親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた

こたま

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 朔空が就職して三年目。高校、大学を通して今も付き合いのある友人は絢斗だけだった。
 絢斗からは、メッセージアプリに頻回に朔空の体調を気づかったり、会える時間を伺うメッセージが届いていた。

 実際に時々はどこかで食事して、たまには絢斗の家に泊まる。年末年始やお盆時期に予定が合えば、泊まりで旅行に行く事もあった。
 いつも予定を組んだり、チケットを取ったり、支払いも絢斗が多く出すので朔空は申し訳ない気持ちを抱きながらも二人の時間が楽しくて恒例行事になっていた。

 以前ほどゲームや映像作品を一緒に見る事は出来ないが、会社とは離れた人間関係での愚痴や懐かしい話ができるのは、朔空にとってとても気分転換になった。


「朔空と食事したい。今日はどう?いつなら大丈夫?」

 そんなメッセージが来ていた事に気付かず、金曜日夜に残業を終えて終電間際にやっと帰宅したところ。目の前にあり得ない光景が広がっていた。

「え?…何?これ…現実?」

 見慣れた細長い鉄筋コンクリートの自宅マンション。その前には規制線のような物が張られ、入り口ドアには大きな字で模造紙に書いた張り紙が掲示されていた。

 マンションは、玄関ホールがびしょびしょで入ることも出来ない。まるで火事で水を撒いた後のようだ。
 張り紙には、屋上の貯水槽から各戸に至る配管が故障し漏水したこと、マンション内が水浸しになり、配管からの給水を止める応急処置中であること。中には暫く入れない、今後の事は追って連絡すると記載されてあった。
 夜遅い時間のためか、他の住人の姿は見えない。皆何処かへ避難したのだろうか。どうしたものか。今からホテルを取れるのか?。タクシーは見つかるのか。…お腹が空いた。疲れて思考が働かない。部屋に貴重品はあっただろうか?どうしよう…

「あ...絢斗に…」

 何も浮かばなかったが絢斗に連絡してみることだけは思いつき、朔空は電話をした。呼び出し音たった3回で絢斗が出るとほっとした朔空は

「絢斗?ごめん。寝てた?」
「大丈夫だよ。どうした?」
「家に入れない…水浸しだって」
「は?」

 簡単に張り紙の内容を告げると

「メッセージも気付かなくてごめん。出来れば今日、泊めてくれない?」
「直ぐ迎えに行く。待ってて。コンビニとかカフェで開いてるとこがあれば入って。夜遅くに危ない」
「じゃあ、コンビニにいる。うちの最寄りのファミマわかる?」
「オッケー。直ぐ行くから動くなよ」
「うん。ごめんね」


「お待たせ。買い物してうちに行こう」
「絢斗、ありがとう」
「夕飯は食べたの?」
「まだ。残業してたから、お腹空いているし疲れた。本当に助かった…」
「夜中だからな。ファミレスくらいならやってるか…飲み物と明日の朝用にパンとか、適当に買っておくぞ」
「あ。着替え要るかな?」
「ある。明日買い足せば大丈夫」

 さっと買い物を済ませた絢斗に続いてコンビニを出ると駐車場にSUV タイプの外国車が止まっている。

「あれ?絢斗、車買ったの?」
「うん。駐車場が確保できたから買った。乗って?」
「うん。お邪魔します。凄い良い車だね」

 乗り心地の良い四駆の外国車で最寄りのファミレスに寄って、二人で食事を取った。絢斗は軽く食べていたのでここでは軽めに。朔空はしっかり食事して、絢斗の勧めもありワインも少し飲んだ。疲れた心と体にワインが沁みるようだった。
 また車に乗ると、朔空は空腹が満たされアルコールと疲れが重なって眠ってしまった。


「うーん…」
「起きた?」
「うん。ごめん」
「風呂入れば?」
「ありがと…あれ?」

 朔空が目を覚ますとそこは車内ではなかった。何度も泊まった絢斗のマンションのリビングとも見えるものが違う。

「ここ、どこ?」
「家。実家。高校の頃何度も来ただろ?」
「え?実家?こんなだったっけ?」

 体を起こすと、リビングスペースに置かれた大きなカウチソファに寝かされていた。2~3人寝られるサイズのソファーである。
 ローテーブルや壁紙、カーテンも昔と違う。絢斗の声が聞こえたダイニングを見ても以前と様子が違ってスタイリッシュなダイニングセットが置かれ、大人っぽい雰囲気に変わっている。

「リフォームした?」
「ああ。もう両親も姉も帰って来ないと言うから、好きなように作りかえて住んで良いって」
「そうなんだ。あ。その前に、運んでくれたの?悪い。重かっただろう?」
「全然。軽かったよ」
「本当かなぁ」

 お湯を張ってあると言われ、浴室に向かう朔空。洗面所や浴室もリフォームで綺麗になっていた。
 久しぶりで広い浴槽にゆっくり入ると、元気が出てきた気がする。財布とスマホは持っているし、銀行のカードや印鑑、パソコンだって持っている。
 よく考えて見たら貴重品は濡れて使えないわけではなく、住むところと家財道具、服があれば何とかなるのだ。
 配管の問題ならば保険金などが出るかもしれない。大したことでは無いのかも。前向きになってきた。絢斗のお陰だ、と朔空は思った。

 お風呂から出ると、洗面所にバスタオルと新品のインナー、そして以前から使っていたパジャマが置いてある。それを身につけて髪を拭きながらリビングに戻ったら

「朔空、水用意してある」
「ありがとう」

 ペットボトル入りの水がローテーブルにのせてあった。それを取って飲んでいたら

「朔空、そこ座って。髪乾かすよ」
「え、大丈夫。ドライヤー借りて乾かしてくる」
「えー?乾かしたい」

 さっとドライヤーを取って戻って来た絢斗は、朔空を座らせて後ろから柔らかく髪を撫で、そっと温風をあてた。髪が乾く頃には、気持ち良くてまた朔空の眠気を誘っていた。

「ありがとう。眠くなるな。色々助かった。少し元気が出たよ」
「そう?良かった」
「貴重品は持っているし、部屋をまた探せば良いだけだ」
「それなんだけど、提案したいことがある」
「え?なに?」

 ソファーにぴったりと密着して座る。広い座面にわざわざ並んで、絢斗は朔空の手を取った。

「今日は疲れただろうから、明日時間をくれない?話したいことがあるんだ」
「うん。休みだし大丈夫。気を遣わせて悪いな」
「いや。歯磨きとか、準備しておいで。寝るところ案内する」
「ありがとう」

 洗面所で朔空がミラー収納を開けると、いつも使っているメーカーの開けていない歯ブラシとペーストがあった。使って良いんだろうと判断して有り難く使用して、トイレも済ませてリビングに戻ると

「絢斗、ありがとう。歯ブラシ使わせて貰った」
「ううん。あれで合ってるよね?じゃあ2階に行こう」
「2階?ソファーでなくて?」
「2階に部屋を用意してあるんだ」

 階段を上がると、一つの扉を開けた。そこにはシングルベッド、机、椅子、本棚にクローゼットという、一人分の家具が揃っていた。直ぐに使える状態の部屋であるが本棚は空だ。

「この部屋を使って?家具は新しく入れたもので、シーツやカバーは一度洗濯してから着けた」
「ゲストルームって感じ?使って良いの?」
「もちろん。ゆっくり休んでね」
「ありがとう。お休み」

 朔空が疲れた体を横たえると真新しい布団が優しく体を包んだ。心地よい眠りに落ちて熟睡していた頃、絢斗は遅れて入浴しながら明日からの事を考えていた。
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