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「エレン。お誕生会に伺うまでにお作法をさらっておきましょう。恥をかかないためだよ」
「はい。子爵家だから出来ないなんて、恥ずかしい事になってはいけませんね」
「そうだね。それと、念のためネックガードをつけてから首もとの高い飾りつきのシャツとウエストコートを着よう。華美にならずに失礼のない衣装を着ないと」
「すぐに小さくなってしまうのに、新しく揃えたらもったいないです」
「お母様が子供時代に着ていた物を手直しするから、汚しても大丈夫だよ」
「はい。とっても楽しみになってきた」
「ふふふ。美味しいお茶菓子も頂けるだろう。お庭も拝見したいね」
「お母様は行かれたことがあるの?」
「今の国王陛下とお母様はだいぶ年齢が離れているから、婚約者候補にもならなかったんだ。お招き頂く機会はなかったから、初めて。じつはお母様も楽しみです」
「ふふふ。よかった」
色白で若くかわいらしい母とエレンは兄弟のようにも見える。二人が楽しそうに準備する姿には、屋敷の使用人たちもほっこり和んでいた。
穀高い貴族であっても、当主ご家族が偉ぶらず待遇も良く働きやすいこの子爵家は人気の奉公先だ。
使用人一同、エレンの幸せを祈っている。何かと大変な王子妃や王妃になるよりも、ご当主様のような優しいアルファの婿養子を貰ってこの家におられれば良いのにな、と口には出さずとも心に思っていた。
ーそして、お誕生会当日がやってきたー
「何と、お迎えの馬車を寄越してくださるとの報せだ」
「え?うちの馬車で伺うのでは無く?」
「ああ。私も宰相様から呼ばれた。うちの馬車で登城するが、二人はお迎えの馬車に乗りなさい」
「そうですか。思っていたより仰々しい?大丈夫かな」
「まあ、気負わす行っておいで。私も宰相様の執務室に伺っているから、何かあれば報せも来るだろう」
「はい。そうですね」
母とエレンが着替えて玄関ホールに行くと、外に二台の馬車が控えていた。
一台は子爵家のもの。もう一台は王家の金の装飾が施された優雅な馬車だった。
「こちらにどうぞ」
御者の案内に、父が介助して母とエレンが乗り込んだ。
「では、私はうちの馬車で追いかけるからね」
「はい、あなた」
「お父様、皆さん、行って参ります」
「「エレン様、奥様、お気をつけて」」
王家の馬車は、ふかふかの座面で内部も広く、乗り心地が良かった。
「お母様。すごいね」
「そうだね。立派な馬車…」
母は、緊張して来たがエレンに不安を与えないよう、笑みを浮かべた。
馬車までご用意頂くとは、もしかしたら婚約者候補として、本命と目されている?いやいや。まさか。子爵だしね。と心の中は忙しい。
子爵家のタウンハウスから王宮はほど近い。あっという間に到着した。
案内されたのは、庭に設えた茶会の会場だった。
「初めまして。エレン、バーティー子爵婦人。ようこそおいでくださいました。王太子のポールです」
真っ先に王子殿下が声をかけた。15歳であるがスラッと背が高く、しっかりした体つき。金髪碧眼で彫像のように調った外観を持つ、いかにもアルファの男性だ。
その王子殿下が理知的な瞳を細め、口角を上げて柔らかな笑顔を浮かべていた。
エレンは礼をとり、練習した通りにお祝いの言葉を申し上げた。
「はじめまして。バーティー子爵家の子息でエレンと申します。お誕生日おめでとうございます。この度はお招き頂きありがとうございます」
「ふふっ。凄いね、とてもしっかりご挨拶が出来るんだね。とてもかわいらしい」
そう言って王子殿下はエレンに握手を求めた。エレンが手を差し出すと、包み込むようにそっと握る。
大きな手は、長い指がほっそりとして、しかしエレンよりもずいぶん力強く感じた。
「さあ、こちらへどうぞ。私の友人たちをご紹介させてね」
母がそっと周りを見渡すと、参加者は王子殿下の側近とおぼしき同年代のアルファのような男性二人。そして、ベータのように見える男性。
婚約者候補と思われる華奢な人物が見当たらない。もちろん、エレンだけが年若い。
う~ん。やっぱり。これは他に候補者が居ないってことか?母は懸念が本当になり、目眩がしそうだった。
王子殿下のご友人は、宰相様のご子息と代々騎士を輩出する貴族のご令息。そして有力伯爵のご子息であった。
「エレンは何が好きかな?お茶?お菓子?好きな物を教えて?」
「植物が好きです。王宮には素敵なお庭があると伺いました。拝見出来ますか?」
「うん。この庭園は広いんだ。この先にはばら園や果樹園、自然の庭を真似て作った池もある。散策しようか」
「はい!うれしいです」
ポール王子殿下と手を繋ぎ、エレンが歩き出すと他の令息や護衛が周囲を守ってくれている。
母が追いかけようとすると、王妃殿下がお庭にいらして、母に話しかけてきた。
「初めまして。バーティー子爵婦人、ようこそおいでくださいました」
「王妃殿下、本日はお招き頂きありがとうございます」
「子供達は、護衛も居ますから大丈夫ですよ。少し私とお話を?」
「かしこまりました。お声かけくださってありがとうございます」
「いいえ。私、婦人とお話できてとても嬉しく存じます」
「はい。子爵家だから出来ないなんて、恥ずかしい事になってはいけませんね」
「そうだね。それと、念のためネックガードをつけてから首もとの高い飾りつきのシャツとウエストコートを着よう。華美にならずに失礼のない衣装を着ないと」
「すぐに小さくなってしまうのに、新しく揃えたらもったいないです」
「お母様が子供時代に着ていた物を手直しするから、汚しても大丈夫だよ」
「はい。とっても楽しみになってきた」
「ふふふ。美味しいお茶菓子も頂けるだろう。お庭も拝見したいね」
「お母様は行かれたことがあるの?」
「今の国王陛下とお母様はだいぶ年齢が離れているから、婚約者候補にもならなかったんだ。お招き頂く機会はなかったから、初めて。じつはお母様も楽しみです」
「ふふふ。よかった」
色白で若くかわいらしい母とエレンは兄弟のようにも見える。二人が楽しそうに準備する姿には、屋敷の使用人たちもほっこり和んでいた。
穀高い貴族であっても、当主ご家族が偉ぶらず待遇も良く働きやすいこの子爵家は人気の奉公先だ。
使用人一同、エレンの幸せを祈っている。何かと大変な王子妃や王妃になるよりも、ご当主様のような優しいアルファの婿養子を貰ってこの家におられれば良いのにな、と口には出さずとも心に思っていた。
ーそして、お誕生会当日がやってきたー
「何と、お迎えの馬車を寄越してくださるとの報せだ」
「え?うちの馬車で伺うのでは無く?」
「ああ。私も宰相様から呼ばれた。うちの馬車で登城するが、二人はお迎えの馬車に乗りなさい」
「そうですか。思っていたより仰々しい?大丈夫かな」
「まあ、気負わす行っておいで。私も宰相様の執務室に伺っているから、何かあれば報せも来るだろう」
「はい。そうですね」
母とエレンが着替えて玄関ホールに行くと、外に二台の馬車が控えていた。
一台は子爵家のもの。もう一台は王家の金の装飾が施された優雅な馬車だった。
「こちらにどうぞ」
御者の案内に、父が介助して母とエレンが乗り込んだ。
「では、私はうちの馬車で追いかけるからね」
「はい、あなた」
「お父様、皆さん、行って参ります」
「「エレン様、奥様、お気をつけて」」
王家の馬車は、ふかふかの座面で内部も広く、乗り心地が良かった。
「お母様。すごいね」
「そうだね。立派な馬車…」
母は、緊張して来たがエレンに不安を与えないよう、笑みを浮かべた。
馬車までご用意頂くとは、もしかしたら婚約者候補として、本命と目されている?いやいや。まさか。子爵だしね。と心の中は忙しい。
子爵家のタウンハウスから王宮はほど近い。あっという間に到着した。
案内されたのは、庭に設えた茶会の会場だった。
「初めまして。エレン、バーティー子爵婦人。ようこそおいでくださいました。王太子のポールです」
真っ先に王子殿下が声をかけた。15歳であるがスラッと背が高く、しっかりした体つき。金髪碧眼で彫像のように調った外観を持つ、いかにもアルファの男性だ。
その王子殿下が理知的な瞳を細め、口角を上げて柔らかな笑顔を浮かべていた。
エレンは礼をとり、練習した通りにお祝いの言葉を申し上げた。
「はじめまして。バーティー子爵家の子息でエレンと申します。お誕生日おめでとうございます。この度はお招き頂きありがとうございます」
「ふふっ。凄いね、とてもしっかりご挨拶が出来るんだね。とてもかわいらしい」
そう言って王子殿下はエレンに握手を求めた。エレンが手を差し出すと、包み込むようにそっと握る。
大きな手は、長い指がほっそりとして、しかしエレンよりもずいぶん力強く感じた。
「さあ、こちらへどうぞ。私の友人たちをご紹介させてね」
母がそっと周りを見渡すと、参加者は王子殿下の側近とおぼしき同年代のアルファのような男性二人。そして、ベータのように見える男性。
婚約者候補と思われる華奢な人物が見当たらない。もちろん、エレンだけが年若い。
う~ん。やっぱり。これは他に候補者が居ないってことか?母は懸念が本当になり、目眩がしそうだった。
王子殿下のご友人は、宰相様のご子息と代々騎士を輩出する貴族のご令息。そして有力伯爵のご子息であった。
「エレンは何が好きかな?お茶?お菓子?好きな物を教えて?」
「植物が好きです。王宮には素敵なお庭があると伺いました。拝見出来ますか?」
「うん。この庭園は広いんだ。この先にはばら園や果樹園、自然の庭を真似て作った池もある。散策しようか」
「はい!うれしいです」
ポール王子殿下と手を繋ぎ、エレンが歩き出すと他の令息や護衛が周囲を守ってくれている。
母が追いかけようとすると、王妃殿下がお庭にいらして、母に話しかけてきた。
「初めまして。バーティー子爵婦人、ようこそおいでくださいました」
「王妃殿下、本日はお招き頂きありがとうございます」
「子供達は、護衛も居ますから大丈夫ですよ。少し私とお話を?」
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「いいえ。私、婦人とお話できてとても嬉しく存じます」
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