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7.至福とひとり
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あっという間に夏休みが始まって、まずは課題を片付けてしまおうとバイト終わりに想の家でできる限りやった。みみちゃんやゆっちとも遊んで、カップルをからかうこともした。幸せそうな2人を見ているのは、疎外感よりも嬉しさが勝るのだと知った。
想と何度か図書館へ通った。広めの図書館で別々に本を探して、会えたら2人でカフェにでも行こうと約束をしたのに、すぐに会えてしまって「面白くないね」と2人で笑った。
そうして花火大会の日、会場へ到着すると予想以上の人で溢れかえっていて想と会えるのか不安になった。まずは1人で屋台を見て回る。この前の図書館では自分の好みを優先したのにかぶってしまった。
食べ物だったら多少好みが違うし、かぶることもないだろう。選ぶのは多すぎても良くないから3つまで。
あちこちから楽しげな会話や誰かを探す声がする。ときどき、人の多さに圧倒されながらも前へ進んでいく。駅での涼しさがもう恋しかった。沈んでいく夕日が建物の影に見えなくなっても、地面から伝わる熱気が続いている。
想は何がいいのかな。1つ1つゆっくりは見ている余裕がなくて、すぐ決めなければ列のようになっている人混みを抜けられない。
半ば勢いで決めて、ビニール袋を下げながらバッグを探る。
想に連絡しよう。スマホ画面をつけると、想からここにいると丁寧に現在地の地図と写真が送られてきていた。
ちょっと歩いた先のようで俺は首を傾げる。今いる場所とは逆方向で、花火からは遠ざかりそうだ。とにかく地図の場所へと向かうために踵を返した。
「あ、匠! よかった会えて」
「人やばかったな。こっちまで来たらあんまいなくて助かった」
想を見つけられてホッとする。さっきの場所では、合流するにも一苦労だっただろう。
「こっち、川沿い歩いた先に公園あるんだって。ちょっと離れてるからいいかもって教えてもらった」
「誰に?」
「屋台の人」
すげえ、と思ったまま口にした。想が気恥ずかしそうに「向こうから話しかけられたの答えてただけだよ」と顔をパタパタ扇ぐ。
だんだん静けさを取り戻していった頃、住宅街にある公園と呼ぶには物足りないベンチが置かれたスペースには、誰もいなかった。
花火が上がる音がして、俺は顔を上げる。
「おー、いいじゃん」
夜空がパッと明るくなってから、ドォンという音が響く。一部がビルに隠れて見えるものの、人混みを思えばこの場所は最高だった。
2人でベンチに腰を下ろして、ピンクや緑、黄色の大きな花火を堪能する。
「匠、飲み物買った? 2人分買ったけど余るかな」
「さすがすぎる。すげえ喉渇いた」
想が麦茶のペットボトルのフタを開けた状態で渡してくれた。夢中になって水分補給をすっかり忘れていた。屋台で見かけたラムネも気になったが、今はこっちのほうがありがたい。
半分ほどごくごくと飲んで、ふぅと息を吐く。
「1人満喫っつーか、疲れた。最初から想といればよかったわ」
「2人でいても疲れたんじゃない?」
「想を考える時間は楽しかったんだけど、想と話しながらだったら、もっとよかった」
なるほど、と想がうなずいて自分の麦茶を飲んだ。想の表情も元気がなく見えた。
次々上がる花火の音に混じって、どこかから風鈴の音が聞こえる。穏やかな風が肌を撫でた。
「1人なら、静かな場所のほうがいいんだろうなあ。美術館とかみたいな」
「そうだね。あ、ライブは静かじゃないけど1人でも楽しそうじゃない?」
「確かに。逆に2人だとどう?」
麦茶を空にして、想を横目に訊ねる。すっかり花火から視線を下げた想は顎先に手を当てた。
「……こういうのは2人じゃないとできなくない?」
ベンチに置いていた俺の手をそっと取って、想が指を絡ませる。目を逸らしたら負けだと思って逃げずにいると、花火が弾ける度に想の瞳にきらきら反射していた。
「これはまあ、俺の両手でもいけるっちゃいける」
「え、そういうこと言うの。匠の意思の通りには動かないよ」
指の隙間でバラバラに動かして、もう片方の想の手が優しく手の甲を撫でてくる。照れよりも可笑しくなって笑ってしまった。俺の手に目を落として「わかった降参」と言った。
「俺と体温も違うしな。想、俺よりは冷たい」
「冷たいってほどでもないけどね。あと、これもそう」
「え?」
顔を上げると、想がすぐそこまで迫っていた。
花火が連続して上がっていく。
心臓が跳ねて目を閉じかけた瞬間、想がふっと笑って指先だけが俺の唇に触れた。
「ね、2人じゃないと」
「わかったから、先に買ったもの見て」
バクバクと上がった心拍数を落ち着けるように肩を丸める。想は呑気にビニール袋をがさがさと開けて「イカ焼きだ」と明るい声を出した。
するんなら、最後までしろよ。とは言えなかった。今されたら、いろいろ保てる気がしない。
「今度するから、心の準備だけしておいてね」
「……できるか!」
想の笑顔につられて、最初はむくれていた俺も笑ってしまった。
想と何度か図書館へ通った。広めの図書館で別々に本を探して、会えたら2人でカフェにでも行こうと約束をしたのに、すぐに会えてしまって「面白くないね」と2人で笑った。
そうして花火大会の日、会場へ到着すると予想以上の人で溢れかえっていて想と会えるのか不安になった。まずは1人で屋台を見て回る。この前の図書館では自分の好みを優先したのにかぶってしまった。
食べ物だったら多少好みが違うし、かぶることもないだろう。選ぶのは多すぎても良くないから3つまで。
あちこちから楽しげな会話や誰かを探す声がする。ときどき、人の多さに圧倒されながらも前へ進んでいく。駅での涼しさがもう恋しかった。沈んでいく夕日が建物の影に見えなくなっても、地面から伝わる熱気が続いている。
想は何がいいのかな。1つ1つゆっくりは見ている余裕がなくて、すぐ決めなければ列のようになっている人混みを抜けられない。
半ば勢いで決めて、ビニール袋を下げながらバッグを探る。
想に連絡しよう。スマホ画面をつけると、想からここにいると丁寧に現在地の地図と写真が送られてきていた。
ちょっと歩いた先のようで俺は首を傾げる。今いる場所とは逆方向で、花火からは遠ざかりそうだ。とにかく地図の場所へと向かうために踵を返した。
「あ、匠! よかった会えて」
「人やばかったな。こっちまで来たらあんまいなくて助かった」
想を見つけられてホッとする。さっきの場所では、合流するにも一苦労だっただろう。
「こっち、川沿い歩いた先に公園あるんだって。ちょっと離れてるからいいかもって教えてもらった」
「誰に?」
「屋台の人」
すげえ、と思ったまま口にした。想が気恥ずかしそうに「向こうから話しかけられたの答えてただけだよ」と顔をパタパタ扇ぐ。
だんだん静けさを取り戻していった頃、住宅街にある公園と呼ぶには物足りないベンチが置かれたスペースには、誰もいなかった。
花火が上がる音がして、俺は顔を上げる。
「おー、いいじゃん」
夜空がパッと明るくなってから、ドォンという音が響く。一部がビルに隠れて見えるものの、人混みを思えばこの場所は最高だった。
2人でベンチに腰を下ろして、ピンクや緑、黄色の大きな花火を堪能する。
「匠、飲み物買った? 2人分買ったけど余るかな」
「さすがすぎる。すげえ喉渇いた」
想が麦茶のペットボトルのフタを開けた状態で渡してくれた。夢中になって水分補給をすっかり忘れていた。屋台で見かけたラムネも気になったが、今はこっちのほうがありがたい。
半分ほどごくごくと飲んで、ふぅと息を吐く。
「1人満喫っつーか、疲れた。最初から想といればよかったわ」
「2人でいても疲れたんじゃない?」
「想を考える時間は楽しかったんだけど、想と話しながらだったら、もっとよかった」
なるほど、と想がうなずいて自分の麦茶を飲んだ。想の表情も元気がなく見えた。
次々上がる花火の音に混じって、どこかから風鈴の音が聞こえる。穏やかな風が肌を撫でた。
「1人なら、静かな場所のほうがいいんだろうなあ。美術館とかみたいな」
「そうだね。あ、ライブは静かじゃないけど1人でも楽しそうじゃない?」
「確かに。逆に2人だとどう?」
麦茶を空にして、想を横目に訊ねる。すっかり花火から視線を下げた想は顎先に手を当てた。
「……こういうのは2人じゃないとできなくない?」
ベンチに置いていた俺の手をそっと取って、想が指を絡ませる。目を逸らしたら負けだと思って逃げずにいると、花火が弾ける度に想の瞳にきらきら反射していた。
「これはまあ、俺の両手でもいけるっちゃいける」
「え、そういうこと言うの。匠の意思の通りには動かないよ」
指の隙間でバラバラに動かして、もう片方の想の手が優しく手の甲を撫でてくる。照れよりも可笑しくなって笑ってしまった。俺の手に目を落として「わかった降参」と言った。
「俺と体温も違うしな。想、俺よりは冷たい」
「冷たいってほどでもないけどね。あと、これもそう」
「え?」
顔を上げると、想がすぐそこまで迫っていた。
花火が連続して上がっていく。
心臓が跳ねて目を閉じかけた瞬間、想がふっと笑って指先だけが俺の唇に触れた。
「ね、2人じゃないと」
「わかったから、先に買ったもの見て」
バクバクと上がった心拍数を落ち着けるように肩を丸める。想は呑気にビニール袋をがさがさと開けて「イカ焼きだ」と明るい声を出した。
するんなら、最後までしろよ。とは言えなかった。今されたら、いろいろ保てる気がしない。
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想の笑顔につられて、最初はむくれていた俺も笑ってしまった。
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