親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま

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 高校生の時から絢斗はゲームを作り、アプリを開発し始めたり映像を作ってはコンテストに応募もしていた。
 朔空と一緒にゲームしたり、漫画を読んだりもしながらトップの成績を維持していたので、いつどうやって勉強をしているのか朔空は不思議だった。

「どうやって勉強してるの?」
「なんか、そのまま見たら覚えられるし、問題集や過去問は解くけど」
「やっぱ絢斗、地頭がいいのか」

 大学は、言わずもがな最高学府に進学した絢斗。その頃絢斗の姉もアメリカの大学に留学していた。絢斗と同じく日本に馴染み難かった姉はそのままアメリカで働くつもりでいるらしい。

 朔空は一流私大に何とか合格し、実家から通うことにしていた。朔空にも姉がいるがこちらはもうすぐ社内恋愛で結婚する予定である。

「絢斗実家から通うんだろ?」
「いや。一人暮らしになりそう」
「え?ご両親は?」
「タイ支社長で赴任するんだ。ゲームやアプリを売ったお金で小さいマンションを大学近くで買う。実家は五年間の定期借家に出すことにした」
「そうなの?部屋に遊びに行って良い?」
「何時でも来て。鍵渡すよ。住んでくれても良い」
「いや、いや。遊びにいくだけで充分だよ。絢斗が恋人とか他の友人を招いた時に困るよ」
「朔空の他に人はよばないんだけどな。でも鍵は持っていてよ。国内に家族が居なくなるから病気の時とか誰にも頼れない。お願い朔空」
「そっか。それなら受け取るよ」

 実家よりも絢斗の部屋の方が自分の大学にも近く、たまに遊びに行ったり遅くなったときには泊めて貰うこともあった。知らぬ間に朔空の服や荷物が増えていった。

「絢斗、今日泊めてくれる?」
「何時でも良いって。夕食食べた?」
「まだ」
「じゃあ食べに行こう?」

 絢斗のマンションの周囲には沢山の飲食店があり、二人で楽しく食事して2LDKのマンションに帰る。朔空の寝床は大きなソファーで、いつの間にか専用の枕と肌掛け布団が準備してあった。
 絢斗は、他に人を招いたりする様子はなく二人で恋話をすることはなかった。大学生になると、身形を整え始めた朔空は、美形で女子からは隣に並びたくないと言われ、本人も何となく好きな人も出来ずに奥手なまま過ごしていた。

「朔空、パジャマも買ってあるよ」
「え?悪い」
「ううん。はじめサイズ間違えて小さめの買っちゃったんだ。だから買い直してお揃い。もったいないからよかったら着てよ」
「ありがとう。使わせて貰うね」


 大学二年生からは、絢斗は会社を作りアプリ開発を進めていた。そして利益が出ると株式投資をしたり、投資用マンションを買ったり資産を増やしていった。


「朔空は、仕事どうする?就活するの?」
「IT系の企業でインターンしてみる。なるべくなら勉強になってホワイトな会社に入りたいんだ。資格も取ろうとしてる」
「そっか...一緒に働きたいけど、残念」
「僕だとスタートアップでは役に立たないよ。絢斗みたいなクリエイティブな能力ないし、エンジニアが出来るわけでもない。経験積んで将来はITコンサルタント目指そうかなって」
「そうか。わかった。応援する。仕事するようになっても俺と会って、食事したりしようね」
「僕の親友は絢斗だけだよ。これからもずっと遊んだり話したりしたい」

 お互いに頑張ろうと励まし合った。絢斗は、自分の会社で仕事をしながら卒業して、朔空は就活しながら学業にも励む。

 朔空は希望していた企業に内定が決まった。丁度その頃、母の実家の祖父母が体調を崩した。その地方都市には、姉が夫の転勤に同行して住んでいたこともあり朔空の両親がUターンで転居することを決めた。
 父の定年後再雇用の働き先としてその地域でも仕事を出来る。収入は大幅に下がるが実家に住めば充分暮らして行ける。

 都内の賃貸マンションを引き払うことになり、朔空も就職先へ通いやすい場所に部屋を探した。
 築30年の狭小マンション。1ルームでユニットバス。浴槽には浸かれずシャワーのみでIHコンロ一つに小さい冷蔵庫。いかにも単身者用だが家賃6万円だ。大卒初任給でも何とかなりそうだと契約して引っ越した。


「朔空と卒業旅行に行きたいな。3月で一泊でも泊まらない?」
「良いよ。でも引っ越しでお金無いから近場一泊くらいにしてくれないか?」
「え!?引っ越し?」
「そう。両親がUターンするからマンション借りたんだ」
「何で言ってくれないんだよ。それなら一緒に住みたかった!」
「え?でも絢斗のマンションは寝室と仕事部屋で埋まってるし、自分の会社に近いだろ?路線も違うから」
「一緒に新しい部屋に引っ越しても良かったのに」
「そうか?でも部屋はもう決めたから大丈夫だよ。今度はうちの鍵を預かってよ。近場に家族がいないからさ」
「それは嬉しいけど。朔空、なんかあったら教えて?困ったことがあった時も一番に連絡して?」
「ありがとうな」

 
 絢斗が支払って伊豆の高級旅館に宿泊した。箱根登山鉄道に乗って、駅からバスに乗る。1棟貸し切りの宿で趣があった。

「夕食まで散歩してから一度入浴しない?」
「いいな。旧街道に出れるらしい」

 木立の中を散策してお腹が空いたところで甘いお菓子とお茶を頂く。露天風呂が付いているので、二人で大きな浴槽に浸かってみた。

「はあ…今度借りた部屋はシャワーしか無理なんだ。たまに浸かりたくなるよね」
「そういう時はうちの風呂使ってよ。何時でも好きな時に泊まって?」
「うん。ありがたいけど。絢斗そろそろ彼女とか出来ないの?急に行ってバッティングしたら気まずいよ」
「彼女なんていない。ずっと朔空が優先だから。何時でも来てよ」
「そうか?まあ…風呂が恋しくなったらお邪魔する」
「食事もゲームも!映画とか買い物だってこれからも一緒に行こうよ」
「ああ。そうだな」
「朔空こそ。誰もテリトリーに入れないでね。俺を捨てないでよ」
「何言ってんだよ。これからも友達だろ?」

 心配そうな顔の絢斗は、入学式の時を思い起こさせる。不自然に浴槽の中で離れて行く絢斗に、何か嫌なことを言ってしまったか?と気になったが、良いお湯に浸かって夕食の運ばれる時間になると忘れてしまっていた。

「美味しい。これ、凄いな」
「本当にね」
「この宿高くない?払えるかな?」
「大丈夫。もう払ってある。株主優待でだいぶ安くなってるから心配しないで」
「本当に?でも自分の分は払うよ」
「俺からの祝いだから。受け取ってよ」

 金目鯛の煮物やお造り、シラスに新鮮なワサビ、鮑や牛肉と地元の野菜を使った料理の数々に舌鼓を打つ。
 普段はあまり飲まないワインや日本酒まで頼んで豪勢な夕食を頂くと、お茶を飲んでゆっくり食休みをした。

「絢斗は、仕事順調?」
「まあまあかな。今後の事も色々考えてるよ」
「そうか。絢斗なら何でも頑張りそうだな」
「朔空。会社で辛いことがあったらすぐに言って?俺のところに就職する選択肢があることを覚えていてよ」
「うん。ありがとう」
「セクハラする先輩や同期がいたら教えてね。力になりたい」
「ははっ。大丈夫だって。女の子じゃないし」
「そんなこと関係ない。朔空は自分の事わかってない」
「そうか?大丈夫だよ。今までも何にもないし、モテない人生だよ」

 朔空は、綺麗で女性にはモテにくく、男性からの秋波には気付かない。また絢斗が、他の人からのアプローチに気付くとさりげなく朔空との関係を匂わせてガードしていた。大学が別になったことで守りにくくなったのに、社会人になったらもっと難しい。
 絢斗は警戒心のない朔空が心配であった。早く自分の陣地に引き込みたい。告白したり、囲い込んだり。万が一告白を断られても離れたくない。
 そのためには今の部屋では足りない。在宅で仕事のできる広い部屋とネット環境が必要だ。朔空を充分養って、尚且つ朔空の実力に過不足ない仕事をして貰えるように考えなければ。絢斗の決意を固めた卒業旅行だった。
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