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第二章 毒娘、王都デビューする
48:新人だって自ら死地に飛び込む時もあります
しおりを挟む結局、神殿に行くのは諦めた。神殿の前に人が多すぎるんだもん。
何よあの【七色の聖女】の人気は!
あんな群がるんなら治療院とかでやればいいでしょうが!
大通り沿いでわざわざ治療なんかするんじゃない!
と、そんな事をぶつくさ言いつつ、結局その日は冒険者ギルドに戻り、資料室でお勉強したりした。
主にネルトのね。特訓しながら私やポロリンも色々と教えているけど、やっぱり基本的な情報は資料室の方がちゃんと勉強できるし。
ちなみに新人御用達の戦闘講習については受けない事にした。
私とポロリンはオーフェンで受けたけど、感想としては受ける必要もないかなと。
特にネルトの場合、戦闘方法が<念力>になるわけで、やたら衆目の場で見せたくないという事情もある。
「講習受けるよりもピーゾンさんに戦い方教えて貰ったほうが絶対に役にたちますよ」
そう、ポロリンが言ってくれる。受けた人間による経験談だね。まぁ私もそう思うが。
そんな感じでネルトが登録してから四日目。
今日も今日とて南の森で特訓です。ついでに採取と討伐依頼の予定。いつもの感じ。
で、行ってみたんだけどね。訓練場にオークが居てさ。まぁ倒したんだけど。
「なんかここ数日で多く見ますね」
「お肉美味しいからうれしい」
「んー、最初に見かけたのは三日前だっけ? なんかだんだんと森の浅い方に進出して来てる印象だね」
「ですよね。もっと奥じゃないと見ませんでしたし……」
これはひょっとすると集落的なものが出来ているんじゃないのか。
そんな疑念が私とポロリンの脳裏に浮かぶ。
ネルトは分からん。頭の中はオーク肉でいっぱいだろう。旨いから。
さてどうしようかと相談開始。
本来ならギルドに報告するべきなんだろうけど、倒せる規模であれば私たちで倒してしまいたい。
経験値的にもお金的にも味的にも美味しいからね。
とは言えオークは単体でDランク。集落の規模によってはCランク以上にもなる。
一方こちとらEランク二人とFランク一人だからね。
戦うなんてとんでもないと、普通なら考える。
しかしなー、ワイバーンくんがBランクだったわけだし、今さらそこまでランクを気にしてもしょうがないと思うわけですよ。
反対に私一人ならともかく、ポロリンとネルトを危険な目にも合わせたくないとも思うが。
二人はどう思うかね?
「どうする? 集落を探して叩くか、素直にギルドに報告するか」
「うーん、集落だったら迅速に殲滅するのが冒険者の義務だとは思いますけど……」
「食べたい」
協議の結果、とりあえず集落を探してみて、見つかったらその規模で決めるという事になった。
受けた採取依頼とかは道中でもう終わってるし、あとは特訓に時間をかけるつもりだったからね。
訓練場に居たオーク三体の足跡を辿って森の奥へと進む。
ここら辺だとEランクの嫌われ者ことブラックウルフとかDランクのイノシシことファングボアが出て来る。
が、どうやら今日は居ないらしい。オークを前に逃げ出したか食われたか。
そんな事を考えつつ慎重に進む事しばし、案の定オークの集落を発見した。
なんでこんな王都の近くに集落が出来てるのに今まで気付かれなかったのか……と思ったが場所的には新人冒険者たちの探索する森の浅い所と、中堅冒険者の探索する奥地の中間といったところだ。
非常に中途半端で微妙に分かりづらい位置とも言える。
で、木陰に身を潜めたまま、遠目にその集落を眺める。
「「「うわぁ……」」」
珍しくネルトまでもが感情を露わにしている。それくらいの光景だと思って頂きたい。
想像していたより集落の規模が大きい。というか『村』だねこれ。
家と言っていいのか木材や枝葉を積み上げて建てられたものがいくつかある。
そして絶対に家に入りきらないだろうオークの群れ。
目測で三〇体くらい? もしかすると四〇体いくかもしれん。
「ネルト、あの家とか<グリッド>で見られる? 何体いるか分かる?」
「んーん、届かない」
「ど、どうしますピーゾンさん、これBランクとかAランクの案件だと思うんですけど」
だよねー。私もそう思うよ。
はっきり言って私たち三人じゃ荷が重い。
私は避け続けられても、確実に抜けが出るし、ポロリンとネルトが複数のオークと同時に戦うはめになる。
全部のオークに<麻痺毒>を投げた所で、ゴブリンじゃあるまいし100%毒るわけじゃない。
それはここ数日戦ってみて分かっている。
この集落の情報だけでも持って帰れば貢献ポイントものだろう。
ただこれだけオークが増えるってのは何かしら原因があるだろうし、例えば連れ去られた女性が現在進行形で犯され続け、産み続けてるとすれば一刻も早くって思っちゃうんだよね。
冒険者としては失格なんだろうけど、女としては度し難いって言うか、やっぱこれも前世知識の影響なのかもしれない。
一個人の安否を大切にしたり性犯罪に対する嫌悪感みたいなところで。
とは言え私だって怪我も死ぬのも犯されるのも怖いし、それ以上にポロリンとネルトがそんな目に会うと思うと怖いもんで悩んでるんです。
すぐに引き返すか、ある程度偵察してから引き返すか、一か八か殲滅するか……どうしようかと三人で相談していたところで、オークの別部隊が集落に戻って来た。
うわ、まだ増えるのか……と思ったが注目すべきはそこじゃない、とすぐに気付いた。
「ピーゾンさん! あれ!」
「なんか担いでる……女の人?」
「うん……! 助けるよ! もう全部倒すから!」
「う、うん!」「ん……!」
失神しているであろう冒険者の女性がオークの肩に担がれ運ばれている。そのオークの周りには三体。
計四体のオークとの戦闘でやられたのだろうか。
向かう先はボロい家だ。あそこに運ばれればおそらく苗床コース一直線。
あの女の人は死ぬ以上に辛い目に会うだろうし、この集落の規模が短期間で拡大するのは間違いない。
もうギルドに報告している暇なんてない。
私は今ここで殲滅する事に決めた。
Dランクのオークが約四〇体。私たちに出来ることなんて限られている。
特に二人には荷が重すぎる。
ポロリンは<挑発>から一~二体同時に相手するのが限界だろうか。
ネルトは<念力>で盾を作るのと敵の邪魔をする事くらいだろう。多分オークの巨体を投げられはしない。
必然的に私の負担が大きくなる。それは構わない。
まずは三日前に覚えたばかりの<毒雨>で広範囲を麻痺らせる。
<麻痺毒>の<毒雨>は消費MP12だ。そればかり使ってたらガス欠になる。
おまけにオークを麻痺らせる確率は約五割。一回だけでは絶対に″抜け″が出る。
麻痺らなかったオークは魔剣で処理するか、ポロリンが<挑発>する。
ポロリン側に行ったオークはネルトの盾を併用しつつ、トンファーで撲殺してもらう。
「――って流れになるよ」
「ん」「りょ、了解っ!」
「悪いけど気構えをさせてる時間もないよ、あの女の人が危ない。ポロリンは麻痺らなかったヤツを選別して<挑発>していって。ネルトは基本防御、可能ならポロリンの相手をフォローしてあげて。MPポーションは全部渡すよ」
「ん」「了解っ」
「んじゃいこうか! 【輝く礁域】作戦開始!」
「「おお!」」
♦
突然の黄色い豪雨。
私の<毒雨>から始まる突撃は、最初こそ気付かれなかったものの、たちまちオークの集落中に知られる事となった。
なるべくオークが集まっている所にダッシュで近づき、再度<毒雨>による広範囲麻痺。
そのまま私が突貫するともれなく私も麻痺るので要注意。しゃれにならん。
とは言え、麻痺らなかったオークも居るわけで、そいつらは棍棒を振り上げ私に迫って来る。
「<挑発>!」
目の前のオークが急に方向を変えてポロリンへ。ナイスセクシー。あいつは二人に任せよう。
他にも麻痺らなかったオークが向かって来る。
そいつらは回避からの魔剣一閃。首か足かザクッとやる。動けなくなればそれでいい。
何体か集まっているなら<毒霧><毒弾>でまた麻痺狙い。
なんとなくだけど毒弾>毒霧>毒雨って感じで麻痺らせやすい気がする。範囲が広がると効きにくいような。
そんな事を考えながらも魔剣を振り続ける。
「<念力>」
「ありがとうネルトさん! そっちの一体お願い!」
「ん! でももうMP半分」
「了解! なんとか早めに倒すよ!」
二人はなんとか保っている。
ポロリンは私と特訓してたからアレだけど、ネルトが思いの外連携を意識してくれている。
たった三日程度の特訓だったけど、その間にオーク数体とも戦えたのが大きいかもしれない。
ボーッとしてるから心配してたけど頭が良いし、恐怖に竦むこともない。
この子は予想外にいい拾い物だわ。食費はかかるけど。
ポロリンもDランクのオーク相手によくやってる。
オークは肉厚だから防御力高いし打撃も決して有効じゃないけど、防御主体からのカウンターで良いダメージを与えている。
その代わり時間はかかってるみたいだけど連撃で補っているようだ。
何気に<トンファーキック>のノックバックが有り難い。
ポロリンも今頃そう思っているんじゃないだろうか。
そうして何体も何体も斬り捨てていく。
攫われていた女の人も住処に運ばれる前に確保できた。
まぁ確保って言っても周りのオークを麻痺らせただけで、女の人も<毒雨>に巻き込まれて麻痺ってると思うんだけどね。
失神しているからよく分からん。
とりあえず近くの地面に寝たままだ。あとで治すから許して欲しい。
――バコオン!!!
突然聞こえたその音は一番大きな家(?)からのものだ。
慌てて見れば入口と思われる扉が内側から吹き飛ばされている。
そしてそこからヌゥと現れる巨体。
「でかっ! 何あれ!」
「わ、分かんないよ! ハイオークか、もしかするとオークキングかも!」
「お肉いっぱい」
あいつがボスか! あんなのが居たからこれだけオークが集まってたのか!
しかしヤバイな。
オークもまだ何体か残ってるのに……。
「ポロリン、ネルト! 女の人を守るように陣取って! オークから守って!」
「ん!」
「ピーゾンさんは!?」
「私はボスを頂くよ! 終わったら援護に行く!」
そう言い残して、私はボスに突貫した。
魔剣を肩に乗せ、ダッシュでボスに近づく。
途中に居るオークは<毒弾>でとりあえず撃っておく。
これで麻痺らなければポロリンの<挑発>に任せよう。
「ブルルルルアアアアアッッッ!!!」
ボスが咆哮を上げ、こちらを睨む。
身の丈二~三メートル、右手には刃こぼれした特大剣。
何の動物の皮だか分からないがレザーアーマーのようなものを身に纏う。
噴き出すように立ち上るのは怒気か殺気か覇気か。
少なくとも十歳の女の子が戦う相手じゃないな、と自嘲する。
「はんっ! 上等っ!」
それでも私は前に出るよ。廃人ゲーマー時代からそういうスタイルなもんでね!
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