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最終章 毒娘、故郷の為に戦う
124:「輝く礁域」ですがサルディの街に着きました
しおりを挟む街道に出ると、この馬車の素晴らしさがよく分かる。
揺れが少ないし、座席が電車のシートっぽくクッション材と布地のカバーになっている為、非常に楽だ。
乗合馬車は木製の座席だったから野営用の毛布をクッション替わりにしてたけど、それでもムチ打ちになりそうだったからね。
さすが国王専用。もっと民に還元しろや。
時々街道まで出てくる魔物――ゴブリンとか――は馬に乗った近衛騎士が一蹴。馬上戦闘カッコイイ。
馬車の旅は暇な時間が多いから、魔物の襲撃もちょっとしたイベント扱いになっている。
時々、休憩で止まるのでそこを利用して私たちも身体を動かす。軽い模擬戦ですな。
「す、すごいな……話には聞いていたが……」
「これ、俺たち守る意味あるのか……?」
「私も稽古をつけてもらいたい……」
模擬戦のたびに近衛騎士さんたちはヒソヒソと話をしている。
混ざりたいなら混ざればいいと思うんだけどね。
まぁ混ざった結果、リーナに負けちゃったら面目丸潰れだろうけど。
馬が良いのか馬車が良いのか分からないが、速度も乗合馬車に比べて速いと思う。
しかし三日掛かる距離を二日で、とかやると宿場町に泊まれなくなるからやらないけど。
馬車に乗る時間が少なくなるのはありがたいもんだ。
宿場町に関しても以前のような大部屋ではなく、もちろん個室。
割高だろうが何だろうがリーナとサフィーが居る時点で個室以外はありえない。
「んー、私一緒がいい」
「全員個室になる必要ないよね。んじゃ私とネルトで一緒に寝ようか」
「でしたら私もご一緒します! みんなで仲良く寝ましょう!」
「んまぁ! そういう事でしたらワタクシもご一緒しますわ! これぞ冒険者パーティーって感じがしますし!」
「そうですね。でしたらわたくしもご一緒しましょう。わたくし達は冒険者として来ているのですから」
「えっ、ちょ、ボク――」
結局、個室は個室でも六人部屋になった。
パーティーでお泊りというのは野営しない私たちにとって初めての事だ。
みんなかなり浮かれている。
約一名、超絶美少女が嫌がっていたが多勢に無勢。有無を言わさず同部屋である。
さすがに身体を拭く時とかは出てもらったけどね。
しかしサフィーよ。これぞ冒険者パーティーって言ってたけど、宿場町で個室に泊まる冒険者なんてそれこそAランクパーティーとかしか居ないからね?
これ普通じゃないから。大部屋雑魚寝が当たり前だから。
六人が同じ部屋でお泊りという事で、パジャマパーティーっぽい女子会の雰囲気。
馬車に揺られ疲れているはずなのに夜更かしして喋っていた。
まぁ出て来る会話はコイバナとかではなく、戦闘やら食事やら今後の予定やら、何とも華のない内容だったけど。
ポロリンにしても同部屋で良かったかもしれない。
オーフェンの事が心配で塞ぎこむより、ワーワー話していた方が紛れるしね。
どうでもいいが、私とポロリンはこの宿場町の大部屋で固有職狩りに拉致られたのだ。
その話も一応しておいたが、誰一人警戒する事もなくワーワーやっていた。
うむ、元気でよろしい。
ちなみに近衛騎士の四名は別の部屋に泊まったが、馬車の見張りを交代して行っていたらしい。
そりゃ放置は出来ないか。ご苦労様です、本当に。
♦
翌日から街道をさらに南下。
オーフェンに着くまで十日。その途中に二つの街を経由するが、三日目にサルディの街、七日目にスーコッドの街で泊まる事になる。
その他は全て宿場町だ。
「サルディとかスーコッドに行ったらどうするの? 普通に宿屋ってわけにはいかないよね?」
いくら『冒険者としてオーフェンに』と言っても、この馬車で、近衛騎士に囲まれ、冒険者らしい宿屋に泊まる事など無理だろう。
馬車に国章が入ってるし、王族って一目で分かる。
街を治める貴族の人からすれば「ダンデリーナ殿下を市井の宿に泊まらせるなど!」ってなるだろうし。
「ご挨拶をして一泊させて頂くつもりです。すでに文は投げられているとは思いますが近くになりましたら近衛を先触れに出しましょう」
「ベッカム・フォン・サルディ侯爵とグレイブ・フォン・スーコッド子爵ですわね。アリアンテ・フォン・オーフェン女伯爵も含めて誠実な穏健派ばかり。南の街道は安泰ですわね」
「私も以前旅をした際にはお世話になりました」
ほう、どうやらまともな貴族っぽい。
って言うかオーフェンを治めてるのって女性の伯爵なのか。初めて知ったわ。すごいな。
ともかくサルディもスーコッドも泊まるには問題ないらしいので一安心。
私が気にする事じゃないけどね。こうなるともう王族と貴族の問題だし。
♦
「ダンデリーナ殿下! お待ち申し上げておりました! お越し下さいましてありがとうございます! サルディは歓迎致しますぞ! ささ、どうぞそのまま中へ! ――皆の者、道を開けよ! ダンデリーナ第七王女殿下のお通りである!」
……すごく問題だったわ。
サルディの街の北門に着いたら、衛兵団付きの侯爵がお出迎え。
リーナは馬車に乗ったまま挨拶してるんだけどさ、座り位置的に窓越し・私越しなんだよ。
すっごい気まずいよ。すいませんね、侯爵閣下。訳の分からん白ウサギが邪魔で。
そのまま侯爵と衛兵団に先導され、領主館へ向かう。
衛兵団は馬車を囲むようにして、通りを歩く人々を牽制している。万が一にも馬車の前に飛び出したりしないようにと。
馬車の中は四人の溜息と、二人の感嘆の声が混じっている。
その二人はもちろんネルトとソプラノだ。侯爵の対応が面白いらしい。
侯爵は別におべっか使っているわけでもなく、リーナに良い恰好したいわけでもない。
あくまで王女来訪に合わせて好意を持った領主らしい対応をしている。
リーナもそれが分かっているから「止めてくれ」とは言えない。相手が国王だったら強く言えるんだろうけどね。
「スーコッドに行く時には出迎え不要と伝えておくべきでしょうか」
「どうでしょうね。サルディのベッカム侯爵が出迎えたのにスーコッドのグレイブ子爵が出迎えなかったとなると、後に子爵が非難されかねませんわ」
「貴族様は面子が大事ですからね。オーフェンでしたら魔物の状況もありますし言い訳が立ちそうですけれど」
「貴族めんどくさいねー」
「はぁ、皆様、ご迷惑おかけします……」
リーナが私たちに謝る。リーナが気にする事じゃないから別にいいよ。
そんな事を話しながら領主館に到着。
着くなり改めて侯爵は歓迎の意を示した。
「オーフェンへの救援に向かうとのお話は聞いております。ダンデリーナ殿下自ら足をお運びになるとは思いませんでしたが……民を想う勇敢なそのお志に、オーフェンと同じく王国南部の街を預かる身として感謝申し上げます。狭い所ではありますがどうぞ今夜のお泊りは我が館をお使い下さいませ」
「歓待感謝いたします、ベッカム侯爵様。ご厚意ありがたく頂戴いたします。――しかし我々は御覧の通り、冒険者としてオーフェンの救援に向かっております。どうぞ過度な御持て成しはお控え下さいませ」
御覧の通り、って言われてもねぇ。
王族の馬車に乗って来て王族とは見るなと言う。
じゃあ冒険者かと言われると、全員が動物モフモフシリーズ+ファンシー装衣だ。
前に出てキリッとした表情で語るリーナも、ファンシー装衣+エプロン+モフモフワンワンだ。
侯爵も「は、はぁ」って感じだろうよ。
しかし侯爵も王都近郊の街を預かる貴族の一人。
リーナが学校を辞めて冒険者になったのは貴族中の話題に上ったらしく、さらに奇妙な装備をしているというのも耳にしているらしい。
さすがに【輝く礁域】全員が奇妙な装備をしているとは知らなかったようだが。
サフィーとソプラノは面識があったようで、カーテシーで挨拶していた。
サフィーがリーナと共に冒険者になっているのは知っていたが、ソプラノまで入っているのは知らなかった模様。
「なんと! 聖女殿が!?」と、その日一番の驚きを見せていた。
ポロリンとネルトは挨拶しなかったが、私はパーティーを代表して侯爵に挨拶しておいた。
最初に国王にやったような堅苦しい挨拶だ。
侯爵は私を平民と見れば良いのか、リーナたちを率いるリーダーと見ればいいのか微妙な感じだったが、サフィーとかの執り成しで無事に済んだ。
夕食はこれぞ貴族って感じの長いテーブルを囲み、コース料理となった。
これだけ王侯貴族と接しているのにこういう晩餐は初めてだなーと思いつつ、舌鼓を打つ。
私は前世の知識でテーブルマナーを知っていたが、ポロリンやネルトが知っているわけがない。
私とソプラノが隣につき、小声で教えながら一生懸命食べていた。
「ちっとも味が分からなかったよ……」とはポロリンの談。
「んー、ちょっとずつ出す意味が分からない。どさっと出して欲しい」とはネルトの談である。
ネルトは全然足りないだろうね。かと言っておかわりとか出来ないし。パンは分けてあげたけど。
寝室については一悶着あった。
侯爵は私たちの事を『リーナとサフィーと平民四人』と考えていたらしく、個室を二つは確定。(当然リーナ用は超豪華)
そして四人を個室にするか四人部屋にするかで悩んでいたそうだ。
しかし平民四人の中に【七色の聖女】ソプラノが入っていると知って、それもまた個室にしなければと大慌て。
ソプラノは確かに平民だが、聖女として国中で有名な存在だし、神殿でも手厚く囲まれていた為、貴族としても無下に出来ない存在なのだ。
リーナと同等までとは言わないまでも敬意を持って扱わなければならない存在。
サフィーよりは確実に上。
まぁサフィーは実家が公爵家だから気を使う貴族も多いだろうけど、長子の身で貴族位を持っているわけじゃないからね。
そんなわけでベッカム侯爵から「どうしましょうか」と相談を受けた。潔いね。
そして、そんな侯爵の苦悩が分からないのか、リーナは爆弾を落とす。
「わたくしたちは冒険者なのですから六人部屋で結構です」
「ええっ!? し、しかし……」
侯爵からすれば『ダンデリーナ王女をお招きしたのに、平民と一緒の部屋で寝かせた』という事になる。
これは他の貴族からも反発されるだろうし、何より国王の耳に入れば爵位剥奪か、斬られるか……。
すっかり顔が青白くなった侯爵をフォローするのはサフィーの役目。
「ダンデリーナ様、せっかく侯爵様がお部屋を用意して下さっているのですわ。ワタクシとダンデリーナ様は個室。皆さんは四人部屋でよろしいのではなくて?」
「しかしわたくしたちだけ個室というのは……」
「侯爵様のご厚意をしっかり受けるのも冒険者として当然の習わしなのではないですか? ねぇピーゾンさん」
「そうだね。別に六人一緒じゃなきゃいけないなんてルールないし、せっかくだから使わせてもらいなよ。用意して下さってるんだから有り難くね」
「そうですか、ではベッカム様、ご用意して下さった寝室を使わせて頂きます」
「もちろんです! どうぞどうぞ!」
去り際に小声で私とサフィーにお礼を言ってきた。いえいえ、空気を読まない王女ですみませんね。
そんな事がありつつ、お風呂にも入らせてもらいつつ、私たちは四人部屋でしっかりと眠った。
ちなみにお風呂は領主館らしいそこそこの大風呂で、私はネルトとソプラノと一緒に入った。
ポロリンは一人で入ったが、どうやらまだ男とは見破られていないらしい。
領主館の全員がポロリンを女だと思って接しているが、その事に本人は気付いていないようだ。
私も言われるまで訂正する気はない。
普通に私たちと並んで寝てるし。
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