ギャルゲーのヘイトを溜めるクズでゲスな親友役として転生してしまいました。そして主人公が無能すぎて役にたたない……。

桜祭

文字の大きさ
20 / 136
第3章 賑やかし要員

2、津軽円に起きているイレギュラー

しおりを挟む
「おー、待ってたぞ理沙」
「兄さん……、律儀に待たなくても良いのに」

待っていないならいないで、めっちゃ怒ってひねくれて半日以上機嫌悪くなるブラコンなのを俺は知っている。
体験版範囲の学園ラブコメパートにそんな描写があった。

「秀頼くーん、やっぱりわたし秀頼君が居ないクラスでやっていけないよー」
「どうしたんだ急に?脈絡のない女だな……」
「絵美さんは、どう考えてもあれを引きずってますね……」
「あれってなんだ?」

俺がクラスに居ないとしても、ここまで打ちのめされた態度の絵美ははじめてだ。
事情を知っている理沙は、よしよしと絵美の頭を撫でて慰めていた。

「絵美さんが隣の席の女に挨拶したんだけど、実はその人、兄さんか明智さんの知り合いっぽいらしくてなぜか絵美さんがボロクソに言われまくったの」

なにそれ、意味がわからない。
俺ではない以上、無自覚ラブコメ主人公タケルの仕業に違いない。

「オイオイ、怖いな!タケルの女やべーじゃん」
「はぁ!?俺の知り合いにそんなやべー奴いるわけないだろ!?どうせ、秀頼が過去に泣かせた女だろう」
「いるわけねーだろそんな奴!お前結構人気あるんだからな?」
「お前だって影でひっそりとモテたりしてるんだぞ!?」
「喧嘩しないのっ!」

理沙がタケルを、絵美が俺を制止させる。

「そ、そんなひっそりモテてるとか……、あんまり盛るなよ」
「俺が結構人気あるとか、出任せ言うなよ……」
「嬉しそうね、あなた達……」
「真面目な喧嘩1つできないのもどうかと……」

ひ、ひっそりモテるか……。
後で誰にモテているのか聞いてみたいな。

「それで名前は?」
「津軽さん。津軽円っていう人」
「いや、知らねーな」

「本当?」と理沙に聞かれても「マジマジ」と答えていた。
前のクラスメートでもないし、そりゃあ知らんよな。

「じゃあ秀頼君は?」
「面識はないな……」

知ってはいるけど。
当然、原作キャラではあるけど彼女は非常に立ち位置が特殊なタイプ。

ヒロインである理沙ではなく、サブキャラである絵美に近い。
『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズ全体を通して1番警戒の必要のないキャラである。

一般人だし、背景に黒い影もない。
秀頼からの悪事の被害者にもならない。
どんな悲惨なルートでも被害0の1番安全ポジションの美味しい立ち位置。

彼女は日常を象徴するキャラクターである。
体験版詐欺では目立つ位置だが、シリアスな個別ルートでは背景役。
賑やかし要員なのが、津軽円という女キャラクターである。

鬱ゲーと見られがちな『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズだが、体験版はかなり王道でワチャワチャした学園ラブコメなのである。
この明暗のギャップがクセになると、もっぱらの評判である。

そして、バッドエンドを迎えた時に『お役立て情報のモブ軽さん』という、雰囲気ぶち壊しシリアスブレイカーな津軽主人公のミニコーナーが始まる。

絵美や理沙とも仲良く、若干レズが混ざっているサービス要員。

ほっといても問題ないキャラだ。

……が、そんなキャラが絵美にボロクソを言ってくるキャラとは思えない。
なんか、原作と剥離してる気がする。

「それで、彼女に具体的に何言われたの?」
「弱みを握らせたくないとか」
「兄さんの弱点探しに巻き込まないで欲しいとか」
「背景にいる秀頼君が怖いとか」
「げんさく?、に巻き込むなとか」

「俺の弱点探しってなんだよ」と言いながら、ちんぷんかんぷんな顔をする3人。

「ラリってるんじゃねーか?」
「兄さんもそう思うよね」
「近寄らない方が良いかも」

3人で進行しているが、俺の脳内の情報はパンクしていた。
げんさく?に巻き込むって、『原作に巻き込む』ってことだろ。

「……」

俺の知らないイレギュラーが完全に、津軽円という女の身に起きているようだ。
え、やだ怖い。

「……秀頼君、何か知ってるの?」
「知らないけど、まぁその津軽さんって人に何が起きてるかは想像できたよ」
「え?何それ?」
「被害妄想でしょ、付き合うだけ損よ。そんな相手はね」

よくもまぁべらべらとしゃべってくれたもんだ。
背景キャラだからノーマークだったが、はっきり言って1番の危険人物に津軽円がトップにぶっちぎったのは間違いない。

「かえろ、かえろ」

さて、干渉するべきか。
ほっとくべきか。
悩み事が1つ増えたもんだ。

「『被害妄想』、『付き合うだけ損』、ずいぶんとまぁ都合の良い言葉ばかり並べたものね」
「うわっ、びっくりした!?」

音もなく、影もなく、脈絡なく俺の背後に女子生徒がいた。
星飾りのカチューシャを付けて、手首にシュシュ、長い髪を結わずにそのまま手入れされているキレイな髪だ。
しかし、ギャルゲーにありがちな奇抜な緑色髪という容姿の女である。
緑髪は不人気ヒロインだとあれほど……、いや別にヒロインですらないからこれで良いのか。

俺はやや茶色っぽい髪色、絵美は栗色、タケルと理沙は黒髪と今までの原作キャラは割りと現実味のある色だったぶん派手に見える。
それを言ったら、今後白髪とかピンクとか色々なヒロインが登場するんだけどね。

「緑とか派手な髪色してんな」
「え?普通じゃない?」
「……」

理沙から見て緑色でも普通の髪色らしい。
つまりこの世界の住民は、俺の元居た価値観は通用しないことになる。
その辺ガバガバなので、この世界がゲームだなって気がする。

「つ、津軽さんだ……」

ひょこっと絵美は俺の後ろに隠れた。
よっぽど怖い目にあったらしいな……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

処理中です...