隠れオメガは溺愛アルファにからめ捕られました

こたま

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 ほどなくして車がとまったのは、大きな一軒家の前だった。高級住宅街でも一際目立つ大きな邸宅。リモコンで門があき、中に入ると車寄せで停まる。

「さあ、降りて」

 先におりた俊輔の抱き寄せる腕に、軽々とおろされた柚月。

「大きいお宅ですね」
「ああ」

 車が出発してしまい、置いて行かれてしまった。柚月は、あっと車の後ろをを見ていると

「大丈夫だよ。車はいつでも呼べる」
「はい」
「少し休みながら話そう」
「はい」

 大きな扉を開けて室内に入ると、リビングに案内された。ソファーにかけて、柚月は緊張し通しだった体を少し緩めた。そこに俊輔がお茶を運んで

「どうぞ。お茶だよ。まだ熱いからゆっくり飲んでね」
「ありがとうございます」
「さて。どうして発情期なのに夜の店で働いていたのか、教えてくれる?気付いていなかった訳じゃないみたいだね?」
「ご迷惑をおかけして、すみませんでした」
「迷惑ではない。心配しているんだよ」

 促されて柚月は、自分の身の上と今日出勤する事になった経緯を説明した。

「過量内服なんて、体に良い訳がない!なんて無茶をしたんだ」
「すみません。でも解雇されたら困るんです」
「事情はわかったけれど、危ないよ?自分の事をもっと大切にしないと」
「はい」
「店の事は心配しないで良い。解雇しないように頼んであげられる。ほかのもっと割りの良く安全な仕事を紹介してあげる事も出来る。まずは休みなさい」
「すみません」
「謝らないで。キツい言い方に聞こえたらごめん。俺が心配でつい、言ってしまったんだ。柚月を怒っている訳じゃないよ」

 情けなく眉を下げて見せた俊輔に、やっと柚月も緊張を解いた。

「本当にご迷惑おかけしてすみませんでした」
「いや。大丈夫だから。ね、そのマスク取ってみてくれない?顔を見せて欲しいな」

 そこでやっと自分がまだマスクを二重につけて顔を隠していたことに気づいた。
 俊輔は、自分のフェロモンに気付いても襲って来ようという気配もない。抑制剤を服用していると言うし、先程何もしないと約束してくれた。信用できるだろうと柚月はマスクを外した。

「っ…」

 俊輔が一瞬言葉を飲み込む。しかし直ぐに何事も無かったように表情を穏やかなものに変えた。

「お茶を頂きます。ありがとうございます」
「どうぞ。丁度良い温度になったかな」
「はい。美味しいです」
「ふふ。良かった。柚月、うちには母が使っていた発情期用の部屋があるんだ。良ければ残りの期間を使って貰えないかな?」
「発情期の部屋ですか?」
「うん。是非使ってよ。このところ、掃除しているだけで、何年も使ってない。勿体無いんだよね。こっちだ、案内するよ」

 柚月が迷う間もなく、また腕に抱かれて連れて行かれた。柚月は、いつの間にか俊輔が俺と一人称を変えた事にも、柚月を名前で呼ぶ事にも気付いていなかった。部屋を移動しながらすーっと柚月のフェロモンを吸った事にも。

「ここなんだ。今は両親は、引退して海外の別荘をあちらこちらと動いているんだ」
「海外の別荘。すごいですね」
「いや。小さい所や貸りているところもあるから」

 案内された部屋には、小さなキッチンや浴室、トイレもある。鍵をかけられ、外からは猫の通るような小窓を通して食品を差し入れ出来る。まるでホテルのようだ。フェロモンが漏れないように厚い壁で仕切られ、柚月のアパートよりも断然安全な環境であることは一目瞭然だった。

「確かに、しっかりして過ごしやすそうなお部屋ですね」
「でしょう?可哀想なこの部屋を久しぶりに使ってあげてよ」
「でも…」
「柚月の家はアパートなんだろう?鍵1個のアパートなんて、心配だ。しかも今から戻るとなると、夜中だよ?俺もそろそろ休むから、出来ればこのまま過ごしてくれると助かる。運転手さんもそろそろ休んでいる時間かなあ?起こすのは…」
「あ、そうですよね。夜分にすみません。今日の所はお言葉に甘えさせて頂きます」
「良かった。じゃあ、鍵をかけてね。後で小窓の中に食品をいれておくね」
「すみません」

 そうだった。既に夜半である。店で騒ぎになるのを防いでくれた俊輔と運転手さんも寝る時間だろう。しかし、用事があるような事を言っていたのは良いのだろうか?もしかしたら電話やメールで済むことか?どちらにしても、ここは迷惑をかけないように泊まらせて貰う方が良いと判断した。

 部屋には、作り付けのクローゼットに少しの衣服や寝間着があった。クリーニングの袋に入っていたパジャマを一つ、お借りすることにした。
 浴室には、沢山のタオルやシーツの予備があった。軽くシャワーを浴びていると、過量に服用していた抑制剤の効果が切れてきた。

(しまった。予備の抑制剤、持ってきてないや。このままだと本格的に発情期が数日続いちゃうかも。でも今さら帰れないよね)

 浴室から出て、洗面台にあったドライヤーで髪を乾かし、大きな寝台に体を横たえる。帰ることも考えていられない程の強い欲望が沸き上がっていた。

 自らの前を擦りながら、後ろに指を差し入れた。いつも何かを想像する事はないのに、さっき会ったばかりの俊輔が目に浮かぶ。

(格好良くて、優しくて、紳士的だった。俊輔さんには番がいないんだよね?いたら僕をここに連れて来ないよね。この家にはほかの人の気配も無かった)

 次第にそんなことも、気にならなくなる。熱が体を駆け回る。出しても引かない。熱い。もっと、もっと…欲しい。いつもよりずっと熱い。柚月は強い発情期の波に揉まれていた。


「俺だ。至急調べて欲しい人物がいる。名前は牧原柚月だ。X大学の一年生。…ああ。児童養護施設の出身。…そうだ。わかり次第、途中経過でも良い。メールを。頼んだ」

 柚月に見せたものとは違う、厳しい目線の経営者の顔。俊輔は、その表情のまま口角を片方上げた。

「やっと見つけた。俺の番」

 家に今ある保存食やゼリー飲料、ペットボトル飲料などを見繕い、柚月のいる部屋の小窓から差し入れた。ここは二重扉で中のフェロモンは漏れない構造なのに、それでもわかる芳しい番の薫り。

「抑制剤を飲んでいなかったらヤバかったな。良く耐えられたものだ」

 でも、今ではないのだ。安心させ、信用させたい。可愛がって大事にして、依存して欲しい。跪いてでも愛を得たい。そして、満を持して発情期を過ごすのだ。
 自分の父のように、完全に番を囲い込み、愛したい。末長くずっと。そう。俊輔の両親は、運命の番同士であった。俊輔も、自分の唯一を探し求めていたのだ。

 俊輔に届いた柚月の情報。生い立ちは可哀想だが、施設で愛されて育った。真面目で一生懸命。可愛く素直で世間知らず。俊輔には好ましい性格と外見だ。もっと知りたい。何が好きで何をしたいのか。今後が楽しみで仕方ない。初めての恋に浮き足立つ俊輔だった。
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