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6.憂愁のふたり
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電車ではお互いに何も話さなかった。頭の中で想の反応を思い返しては、どういうことなのか考える。結論は出せず、早く着くことを願うのみだった。
想の家に入って、ひやりとした空気に息を吐く。まだ肌は熱を持っているようだった。
リビングのソファーに腰を下ろして、出された麦茶を一気に飲み干す。テーブルにグラスを置いても沈黙が続いて「さっきの何?」と俺から訊ねた。
「やー……その、俺がちょっと誤解をしてて」
目線を床に落としたまま、隣に座る想が言葉を濁す。
家に呼んだくらいだから、想から話したいと思ったのに。
「何の誤解?」
「匠が友達と話してるの聞いてみみちゃん? さんのことが好きなんだなーと思ったんだよ」
一気に言ってしまえとばかりに早口の想に、俺は瞬きしかできなかった。頬を赤く染めた想が「早とちりした」と口元を手の甲で隠す。
俺の心臓が期待で高鳴っているのがわかった。
「匠の好きな人に気づかないふりして、友達でいるのは俺が無理だって思って――でも、やっぱりちゃんと匠を応援できるようになりたくて、一旦1人になって落ち着きたかったんだよ」
「何だよそれ。大体、俺がみみちゃんを好きとか言った記憶ねえよ」
「え、でも“みみちゃんを好き”って感じのこと言ってるの聞いたよ」
そんな話したっけな、とゆっちとの会話の流れを思い出す。想の口ぶりから、仁とではないだろう。
すぐに閃いて、俺は「あれか!」と頭を抱えた。みみちゃんを好きだって言ったらどうするか、みたいなことを言った覚えならはっきりとある。
あれはあくまで、ゆっちの気持ちを確認するためのものだった。よりにもよって、あれを聞かれていたのか。
「俺は、想が俺の気持ちに気づいて困ってるんだとばっかり思ってたわ」
ただの誤解だとわかって、ほどけたように涙が頬を滑り落ちていく。友達でもいられなくなったんだと思った。
「困るわけないのに。俺は匠のことが好きだよ」
想の親指が涙を優しく拭ってくれた。くすぐったくて目を細めれば、そのまま頬を撫でられる。また新たな涙がこぼれてしまった。
「俺……想のこと、好きでいてもいい?」
自信のなさがそのまま口から出て、吸い込んだ息が震えた。
「好きでいてよ。好かれてたいよ、匠に」
腕を引かれて、想の肩に近づいたところで力を込める。顔が濡れたままだから、想のシャツについてしまう。
それに気づいてか、想は「細かいこと気にしなくていいから」と俺の後頭部を優しく押した。想の肩に寄りかかって、その温もりに胸がいっぱいになった。
「すげえ好きだよ」
「うん、匠から好かれてんじゃないかなーって自惚れてたくらいだからね」
「……やっぱ俺ってわかりやすいの?」
すん、と鼻を啜る。耳元で想がクスクス笑った。
「すぐ赤くなっててかわいかったよ。もっと近づいたらどうなるんだろうって思ってた。意外と反応薄いね?」
耳たぶをむにむにと触られて、ぶわわっと顔の体温が上昇したのがわかった。想の柔軟剤の香りがいつもより近くにあった。心臓も遅れて暴れだす。
これはあれだ、事実を受け入れられるまで時間がかかっただけだ。
「ま、まあ、このくらいはな。ハグくらいはするだろ」
別に動揺じゃねえし、と心の中で言い訳を並べていると想が一層強く俺を抱きしめた。おずおずと俺も想の背中に腕を回す。
「じゃあ、いつしても大丈夫そうだね」
「それは全然大丈夫じゃねえから事前にお知らせして。今もちょっと爆発しそう」
「それは困るな。やめておこうか?」
からかい口調の想に俺は唇を尖らせる。
「やめんなよ。もうちょっとこのままがいい」
想の腕の中におさまったまま、額を想の肩にぐりぐり押し付ける。
「じゃあ、匠は俺に顔見せて」
「わかった」
体を起こそうとすると、離さないというように想から押さえられてうまく想のほうを見れない。押さえてくる手をポンポン叩いても「このままでも俺の顔見えるでしょ?」と言われた。
いや見えねえだろ。
首を動かして想の顔を見ようとしても、近すぎてよくわからない。ふっと息を吐いて、ようやく起き上がらせてもらえた。
えー、と言葉とは裏腹に満足げな想が俺をのぞき込む。
「もうちょっと夢じゃないことわからせてよ」
「意外とベタベタ触りたがんのな」
「匠がやならやめるよ」
ソファーについた俺の手を取って、想が手の甲に唇を落とす。ビクッと俺の肩が反応してしまい、それを見た想の唇が弧を描く。
これ以上をされても断らねえけど、心の準備をする準備が足りなさすぎる。
「……嫌ではないから、やめといて」
背もたれに寄りかかって、両手で顔を覆う。涼しい部屋なのに、思った以上に自分の顔が熱かった。
現実のほうがありえなくて、頭がふわふわする。
想が俺の手を剥がそうとするので一瞬力を込めたものの、細い指がからかうように撫でてきて結局負けた。
「かわいい顔」
「距離感がバグってんだよなあ」
お互い好きだってわかる前から想は距離が近かった。
「匠にだけだよ。すぐ赤くなって面白い」
「や、そこ面白がんなよ!?」
からかうように笑う想の耳も少し赤くなっているのに気づいて、手を伸ばす。と、つかまれた。
「好きだよ」
「……それは、俺もだけど」
2人分の熱が、心地よかった。
想の家に入って、ひやりとした空気に息を吐く。まだ肌は熱を持っているようだった。
リビングのソファーに腰を下ろして、出された麦茶を一気に飲み干す。テーブルにグラスを置いても沈黙が続いて「さっきの何?」と俺から訊ねた。
「やー……その、俺がちょっと誤解をしてて」
目線を床に落としたまま、隣に座る想が言葉を濁す。
家に呼んだくらいだから、想から話したいと思ったのに。
「何の誤解?」
「匠が友達と話してるの聞いてみみちゃん? さんのことが好きなんだなーと思ったんだよ」
一気に言ってしまえとばかりに早口の想に、俺は瞬きしかできなかった。頬を赤く染めた想が「早とちりした」と口元を手の甲で隠す。
俺の心臓が期待で高鳴っているのがわかった。
「匠の好きな人に気づかないふりして、友達でいるのは俺が無理だって思って――でも、やっぱりちゃんと匠を応援できるようになりたくて、一旦1人になって落ち着きたかったんだよ」
「何だよそれ。大体、俺がみみちゃんを好きとか言った記憶ねえよ」
「え、でも“みみちゃんを好き”って感じのこと言ってるの聞いたよ」
そんな話したっけな、とゆっちとの会話の流れを思い出す。想の口ぶりから、仁とではないだろう。
すぐに閃いて、俺は「あれか!」と頭を抱えた。みみちゃんを好きだって言ったらどうするか、みたいなことを言った覚えならはっきりとある。
あれはあくまで、ゆっちの気持ちを確認するためのものだった。よりにもよって、あれを聞かれていたのか。
「俺は、想が俺の気持ちに気づいて困ってるんだとばっかり思ってたわ」
ただの誤解だとわかって、ほどけたように涙が頬を滑り落ちていく。友達でもいられなくなったんだと思った。
「困るわけないのに。俺は匠のことが好きだよ」
想の親指が涙を優しく拭ってくれた。くすぐったくて目を細めれば、そのまま頬を撫でられる。また新たな涙がこぼれてしまった。
「俺……想のこと、好きでいてもいい?」
自信のなさがそのまま口から出て、吸い込んだ息が震えた。
「好きでいてよ。好かれてたいよ、匠に」
腕を引かれて、想の肩に近づいたところで力を込める。顔が濡れたままだから、想のシャツについてしまう。
それに気づいてか、想は「細かいこと気にしなくていいから」と俺の後頭部を優しく押した。想の肩に寄りかかって、その温もりに胸がいっぱいになった。
「すげえ好きだよ」
「うん、匠から好かれてんじゃないかなーって自惚れてたくらいだからね」
「……やっぱ俺ってわかりやすいの?」
すん、と鼻を啜る。耳元で想がクスクス笑った。
「すぐ赤くなっててかわいかったよ。もっと近づいたらどうなるんだろうって思ってた。意外と反応薄いね?」
耳たぶをむにむにと触られて、ぶわわっと顔の体温が上昇したのがわかった。想の柔軟剤の香りがいつもより近くにあった。心臓も遅れて暴れだす。
これはあれだ、事実を受け入れられるまで時間がかかっただけだ。
「ま、まあ、このくらいはな。ハグくらいはするだろ」
別に動揺じゃねえし、と心の中で言い訳を並べていると想が一層強く俺を抱きしめた。おずおずと俺も想の背中に腕を回す。
「じゃあ、いつしても大丈夫そうだね」
「それは全然大丈夫じゃねえから事前にお知らせして。今もちょっと爆発しそう」
「それは困るな。やめておこうか?」
からかい口調の想に俺は唇を尖らせる。
「やめんなよ。もうちょっとこのままがいい」
想の腕の中におさまったまま、額を想の肩にぐりぐり押し付ける。
「じゃあ、匠は俺に顔見せて」
「わかった」
体を起こそうとすると、離さないというように想から押さえられてうまく想のほうを見れない。押さえてくる手をポンポン叩いても「このままでも俺の顔見えるでしょ?」と言われた。
いや見えねえだろ。
首を動かして想の顔を見ようとしても、近すぎてよくわからない。ふっと息を吐いて、ようやく起き上がらせてもらえた。
えー、と言葉とは裏腹に満足げな想が俺をのぞき込む。
「もうちょっと夢じゃないことわからせてよ」
「意外とベタベタ触りたがんのな」
「匠がやならやめるよ」
ソファーについた俺の手を取って、想が手の甲に唇を落とす。ビクッと俺の肩が反応してしまい、それを見た想の唇が弧を描く。
これ以上をされても断らねえけど、心の準備をする準備が足りなさすぎる。
「……嫌ではないから、やめといて」
背もたれに寄りかかって、両手で顔を覆う。涼しい部屋なのに、思った以上に自分の顔が熱かった。
現実のほうがありえなくて、頭がふわふわする。
想が俺の手を剥がそうとするので一瞬力を込めたものの、細い指がからかうように撫でてきて結局負けた。
「かわいい顔」
「距離感がバグってんだよなあ」
お互い好きだってわかる前から想は距離が近かった。
「匠にだけだよ。すぐ赤くなって面白い」
「や、そこ面白がんなよ!?」
からかうように笑う想の耳も少し赤くなっているのに気づいて、手を伸ばす。と、つかまれた。
「好きだよ」
「……それは、俺もだけど」
2人分の熱が、心地よかった。
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