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最終章 毒娘、故郷の為に戦う
125:「輝く礁域」ですがスーコッドの街に着きました
しおりを挟む翌朝、さっさと朝食を頂き、領主館を出る。
近衛騎士さん四人も領主館に泊めてもらい、久しぶりに夜警をせずに眠れたようだ。
ベッカム侯爵さんは街の南門まで見送ると言ってきたが丁重にお断りした。
そんなわけで領主館前でのお別れです。
「大した持て成しも出来ず申し訳ありませんでした。どうぞ王都への凱旋の際にはまたお寄り下さい。ご武運をお祈り致します」
「ありがとうございましたベッカム様。その際は是非ともよろしくお願い致します」
そんな軽い挨拶だったが……果たしてオーフェンからの帰りに寄るのか? と考えてしまう。
出来ればオーフェンからネルトの<ロングジャンプ>で帰りたい。
しかし試していないから、それだけの距離が転移出来るのかという一抹の不安もある。
出来れば一気に王都に帰るし、出来なければ大人しく馬車旅だし……。
「ネルト、一応南門出たら<グリッド>でブックマークしておいてくれる?」
「ん」
「走ってる馬車の中からでも出来る? 止めてもらう?」
「だいじょぶ。透けるし」
「オーケー。んじゃ南門越えてちょっと行ったところでお願い」
「ん」
これで一応中継地点になるかな。オーフェンから一気に行ければ良し。ダメなら中継地点経由で帰れば良し。
まぁここから王都までの距離も試してないから本当は試したいんだけど……やたら試せないしなぁ。
ちなみに王都のブックマークは現在、ホームと西門と南の森の三か所。
南の森はいつもの特訓場所だ。
んで四か所目が『サルディ南』となったわけだね。
あとはスーコッドとオーフェンでもブックマークしてもらおう。あわよくばファストン村も。
……ファストン村、行けるかなぁ。
私たちはオーフェンのギルドへの援軍って名目だから、魔物増加の元凶と見られるガメオウ山――その近くにあるファストン村まで行けるかどうかは分からない。
もし【輝く礁域】としてオーフェンから動けない状況だったとして、さらにファストン村が危機的状況にあると知ったのなら、私は一人でも行くつもりではある。
そうなるとファストン村にブックマークどころではなくなるけど……そうならない事を祈るのみだ。
少し不安になる気持ちを晴らすように、六人でワーワー言いながら馬車は南へと進む。
サルディの街を出てから三度、宿場町で泊まり、翌日の昼過ぎにはスーコッドの街へと着く。
先触れを出していたおかげでスーコッドの北門にはグレイブ・フォン・スーコッド子爵自らがお出迎えという事もなく、衛兵団長が先んじて待っていてくれた。
領主館で待っていてくれという先触れは、こっちで色々と話し合った結果だ。
貴族の面子もあるだろうが、あんまり派手にされると息苦しいので。
まぁ街の人にとっては領主が案内しようが衛兵団長が案内しようが、どう見ても国章付きの巨大馬車なので王族なのは確定。
騒ぎになるのはしょうがない。そこは諦めている。
本当はブラリと街を見物しながら歩きたいんだけどね。屋台巡りとか。
ネルトも窓から屋台ばかり見ている。
まぁ今度<ロングジャンプ>で来ればいいじゃない、とまだ見ぬ未来に希望を抱いて慰めつつ、馬車は領主館へと到着。
別に爵位の高さが街の大きさと比例しているというわけではないそうだが、オーフェン>サルディ>スーコッドという規模なのは間違いない。都市>街>町って感じかな。スーコッドも″街″って名称だけど。
街の大きさや華やかさも差があるが、領主館も差があるように思う。
スーコッドの街の領主館は『貴族邸宅』よりも大きいとは思うが、貴族としての華やかさよりも質実剛健といった感じ。
領主の邸宅であるのと同時に街の政治の中枢でもあるのだから、役場的な役割もあるのだとは思うけど、まさしく『町役場』だ。
「ようこそおいで下さいました、ダンデリーナ殿下。お久しゅうございます」
「お久しぶりです、グレイブ様。この度はお世話になります」
グレイブ・フォン・スーコッド子爵は年配の方だ。髭は長く、枯れ木のような身体だが目力は強い印象。
でもリーナを見る目は好々爺といった感じ。
サフィー、ソプラノとも順々に挨拶を交わし、私も平民らしくリーダーとしてご挨拶した。
「いやはや、噂には聞いておりましたが……私も数々の冒険者を見て来ましたが、これほど類稀な冒険者パーティーというのも初めてです。殿下やサフィー嬢、聖女殿がいらっしゃるというメンバー構成もさることながら、全員が魔剣と高級魔装具ですか。これはすごい」
うわお、一見で分かるのか。魔剣とか鞘に入ってるんですけど!?
動物モフモフシリーズにしたって、これ見て魔装具だって分かる人居ないでしょ!?
……あ、もしかして<鑑定>持ち?
って言うか「類稀な」って表現は「珍妙な」のすごく良い言い回しだよね?
褒めてるのか微妙だよね?
と、そんな事もありつつ、サルディのベッカム侯爵ほどリーナにビビってないグレイブ子爵は、ごく普通に接してくる。ありがたい。
夕食やお風呂はサルディの方が豪華だったと思うけど、領主としてリーナを持て成すのには違いなく、私ら平民からすればどちらも貴族様って感じで素晴らしいものだ。
寝室もサルディの情報を得ていたのか、同じ感じ。リーナとサフィーが個室で。
夕食の席で、子爵にオーフェンの状況とかも聞いてみた。
サルディでも侯爵に聞いたけど、王都の情報とあまり変わりなかったんだよね。
魔物の増加に関しても、サルディ周辺で特に変化はないようだし。
でもよりオーフェンに近いスーコッドならば、と伺ってみたのだ。リーナを介して。
「この近郊でも変化は見られ始めました。通常ですと森の奥に居る魔物が街道まで出て来るといった事が、ここ数日起こっています」
「やはり南からですか?」
「はい。これから皆様が南下される際は街道であっても警戒が必要かと存じます」
拓けた街道に出て来る魔物なんて、それこそゴブリンが数体とか、角ウサギとか、森の縄張りを追い出されそうな弱い魔物ばかりだ。
ところが、本来森の奥に居る魔物まで街道に出て来ると。
魔物が増えて追い出されたのか、それとも他の原因か……いずれにせよ流通に大ダメージだよね。
そりゃ国が動くわけだ。
「スーコッドは緩やかな変化といった所ですが、オーフェンではより顕著に出ているようです」
「と言いますと?」
「魔物の群れがオーフェンの外壁付近まで現れるといった事が起き始めていると聞きます」
「群れが街まで!?」
「ええ、と言っても五~十体程度の小さな群れです。散発的ではありますが定期的でもあるらしく、それこそ冒険者や衛兵団で十分に対処できる状況だとは聞いておりますが……」
子爵の表情は険しくなる。
「状況は次第に悪くなるでしょう。当初オーフェン南部で確認された魔物の増加のペースに比べ、今聞き及んでいる増加ペースが早くなっているように感じます」
私たちが王都で聞いた情報。オーフェンで魔物が増えた、ガメオウ山が怪しい、と。
そこから王都に援軍を要請したわけだが、その時に比べても段々とその増加ペースが早まっていると子爵は感じているらしい。
それはスーコッド周辺の魔物の変化もそうだが、魔物の増加を確認した十数日前の時点で、オーフェンの冒険者ギルドも周辺の魔物討伐や原因究明を依頼したのだ。
通常以上に魔物を討伐しているというのに、減る事もなく、むしろスーコッドまで変化が出るに至っている。
それを受けて子爵は「異常で急激な増加量」「状況は悪化の一途」と見ている。
「まさか本当にスタンピードが……?」
「分かりません。しかし私の知るどのスタンピードとも違うようにも感じます。なんと言いますか、様々な魔物――ゴブリンやオークといった単種の魔物ではなく――が一斉に繁殖したような、そんな印象です」
「強者から逃れ縄張りを失った魔物が溢れている……というわけでもないと?」
「もしそうであれば街道に出て来る魔物の量はもっと急激に増えるでしょうし、恐慌状態ですからより好戦的・攻撃的になります。私にはそうとも見えません」
オークとかが人間の女を孕ませて異常繁殖した場合や、オークキングなどに率いられて大規模な集団を形成する場合も『スタンピード』と呼ぶが、そうなると『単一種族のスタンピード』となる。
聞けば、今回多く見られる魔物は、本当に色々な種類の魔物らしい。
それこそトレント系やゴーレム系、スライム系など、繁殖とは無関係の魔物まで、オーフェン周辺では確認されていると言う。
となればドラゴンとかがが縄張りにやって来て森を追い出された『スタンピード』という可能性もあるが、子爵はそれも違うと考えているようだ。
「何らかの原因で、単純に″数″が増えているのは確かです。繁殖なのかどこかから集まって来たのかは分かりませんが。そして増えた魔物はコップからこぼれる水のように――森という器から溢れ出ている、という感じでしょうか」
「そしてその″水″が溢れ続けている、と」
「加えて言えば、途切れる事なく、そして徐々に多くなっています」
蛇口を少しずつ回して、水の量を増やしているイメージをした。
とっくにコップの水は溢れている。それでも蛇口を開き続ける。
ここへ来てやっとと言うか、危機的状況なんだと明らかになった感じだ。
今まであやふやな情報で考える事すら出来なかったけど、具体的な事が聞けた。
より心配にはなったが、だからこそ焦らず、よく考えて行動しないといけない。
私は部屋でみんなにそう言った。
子爵からそういった話が聞けて良かった。泊まらせてもらって正解だ。
年季が入った領主様って感じで経験と色んな視点を持ってる感じ。
有能な貴族いるんだねー。いや、サルディの侯爵が無能ってわけじゃなくてね?
比べてるのはアレだから、ゴミ野郎の家とか魔剣狙ってきた家とかだから。
♦
翌日、気を引き締めてスーコッドを出発。
一応ネルトに<ロングジャンプ>のブックマークをしておいてもらう。
サフィーも『言葉運びの護符』で報告は入れているらしい。街に着く度に一応。
しかし一方通行なので向こうの要望とか聞けないし、本当に一応って感じ。
貴重な護符らしいし使うのも躊躇われるけど、国王が五月蠅そうだから報告しないわけにも……ね。
スーコッドからオーフェンまでの道中、宿場町を二つ通るが、普段は警備など居ない宿場町にも、依頼を受けたのであろう冒険者が立っていたりと物々しい雰囲気があった。
実際に私たちが街道を走っていても魔物が多いと感じる。
ゴブリンに混じってホブゴブリンが居たり、森の浅い所にも居ないはずのオークやファングボアが出てきたり。
まぁいずれも私たちが出るまでもなく近衛騎士が馬で突っ込んで行ったんだけど。
いや、近衛騎士さんね、普通に強いわ。さすが近衛だわ。
本当に私たちのホームの門番やらせておくには勿体ないよ。無駄遣いだよ。助かるけど。
発生源と見られる南に寄っているのもあるだろう。時間が経過しているというのもある。
この世界の情報伝達速度とか移動速度とか、そこら辺を考える事自体が間違いだけど、前世の知識を持ってる私だからこその焦燥感みたいなものがある。
ふぅ……ポロリンの事言えないね。
想定しうる事、その対処、どう動くか。ちゃんと考えておかないと。
私が精神年齢一番高いんだし。【輝く礁域】のリーダーなんだから。
そんな事を思いつつ、馬車は走る。
ポロリンの故郷、私のとっては出発点となる都市オーフェン。
――そのオーフェンは今、魔物の襲撃に遭っていた。
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