ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭

文字の大きさ
3 / 136
第1章 覚醒

3、公園に現れた女の子

しおりを挟む
確かに叔父は殺害してしまっていたかもしれないが、前世の記憶を思い出してしまった以上人殺しなんかできるわけもない。
姿形は秀頼になっていても、心は前世の俺である。
小心者であった俺は、ゲーム本編の秀頼みたいに好き勝手できるほどの度胸はない。

「た、対策を打たねば……」

ノートとペンを取り出し、『悲しみの連鎖を断ち切り』の情報を思い出しながら紙に書きまくった。
目下、ゲーム通りにならないためには……。

「ゲームのキャラと出会わなければ問題はないか!」

ゲームの主人公である十文字タケルをはじめ、ヒロインの名前も憶えている。
大丈夫だ、俺はゲーム本編をなぞらないでギフトの力を利用しつつ楽に生きていくんだ!

こうして俺は、ここがゲームの世界だという興奮と、自分が秀頼になったことにより死ぬ運命が待っているのではないかという恐怖の2つがせめぎ合いロクに眠れなかった。


―――――


「おはよう、秀頼」

次の日の朝、おばさんが起きた俺を出迎えた。
いつも俺の姿を不機嫌な顔で見ている叔父の姿がなかった。

「なんかあの人、昨日から変なのよ……。今日から働きに出るとか言い出して朝から職探しに行ったわ」
「心を入れ替えたんですよ。俺が説得しました」
「え?そうなの?」
「うん。【あと、この話は終わりにしましょう】」

『命令支配』を使い、会話を打ち切った。
ボロを出して、俺がギフトを授かったと知られたら面倒になる。
この世界でのギフトに対しての扱いは尊敬の目と、畏怖の目のどちらの目でも見られる。
実際にギフトの能力に苦しむヒロインとかも出てきては秀頼の毒牙に掛かって不幸な目になるルートとかもあった筈だ。

ただ、ギフトの有無以外は、前世とはあまり変わらない感じのする世界である。

「そういえば、今日ようやくお隣さんが引っ越ししてくるのよ」
「へえ」

お隣さんねえ。
もしこれがギャルゲーの主人公ならヒロインが隣に住むことになるベッタベタな王道展開になるであろう。

しかし、残念ながら俺はクズでゲスな親友役。
ヒロインに嫌われることはあれど、好かれるなんてことはないだろう。
前世の年齢=彼女いない歴で死んだ俺を思い出し、一人でダメージを受けた。


―――――


おばさんの元を離れて近所の公園へ来ていた。
俺は保育園や幼稚園にも通っていない。
理由は当然叔父のせいである。

そして、来年から小学生に上がる。

「こんな子供にギフトを授けるとかこの世界はさぁ……」

『人を自由自在に操る』なんて能力を子供が身に付けてしまうのは教育上良くないよ。
人を操るということは、世界を操ることも簡単になる。

この国のトップに対して【俺にその座を譲れ】と一言口にするだけで叶う危険な力。

あれ?逆に主人公の周りを不幸にする程度で済ませていたゲーム本編の秀頼が常識的なんじゃないかとか思い始めてきたぞ……。

ブランコに揺られながら空を見つめる。
前世の空と同じ青い色を見つめたまま、このまま普通の人生を歩めるようにと祈っておく。

『あ……、こんにちは……』
「ん?」

突然挨拶の言葉が投げ出された方向に目を見やると、1人の女の子が立っていた。
左目の下に小さい黒子があり、髪を左右に結ばれたツインテールにした幼い女の子であった。
まあ、幼いのは今の俺もそうなのだが……。

「こんにちは」

いやあ、女の子は可愛いねえ。
前世のガキの頃には、女子と話すのは恥ずかしいと、ずっと男子同士でサッカーとかドッジボールとかしていた頃が懐かしい。
如何に早く女子を射止めることができるかを子供は考えるべきだったなと、成長してから痛感するのである。

「ブランコですか?」
「ブランコは遊具の名前であって、俺はブランコではない」
「でも、ブランコで遊んでます」
「なんでもいいや」

子供だからよく言葉が通じていないが、まあなんでもいいや。
女の子は俺の隣のブランコに座り始めた。

「ブランコたのしーです!」
「いや、今座ったばかりで面白くもなんともねーだろ!」

子供の感性がよくわからな過ぎて突っ込んだ。

一応警戒をして、このブランコに座っている女の顔をよく見てみる。
泣き黒子という要素がいかにもヒロインっぽい感じがするではないか。
俺も大好きだし、泣き黒子キャラ。
男が泣き黒子キャラだと『わかってねーな……』とため息が出る。
泣き黒子は女キャラだからこそ映えるんだというこだわりを持つ俺である。
前世の俺の持論である。

しかし、『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズのヒロインにおいて泣き黒子ヒロインは皆無だった筈。
つまり、俺のフラグとは無関係の人間で間違いないだろう。
昨日の今日だが、本編が始まるまでまだ10年もある。
そんなギフト覚醒の次の日にゲームキャラとの遭遇とかあるわけないよな。
驚かせやがって。

「ブランコの字面ってブラコンみたいだよな」
「ブラコン……?ブラ?」
「通じないか……」

ブラで止めるのはやめて欲しいものである。

「漕がないとブランコは面白くないって」
「こぐ?」
「ほらこうやって」

俺が見本を見せる感じでブランコに勢いを付けて揺らす。
ここ何年もブランコなんて乗っていなかったが、久し振りに乗ってみると楽しいもんだ。
風を直接受ける感覚が気持ち良い!

「おお!たのしー!」
「いや、だから君は楽しくないでしょって……。君もやってみな。足を動かしてブランコを漕ぐんだ」
「う、うん。と、とおっ!」

ブラブラっと10センチ程度揺れている。

「たのしー」
「なんでも楽しいんだな……」

子供の感覚がわからなくなる。
なんでもかんでも楽しいと思える感性がなくなり、俺もついにおっさんの一歩を歩み始めているのかもしれない。

「次あれ、次あれ!」

女の子が滑り台を指した。
どうやら次は滑り台に興味を示したのであった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...