シャルロット姫の食卓外交〜おかん姫と騎士息子の詰め所ごはん

ムギ・オブ・アレキサンドリア

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シャルロットと精霊博士のサンクスギビング・ターキーデー

凡庸な悪

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でっぷり太った毛むくじゃらの中年男は工房の中で工具を片手に薄ら笑いを浮かべていた。
男の背後には造ったばかりの魔法のケージが大量に積まれてある。

彼は西大陸の某国の新興貴族だったが悪さをして身分を剥奪され流刑になった。その後エスター国へやって来て馬車職人として働きながら細々と暮らしていた。
彼は魔人で、レベルは低いが多少は魔法が使えたので魔道具を作ることができた。
そんな彼の元に魔術師は接触し、ベンジャミンから盗んだ設計図を渡し精霊を捕獲するためのケージを大量に造らせた。

魔道具の作成には魔力を消費するので容易なことではないし、完全な歩合制だったが、需要もあって単価が高い。
これが馬車を作るよりも簡単に大金に化けるのだ。

「ムフフフ……」

男は気味の悪い笑い声をあげながらケージを造り続けた。

ここ数ヶ月、精霊を入れたケージが何者かに破壊される事件が相次いでいる。しかし、その分男の元には再び注文が入ってくるので儲かるだけだ。

彼の小さな工房の木製のドアに誰かがノックした。

「はいはい、どちら様で~?」

男が扉を開けると、そこには黒いマントを被った金髪碧眼の超美少年がハの字眉に上目遣いで立っていた。

「遅れて申し訳ございません、ダンナ様。指名をいただいた、キャロルでございます」

「はあ?誰だい?ワシは君などしらん」

「ああ、すみません……住所を間違えてしまったんでしょうか……」

「き、君、もしかして…男娼かい?店はどこだい?ほう……この辺には君みたいな上玉の男の子がいるのかい。君の客が出した金の3倍払うから、おじさんと遊ばないかい?」

(かかった……)
美少年はニヤリと笑った。

「まあ、嬉しい」

「ハァハァ…おいでスイートちゃん」

男は美少年の肩を抱きながら工房を出て。
無人になった工房の扉の前にわらわらと人影が集う。

「あいつが美少年好きなのはリサーチ済みだ」

ベンジャミンが笑いながら、扉に貼られてあった護符を剥がした。
部屋中に強力な護符を貼っていたから、眠り猫の魔法も幻狼の転移魔法も効かなかった。
恐らくケージ襲撃事件が増えてるから魔術師が念のために彼に渡したんだろう。

男は一日中工房に籠っているから侵入も難しかったが、ハニートラップを仕掛けて彼好みの美少年キャロルで上手く誘き出させて、お留守になった工房を襲撃する計画だ。

護符は魔法を弾いてしまうが、物理的な侵入は容易かった。

「うわ~物が散乱してゴチャゴチャしてんな、設計図はどこだ?」

ベンジャミンに続いてクロウや騎士のアーサー、アヴィが部屋に入ってくる。外ではユーシンが見張り役をしていた。
アーサーは透視の魔法で設計図の在り方を突き止める。

「机の上、あの額絵の裏だ!」

何の変哲も無い額絵を裏返すと、そこにはベンジャミンが作成した設計図が貼り付けられてあった。
あの額絵はカモフラージュだろう。

ベンジャミンはその設計図を額絵から剥がすと、ぐしゃぐしゃに丸めて暖炉の火の中に投じた。紙はあっという間に燃え尽きる。

それから原料の一部である粉末状に加工された魔石も一緒に火の中へーー。
この魔石をペースト状にしてガラスにコーティング。そのガラス越しに覗けば、魔力が無い者でもハッキリと精霊を見ることができるのだ。

それから部屋にあったケージの完成品も全て破壊した。

「ふう、これでもう精霊なんか捕まえられねえぞ!」

この精霊の売買が、魔術師たちの収入源になっているらしい。
金に糸目をつけぬ成金達に売り捌き、かなり稼いでいたようだ。

この工房の男の存在も、ジュリアンが教えてくれた。

ベンジャミンが作ったケージとかなり酷似しているが、かなり質の悪いコピー商品。
ベンジャミンがケージ作りを拒否したから、この男に造らせたんだろう。

ケージに入った精霊達が衰弱していたのも、男が作った劣悪品に閉じ込められたせいだろう。
正規品にはない、精霊の魔力を抑え込む札が側面に貼られてあった。

「ふん!おバカ!おバカ!」

オオカミ姿のクロウはぐるっと部屋を一周する。
精霊達に酷いことをして来た男に対して、まだ怒りが収まらずーー、苛立った様子で男の私物だと思われるカツラや小洒落たコートを床に投げ飛ばし、噛んで破いたり思い切りガンガンと前脚で足蹴げにした。

「ヤツが戻って来たぞ!そろそろ行くぞ」

ユーシンが外から顔を覗かせる。

「はあい」

一行が退散した後直ぐに、男が絶叫する声が夜の街に轟いた。

「あははは!いい気味だなぁ」

「ね~!」

アヴィとクロウは物陰に隠れてニマニマ笑う。

これで、全てが終わったんだとーーベンジャミンも安堵したような顔で笑っていた。
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