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第2話
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1週間も経たない内にクローディアの元に伯爵様から手紙が届いた。
どうやらクローディアがあの日髪につけていたバレッタを伯爵家の屋敷に忘れて帰ったそうだ。取りに来て欲しい、ついでにお茶でもどうだ?とお誘いをいただきました。
「…どっ、どういうこと!?バレッタなんて一度たりとも外した覚えはないわ!確かに帰宅してから紛失していたことに気付いていたけれど」
『焼却炉に投げ捨ててください』
なんて書けるわけないし。
バレッタなんかどうでも良い。どうしても、あのイカレ伯爵とお近付きになりたくないのだ。
日曜日、渋々あの屋敷を訪れた。
人当たりの良い家政婦は喜んでクローディアを迎えてくれた。
客間に入ってすぐ、ソファーに座って紅茶を飲んでいたオスワルド伯爵が立ち上がった。
「ようこそ、どうぞお座りください」
「いいえ。忘れ物を受け取りに来ただけよ。すぐお暇するわ」
「レミーに持って来させよう。早く座りたまえ」
コツコツコツと時計の秒針の音が静かな部屋に響く。
居た堪れない気持ちで入り口を見つめ、中々現れてくれない家政婦を待った。
伯爵様が私に茶を淹れてくれた。カップの中の真っ赤な水面を見つめて浮かない顔をする私を彼は真顔でジッと見ていた。
ふぅ、ふぅと熱を冷ます。
伯爵様はジッとこっちを見ている。
怖い。
「……こ、紅茶に、何か入っています?」
ニッコリと笑った。
毒を入れたのか?と尋ねているとも取れるし、どんなフレーバーを入れたのか?とも取れる、よね?
伯爵様は一瞬だけ頰が痙攣するようにピクッと動かした。
「何も」
「…入れましたね?」
ギロッと睨んでやった。
そして伯爵様が飲んでいたティーカップと自分のティーカップを交換した。
伯爵は驚いた顔をしている。
私は強気に笑うと、砂糖を入れてティースプーンでかき回して、ぐびっと飲み干した。
「!」
あ、あれ?急に眠気が……。
どうして?もしかして毒を盛ったのはティースプーンだったか!?してやられたと怒りが湧くが、私は気を失うようにソファーの上で眠ってしまった。
そう言えば今日伯爵家の屋敷へ行くのが苦痛すぎて昨夜よく眠れなかったっけ……。
「ハッ……」
勢いよく起き上がるとそこは大きなベッドの上だった。
薄暗い室内。ベッド以外にはなにもない殺風景な部屋。
けれど掃除が行き届いていて、使われている形跡はあった。
「起きたか」
「……え!あっ……眠ってしまってごめんなさい」
「いい、君が飲んだのはただのハーブティーだ。神経鎮静作用とリラックス効果のある……」
「え……」
「よっぽど昨夜は寝不足だったようだな」
え!?睡眠薬盛られたってわけじゃなかったの?しかもここって伯爵様のベッドの上!
顔がゆでダコのように真っ赤になっていた。慌てて立ち上がったところ、予想してたよりもふかふかのマットレスに足を取られて、ベッドの脇に座っていた伯爵様めがけて倒れ込んでしまった。
私が、伯爵様を抱き締めているような図……。
伯爵様は唖然としていた。
間近で見る整った顔が眩しすぎて直視できない。すぐに身体を離した。
「ごっ……ごめんなさい!重ね重ねご無礼を……」
「気にしないでくれ」
穏やかな善人100パーセントの笑顔。警戒しすぎ?
よく考えたら、小説の中では私がお金目当ての強欲な妻で、それに怒った伯爵に殺されたのよね。
そもそも伯爵は乗り気ではなくって、クローディアが結婚の話を進めて2人は夫婦になった。2人の間には恋愛感情なんてなかった。
「……実は君をわざわざ呼んだのにはワケがあってね」
伯爵の落ち着いた低い声。
「……はい?」
「来月、姪っ子のクリスの誕生日があるんだ。プレゼントに悩んでいてね。君からアドバイスをいただきたかったんだ。背伸びしたがる子でね、いつまでも子供っぽいお人形ってわけにはいかないし」
なんだ。そんなこと……。
「今若い女の子の間では水晶のブレスレットが流行ってますよ。好きな男性の瞳の色と同じ水晶をつけたり、おまじないの効果がある水晶を選んでオーダーメイドで作るの」
「ほう。詳しいんだね。それでは君が是非見立ててくれないか?ちゃんと礼はするよ」
ニッコリと美形が微笑みかけてくる。
小説内でオスワルドとクローディアの絡みはなかったからよくわからないが、彼はクローディアに対してこんなに好意的だったんだろうか?
2人の結婚ってクローディアが一方的に推し進めたんでしょう?
前妻の件で女性不信に陥っていたんじゃなかったのかしら。
「えっと……店の者に聞けば流行とか教えてもらえますよ?」
「あっちは商売だからな。私が行けば適当に高価なものを勧めるだろう。そうじゃなくて、君に選んで欲しいんだ。今度の日曜日は空いてるかい?」
「ええと……、あっ!今度の日曜は教会でイベントがあって、幼馴染のケビンの手伝いを……」
意識が戻る前のクローディアはその誘いを秒で断ってたのよね。
っていうか奉仕活動?なにそれ美味しいの?な超ワガママな成金お嬢様を何故誘ったんだろう?
「ケビン……」
笑顔を痙攣らせながら断る理由をグルグルと考えていると、伯爵の方からバキッと何かが壊れる音がした。
「あ、すまない。君のバレッタが壊れてしまった」
伯爵が硬く握っていた手のひらを広げるとヒビの入ったクローディアの私物のバレッタがそこにあった。
「お気になさらず!安物なのでっ」
私はバレッタを回収するとソファーを立ち上がった。
「姪のプレゼントを買うついでに、君のバレッタも新調しよう。私が壊してしまったから、私が買ってやろう」
「ええと、お気持ちだけで充分です。本当に大丈夫ですから!」
「迷惑か……?」
そんな捨てられた子犬のような顔やめて……。
どうやらクローディアがあの日髪につけていたバレッタを伯爵家の屋敷に忘れて帰ったそうだ。取りに来て欲しい、ついでにお茶でもどうだ?とお誘いをいただきました。
「…どっ、どういうこと!?バレッタなんて一度たりとも外した覚えはないわ!確かに帰宅してから紛失していたことに気付いていたけれど」
『焼却炉に投げ捨ててください』
なんて書けるわけないし。
バレッタなんかどうでも良い。どうしても、あのイカレ伯爵とお近付きになりたくないのだ。
日曜日、渋々あの屋敷を訪れた。
人当たりの良い家政婦は喜んでクローディアを迎えてくれた。
客間に入ってすぐ、ソファーに座って紅茶を飲んでいたオスワルド伯爵が立ち上がった。
「ようこそ、どうぞお座りください」
「いいえ。忘れ物を受け取りに来ただけよ。すぐお暇するわ」
「レミーに持って来させよう。早く座りたまえ」
コツコツコツと時計の秒針の音が静かな部屋に響く。
居た堪れない気持ちで入り口を見つめ、中々現れてくれない家政婦を待った。
伯爵様が私に茶を淹れてくれた。カップの中の真っ赤な水面を見つめて浮かない顔をする私を彼は真顔でジッと見ていた。
ふぅ、ふぅと熱を冷ます。
伯爵様はジッとこっちを見ている。
怖い。
「……こ、紅茶に、何か入っています?」
ニッコリと笑った。
毒を入れたのか?と尋ねているとも取れるし、どんなフレーバーを入れたのか?とも取れる、よね?
伯爵様は一瞬だけ頰が痙攣するようにピクッと動かした。
「何も」
「…入れましたね?」
ギロッと睨んでやった。
そして伯爵様が飲んでいたティーカップと自分のティーカップを交換した。
伯爵は驚いた顔をしている。
私は強気に笑うと、砂糖を入れてティースプーンでかき回して、ぐびっと飲み干した。
「!」
あ、あれ?急に眠気が……。
どうして?もしかして毒を盛ったのはティースプーンだったか!?してやられたと怒りが湧くが、私は気を失うようにソファーの上で眠ってしまった。
そう言えば今日伯爵家の屋敷へ行くのが苦痛すぎて昨夜よく眠れなかったっけ……。
「ハッ……」
勢いよく起き上がるとそこは大きなベッドの上だった。
薄暗い室内。ベッド以外にはなにもない殺風景な部屋。
けれど掃除が行き届いていて、使われている形跡はあった。
「起きたか」
「……え!あっ……眠ってしまってごめんなさい」
「いい、君が飲んだのはただのハーブティーだ。神経鎮静作用とリラックス効果のある……」
「え……」
「よっぽど昨夜は寝不足だったようだな」
え!?睡眠薬盛られたってわけじゃなかったの?しかもここって伯爵様のベッドの上!
顔がゆでダコのように真っ赤になっていた。慌てて立ち上がったところ、予想してたよりもふかふかのマットレスに足を取られて、ベッドの脇に座っていた伯爵様めがけて倒れ込んでしまった。
私が、伯爵様を抱き締めているような図……。
伯爵様は唖然としていた。
間近で見る整った顔が眩しすぎて直視できない。すぐに身体を離した。
「ごっ……ごめんなさい!重ね重ねご無礼を……」
「気にしないでくれ」
穏やかな善人100パーセントの笑顔。警戒しすぎ?
よく考えたら、小説の中では私がお金目当ての強欲な妻で、それに怒った伯爵に殺されたのよね。
そもそも伯爵は乗り気ではなくって、クローディアが結婚の話を進めて2人は夫婦になった。2人の間には恋愛感情なんてなかった。
「……実は君をわざわざ呼んだのにはワケがあってね」
伯爵の落ち着いた低い声。
「……はい?」
「来月、姪っ子のクリスの誕生日があるんだ。プレゼントに悩んでいてね。君からアドバイスをいただきたかったんだ。背伸びしたがる子でね、いつまでも子供っぽいお人形ってわけにはいかないし」
なんだ。そんなこと……。
「今若い女の子の間では水晶のブレスレットが流行ってますよ。好きな男性の瞳の色と同じ水晶をつけたり、おまじないの効果がある水晶を選んでオーダーメイドで作るの」
「ほう。詳しいんだね。それでは君が是非見立ててくれないか?ちゃんと礼はするよ」
ニッコリと美形が微笑みかけてくる。
小説内でオスワルドとクローディアの絡みはなかったからよくわからないが、彼はクローディアに対してこんなに好意的だったんだろうか?
2人の結婚ってクローディアが一方的に推し進めたんでしょう?
前妻の件で女性不信に陥っていたんじゃなかったのかしら。
「えっと……店の者に聞けば流行とか教えてもらえますよ?」
「あっちは商売だからな。私が行けば適当に高価なものを勧めるだろう。そうじゃなくて、君に選んで欲しいんだ。今度の日曜日は空いてるかい?」
「ええと……、あっ!今度の日曜は教会でイベントがあって、幼馴染のケビンの手伝いを……」
意識が戻る前のクローディアはその誘いを秒で断ってたのよね。
っていうか奉仕活動?なにそれ美味しいの?な超ワガママな成金お嬢様を何故誘ったんだろう?
「ケビン……」
笑顔を痙攣らせながら断る理由をグルグルと考えていると、伯爵の方からバキッと何かが壊れる音がした。
「あ、すまない。君のバレッタが壊れてしまった」
伯爵が硬く握っていた手のひらを広げるとヒビの入ったクローディアの私物のバレッタがそこにあった。
「お気になさらず!安物なのでっ」
私はバレッタを回収するとソファーを立ち上がった。
「姪のプレゼントを買うついでに、君のバレッタも新調しよう。私が壊してしまったから、私が買ってやろう」
「ええと、お気持ちだけで充分です。本当に大丈夫ですから!」
「迷惑か……?」
そんな捨てられた子犬のような顔やめて……。
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