隠れオメガは溺愛アルファにからめ捕られました

こたま

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(あ、飲み物や食べ物を置いてくれてある)

 自分で慰めつつ、少しはっきりした時間が来ると喉が乾いていた。小窓に有ったものをありがたく頂くことにした。飲食とシャワーを済ませるとさっぱりして、眠くなり、またベッドに戻った。
 そして、熱が訪れるとまた俊輔を頭に浮かべて自分で出したり、後ろを触ったりする。
 知らずに数日が過ぎていた。やっと長く重い発情期が終わった。

「大変だ。バイト!大学。今、いつなんだろう?」

 部屋で荷物を探した。自分の持ってきた鞄がクローゼットの隅に置いてあるのに気付いてほっと胸を撫で下ろす。
 まだ中古のガラケーを使っていた柚月。携帯を引っ張り出すと、どこを押しても真っ暗なままだった。

 どうしよう。充電が切れてる。そうだよね、数日経っているみたいだから、切れても不思議じゃないな。

 モバイルバッテリーも持っていないし、充電器もアパートの部屋にある。とりあえず部屋を出ても良いだろうか?誰かに遭遇したり、迷惑をかけないだろうか?
 着替えようと見渡すと自分の着ていた服が見当たらない。ここについてシャワーを浴びた時、どこに置いたんだっけ?
 仕方ない。クローゼットにあった服を借りて着た。同じくクローゼットにあった新品のインナーもお借りした。

 部屋の鍵を開けて、そっと廊下に進んだ。窓からの日差しが明るい。日中であることはわかった。
 リビングに行くと、誰もいない。キッチンも、失礼ながら他の部屋に向かって廊下をうろうろするが、どこにも人の気配が無かった。

(勝手に部屋を開けるのは失礼だよね。どうしよう。俊輔さんはお仕事かなあ)

 挨拶もせずに勝手に帰って良いだろうか?それは失礼だろう。しかとこの家の鍵がないのに、開けたまま出ることも出来ない。

 元いた部屋にもどった。リビングにもこの部屋にも時計やテレビが無いので、日時を確認できない。

 小窓には、いくつかの食品と飲み物があった。それを頂き、偶然持っていた大学の課題をこなしながら時間を過ごしていると

「ブロロ、、ガチャ」
「あ、玄関が開いた音?」

 ぱたぱたと玄関に向かうと、俊輔が帰宅した所だった。スーツ姿で、両手に大きな荷物を持っていた。

「俊輔さん。お帰りなさい」
「ただいま。良いね、お帰りなんて言って貰うの久しぶりだよ」
「あの、お世話になりました。ありがとうございました。発情期終わりました」
「そう。良かった。ね、ご飯買って来たんだ。一緒に食べよう?」
「え?でも、電話で連絡とか、帰宅もしないと。携帯の充電が切れてしまったんです」
「そうか。携帯…。じゃあ、とりあえず食事が冷めてしまう前に一緒に食べながら充電する?使えるのがあれば良いな」
「ありがとうございます」

 二人で、食事をダイニングルームに運んで並べた。美味しそうな仕出しの食事は二人分あった。

「携帯、持ってきてくれる?」
「はい」

「この携帯なんですが…」
「うーん。昔のだね。有るかな?」

 俊輔が一度ダイニングルームを出て探しに行く。

「これかも?」
「とりあえずお借りしてみて良いですか」
「どうぞ。じゃあ、食べよう」
「はい。頂きます」

「ところで今日はいつですか?」
「柚月が来てから3日後の土曜日だよ」
「そんなに?すみません。長い間お邪魔しました」
「いやいや。全く迷惑ではない。いつまででも居て良いんだよ」
「そんなにご迷惑はおかけ出来ません。でも土曜日なのにお仕事ですか?」
「うん。たまに土日も仕事してるよ」
「そうですか」
「どこに連絡したいの?」
「バイト先です。そのまま休んでいるので」
「ああ…それなんだけど…」
「何か?」

「あの時、すぐ店を出て良かったよ。あの店、キャストに違法に性接待を仲介していたらしくて、その後警察が入ったんだ」
「え?!」
「柚月のお陰で俺も助かった。だから連絡は必要ない」
「そうだったんですか。知らなかった」

 (では、あとは部屋に戻って来週からまた大学に行くだけだ。バイト先を探さなければならない。)

「ご馳走さまでした。本当にお世話になりました。この御礼は、何か僕の出来ることでお返しできるでしょうか?」
「御礼は良いけど。もう帰っちゃうの?」
「はい。大学の課題や来週の用意も、バイト探しもしないと心配です」
「そう。じゃあ、もう少し居てよ。俺が車で送るから」
「ありがとうございます。でも駅とかバス停を教えて頂ければ大丈夫です」
「まだ、ちょっとフェロモンが残っているよ?人混みは危険だ」
「そうでしょうか?確かに、抑制剤の予備がないので、ちょっと出ているのかも知れませんね」
「うん。だから、少し待ってね。部屋でちょっとだけ仕事をしてくるから」
「はい」

 キッチンで一緒にお茶をいれた。リビングで待つように言われ、荷物を持って来た。

「お待たせ」
「いえ。すみません。あ、そういえば僕の着てきた服をご存知ありませんか?」
「ごめん。クリーニングに出してある」
「え?部屋の洗面所の中で脱いだと思っていました」
「脱いだ服が小窓の中に入ってたんだ、だからクリーニングに出したんだ。不味かった?」
「いえ。すみません。クリーニングするような服では無いので」
「戻って来たら柚月の家に届けるよ」
「いえ。そんな大層な服ではありませんし、後日僕の方が取りに来させて頂きます」
「うん。じゃあ、行こうか」

 土曜日の夕方。高級車の助手席に乗せて貰って自宅へ向かう。車窓の外には家族や友人、恋人同士で楽しそうに出歩く人々が見えた。

「外から見たら俺達恋人同士に見えるね」
「そんな。僕なんか相応しく無いですよ」
「絶対、恋人に見えるって。俺が年上でおじさんだからダメ?」
「とんでもないです。格好良くて、素敵過ぎますから。僕は地味で普通なので、釣り合いませんよ」
「何言ってるの。こんなにかわいいのに」

「あ。そこです」
「うん。そこのパーキングに停めるね」

(あれ?詳しい住所を説明したっけ?それにアパートからすぐのコインパーキングを知っていたのかな?ナビゲーション画面にパーキングマークが出てた?)
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