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獣人の国・オーギュスト国からの使節団〜ニャンコ王配殿下の焼きたて手作りパン
凍てついた心にあったか石狩り鍋(前編)
しおりを挟む「父さん、もっと?」
雪が積もり辺り一面真っ白な王有林のクロウの菜園。
ドーム状の結界が張られてあり畑部分だけ雪が被っておらず、冬なのにさまざまな葉野菜や果物が植えられてある。
今日はその結界の外側にある畑から大根や白菜を収穫していた。j
チワワのクロウは荷台の上に登って、ユーシンは土の上に積もった雪を払って土の中から秋に収穫して保存していた大根や白菜を取り出し荷台に乗せていた。
「これくらいかなぁ」
今日は冷えるので騎士団で鍋パーティーをすることになった。
ユーシンから野菜をお裾分けして欲しいと頼まれて王有林に来たのだが……
「あはははっ」
雪野原を白い子猫やワンコ騎士団たちが楽しそうに駆け回る。
初めて見る雪にオーギュスト国からやってきた彼らは朝から大はしゃぎ。
彼らほどじゃないがゲーテ王子も雪を見て機嫌が良さそうだ。
山に行くと言ったらついてきたのだ。
ゲーテ王子は雪の上を走り回る子猫のヴェルを捕まえて抱き上げた。
そして着ている騎士団のジャケットの中に子猫を押し込んだ。
騎士服のジャケットからひょこっとヴェルの顔だけが出てる。
「身体が冷えるだろ、もう帰るぞ」
「え~」
意外に面倒見の良いゲーテ王子にヴェルはすっかり懐いていた。
昨夜から もうべったりだ。
「アルも一緒に遊びに来たらよかったのに」
「王配殿下は寒いの嫌いですからねー。猫だから仕方ないですけどね」
ワンコ騎士の言葉に猫好きなゲーテ王子が反応した。
「あいつも猫になるのか?」
「獣人ですから当然です」
*
今晩は騎士団でお鍋。
(鍋なんて前世ぶりだわ)
ふふふ、とシャルロットは嬉しそうに笑って侍女服姿で回廊をスキップしていた。
「どんな鍋にしようかしら?」
鍋料理といえばシンプルなポトフやシチューくらいしかない国。
今はコボルトから貰った味噌や醤油、ゲーテ王子の国から貰った鰹節に昆布もある。
日本風の鍋が作れそうでシャルロットはご機嫌だった。
浮かれすぎて、曲がり角を曲がったところで思い切り人とぶつかってしまった。
「きゃっ」
大きな人影にぶつかって反動で後ろに飛ばされそうになったシャルロットの腰を、男は咄嗟に抱いて華奢な身体を自分の胸に引き寄せ庇った。
「ご、ごめんなさい……」
(リディから廊下は走るなっていつも注意されてたのに、私ったら……)
顔を上げると、そこにはアルハンゲル王配の端正な顔が近くにあった。
シャルロットは言葉も出ないほど驚愕し、素早く彼の腕を振りほどいて後退した。
「きゃあ!」
「そんなに警戒するな」
「警戒するわ!あんな変な事言うような方ですもの!」
「なんだ産む気になったか?」
「断固としてお断りします!」
表情がないから何を考えているのかわからない男性だ。
クロウは素直で裏表がなく表情がコロコロ変わるし、ゲーテ王子は意地っ張りだが単純でわかりやすい、グレース皇子や左王も同じくらい無愛想で無骨だが素直だし。
「もう私とグレース皇子は婚約式も済ませております。それに私があなたの子供を産む道理がありませんもの」
「クライシア大国から結納金はいくらもらった?我が国はその額の倍出そう」
「お金の問題ではありません!」
トンっ
気付いたらまた回廊の柱に追いやられてる。
シャルロットは身構えた。
「じゃあ何が望みなんだ?我が国にはお前が必要なんだ、どんな要求も聞こう。こちらとしては世継ぎを産んでもらえればそれでいいのだ」
「子を産むためだけの理由で私が必要なの?」
「それ以外に何がある?」
シャルロットはいい加減 頭にきた。
頭に血が上って、気付いたら目の前のアルハンゲル王配の頬を思い切り平手打ちしていた。
「私は子供を産む道具ではありません、ちゃんと心も意志もありますわ。あなたなんか大嫌いです!嫌いな人の子供は産めません!以上です!」
叫んでいた。
アルハンゲル王配は呆然としている。
「姫様…………」
背後に気配を感じてシャルロットはハッとして振り返った。
シャルロットとアルハンゲル王配のイザコザを目の当たりにしてビックリしてるような顔をして箱を抱えているーーミレンハン国の宰相グリムの姿があった。
なんとも気まずそうな顔をしてる。
「グリムさん!?」
「取り込み中でしたか?先程到着したばかりで……偶然姫様の姿を見かけたので声を掛けたのですが……」
「ま、まあ!お久しぶりです。グリムさん。あ、こちらはオーギュスト国のアルハンゲル王配ですわ」
「おや、はじめまして、ミレンハン国で宰相をしてます、グリムと申します」
「ええ」
(変なところを見られてしまったわ……)
苦笑いをするシャルロット。
グリムは気を遣ってかこれ以上深入りしてこなかった。
「姫様、こちらをお納めください」
グリムが抱えているのはアダムが作った魔道具だ。
クーラーボックスのようなものだ。
その中をパカっと開くと活きのいい鮭にブリにサバ。
シャルロットは宝石に見入るように目を輝かせた。
冬の海の幸だ。
「わぁ~!美味しそう!」
「でしょう!今が旬なんですよ!魔道具で鮮度もバッチリ!」
フフンとグリムは笑った。
「あ!今日は騎士団で鍋パーティーをするの。グリムさんも是非食べに来てください!」
「わぁ~お邪魔します!じゃあ、騎士団の食堂にこれ届けちゃいますね!ゲーテ王子の顔も見たいですし!」
グリムとは別れて、また長い廊下でアルハンゲル王配と二人きりになる。
ちらりとシャルロットは背後で黙って立ってるアルハンゲル王配に顔を向けた。
気まずそうに言葉を溜めて、それから言った。
「……殿下もよかったら来てください」
「……」
「その……、頰を叩いてしまって申し訳ございません」
「……なぜ謝るんだ?」
「悪いことしたら、ごめんなさいって謝るものでしょ?叩くのはやりすぎでした……あなたも国を思っての言動なのよね、でも、やっぱりあなたの子供は産めません。申し訳ございません」
ニッコリと笑って深く頭を下げた。
その顔をアルハンゲル王配は黙って見つめていた。
「……今日はすごく寒いでしょう!グリムさんからいただいたお魚を使って鍋にしましょう。温まりますわよ」
シャルロットは明るく笑った。
鉛色の空からはらはらと雪が降り出した。
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