3 / 9
3
しおりを挟む
「部屋まで背負っていくから、また乗って?場所を教えてくれる?」
「ごめんなさい。ありがとう。でもさっきより痛くないから多分歩けるよ?」
「早く治って欲しいから、乗ってくれた方が嬉しいんだ。良ければ背負わせて」
「うん。お願いします」
また蒼士の背中に茜が乗った。軽くて暖かい、幸せな感触が蒼士を覆う。告げられた部屋番号までゆっくり背負って連れて行く。
「入っても良い?」
「うん」
中のベッドにそっと茜を下ろした。
「シャワー、大丈夫?手伝おうか?」
「あ…大丈夫。恥ずかしいし一人で平気。ここまで運んで貰ってありがとうね」
「いや。僕は宝来蒼士だ。よろしくね」
「蒼士くん?僕は春川茜」
「うん。さっき書いてたの見た」
「そっか」
「茜君、可愛い。好き。すごく良い香りがする」
「え?そう?」
「うん。多分、僕達運命だよ。きっとまた会える」
「そうかな?」
「うん。絶対に忘れない。きっと大人になったら君を見つけてプロポーズします。だから待っていてください。お願いします」
「そんな。まだバース性もわからないよ?」
「でもきっと運命だ。どうかお願い。君に選んで貰えるように、しっかり頑張って立派な大人のアルファになるから。きっと迎えに行きます。誰とも番にならないで、待っていて」
蒼士はベッドに座らせた茜の前に跪いた。茜の両手を握って額を寄せた。
「わからないけど…ありがとう」
「うん。きっと迎えに行く」
次の朝、朝食会場は同じだったが時間が入れ替えだった。出てきた茜を見つけた蒼士は
「大丈夫?茜君。痛くない?」
「あ。ありがとう。大丈夫」
「良かった」
茜の笑顔が眩しくて幸せな気持ちになった蒼士は、一日中、茜が居ないかと目線で探して過ごした。
友人と笑い合う茜。仲良く人と気遣えるような様子。可愛らしい仕草。ドキドキして、幸せで堪らなかった。
いつも何かと御世話係を任じられて、やれやれと対応していた蒼士だった。しかし、もし茜の役にたつことであれば何でもしてあげたいと思う。
その夜は、蒼士達が星空鑑賞で茜達は敷地内散策だった。また暗闇で転んでしまわないかと心配で仕方がなかった。そして、活動終わりに戻った茜を捕まえると
「今日も、怪我の様子を見た方が良いと思う。救護室に行かない?」
「蒼士くん。大丈夫だと思うよ?」
「これからまたお風呂の時間でしょう?覆わなくて良い?」
「うん。でも、ありがとう。一応行こうかな」
今日はさすがにおんぶは出来ず、横に並んで救護室に向かった。トントンとドアをノックして、開けると
「あっ!ごめんなさいね。これからお熱の出た子をお迎えに来て貰ったから、車まで連れて行って申し送らないと行けないんだ。急用かな?」
「いえ。昨日の傷の消毒と、お風呂の前に覆った方が良いかと思って来ただけです」
「そっか...もし、自分で出来そうなら、そこにあるもの使ってくれる?時間がかかりそうなの」
「はい。大丈夫です。自分で出来ます」
蒼士は、茜の代わりに返答した。そして茜を座らせて昨日のガーゼとテープを外した。
「良かった。悪化してないね。消毒して、またガーゼで覆っておこう。その上から昨日みたいに濡れないようにしておくね」
「ありがとう。ずいぶん慣れてるの?上手だね」
「両親とも仕事をして忙しいんだ。自分で何でもやりなさいって、小さい時からなるべく何でも出来るように教わって自分で手当てしてた」
「そうなんだ。すごいなあ」
「食事はお手伝いさんが用意してくれるし、出来ないことも多いけど」
「ありがとう。これで安心したよ」
「良かった。部屋まで送るね」
借りた物は元通りに片付けて、部屋を出た。養護教諭はまだ戻らないので、部屋の外に不在と札を出してドアを閉めた。
「茜君はどこの中学に行くの?」
「どうだろう?このままならA中学だけど。お父さん、そのうち転勤するかもしれないって。蒼士くんは?」
「そうか。僕も中学受験するから、どこを受けて、受かるかわからない。でも、絶対会いたい」
部屋まで送り、蒼士はまた許可を得て入室した。お互いに家の住所や電話番号と言った連絡先を交換した。
「僕も、まだわからないけど蒼士くんは特別な感じがする。優しいし、格好良いし、素敵だよ」
「ありがとう。今日はもっと茜君が好きになった。知り合えて嬉しい。奇跡の出会いだと思うよ」
「そうなのかな」
「運命と出逢える確率は、天文学的数字なんだよ」
「そうなんだ」
ベッドに二人で座っていたが、蒼士は昨日のように茜の前に跪いた。両手をまたそっと握る。
まっすぐ茜を見つめると、本能が身体を揺さぶった。何も教えられて居ないのに、この人を逃すまいと心臓がダンダンと脈打って
「キスしても…いい?」
「え?キス?」
「うん。すこしだけ」
「うん。…いいよ」
そっと目を閉じた蒼士が茜に近づいた。小さな唇同士がそっと触れた。暖かさを感じ、ふんわりと心が弾んだ。それからすこしだけ、二人とも唇を開けた。蒼士の舌が茜の唇をちょんと触れる。
子供らしい、拙い口付けだった。しかし、どきどきと胸を弾ませ幸福な初恋の証。蒼士は一生この気持ちを忘れることは無いだろうと思った。
「好きです。きっと大人になって迎えに行きます。待っていてね」
「ふふっ。くすぐったい気持ち。どうもありがとう」
幸福のうちに終わりを告げ、名残惜しさで溢れた校外学習。帰宅してからも蒼士はその記憶を反芻しては自らの努力の源泉として、溢れる思いを持て余すほどだった。茜宛に早速手紙を送った。
しかし。帰宅後すぐ、茜には残念な事が次々と起こっていた。まずは帰った夜から高熱にうなされた。
救急受診した病院で、意識が朦朧として水分も摂れない様子から入院し、ウイルス感染であると診断された。
やっと退院すると父がアメリカに赴任することが決まって、バタバタと引っ越す事になった。
慣れない環境、落ちた体力。落ち着いた生活を取り戻す頃には、校外学習での出来事が記憶から殆ど抜け落ちてしまっていた。
友人にも引っ越しの挨拶が出来ないまま、あっという間の出来事だった。とても大切な何かを忘れているような、不安感に苛まれながらの引っ越しであった。
「茜。行くよ」
「お姉ちゃん。ちょっと待って」
「二人とも荷物大丈夫?」
「うん。でも何か忘れている感じがする。何だろう?」
「お別れの挨拶出来なかったね。それかな?」
「多分、すぐ帰国出来るわよ。家族皆で頑張りましょう」
「ごめんなさい。ありがとう。でもさっきより痛くないから多分歩けるよ?」
「早く治って欲しいから、乗ってくれた方が嬉しいんだ。良ければ背負わせて」
「うん。お願いします」
また蒼士の背中に茜が乗った。軽くて暖かい、幸せな感触が蒼士を覆う。告げられた部屋番号までゆっくり背負って連れて行く。
「入っても良い?」
「うん」
中のベッドにそっと茜を下ろした。
「シャワー、大丈夫?手伝おうか?」
「あ…大丈夫。恥ずかしいし一人で平気。ここまで運んで貰ってありがとうね」
「いや。僕は宝来蒼士だ。よろしくね」
「蒼士くん?僕は春川茜」
「うん。さっき書いてたの見た」
「そっか」
「茜君、可愛い。好き。すごく良い香りがする」
「え?そう?」
「うん。多分、僕達運命だよ。きっとまた会える」
「そうかな?」
「うん。絶対に忘れない。きっと大人になったら君を見つけてプロポーズします。だから待っていてください。お願いします」
「そんな。まだバース性もわからないよ?」
「でもきっと運命だ。どうかお願い。君に選んで貰えるように、しっかり頑張って立派な大人のアルファになるから。きっと迎えに行きます。誰とも番にならないで、待っていて」
蒼士はベッドに座らせた茜の前に跪いた。茜の両手を握って額を寄せた。
「わからないけど…ありがとう」
「うん。きっと迎えに行く」
次の朝、朝食会場は同じだったが時間が入れ替えだった。出てきた茜を見つけた蒼士は
「大丈夫?茜君。痛くない?」
「あ。ありがとう。大丈夫」
「良かった」
茜の笑顔が眩しくて幸せな気持ちになった蒼士は、一日中、茜が居ないかと目線で探して過ごした。
友人と笑い合う茜。仲良く人と気遣えるような様子。可愛らしい仕草。ドキドキして、幸せで堪らなかった。
いつも何かと御世話係を任じられて、やれやれと対応していた蒼士だった。しかし、もし茜の役にたつことであれば何でもしてあげたいと思う。
その夜は、蒼士達が星空鑑賞で茜達は敷地内散策だった。また暗闇で転んでしまわないかと心配で仕方がなかった。そして、活動終わりに戻った茜を捕まえると
「今日も、怪我の様子を見た方が良いと思う。救護室に行かない?」
「蒼士くん。大丈夫だと思うよ?」
「これからまたお風呂の時間でしょう?覆わなくて良い?」
「うん。でも、ありがとう。一応行こうかな」
今日はさすがにおんぶは出来ず、横に並んで救護室に向かった。トントンとドアをノックして、開けると
「あっ!ごめんなさいね。これからお熱の出た子をお迎えに来て貰ったから、車まで連れて行って申し送らないと行けないんだ。急用かな?」
「いえ。昨日の傷の消毒と、お風呂の前に覆った方が良いかと思って来ただけです」
「そっか...もし、自分で出来そうなら、そこにあるもの使ってくれる?時間がかかりそうなの」
「はい。大丈夫です。自分で出来ます」
蒼士は、茜の代わりに返答した。そして茜を座らせて昨日のガーゼとテープを外した。
「良かった。悪化してないね。消毒して、またガーゼで覆っておこう。その上から昨日みたいに濡れないようにしておくね」
「ありがとう。ずいぶん慣れてるの?上手だね」
「両親とも仕事をして忙しいんだ。自分で何でもやりなさいって、小さい時からなるべく何でも出来るように教わって自分で手当てしてた」
「そうなんだ。すごいなあ」
「食事はお手伝いさんが用意してくれるし、出来ないことも多いけど」
「ありがとう。これで安心したよ」
「良かった。部屋まで送るね」
借りた物は元通りに片付けて、部屋を出た。養護教諭はまだ戻らないので、部屋の外に不在と札を出してドアを閉めた。
「茜君はどこの中学に行くの?」
「どうだろう?このままならA中学だけど。お父さん、そのうち転勤するかもしれないって。蒼士くんは?」
「そうか。僕も中学受験するから、どこを受けて、受かるかわからない。でも、絶対会いたい」
部屋まで送り、蒼士はまた許可を得て入室した。お互いに家の住所や電話番号と言った連絡先を交換した。
「僕も、まだわからないけど蒼士くんは特別な感じがする。優しいし、格好良いし、素敵だよ」
「ありがとう。今日はもっと茜君が好きになった。知り合えて嬉しい。奇跡の出会いだと思うよ」
「そうなのかな」
「運命と出逢える確率は、天文学的数字なんだよ」
「そうなんだ」
ベッドに二人で座っていたが、蒼士は昨日のように茜の前に跪いた。両手をまたそっと握る。
まっすぐ茜を見つめると、本能が身体を揺さぶった。何も教えられて居ないのに、この人を逃すまいと心臓がダンダンと脈打って
「キスしても…いい?」
「え?キス?」
「うん。すこしだけ」
「うん。…いいよ」
そっと目を閉じた蒼士が茜に近づいた。小さな唇同士がそっと触れた。暖かさを感じ、ふんわりと心が弾んだ。それからすこしだけ、二人とも唇を開けた。蒼士の舌が茜の唇をちょんと触れる。
子供らしい、拙い口付けだった。しかし、どきどきと胸を弾ませ幸福な初恋の証。蒼士は一生この気持ちを忘れることは無いだろうと思った。
「好きです。きっと大人になって迎えに行きます。待っていてね」
「ふふっ。くすぐったい気持ち。どうもありがとう」
幸福のうちに終わりを告げ、名残惜しさで溢れた校外学習。帰宅してからも蒼士はその記憶を反芻しては自らの努力の源泉として、溢れる思いを持て余すほどだった。茜宛に早速手紙を送った。
しかし。帰宅後すぐ、茜には残念な事が次々と起こっていた。まずは帰った夜から高熱にうなされた。
救急受診した病院で、意識が朦朧として水分も摂れない様子から入院し、ウイルス感染であると診断された。
やっと退院すると父がアメリカに赴任することが決まって、バタバタと引っ越す事になった。
慣れない環境、落ちた体力。落ち着いた生活を取り戻す頃には、校外学習での出来事が記憶から殆ど抜け落ちてしまっていた。
友人にも引っ越しの挨拶が出来ないまま、あっという間の出来事だった。とても大切な何かを忘れているような、不安感に苛まれながらの引っ越しであった。
「茜。行くよ」
「お姉ちゃん。ちょっと待って」
「二人とも荷物大丈夫?」
「うん。でも何か忘れている感じがする。何だろう?」
「お別れの挨拶出来なかったね。それかな?」
「多分、すぐ帰国出来るわよ。家族皆で頑張りましょう」
240
あなたにおすすめの小説
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
αが離してくれない
雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。
Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。
でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。
これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。
オメガ大学生、溺愛アルファ社長に囲い込まれました
こたま 療養中
BL
あっ!脇道から出てきたハイヤーが僕の自転車の前輪にぶつかり、転倒してしまった。ハイヤーの後部座席に乗っていたのは若いアルファの社長である東条秀之だった。大学生の木村千尋は病院の特別室に入院し怪我の治療を受けた。退院の時期になったらなぜか自宅ではなく社長宅でお世話になることに。溺愛アルファ×可愛いオメガのハッピーエンドBLです。読んで頂きありがとうございます。今後随時追加更新するかもしれません。
婚活アプリのテスト版に登録させられたら何故か自社の社長としかマッチング出来ないのですが?
こたま 療養中
BL
オメガ男子の小島史(ふみ)は、ネットを中心に展開している中小広告代理店の経理部に勤めている。会社が国の補助金が入る婚活アプリ開発に関わる事になった。テスト版には、自社の未婚で番のいないアルファとオメガはもちろん未婚のベータも必ず登録して動作確認をするようにと業務命令が下された。史が仕方なく登録すると社長の辰巳皇成(こうせい)からマッチング希望が…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる