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最終章 毒娘、故郷の為に戦う
126:オーフェンに着きましたが何やら大変そうです
しおりを挟む「ピーゾン殿! 殿下!」
オーフェンに着く前、先触れに出していた近衛騎士の馬が急いで戻って来た。そして私たちを呼ぶ。
近衛騎士さんはホームの門番をしてもらっている関係で、パーティーの決定権が私にあると知っている。
だから近衛騎士として当然リーナにも声を掛けるが、私に、という事だ。
で、この状況で私に言ってくるとは何事だと訝しんだ。
近衛騎士さんは馬を窓に横付けして言ってくる。
「南門の外に魔物の群れがいくつか迫っているとの事です! 今は防衛戦力の冒険者が対応に回っていると!」
絶句。私たちが向かっている北門はそれほどの脅威はなさそうに見える。だから油断した。
やっぱり厳しいのは南側。そしてタイミングが悪く絶賛襲撃中だと。
「なっ……! わたくしたちも参りましょう! ピーゾンさん!」
リーナは当然そう言う。
オーフェンの状況が分からない。領主館へ行くべきか、ギルドへ行くべきか、それとも救援に行くべきか。
一瞬躊躇ったが、それでも救援に向かうと決めた。
「うん! 騎士さん、北門突っ切って、大通りを真っすぐ南門まで、行けます!?」
「先んじて北門の衛兵に言ってきます!」
また近衛騎士さんは馬を走らせていった。馬車の御者さんも馬を早める。
私たちは馬車の中ですぐに戦闘出来る準備をしつつ、動きは近衛騎士さんに任せるしかない。
窓から様子を窺いつつオーフェンに迫れば、北門の衛兵さんが「道を空けろー!」と声を張り上げている。
人払いに忙しそうで、こちらにも最低限の敬礼のみで馬車を通してくれた。
大通りに入れば馬車の前を近衛騎士さんが声を上げて、進ませてくれる。
しかし、ただでさえ人通りの多いオーフェンの中心を走る大通り。
襲撃を受けたのも住民に知れ渡っているのか慌てているような人が多い。
かと言って全員が避難というわけでもない、何とも中途半端な印象を受けた。
広いオーフェンを北から南まで抜けるには時間が掛かる。
馬車も全力で走れるわけでもないので降りてダッシュしたい気持ちに駆られる。
そうして南門が見えると、そこは衛兵や冒険者、王都から派遣されたのだろう騎士団の姿も見える。
「ジェイクス小隊長! 開けてくれ! 我々が前に出る!」
「ファイネル殿!? ハ、ハッ! 只今ッ!」
ファイネルというのは今、私たちの馬車の先導をしている近衛騎士さんだ。
相手は騎士団の小隊長さんだろう。近衛騎士の方がどうやら立場が上らしい。
ジェイクス小隊長は慌てて馬車の通り道を開けてくれる。かなり無理矢理だ。
そこを縫うように近衛騎士と馬車は人垣の前へ。
馬車はそこで止まり、合わせて私たちも飛び降りる。
……が、戦闘の気配はない。襲撃を受けてるんじゃないの?
「状況を!」とファイネルさんが再度小隊長に問いかけた。
「ハッ! 黒狼王二体とブラックウルフ二〇体ほどの群れが付近で目撃された為、迎撃体勢をとっておりました! 場所はここより南西の森! 今はB級パーティーの【蜘蛛糸の綱】が調査及び討伐に向かっています!」
B級パーティー一組だけ!? 黒狼王とブラックウルフって『はじまりの試練』のダンジョンボスじゃん! しかも数が倍だし!
って言うか【蜘蛛糸の綱】って私たちが『はじまりの試練』のボス前で会ったパーティーじゃない!?
王都から援軍に来た冒険者パーティーってあの人たちだったの!?
っと、こうしちゃいられないね。
「私たちも行くよ!」
『はいっ!』
「ファイネルさん! ここで守りを固めるのと事情説明、情報収集をお願いします!」
「分かりました! ご武運を!」
簡礼をする近衛騎士の四人と、それを見て「何者だ?」となっている人が多数。
そんな事はお構いなしに走り出す。
「ネルト、<ホークアイ>! サフィー、索敵よろしく!」
「ん!」「お任せ下さいまし!」
敵は森の中だから<ホークアイ>は意味ないかもしれないけど、もし拓けている場所だったら見つけられる。
って期待してみたけど、やっぱ無理っぽい。
私たちは小隊長に示された南西方向に進みつつ、サフィーの<忍びの直感>、私の<気配察知>を使いつつ急いだ。
ポロリンと二人でよく探索に来た森の中。
その時の事を思い出しながら、その時とはまるで違う状況に気持ちは落ち着かない。
やがて察知が反応する前に、狼の声と戦闘音が聞こえて来た。
どうやら間に合ったらしい。邪魔かもしんないけど乱入させてもらうよ!
「攻勢陣形3-1! ソプラノは【蜘蛛糸の綱】の回復優先! ポロリン、後ろは任せるよ!」
『はいっ!』
とった戦術はポロリンに後衛二人を守ってもらい正面へ。私とリーナ、サフィーの敏捷トリオで遊撃的に動きながらの攻撃。
私たちの中でも特に攻撃に特化した布陣だ。
というわけで遊撃の三人は速度を上げて近づく。
「なっ!? 【輝く礁域】!?」
「加勢します!」
「すまない、助かる!」
パーティーリーダーのワイルドな赤髪の女性に声をかけつつ、黒狼王に斬りかかった。
様子を見るに、【蜘蛛糸の綱】は二名が負傷。これはソプラノに任せる。
ブラックウルフはかなり倒しているようだが、やはり黒狼王二体同時がつらいっぽい。
というか二名が負傷の時点でパーティーとしてはほとんど戦えないだろう。
よし、後は全部もらおう。
「リーナ、サフィー、雑魚の処理を!」
「「はいっ!」」
「ポロリーン! 聞こえるー!? 黒狼王、一体<挑発>で釣ってー!」
「分かりましたー!」
という事で、黒狼王のもう一体は私がさっさと終わらせるよ!
♦
「いや、すまない、助かった。援軍どころか回復までしてもらっちゃって……って言うか聖女様まで加入してたとは知らなかったけど……」
【蜘蛛糸の綱】のリーダー、大剣使いのクレアさんが頭を掻きながらそう言う。
どうやら発見・確認し、報告しに戻るだけのつもりが、黒狼王の鼻の良さに引っ掛かったのか、戦うはめになったようだ。
「『はじまりの試練』でさんざん戦ったから甘く見てたね。地上の黒狼王の方が全然厄介だ。しかも二体同時とか……」
「良かったですよ、間に合って」
「しっかし聞いてた以上に、とんでもなく強いね、あんたら。さすがSランクのエビルクラーケンを倒すだけあるわ」
「いや、あれ私たちだけで倒したわけじゃないですし」
どうやら王都のギルドではエビルクラーケンを倒した主役的な扱いにされているらしい。
おそらくストレイオさんたちやミルローゼさんたちが「あいつらヤバかった」って吹聴してるんだろう。
迷惑な話だ。
「で、あんたらも指名依頼かい?」
「私たちはDランクパーティーなんで本当なら受けられないんですけど、私とポロリンが地元なんで」
「そうだったのかい……いや、しかしDランクはないだろう? 実力的にはAランクじゃないか」
「ハハハ……まだ新人冒険者ですよ。十歳ですから」
「はぁ~、いやまぁ、いいけどさ。これ以上ない援軍だから」
そんな事を話しながらオーフェンへと帰った。
南門には未だ防衛戦力が詰めていたが、私たちが討伐した事を伝えると喜び半分、安堵半分といった感じ。
何となく不安な気持ちになる。これ戦力足りてないんじゃないの?
どうやら近衛騎士さんたちは派遣されて来た騎士団の人たちに説明をしたらしく、それを聞いた人たちは私たちが『王都から来た援軍の冒険者パーティーでダンデリーナ王女が混じっている』と知ったらしい。
あちこちから「あれがダンデリーナ王女か!」と声も聞こえるが、中には「まさかあれポロリンか!?」と気付く猛者も居る。
この格好のポロリンを見て気付くのはさすが地元だ。
そんな近衛騎士さんたちとも合流し、小隊長さんから聞いた情報を教えてもらった。
今の所、オーフェンに被害は出ていない。
今回のように魔物が迫って来ても発見次第、迎撃に当たっている。
それが抜けられたとしても街に侵入されないように外壁の門前に防衛陣を布いている。
正直、私が想像していた最悪の事態よりも全然良い状況だとホッとした。
しかし、日に日に魔物の数が増えている印象があり、三日前くらいからは日に一~二回程度、街の近くまで群れが迫る事態となっている。
それも今回のように時々Cランクの魔物が混じっていたりするので、対応できる者が限られてしまう。
「オーフェンにもBランクとかCランクのパーティーは居るはずですよね?」
私が戦闘講習を受けた人――たしかモブっぽい名前――が元Bランクって聞いたし、他にも居ないはずがない。
地方都市であるオーフェンにAランクが居るのかは知らないけど。
「そういった者や騎士団の一部もそうですが、他に回っているそうです」
「他とは?」
「どうやら色々と仕事量が多いらしく――」
オーフェン陣営がやらなければいけない事は以下の通り。
1、元凶と見られるガメオウ山の調査
2、オーフェン南部の村々の救援活動
3、その村からオーフェンへの避難民の誘導
4、オーフェン周辺の間引き
5、オーフェンの防衛
6、オーフェンに来た避難民の援助及び治安維持
このうち、オーフェンの衛兵団は5と6で手一杯。
王都から来た騎士団は2と3を行う班と5の班で分かれている。小隊長さんは5だね。
オーフェンに所属していた冒険者のうち、強い人たちは2に当てられる事が多い。
中堅クラスが4に当たり、残りの人が5に当たっているらしい。
やっぱ南門で陣を張っていた冒険者たちは弱いって事だね。
「王都で依頼を受けたパーティーはあたしら以外にも居るけど、1と2に当たっているね。あたしらはここに残って防衛のお手伝いだけど」
「それはオーフェンギルドの指示で?」
「そうそう。どうせ黒狼王の素材出しにいくんだろ? ついでに確認した方がいいんじゃないかい?」
この状況で買い取りなんかやっているのかと不安だが、一応剥ぎ取ってきたのだ。
どうせギルドには行かなきゃいけないので、出すだけ出してみようかな。
ただ先に領主館に行った方が良い気がする。
「クレアさん、私たち一度領主様の所にご挨拶にいかないといけないので、それからギルドに行くって伝えておいてもらえませんか?」
「領主様? ……ああ、そうか。そりゃそうだね。分かったよ、伝えておく」
クレアさんはリーナをチラリと見て「そういえば王女様だったわ」という顔をしていた。
この人、スタイル抜群でいかにも女戦士って感じなんだけど、脳筋っぽいんだよなー。
とりあえずクレアさんに頼んだので私たちはまた馬車に乗り込む。
徒歩で行ってもいいけど、どっちにしろ馬車は領主館に置いておく事になるだろうからね。
「ポロリンどうする? 何なら私たちだけで領主館に行ってもいいけど」
「あ、いえ、オーフェンに被害がないって聞きましたし、ボクも一緒に行きます。泊まりは実家にさせて貰えるんですよね? その時に話せばいいですし」
「とりあえずポロリンの宿泊は実家でいいんだけど、私たちがなぁ……本当はシェラちゃんに会いたいんだけど」
「来た時は泊まってくれって言ってましたからね。でも避難してきた方々が色んな宿屋を使ってるそうですよ?」
らしいんだよね。ついでに言えば【蜘蛛糸の綱】とか王都から来た連中も宿屋を使っているだろう。
シェラちゃんの宿屋(別にシェラちゃんが経営しているわけじゃないが名前は知らない)も満室の可能性が高い。
まぁ空いていてもリーナとかを連れて泊まれるかって話なんだけどね。貴族用の高級宿じゃないし。
領主様――アリアンテ・フォン・オーフェン女伯爵という人――も困るだろう。
しょうがないので、ポロリンが実家に帰る時に伝言でも頼もう。
全部終わって王都に帰る前に、また会えればいいかな。道具屋のおばちゃん(ポロリンママ)にも挨拶したいしね。
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