シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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番外編・スピンオフ集

(前世編)タコチャーハンと餞のキッス

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「は~やっと連休だ!今日は飲むぞ☆」

 彼はフレンチレストランに勤めるごく普通の青年だった。
 秋も中頃、最近日中でも冷えるようになったので今年買ったばかりの深緑色の大きめなパーカーと灰色のニット帽をかぶり、陽気に流行っているポップスを口ずさみながら住宅街の中を一人で歩いていた。
 重労働の連勤明けでも元気なのは若さ故だろう。

 ポケットから携帯電話を取り出して弄っていると、通り掛かった公園の方から男の叫ぶような声が聞こえて気になって茂み越しに覗いてみた。

「無礼者!私を誰だと心得る!?」

 高価そうなスーツ姿の色素の薄い短髪頭と瞳をした、英国紳士風のハンサムな外国人が西洋刀を片手に警官二人に切っ先を向けて怒鳴っている。
 ストリートアクト的なやつ?あれは摸造刀?真剣か?銃刀法違反ではないか?と心の中で突っ込んでみた。

「すまない、お巡りさん。こら、レイメイ、剣を下げろ」

 剣を構えるハンサム外国人より一回りほど大きな、顎髭に黄金の瞳を持つこれまた超絶美形な男だ。
 その割に流暢な日本語を話している。

 落ち着きを取り戻した様子の男が剣を下げると、剣はキラキラと光りながら忽然と男の手から消えた。
 警官は顔を見合わせながら驚愕している。

「我々は名乗るほどでもないマジシャンだ、すまない、退散させてもらう」

 顎髭の男は同伴者の腕を引っ張り公園を足早に出て行った。
 そして一部始終を見ていた青年とばったり鉢合わせする。

「すっげえ、お兄さんたちマジシャン!?はじめてみた~☆」

「はぁ?俺は魔人……むぐっ」

 何かを口にしようとしたハンサムな男の口を顎髭男は塞いだ。

「待て!」

 やはり納得してない様子の警官がこちらに向かって走ってくる。
 青年は二人のハンサム外国人の手を引っ張り、警官から逃げるように建物の陰に隠れた。うまく振り切れたようだ。

「助けてくれたのか、ありがとう」

「俺っちも職質されたことあるからなあ。面倒だよねえ?ポリスメン。っていうか、お兄さん達は本当は何者なの?」

 着ている高級そうなスーツや革靴といい、きっちり整った髪型や溢れ出すオーラといい、只者ではなさそうだ。

「この世界ではないところから来たのだ、土地勘がなくて迷ってしまっていた」

 この世界ではないところ?外国から来たってことなのか?

「そうなの?どこのホテルに泊まってんの?」

「宿は無い」

「マジでか!めっちゃやっベーじゃん。今近くでアイドルのコンサートやってるから、多分どこも満室だよ?うちのレストランが入ってるホテルも全室埋まってるっぽいし。まあいざとなればマン喫~は身分証が要るよなあ。ラブホは……男同士は入れるかなぁ~、ん~、ボロいし狭いけど良ければ、ウチくる?」

「いいのか?」

「うん、布団はないけど、こんな寒い中野宿するよりはマシでしょ?」

 *

 そうして、ハンサムな外国人を二人拾った青年は自宅のアパートへ連れ帰った。
  八畳の部屋は男三人には手狭だった。

「なんだこの馬小屋みたいな部屋。ここで寝てるのか?」

「レイメイ、失礼だぞ」

「いいのいいの、俺、今金貯めてっから安アパートなの~」

 顎髭男はコボルト、不遜な態度のハンサムな若者はレイメイという名前らしい。

「お腹空かない?コンビニでビールも買ったし、何か作るよ」

 青年は狭い台所に立ち、料理を始めた。
 本業が調理師だけあって、手慣れた様子で淡々と料理をしていた。

「はい、俺っちの大好物のタコチャーハン、隣のお婆ちゃんから貰った柿とクリームチーズを生ハムで巻いた簡単オードブル☆、と~、レストランの余り物だけどテリーヌもあるよ」

 小さなテーブルに料理が並ぶ。

「た、タコ?」

「あ、外国人だから食べれっかな?タコ」

 奇怪な吸盤のついた刻まれたタコのカケラをスプーンで掬って不思議そうに見つめるレイメイ。
 パクッと口に入れると、目を輝かせた。
 食べっぷりのいいハンサムな外国人を見つめて、青年は笑顔になった。

「美味いな」

「でしょー☆」

「ビールというのも美味いな、エールに似てるが、それ以上だ」

 満腹になると青年は畳の上に仰向けに寝転がった。

「食った食った」

 膨らんだお腹をポンポン叩く。

「ん~最近仕事でテン下げなことあってさあ~、モチベ下がりまくりだったんだけど、お兄サンの美味しそうに食べる姿見てたらバイブスぶち上がってきたわ。厨房にいると食べてる人の顔なかなか見れないからさー」

「お前は料理人か?」

「まーね、将来自分の店を持つのが夢なの。お兄サン達は夢とかあるの?マジシャン?」

「……夢などない、産まれてきた時点で親の跡を継ぐことは決まっていた。俺の意志などない」

「俺っちも同じような家に育ったからマジシンパシーだわ」

「こんなに美味い料理が作れるのに、料理人にならないのはもったいないな」

「それな!一度きりの人生だもん、俺の人生は親の人生じゃない。やりたい事やって、夢を叶えたい。お兄サンはその家業を継ぐの?家業は嫌いなの?」

「……継ぐことになるだろうな。できれば貿易の仕事がしたかった。家業もそれなりにやり甲斐はあるし、嫌いではない」

 はっきりとした口調でそう答えた。
 青年は笑うと、彼の肩を叩く。

「どっちか選べないなら、どっちも選んじゃえば?」

「え?」

「やりたい事がいくつあってもいいじゃん」

 彼は黙り込んだ後、「そうだな」とスッキリしたような顔で答えた。
 推測するにどこかしらの身分の高いおぼっちゃまのようだったが、青年は敢えて何も聞かなかった。
 畳の上での雑魚寝にも素直に応じ、トーストとコーヒーのみという朝ごはんにも文句を言わなかった。

「帰るの?」

「ああ、親への反発のつもりのだったが、間違っていたようだ。お前のいう通り諦めないで頑張ってみるよ」

 アパートを出て、またあの公園がある方角へ向かって足を進めた。
 平日の十時過ぎの住宅街は静かだった。

「そっか、ガンバ、お兄サンなら出来るっしょ」

「ありがとう、君に出会えてよかった。手を貸してくれないか?」

「どういたしまして~☆」

 青年は目の前のレイメイに向かって手を差し出した。
 レイメイは青年の手を掴むと、指先にキスをした。

「ええ!?」

 キスをされた箇所に熱が集まり、水仕事であかぎれだらけの指先がキラキラと光った。
 イケメンからのキッスは男でもドキドキするものだなぁ、なんてぼんやり考えているとレイメイは微笑みながら言った。

「ーー“祝福”を君に贈った。絶対に、どんな事があっても君の夢は叶う。私の魔法は最強だ、こんな魔法が無くとも君なら叶えられるだろうが。昨晩泊めてもらった礼だ」

 やはり、外国人ってキザな人が多いのかな。
 自分が夢見がちな女子高生ならイチコロで落ちてたぞ。心の中でツッコミを入れる。

「ありがとう」

 大きく手を振って彼らを見送った。
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