31 / 136
第3章 賑やかし要員
13、豊臣光秀の母
しおりを挟む
電車を乗り継いで、目的地の住所をさまよう。
スマホのアプリで検索して、すぐに豊臣君の家を見付けた。
インターホンを押すと、女性が中から出てきた。
おそらく豊臣君のお母さんである。
「は、はじめまして!来栖由美と言います。豊臣……光秀君のクラスメートです……。お、お線香をあげにきました……」
「そう。いらっしゃい。光秀も喜ぶわ」
「お邪魔します」
悲しくて、本当は部屋で泣きじゃくりたい。
でも、現実に向かい合わないといけない。
始めて訪れた好きな人の家。
でも、そこに彼だけが居ない。
お線香をあげて、お参りをする。
豊臣君が亡くなったことをようやく現実として向き合えた気がする。
やることも終わり、帰ろうとすると豊臣君のお母さんに引き留められた。
「来栖さん、少しお話をしてくれないかしら?」
「は、はい……。私なんかで良ければ」
「あなただから良いのよ。光秀にお線香をあげにきた同世代の子は来栖さんが唯一だったから」
「そ、そうですか……」
豊臣君は浮気とか、別に他に好きな子がいたわけではなかった。
私が、夏休み中ずっと勘違いしていたと安心感を得た。
「光秀が、好きな子がいるって言っていて。来栖さんを見てもしかしてと思って」
「はは、そうなんですね……。私も豊臣君が好きでした……。ごめんなさい間違えました、大好きです」
そう言うと豊臣君のお母さんは嬉しそうに笑い、泣き出した。
「あの子、自分の生き甲斐だった剣道ができなくなって脱け殻みたいな日々を送っていたの」
「わかります。……豊臣君を惚れた切っ掛けは剣道でしたし、その後のケガの時は輝きを失っていましたね……」
「でも、そこであの子が立ち直れたのは1人の女の子が切っ掛けだったみたいなの」
「え……?」
豊臣君が再び明るくなったのは、時間が解決したものかと思っていた。
落ち込んでいた時期も短かったので、あんまり未練がないんだとそんな風に見えていた。
「病弱なんだけど毎日学校来ていて楽しそうに笑っている女の子の強さが輝いていて、美しくて、格好良いとか言い出したのよ」
「そんな……」
豊臣君からは同じクラスになるまで認識されていないと思っていた。
だって、立ち直ったのは去年の出来事で……。
「『剣道ダメになったから違うことするわ!モテる趣味なんだと思う?』とか普通親に言わないでしょそんなの。私が『ギターか手品じゃない?』とか言うと『じゃあ手品覚える』とか言い始めて……」
辛くなったのか、ハンカチを取り出し涙を拭く豊臣君のお母さん。
「あの子は、あなたに手品を見せられたでしょうか?」
「見ました。魅入ってしまうくらい格好良かったです。私、はじめて剣道部で豊臣君を発見した時から気になっていて。いつの間にか好きになっていて……。もっと早く、気持ちを伝えて彼女になりたかったです……」
やり残したことばっかりになった学校生活。
私はもう心の底から笑えそうにない。
ーーーーー
『なぁ、俺さ豊臣の葬式に出たんたけどすげーかわいそうなこと聞いたんだわ』
『お前、小学生の時からの友達なんだったな』
学校の廊下で豊臣君に関する話題の雑談を耳にする。
豊臣君の友達については認識ないけど、葬式に出たのなら仲良かったのだと思う。
本当にたまたま耳に入っただけだった。
こんな会話、本当は聞かない方が良いのに、耳をすまして聞いてしまった。
ーー激しく後悔をすることも知らずに。
『もしかしたら受け身さえ取れていれば助かったかもしれないって診断されたらしい。……酷い話だよな、豊臣自分の肩より上に腕伸ばせなかったのによ』
『うわー……、ケガしてなければ助かってたかもしれんのか。可哀想だな』
……え?
スマホのアプリで検索して、すぐに豊臣君の家を見付けた。
インターホンを押すと、女性が中から出てきた。
おそらく豊臣君のお母さんである。
「は、はじめまして!来栖由美と言います。豊臣……光秀君のクラスメートです……。お、お線香をあげにきました……」
「そう。いらっしゃい。光秀も喜ぶわ」
「お邪魔します」
悲しくて、本当は部屋で泣きじゃくりたい。
でも、現実に向かい合わないといけない。
始めて訪れた好きな人の家。
でも、そこに彼だけが居ない。
お線香をあげて、お参りをする。
豊臣君が亡くなったことをようやく現実として向き合えた気がする。
やることも終わり、帰ろうとすると豊臣君のお母さんに引き留められた。
「来栖さん、少しお話をしてくれないかしら?」
「は、はい……。私なんかで良ければ」
「あなただから良いのよ。光秀にお線香をあげにきた同世代の子は来栖さんが唯一だったから」
「そ、そうですか……」
豊臣君は浮気とか、別に他に好きな子がいたわけではなかった。
私が、夏休み中ずっと勘違いしていたと安心感を得た。
「光秀が、好きな子がいるって言っていて。来栖さんを見てもしかしてと思って」
「はは、そうなんですね……。私も豊臣君が好きでした……。ごめんなさい間違えました、大好きです」
そう言うと豊臣君のお母さんは嬉しそうに笑い、泣き出した。
「あの子、自分の生き甲斐だった剣道ができなくなって脱け殻みたいな日々を送っていたの」
「わかります。……豊臣君を惚れた切っ掛けは剣道でしたし、その後のケガの時は輝きを失っていましたね……」
「でも、そこであの子が立ち直れたのは1人の女の子が切っ掛けだったみたいなの」
「え……?」
豊臣君が再び明るくなったのは、時間が解決したものかと思っていた。
落ち込んでいた時期も短かったので、あんまり未練がないんだとそんな風に見えていた。
「病弱なんだけど毎日学校来ていて楽しそうに笑っている女の子の強さが輝いていて、美しくて、格好良いとか言い出したのよ」
「そんな……」
豊臣君からは同じクラスになるまで認識されていないと思っていた。
だって、立ち直ったのは去年の出来事で……。
「『剣道ダメになったから違うことするわ!モテる趣味なんだと思う?』とか普通親に言わないでしょそんなの。私が『ギターか手品じゃない?』とか言うと『じゃあ手品覚える』とか言い始めて……」
辛くなったのか、ハンカチを取り出し涙を拭く豊臣君のお母さん。
「あの子は、あなたに手品を見せられたでしょうか?」
「見ました。魅入ってしまうくらい格好良かったです。私、はじめて剣道部で豊臣君を発見した時から気になっていて。いつの間にか好きになっていて……。もっと早く、気持ちを伝えて彼女になりたかったです……」
やり残したことばっかりになった学校生活。
私はもう心の底から笑えそうにない。
ーーーーー
『なぁ、俺さ豊臣の葬式に出たんたけどすげーかわいそうなこと聞いたんだわ』
『お前、小学生の時からの友達なんだったな』
学校の廊下で豊臣君に関する話題の雑談を耳にする。
豊臣君の友達については認識ないけど、葬式に出たのなら仲良かったのだと思う。
本当にたまたま耳に入っただけだった。
こんな会話、本当は聞かない方が良いのに、耳をすまして聞いてしまった。
ーー激しく後悔をすることも知らずに。
『もしかしたら受け身さえ取れていれば助かったかもしれないって診断されたらしい。……酷い話だよな、豊臣自分の肩より上に腕伸ばせなかったのによ』
『うわー……、ケガしてなければ助かってたかもしれんのか。可哀想だな』
……え?
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで
六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。
乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。
ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。
有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。
前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる