1 / 4
プロローグ 一 魔法の世界
しおりを挟む
アンドロメダ銀河の中にある一つの星では、いつもと変わらない平和な時が流れていた。
黒髪にキリッとした緋色の目を持った少年シャルラ=ハロートは城下町の商店通りを歩いていた。
彼の隣には、長々とした金髪をピンクのリボンで一つ縛りにして、ぱっちりとした蒼い目を持ち、スッとした鼻筋とうすピンクの唇が添えられている少女マリア=フォン=フリースラントがいる。
二人は一緒に王都の商店街で昼下がりのショッピングを楽しんでいた。
まあ、男女が二人で買い物をすると、
「なあマリ、まだ買うのか?」
少年が荷物持ちとして扱われるのは至極当然のことだ。
マリアは顔まで荷物が達し、前が見にくくなっている少年に顔をしっかりと近づけてにっこりと微笑んだ。
「まだ買うよー。だってまだシャルくんの買ってないもん」
「俺の?いいよ、もう疲れたし」
「ダメダメ」
そう言ってマリアは近くの薬屋でなにやら物色し始めた。
「アランさん、そこの回復薬と……あ、あとその秘薬と毒消し草ください」
「まいどありー!にしてもマリア様、これ全部シャルラのやつに買ってやるんですかい?」
「そうですよ。彼、何も準備もせずにドラゴン退治に行こうとしちゃうから私が準備してあげないとって思って」
それを聞いたアランは大きな笑い声をあげながら、
「確かにシャルラならやりかねませんな。ドラゴン退治に手ぶらとは、こりゃ傑作だ」
「う、うるせえ!じじい。だいたい、俺なら剣さえあればドラゴンくらい倒せるわ」
「シャルラ、いくらお前がこの国で一二を争う魔導剣士だからって、奥さんの気遣いを無下にするのは良くないぞ。あと、俺はまだ二十三だ!じじいじゃねえ」
シャルラはアランに言い返そうとしたがそれを止めたのはマリアだった。
「お、オクサン……」
顔を真っ赤にしたマリアはそのままシャルラの背中に顔をうずめてしまった。
「なな、なにいってんだよじじい!」
「はー、若いってのはいいねえ。いじりがいがあって」
アランはニヤニヤと俺たちのやり取りを見ている。
「あー、くそ。マリ!もういこう!」
シャルラはアランから買ったものを受け取り、まだ顔をうずめているマリアを連れてアランの出店をあとにした。
シャルラとマリアは幼少の頃からの付き合いだ。
出会った当初、シャルラはマリアの護衛役だったが、お互いに生活を共にするうちに意識し始め、今ではマリアの両親公認の恋人同士となっている。
フリースラント家は地位の高い侯爵家だが、政略結婚といった類いのものはこの世界に存在しないため、元々孤児であったシャルラがマリアと付き合っても彼女の両親は何の反対もしなかった。
齢十四の少年少女には先程の話はまだ早かったようで元の調子に戻るまでたっぷりの時間を要した。
二人は他愛のない話をしながら商店街を歩いていると様々な人がマリア様、聖女様と呼んで、侯爵様の土地でいい作物が採れたから今度献上しに行くといった話をしたり、男たちが食事の誘いをしたり、彼らの関係を知っているものはシャルラに射るような視線を送ったりしていた。
シャルラはその隙に何やら他の店を散策していた。
「そうだマリ、これ俺から今日色々準備してくれたお礼」
シャルラはポケットから小さな包みを渡した。
「わあー!ありがとう。でもいつの間に買ったの?」
「お前がいろんな人たちに囲まれてるすきに買ったんだよ」
シャルラは少し不満そうな顔をした。
「シャルくんそんなにしょげないでよ」
「しょげてねーよ。ただ、人気者は大変だなって思っただけだよ」
「それをガードしてくれるのが君の役目じゃないの?」
マリアは少し意地悪気な顔をした。
「うぐっ!」
「冗談だよ。それだけ私のこと大事に思ってくれてるんだよね。ありがと。ね、中身見てもいい?」
シャルラがこくりと頷くとマリアは嬉しそうに中身を見た。
中から出てきたのは赤いバラのアクセサリーがついた髪留めだった。
「わあー!嬉しい……」
マリアは嬉しそうな表情になり、そしてなぜかほんのりと頬を赤らめ、照れた表情になった。
「シャルくん、赤いバラの花言葉を知ってたの?」
シャルラは数秒思考したのち、
「知らないな」
「この花言葉はね、あなたを愛してますって意味なんだよ」
「え!?そんなこと考えてなかっ、いや、確かにマリのこと大好き……あー、なに言ってんのオレ!」
頭のてっぺんまで真っ赤になったシャルラを見ながらマリアは頭の髪留めをシャルラからもらったものに付け替えた。
「ふふ、ありがとねシャルくん。今ので十分君の気持ちは伝わったよ。ふふ、嬉しい」
マリアも少々顔を赤らめている。
二人はまた手を繋ぎ直して商店街を歩いていった。
すると、遠くの方から少し痩せた野武士面の男が走ってきた。
「だんなー!そろそろ行かないとドラゴン退治の依頼間に合いませんよ」
「もうそんな時間か……それよりもレオ、お前の方が年上なんだし、旦那という呼び方はやめてくれないか?」
彼はレオポルト=スミルノフといって御者をしている。
シャルラは任務に行くときいつも彼の馬車に乗って行っているのでいつの間にか彼はシャルラにとっての相棒的存在になっていた。
「いいじゃないですか旦那。これが一番しっくりくるんですよ。ささ、それよりも早くいきましょう」
「マリ、俺もう行くけどあと全部一人で大丈夫か?」
マリアは少し不機嫌な顔をした。
「はぁ、せっかく二人での買い物だったのに……でもしょうがないよね。頑張ってきてね」
「ごめんね。この穴埋めは必ずするから」
「約束だよ」
上目遣いで言うものだからシャルラはまた顔が赤くなった。
「おう。変な男とかよってきてもついていくなよ」
「もー、君は私をバカにしてるの?私だって魔導師になったんだから大丈夫だよ」
「それもそうだな。あ、あと、俺明後日の魔導会議出れないけど何かあったら教えてくれよ」
魔導会議とは国中の魔導師たちが数ヶ月に一度王城に集まって、魔物やドラゴン、他国との関係について話し合う会議のことだ。
「うん、ちゃんと教えるよ」
「ありがとう。じゃあマリ、すぐ帰ってくるから、いってきます」
「いってらっしゃい」
シャルラはレオポルトについていき馬車に乗って王都から出発した。
彼はまだ知らない。この日マリアを連れていかなかったのを後に死ぬほど後悔することになるとは……
黒髪にキリッとした緋色の目を持った少年シャルラ=ハロートは城下町の商店通りを歩いていた。
彼の隣には、長々とした金髪をピンクのリボンで一つ縛りにして、ぱっちりとした蒼い目を持ち、スッとした鼻筋とうすピンクの唇が添えられている少女マリア=フォン=フリースラントがいる。
二人は一緒に王都の商店街で昼下がりのショッピングを楽しんでいた。
まあ、男女が二人で買い物をすると、
「なあマリ、まだ買うのか?」
少年が荷物持ちとして扱われるのは至極当然のことだ。
マリアは顔まで荷物が達し、前が見にくくなっている少年に顔をしっかりと近づけてにっこりと微笑んだ。
「まだ買うよー。だってまだシャルくんの買ってないもん」
「俺の?いいよ、もう疲れたし」
「ダメダメ」
そう言ってマリアは近くの薬屋でなにやら物色し始めた。
「アランさん、そこの回復薬と……あ、あとその秘薬と毒消し草ください」
「まいどありー!にしてもマリア様、これ全部シャルラのやつに買ってやるんですかい?」
「そうですよ。彼、何も準備もせずにドラゴン退治に行こうとしちゃうから私が準備してあげないとって思って」
それを聞いたアランは大きな笑い声をあげながら、
「確かにシャルラならやりかねませんな。ドラゴン退治に手ぶらとは、こりゃ傑作だ」
「う、うるせえ!じじい。だいたい、俺なら剣さえあればドラゴンくらい倒せるわ」
「シャルラ、いくらお前がこの国で一二を争う魔導剣士だからって、奥さんの気遣いを無下にするのは良くないぞ。あと、俺はまだ二十三だ!じじいじゃねえ」
シャルラはアランに言い返そうとしたがそれを止めたのはマリアだった。
「お、オクサン……」
顔を真っ赤にしたマリアはそのままシャルラの背中に顔をうずめてしまった。
「なな、なにいってんだよじじい!」
「はー、若いってのはいいねえ。いじりがいがあって」
アランはニヤニヤと俺たちのやり取りを見ている。
「あー、くそ。マリ!もういこう!」
シャルラはアランから買ったものを受け取り、まだ顔をうずめているマリアを連れてアランの出店をあとにした。
シャルラとマリアは幼少の頃からの付き合いだ。
出会った当初、シャルラはマリアの護衛役だったが、お互いに生活を共にするうちに意識し始め、今ではマリアの両親公認の恋人同士となっている。
フリースラント家は地位の高い侯爵家だが、政略結婚といった類いのものはこの世界に存在しないため、元々孤児であったシャルラがマリアと付き合っても彼女の両親は何の反対もしなかった。
齢十四の少年少女には先程の話はまだ早かったようで元の調子に戻るまでたっぷりの時間を要した。
二人は他愛のない話をしながら商店街を歩いていると様々な人がマリア様、聖女様と呼んで、侯爵様の土地でいい作物が採れたから今度献上しに行くといった話をしたり、男たちが食事の誘いをしたり、彼らの関係を知っているものはシャルラに射るような視線を送ったりしていた。
シャルラはその隙に何やら他の店を散策していた。
「そうだマリ、これ俺から今日色々準備してくれたお礼」
シャルラはポケットから小さな包みを渡した。
「わあー!ありがとう。でもいつの間に買ったの?」
「お前がいろんな人たちに囲まれてるすきに買ったんだよ」
シャルラは少し不満そうな顔をした。
「シャルくんそんなにしょげないでよ」
「しょげてねーよ。ただ、人気者は大変だなって思っただけだよ」
「それをガードしてくれるのが君の役目じゃないの?」
マリアは少し意地悪気な顔をした。
「うぐっ!」
「冗談だよ。それだけ私のこと大事に思ってくれてるんだよね。ありがと。ね、中身見てもいい?」
シャルラがこくりと頷くとマリアは嬉しそうに中身を見た。
中から出てきたのは赤いバラのアクセサリーがついた髪留めだった。
「わあー!嬉しい……」
マリアは嬉しそうな表情になり、そしてなぜかほんのりと頬を赤らめ、照れた表情になった。
「シャルくん、赤いバラの花言葉を知ってたの?」
シャルラは数秒思考したのち、
「知らないな」
「この花言葉はね、あなたを愛してますって意味なんだよ」
「え!?そんなこと考えてなかっ、いや、確かにマリのこと大好き……あー、なに言ってんのオレ!」
頭のてっぺんまで真っ赤になったシャルラを見ながらマリアは頭の髪留めをシャルラからもらったものに付け替えた。
「ふふ、ありがとねシャルくん。今ので十分君の気持ちは伝わったよ。ふふ、嬉しい」
マリアも少々顔を赤らめている。
二人はまた手を繋ぎ直して商店街を歩いていった。
すると、遠くの方から少し痩せた野武士面の男が走ってきた。
「だんなー!そろそろ行かないとドラゴン退治の依頼間に合いませんよ」
「もうそんな時間か……それよりもレオ、お前の方が年上なんだし、旦那という呼び方はやめてくれないか?」
彼はレオポルト=スミルノフといって御者をしている。
シャルラは任務に行くときいつも彼の馬車に乗って行っているのでいつの間にか彼はシャルラにとっての相棒的存在になっていた。
「いいじゃないですか旦那。これが一番しっくりくるんですよ。ささ、それよりも早くいきましょう」
「マリ、俺もう行くけどあと全部一人で大丈夫か?」
マリアは少し不機嫌な顔をした。
「はぁ、せっかく二人での買い物だったのに……でもしょうがないよね。頑張ってきてね」
「ごめんね。この穴埋めは必ずするから」
「約束だよ」
上目遣いで言うものだからシャルラはまた顔が赤くなった。
「おう。変な男とかよってきてもついていくなよ」
「もー、君は私をバカにしてるの?私だって魔導師になったんだから大丈夫だよ」
「それもそうだな。あ、あと、俺明後日の魔導会議出れないけど何かあったら教えてくれよ」
魔導会議とは国中の魔導師たちが数ヶ月に一度王城に集まって、魔物やドラゴン、他国との関係について話し合う会議のことだ。
「うん、ちゃんと教えるよ」
「ありがとう。じゃあマリ、すぐ帰ってくるから、いってきます」
「いってらっしゃい」
シャルラはレオポルトについていき馬車に乗って王都から出発した。
彼はまだ知らない。この日マリアを連れていかなかったのを後に死ぬほど後悔することになるとは……
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる