シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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番外編・スピンオフ集

(前世編)向日葵とエスプレッソコーヒー

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「蒼介!もう!予定があるなら前もって言ってよ!」

 幼馴染で恋人の少年の部屋で少女は怒鳴った。
 そしてソファーのクッションを思い切り少年の顔面に投げつけた。

「毎回遅刻する、ドタキャンする、いったい何回目よ?次やったら別れるって言ったよね!?」

「ごめんね~~里緒~~」

「前もって言ってくれたら私だって怒らないわよ。もういい、付き合ってられないわ!」

「里緒~~ヤダヤダ~」

 よく晴れた日曜日。
 久しぶりのデートの予定を当日の今しがたドタキャンされた少女は怒り心頭に発する。
 少年が所属する高校の生物部で顧問の教師同伴で遠出をする予定があったらしい、少年は副部長のくせにその予定をすっかり失念していたそうだ。うっかり予定をブッキングしてしまったらしい。
 半泣きでオロオロしている少年をギロッと睨んだ。
 そして少年の部屋から飛び出して階段を下った。

 蝉が大合唱する入道雲の下を少女はドスドスと地面を鳴らして早歩きした。
 風は涼しいが日差しが強くて額が汗ばんだ。
 上着のチェックの長袖のシャツをデニムのひざ丈スカートの腰部分に巻きつけて、リュックから帽子を取り出してかぶった。

 一人で街に出ると、涼を求めてコーヒーショップに立ち寄った。
 人もまばらで混んではいなかったがレジが詰まっていた。

 不思議な黄金の瞳をした中年くらいのダンディーな雰囲気の外国人がレジのメニュー表と睨めっこしていた。
 店員さんは笑顔で困惑していた。
 少女は彼に話しかけた。

「日本語で大丈夫かな?あのー、どうしました?」

「…初めて飲むのでな、何を選べば良いのかわからんのだ」

 流暢な日本語だ。

「苦いのは平気ですか?」

「ああ」

「エスプレッソコーヒーとかどうですか?私のお父さんがよく飲んでるよ」

「うむ、いただこう。君は何を飲むのだ?」

「私はこのクールライム……」

 夏のメニューが出たので本来なら恋人である少年と一緒に飲みに来る予定だった。
 ドタキャンされたが。
 少女は怒りを思い出した。

「では、それもよろしく頼む」

 男の言葉に店員は頷いた。会計は進む。

「えっあのっ…お金、払います」

「構わん、助けてくれた礼だ」

 *

 会計が終わって、少女はフードコートの一番奥の窓際の席に座った
 黄金の瞳をした不思議な男も同席した。

「良い香りだ、スッキリとした苦味が良いな」

 男はエスプレッソコーヒーを堪能している。
 気品溢れる所作、紳士的な雰囲気、どこかのセレブのおじさん?少女は彼におごってもらったジュースを飲んだ。

「この国はこのコーヒーとやらが名産なのか?」

「へ?うちの国はどっちかと言えば緑茶とかかなぁ。コーヒーだったらイタリア?とかフランス?とかヨーロッパじゃないかなぁ。ここだって普通のチェーン店だし、本場のコーヒーはもっと美味しいと思いますよ」

「よーろっぱか、以前何度か行ったことがあるぞ、美味しいコーヒーを手に入れに今度また行ってみよう」

 白人っぽいから安直にヨーロッパ辺りの人かと思ったが、一体何人なのだろう?
 少女は首を傾げた。

「あの、よかったらこれ食べてください。私が作ったパニーニです」

 幼馴染の少年のために朝作ったものだ。
 洒落っ気もなくアルミホイルで包まれているので、目の前のお洒落で優雅でセレブっぽいおじさまにあげるには気が引けた。

「ありがとう、いただこう」

 食べる仕草まで優雅だ。

「美味しい」

「よかった!」

「コーヒーとよく合うな」

 談笑しながら軽食を済ませて、笑って不思議なおじさんと別れた少女。
 イライラとした気分もスッキリ晴れてきた。

 こんな日曜日もいいかもしれない。

 本調子に戻った少女はデパートに立ち寄って一人でショッピングを楽しんだ。
 新しいワンピースやアクセサリーを買って、文房具屋では切らしていた授業用のノートとシャープペンシルの芯を買った。
 ぶらりと映画館に立ち寄って一人で流行りの恋愛映画を鑑賞。

 そして日が暮れた頃に自宅へ帰った。
 部屋のドアを開けると驚愕した。

 少女の部屋中に向日葵が何本も散らばっていた。
 ベッドの上には幼馴染の少年が正座をしてちょこんと座っていた。

「ごめんなさい!」

 勢いよく土下座をされる。

「何してるの?私の部屋こんなに散らかして」

「里緒、向日葵好きでしょ!薔薇の花がよかったぁ?」

 ウルウルと今にも泣き出しそうな目で、すがるように見つめてくる少年。

「蒼ちゃん、薔薇の花なんて買うお金ないでしょう」

「うう」

「部活はちゃんと行ったの?」

「うん」

「お母さんに叱られるから早く片付けてよね。花瓶があるから、窓辺に飾ろうか」

 ニッコリと笑うと少年は少女に抱きついて向日葵が散るベッドの上にゴロッと転がった。

「里緒、好き~」

「許したわけじゃないからね!時間を守れない男なんて嫌いよ」

「わかった~守る!!」

 返事だけは百点満点だけど、またやらかすな……。
 少女は少年の腕の中で苦笑した。

☆☆☆
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