ぽぽぽぽいぞなぁ!~物騒すぎるジョブになっちゃったので、私、スローライフは諦めます~

藤原キリオ

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第五章 毒娘たち、注目の的になる

119:社会人としてホウレンソウは大事だという事です

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■ダンデリーナ・フォン・ジオボルト 【サシミタンポポ】 11歳


 ソプラノ様が加入し、我々【輝く礁域グロウラグーン】はより力強くなったと言えるでしょう。

 回復役ヒーラーの存在はわたくし達に安心感をもたらせ、同時にバフによる効果は凄まじく、目に見えて分かる能力の向上を生み出しています。

 これが【泡姫】という固有職ユニークジョブならではの上昇率なのか、一般的な付与士バッファーの上昇率なのかは分かりません。

 しかしながらご本人の努力の賜物である事には違いなく、回復とバフを自在に操るソプラノ様には頭の下がる思いです。


 六人での連携の訓練というものは、隊列や戦術の確認といった事がほとんどで、『禁域』で間引きしつつ実戦による慣れと確認、改善を主に行っています。

 南の森の訓練場――森の中の拓けた場所が穴場でわたくし達専用の訓練場となっています――で連携の訓練をするまでもないという事ですね。

 六人がパーティーとして戦闘訓練した場合、敵戦力に不足がありますし。
 森の奥の方まで行って、せいぜいオークが出る程度ですから。


 そういったわけで、もっぱら南の森を使う時は個人訓練が主目的となります。
 今日『禁域』には行かず、ここに来ているのも、まさにそれ。

 特にソプラノ様に防御の術を身に付けさせたいというのがピーゾン様のご意向です。
 パーティーリーダーとしてメンバーの身の安全を第一にという考え。素晴らしいですね。さすがはピーゾン様です。


 ソプラノ様は【七色の聖女】として民からも慕われ、神殿からも手厚く保護される存在です。
 それが故に戦闘でも必ず誰かに守られる最後衛というのが基本ポジション。
 敵からの攻撃を受ける事などなかったと言います。

 しかし自衛手段は持っておくに越したことはない。
 ただでさえ我々は『禁域』に潜り、強い魔物との複数戦闘を行っているのです。

 何が起こるか分からない。万が一にも回復役ヒーラーであるソプラノ様が倒れるような事があってはならない。
 ソプラノ様もそれを納得した上でこうして特訓に励んでいるのです。


「まだまだ行きますわよぉ!」

「はっ! くっ……!」

「はい止めー、ちょっと集中切れてきたね。そこは受けるより躱すべきだったよ」

「そうですね……体勢が崩れてしまいました」

「でも、ワタクシの動きは見れるようになってきましたわね」


 今はサフィー様の攻撃を杖で防ぐという練習です。ピーゾン様も見守っています。
 サフィー様の動きは本当に速い。敏捷値だけで言えばピーゾン様やわたくしより速いです。

 それを目で追えるだけでも進歩なのですが、瞬時の状況判断というのはやはり難しい。
 こればかりは訓練あるのみです。


 杖の防御に関してはネルト様にも教えて頂いているようです。
 ネルト様もソプラノ様と同じく、杖での攻撃はせず防御の訓練のみをずっと行っていますからね。
 防御だけで言えばわたくしやサフィー様よりもお上手だと思います。

 初めて戦闘訓練をしてからずっと、ピーゾン様のご指導を受けていらっしゃるのですから当然とも言えますが。

 それはポロリン様にも言えますが、わたくしたちのように下手に経験を積んでいない分、真っ白な状態で一番初めに教わったのがピーゾン様、というのが大きいのだと思います。

 こう言ってしまうと何ですが、ピーゾン様の教え方や実際の戦闘技術は、騎士団や熟練冒険者の方よりも上ではないかと。
 わたくしは最初に指導を受けた時にそう感じました。


 サフィー様は未だにポロリン様とネルト様の防御を崩せませんし、わたくしも二刀でやっとネルト様に勝てるというレベル。
 ピーゾン様に至ってはわたくしが挑んだ所で『ゴブリンとドラゴン』でしょう。何も出来ずに負けます。
 ポロリン様の防御を崩し、ちゃんと指導出来るのはピーゾン様しかおりません。


 こうして模擬戦での特訓を繰り返していると、己の未熟さを痛感し、同時に成長する見込みが自分でも見える。
 ピーゾン様に鍛えられ皆が戦闘強者となりつつあるこのパーティー、この環境はやはり得難いものだと思うのです。


「リーナ、また手だけで振ってるよー」

「はい」

「今のは右足の踏み込みをもう半歩前へ。そこから腰の捻転を意識して振るようにね」

「なるほど……はっ! こうですか?」

「そうそう。一拍遅らせる勇気だよ。その一拍で包丁に体重が乗るから」

「はい、ありがとうございます」


 なんと細かい戦闘技術なのでしょう。しかし実践すればそれが正しいと分かる。
 本当にピーゾン様の聡明さには驚かされます。

 ……いずれ騎士団のご指導もお願い出来ませんでしょうか?



■サフィー・フォン・ストライド 【スタイリッシュ忍者】 11歳


「んー」


 ホームへと戻った我々は順番にお風呂に入ります。
 順番はポロリンさんが最初という以外、特に決まってはいませんが、ワタクシは後の方になる事が多いですわね。

 ポロリンさんに関してはピーゾンさんが「ポロリンが最初じゃなきゃダメ」と言うので固定しております。
 おそらく夕食の支度をポロリンさんにお願いしているから、その準備の為にも先に、という事なのでしょう。


 お風呂の順番待ちの間、装備の点検などを行いますが、今日はお手紙が届いていたらしく、セラさんからそれを受け取ったネルトさんが読むなり難しい表情をされていました。


「どうしましたの?」

「んー、なんて書いて返せばいいか分かんない」


 ネルトさんはフォルタムという割と王都に近い街の出身だそうです。そこの起神殿に併設された孤児院にいらっしゃったと。
 お手紙はネルトさんの親代わりであったシスターからのようです。


 何回かお手紙のやりとりを行っているのは知っています。多くはありませんが。
 ネルトさんも自分のお小遣いを貯めて、孤児院への寄進としているそうです。

 そういった話をお聞きすると、貴族としてぬくぬくと育った自分が恥ずかしくなりますわ。
 親を知らず、貧しい暮らしをし、未来に不安を持ったまま生活している。ネルトさんも以前はそんな日々だったと言います。

 ワタクシも貴族の端くれとして色々と考えされますわね。


 で、そのシスターからのお手紙が何事かと。
「ん」と渡された手紙を読ませて頂くと、なるほどシスターがネルトさんを心配なさっているのがよく分かる暖かい文面です。

 そこから窺えるのは『心配』なのですが、どうもネルトさんからのお手紙による情報が少なすぎて『何がどうなって冒険者となって、どのようにして生活できているのか分からないから心配』といったニュアンス。

 さらにネルトさんが寄進としてお送りしたのが大金だった為、どのように工面したのか、まさか良からぬ事をしているのでは、とそれも心配なようです。


「なるほど。これに対しネルトさんはどう返信すべきかで悩んでいると」

「ん。質問が多すぎる。まとめらんない」


 ネルトさん、頭は非常によろしいのですけど、考えた事を表に出すのは苦手ですものね。
 喋るのも書くのも最小限。我々は慣れた部分もありますが、確かに伝わりづらい所もあるのでしょう。


「でしたらワタクシが代筆いたしましょうか?」

「ん? いいの?」

「ええ、お安い御用ですわ! シスターが安心なさるよう、ネルトさんの生活の全てをしたためて差し上げます!」

「おお、さすがサフィー、頼りになる」

「そうでしょう、そうでしょうとも! オーーッホッホッホ!」


 そうしてワタクシは筆をとりました。
 冒険者になった経緯はピーゾンさんにお聞きしていますので、そのまま書けばよろしいでしょう。

 それから冒険者としての日々の生活。新人らしく毎日、特訓と依頼をこなすと。
 極めて健全かつ、模範的な新人冒険者と言えます。

 話に聞いたオークの集落殲滅、そしてワタクシたちとの出会いがあったロックリザード戦。

 まぁネルトさんがロックリザードと戦ったわけではありませんが、多少の脚色は止む無し。頑張ってますよと知らせるべきです。


 最近の事も書いておかないといけませんわね。やはり『禁域』の氾濫は知らせておくべきです。

 上級ダンジョン『禁域』の恐ろしさ、エビルクラーケンというSランクの魔物との死闘、それに立ち向かう我々【輝く礁域グロウラグーン】の活躍ぶり。

 ここまで書けば誰が読んでも「ああ、ネルトさんは冒険者として真面目に頑張っていますのね」となるはずです。

 最後に代筆としてワタクシの名前を……これで良いでしょう。


「出来ましたわよ、ネルトさん!」

「おお、すごい、三枚も」

「つい興が乗ってボリューミーになりましたわね。さてこれを封筒に入れてまとめたい所ですが、封蝋するにしても印璽が困りましたわね」


 印璽はストライド公爵家の家紋が刻印されたものですが、さすがに保管は実家ですし、お爺様の了承を得ずに使うわけにも参りません。

 どなたか代わりになるような印璽をお持ちの方は……。


「では、わたくしのをお使い下さい」

「まぁ、よろしいんですの? リーナさん」

「ええ、王家の刻印でもないですし、あくまでわたくし個人の紋様になっています。個人的に使っているものですのでご心配なく」

「そういう事でしたらお借りしますわ。念のため、その旨もお手紙に書いておきましょう。万が一王家のものと誤解されると困りますし」

「ん。ありがと、リーナも」


 ではこれを商業ギルドへ持って行って、送ってもらえばよろしいですわね。
 ふ~、いい仕事しましたわ~。



■■■


「シ、シスターあああああ!!!」

「どうしました!? そんなに慌てて!」

「こ、これを! この手紙がっ!」


 ネルトの手紙(サフィー代筆、リーナ印璽)は王都の商業ギルドからフォルタムの街の商業ギルドへと送られた。

 しかし王都の時点でギルドは騒然となっていたのだ。

 ダンデリーナが数年前にお披露目となったのはこの王都であり、その際にダンデリーナ個人を表す『紋』も披露されたのだから。


 もっともその『紋』をダンデリーナが使用する機会などほとんどないのだが、商業ギルドとしてはちゃんと記録しておく必要がある。

 もしどこかの商会が家紋を登録する際に、ダンデリーナの『紋』と酷似していた場合、国から目を付けられるのは必至。

 処罰が下るとすればその商会だけでなく管理しているギルドにまで及ぶかもしれない。
 ダンデリーナという存在は王国においてアンタッチャブル。

 だからこそ、特にダンデリーナの『紋』に関してはギルド職員が覚えていないという事などありえない。


 もちろん王都の商業ギルドは【輝く礁域グロウラグーン】をよく知っている。
 話題性という意味では今や王都でも一番と言って良いだろう冒険者パーティー。
 見た目は奇妙奇天烈ながら、そのメンバーも戦績も極めて異常な六人だ。

 だからこそネルトの手紙も普通に受け取ったし、そこにダンデリーナの印璽があっても不思議とは思わない。

 かと言ってダンデリーナの印璽の打たれた封筒を、通常の手紙配達と同じに扱うわけにもいかない。

 必然的に仰々しくなり、それはフォルタムの商業ギルドにも「絶対に扱いを間違えるなよ? ダンデリーナ殿下の印璽入ってるからな?」と半ば脅しにも思える伝達となったのだ。


 それは孤児院へと渡される際も同じ。商業ギルドの支部長がわざわざ一通の封筒を持って孤児院を訪れた。


「ネルト様と仰る方からのお手紙ですが、ダンデリーナ第七王女殿下の印璽が押されておりまして、こうして丁重にお持ちした次第です」と。


 渡された孤児院側もパニックである。
 ネルトからの手紙は数回来ているが、なんで今回はこんな事になっているのか。

 もしかしたらネルトが国の厄介になるような目に遭っているのかもしれない。
 考えれば考えるほど、嫌な予感ばかり浮かんでくる。
 訳が分からないまま、シスター他、孤児院関係者は全員集合で輪になってその手紙を読んだ。


「これは……代筆ですか。ネルトさんの代わりに説明をと?」

「代筆者は、サフィー・フォン・ストライド……貴族様!?」

「あ! ストライドってまさか……裏公爵家の!?」

『公爵家!?』


 字体も違う、文面も違う、明らかにネルトの書いた手紙ではないと早々に代筆者の名前を見たが、そこに書いてあったのはサフィーの名前。

 公爵家と言えば宰相として名高い表公爵家のベーラム家であるが、だからと言ってストライド家が誰にも知られていないわけがない。
 フォルタムの街の孤児院でも知っている者は存在した。


 そして知っていたからこそ、余計にパニックになる。
 王女様の次は公爵家が出てきた。
 一体何がどうなっているのかと。


 とにかく手紙を読むしかない。そう至った面々は不安な気持ちを押し殺し、静かに読み進める。
 三枚の紙にびっしりと書かれた、ネルトのこれまでと現状。


「山賊に拉致された? それを助けてくれたのが今のパーティーのメンバーですって?」

「冒険者となって数日でオーク四十体の集落を潰す? そのすぐ後にロックリザード?」

「えっ、ダンデリーナ殿下とサフィー様という公爵令嬢様が同じパーティーなのですか!?」

「シスター! 以前のお手紙で『リーナとサフィー』と書いてあります! それがその……!」

「ちょっと待って下さい! 『禁域』の氾濫ですって!?」

「その主を倒したのもネルトさんのパーティーなのですか……? エ、エビルクラーケン? Sランク?」

「……そして今度は【七色の聖女】様も同じパーティーに……はぁ」


 一通り読み終わった後の面々は頭を抱えてぐったりしていた。

 とても信じられる内容ではない。しかし信じなければサフィーの代筆も、ダンデリーナの印璽も認めない事になってしまう。


 固有職ユニークジョブを授かり、王都の職業専門学校に入学する為に王都へと向かったはずだった。
 それが全く想像しない展開を迎えている。

 毎日が戦いの日々、死と隣り合わせの仕事、周りには王侯貴族。
 考えようによっては孤児院よりも辛い生活だ。


 はたして送り出した事は正しかったのか、そんなふうに自問自答してしまうシスターであった。


「ネルトさん……強く生きて下さい。私たちには祈る事しか出来ません……」


 集まった面々は、その場で神に祈りを捧げたと言う。


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