ひとりも、ふたりも

鈴川真白

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4.困惑のふたり

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1人で何かをするのも、だいぶ慣れてきたんじゃないかと思う。今朝は早めに学校最寄りについて、意味もなく1人でぐるっと周りを散歩してみた。

 朝でも気温が高くなるこの時期にそんなことをするんじゃなかったと後悔したものの、おかげで涼しい教室が最高だった。

 想は何かと俺を誘ってくれるようになって、想や俺の行きたい場所に出かけたり一緒に帰ったりするようになった。

 みみちゃんとゆっちとは前より遊ぶ頻度は下がったけど、その分2人の距離が近づいてそうだ。

 放課後、自動販売機で飲み物を買ってくると想が教室を出て行ってしばらくしても戻らない。俺は教室の窓から下を覗いてみる。

 俺しかいない静かな教室は、俺が立てる音すべて響いて聞こえた。

 外にある自動販売機で買うと言っていた。あれ、と見えた人影に首を傾げる。

 何でみみちゃんが想と話してるんだろうと見ていると、いつの間にか横に立つ霧島が肩に手を置いてきた。

「タクミくんはさぁ、何で想と仲良いの?」

 目を細めて微笑む霧島。目が全然笑ってないタイプだ。え、これって何でか、答えによっては俺が罰を受けるとかある?

「冬木と仲良くなりたかったからだろ。な、匠」
「何で仁までいんの? つか、2人して何なんだよ。霧島はまずクラスが違うよな?」

 もう片方の肩に仁の手が置かれて「暑苦しいわ」と苦笑しつつ、肩を下げて手から離した。冷房が効いてても、気分が暑い。

 霧島は「細かいことは気にしなぁい」と呑気な返事。まあいいかと放っておくことにした。

 外に目を戻すと、みみちゃんの表情がパっと明るくなって、想も微笑んでいる。何なんだろう。気になっても、さすがに聞こえない。

 鎖骨の辺りがちりちりと痛んで、そっと押さえた。

「暑いのに何話してんだろうなぁ」
「こっからじゃさすがに聞こえないな」

 何でこいつら俺を挟んで会話するの? 何なの?

 交互に目をやると「声かけるか」と仁はガラッと窓を開けた。おい、バカやめろと声に出しても間に合わない。

「冬木ー! 早く戻って来なよ」
「想が戻って来ねーから、タクミくん退屈だってさぁ」

 息ぴったりで楽しげな両隣。想の視線がこちらを向いて、俺は小さく手を振った。

 霧島には肩を組まれるし、仁の手がポンポン俺の頭を叩く。想から見たら絡まれてる図になってるだろうか。

「渉、ふざけてるなら怒るからね」

 さっきまでの楽しげな雰囲気から一転して、いつになくピリついた空気を含んだ想。ここまで声がはっきり届いた。

「ごめん、からかいすぎた」

 すぐに両手を挙げる霧島を見てから、想が仁の方へ顔を向ける。冷めた目だった。

「松田くんは何?」
「何も。ただ、リュックつけてるストラップのシリーズあげようかって匠と話してただけ」

 シャツの胸ポケットから猫のストラップを取り出した仁。俺はああ、と納得した。

 この前、想からもらったストラップを学校用のリュックにつけてたら、仁からどうしたのか訊かれて答えたことがある。そのシリーズのストラップをくれるのは初耳だけど。

「何これ。箱に頭突っ込んでるネコってこと? 俺より想にあげたほうが喜ぶと思うよ」
「これは匠にあげるから、匠から冬木にあげたらいいじゃん」
「仁がいいならそうするかな」

 声を張り上げることはしなかったので、想には届かなかったらしい。怪訝そうな顔をしている。隣のみみちゃんも眩しそうに手をかざしながら俺をじっと見つめていた。

 それから想と何かを話して、みみちゃんがまた顔を上げる。

「匠ー! 今度、一緒に冬木くんに勉強教わろー!」
「え?」

 何の話だっけ? 最近話した中にそんな話題が出ていただろうかと脳内で振り返っても出てこない。

「会ったついでに、勉強教えてほしいってお願いしてみたの!」

 いえいっとでも言ってそうなみみちゃんの得意げな表情。テスト勉強やばいって嘆いてたから、救世主を見つけたのかもしれない。

 迎えに来たゆっちに連れられて、帰って行く2人を見送った。

 気づけば想の姿はなくて、俺は窓を閉めて自分の席へ戻る。霧島と仁も当然のようについてきて、俺の前の席に座って体を俺の机に向けた。

「軽音部は?」と訊ねれば、仁が「冬木の反応見るほうが楽しいからまだ行かない」と澄ました顔で答えた。

 それに、と仁が続ける。

「クールなやつがクールじゃない顔すんの、見てて楽しい」
「お前ほんとにいい性格してるよな。想に怒られろよ。てか、霧島がまずこいつに怒れよ」

 いいのか、と言うと霧島はきょとんとしてうなずく。

「おれは想が色んな顔すんの見てて面白いからいいよ」
「いいのかよ!?」
「タクミくんも面白いし」

 何で俺? と思ったものの、仲良く「なー」と顔を見合わせる2人の思考を俺が理解できるとも思えなかった。霧島が仁と似てるなら、わかるわけもない。

「想が何で霧島と仲良いんだか不思議だ」
「それはねぇ……入学したばっかのとき、おれこの髪だし先輩に絡まれてたの。そしたら、通りかかった想が校則に違反してないんだから問題ないってきっぱり言い返してくれたんだよね」

 かっこいいでしょ? と霧島がなぜか自慢気に微笑んだ。

「かっこいいな」
「それで、おれはもう一生ついていきますくらいの気持ちだった。しばらくは想が一緒にいるのおれくらいだったのに、他にも一緒にいる友達増えちゃってさぁ」

 それはいいことなんじゃねえのか、と霧島をのぞき込むと「ムカつく」と面と向かって言われた。語気に強さはなくて、いじけているのに近いことはわかった。

「俺、霧島の立ち位置奪ったりはしてねえよな?」
「それはないね。想がおれをないがしろにしたことはねーし」
「だよな。よかった」

 ホっとしていると、じろりと霧島の目が俺を捉える。机に寄りかかって頬に手を当てた。

「おれが誘うと先約でタクミくんいること増えたけど、タクミくんも面白いから全部許した」
「ちょっと許されてなさそうな気もするけど、まあ……ありがとう?」

 で、いいのかわからない。霧島から不満そうな空気は感じられないから、丸く収まったことにしよう。

 話を聞いているだけに徹していた仁がクスクスと笑った。

 廊下からスピード感のある足音が聞こえた。もうそろそろ想も戻ってくるだろう。

「匠、ごめんお待たせ」

 想が走ってくるのは予想外だった。自分の席から荷物を取って、息を整えている。霧島が後ろで「ほらな第一声がタクミくん」と小声で呟く。

 それはたぶん、今日の予定が俺とだからだろう。

「渉、部活いいの? まさか、また先輩に絡まれた?」

 ハッとして眉を寄せる想に、俺は「想が俺ばっか構ってるけどいいよって許可もらってたんだよ」と霧島に代わって口を開いた。

 ちゃんと心配されてんじゃねえか。俺より仲良いくせに。

「比較されると困るけど、俺は渉のこと大事な友達だと思ってるよ。それじゃだめなの?」
「だめじゃねーよ。おれは想の親友の自覚あるし」

 立ち上がった霧島は「じゃあおれはそろそろ部活行くから!」と明らかに顔がほころんでいた。

「渉が行くならオレも行くわ。匠は勉強してわかんないとこあったらオレに聞けよ。またな」

 ダーリン、と語尾にハートがついていそうなテンションで言われた。まだ続いてたのか、それ。

「おー、ありがとう。頑張れよハニー」

 片手を挙げると仁に手のひらをペシペシ叩かれた。何だよ、と俺はふっと息を吐く。

「冬木もまたな」と、仁が想に耳打ちした。本当に怒られればいいと思うけど、優しい想はにこやかに「またね」と返しただけだった。

 ご機嫌そうな霧島は仁がそのまま連れて行く。

 2人が行ってしまった後、挙げたままになっていた手首を想がつかんで「えっ」と声が出てしまった。

「行こ。かき氷食べるんでしょ?」
「うん。かき氷って旗見かけて、想と行こうって思ってた」

 早く行こうの意味だと気づいて、俺は空いてる手でリュックを背負う。先を歩く想に続いて静かな廊下を歩いていく。

 2人分の足音だけが響いている。まだつかまれたままの手首に熱が集まる。その温度が想に伝わりそうで、吐く息が微かに震えてしまった。

「かき氷、何食べたい?」

 明るい声を出すと、想の足が止まる。

「ごめん、手。引っ張ったままだった」
「急いでるから引っ張ってくれてんのかと思った。違った?」
「違わないけど、色々……頭ぐるぐるしてたら離すの忘れてた」

 最悪だ、と独り言のように呟いた想が手を離した。別に離さなくても良かったのに。そんなに気にされると、どう言ったらいいのかわからなくなる。

 何を思っているのか、想は額に手を当てて深刻そうな顔をしている。今度は俺が「急ぐには変わりねえし、いいじゃん」と想の手を引いた。

「……そっか。じゃあいっか」
「そうだよ。想は考えすぎなんだって、でも俺も気持ちはわかる。かき氷食べて頭冷やそう」

 何それ、と想が吹き出した。俺もホっと息を吐きつつ「かき氷で冷えるだろ」と笑った。

 かき氷が溶けきる前に食べることに夢中で、食べ終わってから写真を撮ればよかったと思った。とりあえず、俺より先に運ばれてきたのにまだ頑張って食べている想は撮っておく。

 大量の氷を摂取したおかげで外に出てもしばらくは快適に感じられた。残念なことに駅に着くまでには背中に汗が滲んでいた。

「頭も冷えたかも。匠の言うとおりだった」
「だろ。想のは最後、ちょっと溶けてたけど」

 慌てる想を思い出して、ふっと口元が上がってしまう。スマホを出してさっきの写真を確認する。ついでに焦る想が可笑しくて動画も撮っていた。

「ここで再生するのはやめてよ。俺も再生するからね」
「待って。想は何を撮ったの?」
「帰りに歩く匠。楽しそうだったから」

 ほらと見せられた想のスマホ画面に視線を落とす。うわ、俺って想といるときこんな顔をしてるのか。

「俺の顔やばくね?」
「何でよ。かわいいよ」
「想、俺のこと猫か何かだと思ってる?」

 そう言って、あ、そうだ、とさっき仁にもらったストラップのことを思い出した。箱に頭を突っ込んで後ろ足がはみ出したネコのストラップ。

「これ、仁からもらったけど想のが好きだろ」
「松田くんて、よくわかんないね」
「仁は変わったやつだけど、いいやつだよ」
「仲良いよね」

 想は自分のリュックにネコのストラップをつける。俺と同じネコのものは、落としたら嫌だから家に飾ったらしい。

 また飾るのかな、と思っていたら「これはありがたくつけとこうかな」と言っていた。

「仁は中学からだからなあ。俺のことわかってくれてる」
「俺も、匠のことわかりたいけど時間が足りないな」

 唇を尖らせる想を見て、満たされている自分に辟易した。
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