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「宝来グループを率いて行くからには、エスカレーターで大学に行かずに、受験をした方が良い。自分で進んで行け」
「はい。父上。頑張ります」
「蒼士は優秀だ。きっとアルファに違いない」
「そうね。塾でもいつも上位ですものね。でも、私は蒼士が好きな事をして欲しいからグループを継ぐって決めてかからなくていいと思うわ」
「そうだな。受験だってどこに受かるかではなく、努力出来るかが重要だ。ただ、合格出来ればより良い環境で高度な学びを得られ、友人達とは社会に出ても互いに助け合えるかもしれない。自分の琴線に触れる学校を見つけて欲しい。将来の進路もそうだな」
創業家であっても、力の無いものは上には立てない。実力重視だ。適材適所。自らの進む道を行け。代々の考え方に従って、宝来蒼士(ほうらい そうし)は地元公立小学校に通いながら中学受験の為に塾に通い勉強をしていた。
運動も勉強も出来て、周囲を良く見て行動できる。教師にも頼りにされる学級委員長だ。小学生ながら整った精悍な顔つきで女の子にも憧れられる存在だった。
学年が代わってすぐの春、校外学習の時期が来た。クラスには落ち着きない同級生がいて、調理では火を使うため先生方はとても気を遣う。
その中で、蒼士にも自ずと様々な役割が期待されてしまうのは仕方ないと思っていた。
今回は、他の小学校とも合同である。迷惑をかけないよう、自分も先生方の助けにならなければならない。
蒼士は、自身は個室を選択した。人口比では珍しいがアルファかも知れない。何か起こってはいけないと思ったからだった。
部屋に荷物を置いて、他の児童と共に行事に参加した。アスレチックや昔の遊びを楽しむ。もう一つの学校は工芸創作と磯遊びをしているそうだ。
そして夕食の調理の時間が訪れた。建物の外にあるバーベキュースペースを使っての調理である。カット野菜と焼きそばを焼き、ソースを混ぜるだけ。また肉は生焼けだった過去の事例を元にウインナーなどを焼くだけで、気を付ければ何も起こらない筈だった。
「あっ!っ。熱っッ」
「大丈夫?」
男子児童の一人が作業中にふざけて、手を火傷してしまった。
「早く冷やして。救護室の先生に見て貰ってください」
「先生。僕が連れて行きます」
「宝来君。助かります。ありがとう。お願いしますね」
てんやわんやの先生がこの場を離れる事は難しいだろう。他に何か起こるともっと厄介だ。蒼士は、火傷した子を連れて救護室に向かった。彼が見たところ、負傷したのは指先だけでそれほど酷くは無さそうだ。
「先生。火傷した子がいます」
「はい。連れて来てくれたのね。冷やして包帯巻きますね。火は危ないから気をつけてくださいね。あなたは戻って良いですよ、ありがとうね」
養護教諭に彼を引き継ぎ、外のバーベキュー場に戻ろうとして施設内を歩いていた。
そうだ、またいつ何かあるかわからない。今のうちにトイレに行っておこうか。児童も教師もバーベキュー場にいてトイレは空いている筈だ。
思い立って人気のないトイレに向かった。誰も居ないと思っていたドアの内側に、一人の人影が見えた。
「あ」
その人物が自分を見た時にとてもびっくりした。男子トイレにいるとは思えないような綺麗な顔の小さな子だったのだ。
「ごめん」
咄嗟に間違ったのかと思って詫びた。
「ううん。どうぞ」
その子が出て行き、やはり設備内容から男子トイレで合っているよな、あの子は男の子?と蒼士は疑問に思いながら用を足して外に出た。
蒼士の見たことが無い子だった。綺麗で、とても可愛い。ドアの前ですれ違うときに、とても良いかおりが漂って来た。何だったんだろう?
無事に夕食の調理と食事を終えた。さらにこれから、懐中電灯を持って今日、明日に別れて夜の生き物を探す敷地内散策と星空鑑賞がある。
やれやれと思いつつ、片付けを率先して仕切り、懐中電灯を片手に散策に出た。
誰も迷子にならないようにしながら散策して施設に戻った。後は部屋や大浴場の風呂を決まった時間ごとに使ってから就寝だ。
蒼士が施設内に戻ろうとしている時だった。外から戻った他の児童のグループに、夕刻見かけたあの子がいた。膝を押さえて同じくらいの背丈の女の子に支えられ、ヒョコヒョコと歩いている。
「茜くん。先生呼んでこようか?」
「大丈夫。ありがとう。一人で歩けるよ」
「本当?わたし、力が無くてごめんね」
「ううん。重かったでしょう?ごめんね。ありがとう」
「どうかした?怪我?」
「あ…うん。転んじゃって」
「乗って」
蒼士は咄嗟に膝を付き、背中を差し出した。支えても痛いだろう。救護室までおんぶしてあげようと思ったのだった。
「あ、ありがとう?でも重いよ?」
「大丈夫。救護室まで連れて行く」
「良いの?」
「夕方も行ったから場所分かってるから。お願い。乗って」
そっと蒼士の背中に暖かい感触が触れた。おぶったあの子は軽くて、お姫様抱っこだって出来そうだった。
背中から良い香りがして、とてもドキドキした。はやる気持ちをおさえ揺らさないよう救護室までゆっくりと歩いた。
「先生。怪我人です。お願いします」
「あら。また君?ありがとうね」
今度は救護室を出ずに残って傷の処置を見届けた。薄く擦りむいているが、大丈夫そうだ。良かった。
「お風呂は、入りたくてもここを念のためあんまり濡らさないで、シャワーくらいにした方が良いわね。ビニールを貼っておくから、あとではずしてね。もし濡れて困ったらまた消毒にいらっしゃい」
「ありがとうございました」
「僕が部屋まで送ります」
「あら、そう?…あら?学校が違うかしら?名札が違うわね」
「学校は違うと思いますが、お送りしますので大丈夫です」
「分かりました。お願いするわね」
蒼士は救護室の利用票を見て、その子が春川茜という名前の男の子だと知った。男の子か。でもきっとこの子はオメガだ。さっき背負った時もやはり特別な香りがした。くらくらするほどの良い香りが。
「はい。父上。頑張ります」
「蒼士は優秀だ。きっとアルファに違いない」
「そうね。塾でもいつも上位ですものね。でも、私は蒼士が好きな事をして欲しいからグループを継ぐって決めてかからなくていいと思うわ」
「そうだな。受験だってどこに受かるかではなく、努力出来るかが重要だ。ただ、合格出来ればより良い環境で高度な学びを得られ、友人達とは社会に出ても互いに助け合えるかもしれない。自分の琴線に触れる学校を見つけて欲しい。将来の進路もそうだな」
創業家であっても、力の無いものは上には立てない。実力重視だ。適材適所。自らの進む道を行け。代々の考え方に従って、宝来蒼士(ほうらい そうし)は地元公立小学校に通いながら中学受験の為に塾に通い勉強をしていた。
運動も勉強も出来て、周囲を良く見て行動できる。教師にも頼りにされる学級委員長だ。小学生ながら整った精悍な顔つきで女の子にも憧れられる存在だった。
学年が代わってすぐの春、校外学習の時期が来た。クラスには落ち着きない同級生がいて、調理では火を使うため先生方はとても気を遣う。
その中で、蒼士にも自ずと様々な役割が期待されてしまうのは仕方ないと思っていた。
今回は、他の小学校とも合同である。迷惑をかけないよう、自分も先生方の助けにならなければならない。
蒼士は、自身は個室を選択した。人口比では珍しいがアルファかも知れない。何か起こってはいけないと思ったからだった。
部屋に荷物を置いて、他の児童と共に行事に参加した。アスレチックや昔の遊びを楽しむ。もう一つの学校は工芸創作と磯遊びをしているそうだ。
そして夕食の調理の時間が訪れた。建物の外にあるバーベキュースペースを使っての調理である。カット野菜と焼きそばを焼き、ソースを混ぜるだけ。また肉は生焼けだった過去の事例を元にウインナーなどを焼くだけで、気を付ければ何も起こらない筈だった。
「あっ!っ。熱っッ」
「大丈夫?」
男子児童の一人が作業中にふざけて、手を火傷してしまった。
「早く冷やして。救護室の先生に見て貰ってください」
「先生。僕が連れて行きます」
「宝来君。助かります。ありがとう。お願いしますね」
てんやわんやの先生がこの場を離れる事は難しいだろう。他に何か起こるともっと厄介だ。蒼士は、火傷した子を連れて救護室に向かった。彼が見たところ、負傷したのは指先だけでそれほど酷くは無さそうだ。
「先生。火傷した子がいます」
「はい。連れて来てくれたのね。冷やして包帯巻きますね。火は危ないから気をつけてくださいね。あなたは戻って良いですよ、ありがとうね」
養護教諭に彼を引き継ぎ、外のバーベキュー場に戻ろうとして施設内を歩いていた。
そうだ、またいつ何かあるかわからない。今のうちにトイレに行っておこうか。児童も教師もバーベキュー場にいてトイレは空いている筈だ。
思い立って人気のないトイレに向かった。誰も居ないと思っていたドアの内側に、一人の人影が見えた。
「あ」
その人物が自分を見た時にとてもびっくりした。男子トイレにいるとは思えないような綺麗な顔の小さな子だったのだ。
「ごめん」
咄嗟に間違ったのかと思って詫びた。
「ううん。どうぞ」
その子が出て行き、やはり設備内容から男子トイレで合っているよな、あの子は男の子?と蒼士は疑問に思いながら用を足して外に出た。
蒼士の見たことが無い子だった。綺麗で、とても可愛い。ドアの前ですれ違うときに、とても良いかおりが漂って来た。何だったんだろう?
無事に夕食の調理と食事を終えた。さらにこれから、懐中電灯を持って今日、明日に別れて夜の生き物を探す敷地内散策と星空鑑賞がある。
やれやれと思いつつ、片付けを率先して仕切り、懐中電灯を片手に散策に出た。
誰も迷子にならないようにしながら散策して施設に戻った。後は部屋や大浴場の風呂を決まった時間ごとに使ってから就寝だ。
蒼士が施設内に戻ろうとしている時だった。外から戻った他の児童のグループに、夕刻見かけたあの子がいた。膝を押さえて同じくらいの背丈の女の子に支えられ、ヒョコヒョコと歩いている。
「茜くん。先生呼んでこようか?」
「大丈夫。ありがとう。一人で歩けるよ」
「本当?わたし、力が無くてごめんね」
「ううん。重かったでしょう?ごめんね。ありがとう」
「どうかした?怪我?」
「あ…うん。転んじゃって」
「乗って」
蒼士は咄嗟に膝を付き、背中を差し出した。支えても痛いだろう。救護室までおんぶしてあげようと思ったのだった。
「あ、ありがとう?でも重いよ?」
「大丈夫。救護室まで連れて行く」
「良いの?」
「夕方も行ったから場所分かってるから。お願い。乗って」
そっと蒼士の背中に暖かい感触が触れた。おぶったあの子は軽くて、お姫様抱っこだって出来そうだった。
背中から良い香りがして、とてもドキドキした。はやる気持ちをおさえ揺らさないよう救護室までゆっくりと歩いた。
「先生。怪我人です。お願いします」
「あら。また君?ありがとうね」
今度は救護室を出ずに残って傷の処置を見届けた。薄く擦りむいているが、大丈夫そうだ。良かった。
「お風呂は、入りたくてもここを念のためあんまり濡らさないで、シャワーくらいにした方が良いわね。ビニールを貼っておくから、あとではずしてね。もし濡れて困ったらまた消毒にいらっしゃい」
「ありがとうございました」
「僕が部屋まで送ります」
「あら、そう?…あら?学校が違うかしら?名札が違うわね」
「学校は違うと思いますが、お送りしますので大丈夫です」
「分かりました。お願いするわね」
蒼士は救護室の利用票を見て、その子が春川茜という名前の男の子だと知った。男の子か。でもきっとこの子はオメガだ。さっき背負った時もやはり特別な香りがした。くらくらするほどの良い香りが。
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