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第一章 毒娘、冒険者になる
29:どうやら固有職が故に拉致られたようです
しおりを挟むおっすオラ、ピーゾン!
王都に着くまであとちょっと、安全な旅かと思ってたら山賊に捕まっちまったみてーだ!
どうにかしねーとこのままじゃ売られちまうぞ! オラ、ワクワクして…………こねえよ!
何なんだよもうこの世界はよお!
スローライフも出来ず、危険な冒険者になって魔物と戦うはめになったってのに、今度は山賊に拉致られて奴隷になるだあ!?
固有職になってから私の人生、散々なんだけど!?
ああ、あの頃に戻りたい……ファストン村で暮らしたい……。
涙が出ちゃう。だって女の子だもん。か弱い十歳児だもん。
……いかん。現実逃避している場合じゃない。ともかくこの窮地を脱しないと。
敵にバレないよう、手首の紐を切り、猿轡を外し、足の紐も極小ナイフで切る。
気分はスパイ映画だ。
ゆっくりと袋から顔を出すと……どうやら敵は見えない位置にいるようだ。
ここは……洞穴か?
暗いから分かりづらいけど岩場にくりぬかれたような洞穴っぽい。
入口から奥までがカーブっぽくなってて見張りからは見られない。
最奥のここは荷物置き場なのか、色々と乱雑に置かれている中で私は転がされていたらしい。
ふと隣を見ると、同じような麻袋が二つ……。
(ポロリン! ポロリンいる!?)
小声で話しかけると「んー」とジタバタしたのは私の隣の袋。
よしよし、居てくれて良かったよ。今助けてやるかんね。
私は「静かにしてて」と言いながら袋の口を開けると、涙目のポロリンが顔を出した。
その救出されたお姫様顔ヤメロ。私王子役はイヤだ。
(ありがとうピーゾンさん! 何がどうなったの?)
(私たちは拉致られて売られそうになってるらしいよ。敵は離れたところにいるから五月蠅くしないでね)
(う、うん)
(とりあえずこっちの人も助けるから)
私は音を出さないようにもう一つの袋へと近づき袋を開ける。
中から顔を出したのは黒髪パッツンの綺麗な顔した女の子。
同じくらいの年齢っぽいから、やっぱりこの娘も固有職だから拉致られたんだろうか。
しかしその目に涙はない。
会話的に私たちより早くに拉致られたっぽいのに怖くなかったんだろうか。無表情なんだけど。
とりあえず静かにと言いながら猿轡を外した。
(ん……ありがと)
(私はピーゾン、こっちはポロリン。あなたも連れ去られたの?)
(ん)
首をカックンと前に倒す。口数少ないけど動きは大きい。
(ピーゾンさん、トンファーあった!)
(おっ、でかした。私の鉈は?)
(あったけどいるの?)
(いるよ!)
攻撃力ゼロだけど大事な鉈なんだよ! あってもなくても同じみたいに言うな!
ま、それはそうとトンファーがあったのは大きい。これでポロリンも戦えるしね。
どうやら奴ら……推定山賊は私たちの抱えてた荷物もまとめて持ってきた模様。
人と武器を同じ場所でまとめておくなんてゲーム以上に親切じゃないか。
洞穴にこの部屋くらいしかないのかもしれないけど。
さて、どうしよっか。
推定山賊を倒して逃げるしかないと思うんだけど、この場所が分からない。
山賊を倒せるかどうかも分からない。
もっと言えば『麻痺』が効くかどうか、だね。
効いちゃえばそれで終了だけどゴブリンみたいに100%効くって考えるのは危険だ。
一発で麻痺らない可能性の方がむしろ高いだろう。
私はポロリンの隣に立つ少女を見る。
(あなた、戦える?)
(んーん)
ブンブンと首を横に振る少女。
黒髪パッツンロングで無表情だから怖いんだよ。日本人形っぽくて。
しかし戦えないかー。固有職だと思われて拉致られたけど戦闘職じゃなかったってパターンかな?
いやホントは十歳に満たないって可能性もある。
待て、今はそんな事どうでもいい。
戦えないなら私とポロリンでどうにかするしかない。
(ちょっと探るからポロリン戦う準備だけしといて。静かにね)
(気を付けてね!)
(ん)
物置部屋と化している洞穴のくぼみから、少し顔を出して様子を伺う。
どうやらここが洞穴の一番奥らしい。
少しは外の光が入っているのを見るに大した広さじゃないようだ。
話し声がするのは洞穴の入口……二人か?
いや私たち二人を宿場町から拉致ったんならもっといるはずだ。
二人だけの山賊団なんかありえない。
もっと人数が居るとして、二人しか居ない今は脱出のチャンスなのかもしれない。
どうしよう。
仮に麻痺らせる事ができたとして、私に人間が攻撃できるのか……できそうだ。
麻痺が無理なら<衰弱毒>……殺せるのか? 分からん。
さすがに十年もこの世界で生きていれば前世の倫理観も薄れて来ている。
しかしいくら山賊相手とは言え、いくら正当防衛とは言え、私に人間を殺す事が出来るのか……。
この状況でそんな甘い事、言ってられないんだけどさ、心構えが足りない気がする。
私以上にポロリンが人間相手に殺せるとは思えない。
毒状態にしても二人からの攻撃を避け続けられるとは思えない。
必然、ポロリンの参戦が必須となる。
となると一か八かの麻痺頼み、もしくは隙を見て逃げるしかない。
……ポロリンと少女を連れて? 無理があるだろう。
どうしよう。
そうして悩んでいると外の山賊たちに変化があった。
「おっ、おつかれー」
「どうだった?」
「ダメだな、さすがにあの宿場にゃもう居ねえ」
「街道を歩いてるのもな。やっぱあいつが異常だよ、ガキが一人で歩くとか」
「これで固有職じゃなかったら笑い者だぜ」
「タイムアップだな。三匹で終了だ」
「あとは引き上げ準備だな」
山賊が五人合流! 計七人!
早いよ! もう少し時間をくれ!
いやもうこれはきついよ。
<毒霧>で麻痺が100%効くのを神に祈るしかない。
て言うかあの娘は街道を一人で歩いてたの?
それで戦えないって? 自殺志願者かな?
もうなんか助けなくていいような気がしてきた……。
「んじゃもう片付け準備はじめるか」
「うぃーっす」
「ガキどもが起きてるならもう一度睡眠薬嗅がせとけ。騒がれるとめんどうだ」
そう言いながら山賊たちはゾロゾロと洞穴の中に入って来た。
やばいやばいやばい!
どうする私! やるなら先手必勝か!?
<毒霧>は怖い。でも<毒弾>で一人ずつやるのは無理だ。自爆ったらポロリン頼み。
徐々に近づく山賊。
私が見える位置に来るまであと少し。
右手から<麻痺毒>の<毒霧>を撃てるよう準備。
心臓がバクバク言い出した。
――と、その時。
「うわあっ!!!」
「な、何だ! うおおおっ!!」
「誰だ! なんだこの糸!」
……え? なんか山賊どもが騒ぎ出した。
ちらりと見れば、山賊が七人まとめて白い糸で拘束されていくのが分かる。
まるで糸が意思を持っているかのように、手足と口に巻き付いて行く。
訳が分からず、私は少し前に出た。
「おっ! 居たか! 遅くなって悪ぃな!」
私の姿を目にしてそう言ったのは、山賊たちの向こう側に居る人物。
森の茂みの中からガサガサと現れた、無精ひげを生やした冴えない三〇代の男。
指先からは山賊へと繋がれた幾本もの糸が出ているように見える。
その風貌は見るからに変質者。
「おっさん!」
「おっさんじゃねーよ!」
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