ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭

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第1章 覚醒

5、佐々木絵美

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確かに、存在する。
『佐々木絵美』は『悲しみの連鎖を断ち切り』のサブキャラクターとして登場する。

そう、ヒロイン役ではなく、サブキャラなのだ。
影の薄いサブキャラまで俺は頭がまわっていなかった。

幼い顔立ち、左目の下の泣き黒子、身長も低い、短めのツインテールの髪型、それが絵美のビジュアル。
サブキャラなので、見た目による立ち絵の差分はほぼないぞんざいな扱い。

性格的には、『依存』のキャラクター。
ただし、主人公の十文字タケルではなくて明智秀頼に対して『依存』しているキャラクターである。

『わたしと秀頼君は、運命の赤い糸で結ばれているんだよ』、
公式サイトで紹介される絵美のセリフがこれ。

『初代・悲しみの連鎖を断ち切り』の登場する秀頼の彼女役である。
このセリフは、まだ鬱ゲー要素が皆無で体験版詐欺をやらかした共通ルートだったかのセリフ。

絵美がナンパで絡まれているところをさりげなく秀頼が助けるシーンでの彼女の発言であり、『秀頼の普段はチャラけているが、やる時はやる正義感のある親友役の男』と印象付けし、ミスリードを誘う描写のシーン。
しかも、初代の公式サイトでもその様な嘘の説明がされてあった記憶がある。
それで発売後に炎上するのである……。

こ、この女の子、バリバリの関係者じゃねーか!

確か秀頼の家の隣に住んでる設定とかあった様な……。
さっきおばさんが喋ってた話題のやつ!

ゲームが進行してるっ!
俺の意思とか決意を嘲笑うかの様に、ゲームが俺の現実に近付いてきている。

「よろしくね、秀頼君」
「あ、あぁ……」

しかも彼女だから相思相愛かと言われればそんなことはない。
秀頼から『あのバカ女が好みなわけないだろ?胸もないし、顔も美人じゃないしな。ただ都合よく俺のために動く駒が欲しかったんだ。だから『命令支配』で俺の彼女役って役割を立てた。それだけだよ』と、主人公に宣言されている。

確かに絵美は美人ではなく、可愛い寄りであるがあんまりな言い分である。
秀頼の彼女っていうフィルターがなければヒロインでも通じるキャラデザである。

『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズで不人気投票堂々の3位である(1位2位はぶっちぎりで俺と主人公)。

ヒロインへの嫌がらせ、秀頼への依存、2作目以降のあんまりな扱いからもはやネタキャラ扱いされるポンコツである。
俺は嫌いではないキャラだが、『幸が薄すぎるキャラやなー』くらいの印象しか残ってない。

「すごい、はじめてギフト見てわたし感動したよ」
「……それは良かったよ」

そのギフトで散々な人生を送ることになる彼女から、感動されるのは違和感しかなかった……。
本当に彼女は哀れな役割なのだから。
ゲームの製作陣からも愛のない扱いしかされない被害者だ。

「俺と絵美だけの秘密だ。俺のギフトはお父さんにもお母さんにも友達にも誰にも言ってはダメだ」
「うん!秀頼君との約束だね!」

この調子なら多分言わないだろう。
わざわざギフトを発動させる必要もない。
俺も人間を信頼したいしね。

「指切りだっけ?あれ、しようよ」
「……わかった」
「指折りげんまん、ウソ付いたら針千本のーます。指切った」

歌唱は全部絵美にしてもらい、俺は黙って指を預けた。
絵美がただ俺がギフトを使えることの口封じをするだけなので、俺は約束を破りようがない。
ただ子供が指切りとか好きなのは前世と変わらないなと思う。

「大事にするね、10円玉」
「好きにして良いよ」

どんなに大事にしたところで10円の価値しかないしね。
財布に入れてたら、ジュース買う時とかに使ってしまうだろう。

「じゃあ、帰るか」
「うん!」

俺と絵美は公園を後にするために歩きだす。

「わたし、今日引っ越してきたんだー」
「やっぱり隣の家の子か……」
「え?秀頼君の家隣なの!?これからよろしくね!」
「あ、あぁ……」

ぶっちゃけあんまり絵美と干渉する気はない。
ゲームにわざわざ巻き込まれる様なことはするつもりはない。

俺はただ、のらりくらりと『悲しみの連鎖を断ち切り』のゲームから抜け出してみせる。

「本当に隣の家なんだねっ!」

何が嬉しいのか絵美ははしゃいでいる。
呑気なもんだな、10年後には俺も絵美も死んでるかもしれないのに。

「あら、絵美!」
「あっ、お母さん!」

家の近くになると絵美のお母さんが向かいに来たのか外を歩いていた。

「片付け終わったから公園に迎えに行こうとしてからちょうど良かったわ」
「うん!」

なるほど、そんな理由で絵美が公園に来ていたのか。
逆に俺は公園に行かなくて部屋でゴロゴロしてた方が良かったかもしれない。

「そちらの子は?」
「秀頼君!わたしの家の隣だって!」
「あら?ということは明智さんのお子さん?」

絵美のお母さんからそう聞かれて「はい、よろしくお願いいたします」と挨拶を返しておく。

「礼儀正しい子ですね。絵美と遊んでくれてありがとうございます」
「いえ、こちらこそ楽しかったですから」
「また遊ぼうねー、秀頼君!」
「あ、あぁ」

正直ゲームのキャラクターと知ってしまった以上、もう一生遊びたくない人間ではあるのだが。

「絵美もずいぶん明智君に懐いた様で。これから娘をよろしくお願いいたします」

会釈して佐々木親子と別れた。
娘が不幸になるということは、あの人も不幸になるよな……。

絵美の末路、絵美の家族の末路を知っている。
その元凶は、全て俺なのだから……。
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