包み、胸躍らせ講堂での入学式に臨んだ。終了後は各教室に別れて担任の前で一人ずつ起立して自己紹介をする。
 同じ中学からの入学者は皆少なく、互いに知らないもの同士、どんな学生がいるのかと緊張の時間を迎えていた。

 朔空がクラスを見渡すと一際目立つ男子生徒がいた。頭一つ高いその男子は、長めの黒髪を真ん中で分けて流し、切れ長で大きな意思の強そうな目に整った鼻と唇が配置された日焼けした顔がまるで映画に出てくる俳優のようだった。誰もが彼を意識して、視線を集めていた。

 そこに担任教師が入ってきて、パンパンと手を鳴らす。

「はい。一年間君たちの担任になる鈴木です。宜しく。一人ずつ名前と好きなことやアピールポイントを言って下さい。では、窓側前から後ろにむかって順番で」

 入ってきた白髪の担任教師に促され、それぞれ名前と卒業した中学校だったり、趣味だったり、入る予定の部活だったりを言っては、次の人へと繋いでいく。

 目立つ彼の順番になり、起立した。やはり背がとても高い。

「鹿島絢斗(かしまあやと)です。パソコンでゲームをしたり作るのがすきです。コンピューター部に入る予定です」

 バスケやサッカーなどの一軍男子らしい部活を予想していた皆は少し驚いた様子だったが、今までのクラスメートに向けるのと同じパチパチとした小さい拍手を送って次の生徒に変わった。

 しばらくして、朔空の順番が回ってきた。朔空は、平均よりも低い背に細めの体躯。長い前髪とメガネに隠れた瞳はアーモンド型でぱっちりと大きく、細い鼻梁と唇が綺麗に白くニキビの少ない顔に配置されている。
 身なりを整えれば韓流アイドルのような美しさを隠していたが、本人は見た目にこだわらないオタクであった。ゲームとアニメ、漫画にラノベを好みインドアで優しい性格。これまで趣味の合う友人に恵まれてボッチを逃れていたが、この学校でどうなるかはわからない。
 嫌われず、出来れば友人を作りたい。無難に自己紹介をこなすべくそっと立ち上がった。

「西井朔空(にしいさく)です。ゲームが好きでコンピューター部に入りたいと思っています」

 それだけ言ってさっさと席に着いた。特に何も反応されずパラパラと拍手が聞こえた後に次の生徒にうつった。ほっと息をついた朔空を絢斗が後方の自席からじっと見ていた事には気付いていなかった。


 部活紹介と勧誘の日は、朔空は何も迷うことなく放課後コンピューター部へ向かうことにしていた。教室を出ようと荷物を持って席を立つと

「あ、あのさ。コンピューター部行く?」
「え?行くよ」

 後ろから、声をかけられて振り向きながら答えた朔空の前に絢斗が立っていた。

「一緒に行こう?」
「良いけど」

 とても一人でいけないようなタイプでは無いのに、わざわざ朔空と一緒に行こうとする。緊張しているのか、場所がわからないのか?疑問に思いつつも了承した。

 それが朔空と絢斗の友人関係の始まりだった。
 二人でコンピューター部を見学して早速入部届けを貰って帰る道すがら、絢斗が言った。

「ありがとう。俺、小学生の時アメリカにいて、人付き合い苦手なんだ。あっちは自分の非は認めず自己主張するのが優秀って感じで、帰国したらギャップで困ったんだ。告白してくれる女子にも上手く断れなくて泣かれたりして、傷つけるつもりなんか無いのに」
「そうか。格好良いのも大変だな。僕が出来ることならフォローするから言ってよ」
「うん。俺達友達になれるかな」
「ああ。これから親友な」

 朔空の言葉を聞いた絢斗が、茜色の空を背に煌びやかな笑顔を見せた。まるで天からの使いのような美しさに、朔空は目を離せなくなったのだった。


 テストの成績が張り出される。絢斗が首位を取ると、他の男子生徒たちの声が聞こえてきた。

「良いよな。イケメン帰国子女は。努力なんかしなくても1位とって、モテモテでさ」
「いや。そんなことないよ…」

 困った顔の絢斗を見ていられなくなった朔空は

「あのさあ。絢斗は努力して全科目良い成績取ってんの。文句あるなら実力で追い越せばいいんじゃない?」
「朔空…」
「なんだよ。庇われて。情けねえな」

 去り際にも嫌みを言われた。

「絢斗ごめん。余計な事言ったかな?」
「ううん。朔空ありがとう」

 同級生の男子にやっかまれても、きつい物言いになることを怖れて絢斗が言い返せなかったり、机や椅子をわざとぶつけられて困っている時には、朔空が代わりに言い返すこともあった。

 また恋愛においても絢斗に手紙を渡してほしいと女子に頼まれたり、告白の場面に同席を頼まれる事が多くなった。絢斗からも、なぜか相手の女子学生からもだ。

 その日校舎裏で絢斗を呼び出した女子生徒は、自分も友人連れで待っていた。絢斗と朔空が一緒に姿を現すと

「鹿島絢斗くん、すきです。付き合ってください。お試しで友達からでも良いの。お願い!」
「ごめん。俺、今女の子と付き合うつもりなくて、ごめんなさい」

「友達からもだめ?」
「ごめん」

 相手の女子が泣き始め、それを友人が慰めている。絢斗は彼女を泣かせたくない。絢斗なりに考えて精一杯の返事なのだ。

「余計な事かもしれないけどごめん。絢斗は今どんな女の子ともお付き合いしないって思っているだけなんだ。勇気を出して告白するなんて尊敬するよ。あなたは可愛いし他に目を向けてみて?誰かに想われているかもよ?」

「…そうかな?」
「そうよ」「そうだよ」

 朔空と友人の言葉を聞いて少し元気になる彼女。

「きっと上手くいく時もあるから、幸せになってね。絢斗もそう思うよね?」
「うん。俺、上手く言えなくてごめん」

「わかった。じゃあね」

 最後は泣き止んだ女子生徒は、友人と去って行った。

「朔空、付き合わせてごめん。ありがとう」
「いや。良いよ。僕達も帰ろう?」
「ああ。そうだ。週末新作ゲーム一緒にやろ?」
「いいね。問題集もついでに一緒にやろう?教えてよ」
「もちろんだよ」
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