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第一章 黒の主、世界に降り立つ
07:街にやって来た″異物″
しおりを挟む■ポリッツ 兎人族 男
■25歳 Cランク組合員 レンジャー
俺はポリッツ。アフォードの街の魔物討伐組合に所属している組合員だ。
今日も依頼の討伐を何とか済ませ、アフォードの街へと帰って来た。
すると何やら街の入口が騒がしい。
何か問題でも起きたのかと覗いて見れば、そこには異様な光景が広がっていた。
門番である衛兵と、街に入ろうとする三人の男女。それは別に問題ではない。
指名手配の犯罪者でもなければ身分証明がなくとも仮の手続きで街に入る事はできるのだから。
問題は、その三人が真っ黒の貴族服のようなものを着た基人族の男と、それに付き従うメイド、多肢族と角の折れた鬼人族という面子な事。
しかもメイドでありながら武器を携帯している。戦えないはずの多肢族もだ。
いや、そもそも基人族が保護区を出てこんな場所に居るのが不自然だし、立派な服装をしているのもメイド――それも角折れとは言え鬼人族のような強種族を引き連れているのも不自然。
仮に俺が衛兵の立場でも訝しんで見てしまうだろう。
おまけに今日の門番の片割れは虎人族だ。
種族意識が高くて嫌味な奴だ。俺も何度か嫌がらせを受けたことがある。
あいつの前に基人族なんぞが現れようものなら、もう下品な笑いを上げながら力でねじ伏せるイメージしかない。
衛兵って身分を盾にして遊び感覚で殴ってくる最悪のやつだ。
「基人族なんか通すわけねえだろうが! とっとと帰りやがれ!」
案の定、やつはそう言いながら基人族に殴りかかった。
……が、俺はその時、虎人族が過ちを犯したと思ってしまった。
その基人族に突っかかるのは間違いだと。
俺は種族柄、危険察知能力に長けている……と思っている。
25歳まで魔物討伐という危険な仕事を続けていられるのも、この能力のおかげだと思っている。
その危険察知が俺に警報を鳴らすのだ。
″基人族の男は危険だ″″関わっちゃいけない″と。
きっと誰もが基人族というだけで侮るだろう。
でも俺は自分の能力を信じている。
恐らくあの虎人族は―――
―――ドグシャアア!!!
と、そんな事を思うまでもなく、基人族の男は殴って来た腕を掴んで投げ飛ばした。
虎人族の男は頭から地面に叩きつけられ、ピクリともしない。
門の周りで立ち止まっていた人々が絶句する。
そりゃそうだろう、基人族が虎人族を一撃で倒したんだからな。
「おい、それでもう通っていいのか?」
「は、はいっ!」
基人族の男はもう一人いた衛兵に声を掛けると、メイドを引き連れて街へと入っていった。
なんか、とんでもないヤツが来たな。
いつまで居るのか知らないが、出来る限り会わずに過ごしたいものだ。
♦
依頼の報告をしに、魔物討伐組合へと帰って来た。
するといつも以上に組合内が騒がしい。
「おいおい! てめえみてえなヤツが組合員になれるわけねえだろうが! 邪魔だからとっとと帰れや!」
声を張り上げているのはDランクの熊人族だ。
あいつは新人いびりが趣味みたいな嫌なヤツだ。
組合から何度注意されても治らねえ馬鹿だ。
……って相手は基人族とメイドじゃねえか!
会わずに過ごしたいって言ったのに、早速会っちまったじゃねえか!
あいつら何しに組合なんかに来てんだよ!
……いや、話を聞く限り、組合に登録に来たんだな。
で、基人族なんかが魔物討伐組合なんかに入れるわけねえだろうと。
そりゃそうだ。基人族が倒せる魔物なんかほとんど居ないんだから。まあ普通の基人族ならって話だけどな。
「基人族ごときじゃ、それこそゴブリンに殺されちまうぞ! ガハハハ!」
「ゴブリン?」
「ご主人様、基人族はゴブリンと揶揄される場合があります」
基人族は他の種族に比べて極端に弱く、寿命も短い、なんの取り柄もない種族。
秀でている所と言えば、狡賢く生きる事や繁殖しやすい事。
だから基人族の事をゴブリンと馬鹿にする奴がいる。
そんな説明をメイドから受けている所を見るに、男はそう呼ばれている事を知らなかったようだ。
「ほお、上手い例えじゃないか。なかなか的を得ている」
「なんだ、嫌味も分からねえ阿呆かよ。いいk」
「俺がゴブリンならお前は熊以下だな、地べたを這いずるミミズかな?」
「!? てめえっ!」
なんでわざわざ喧嘩を売るのか、あの基人族は。
まぁ衛兵の虎人族を倒してたから強いのは分かるんだが。
案の定、殴りかかって来た熊人族の腕を掴み、捻り上げる。
「いてええええっ!!! この野郎!!!」
「あー、受付嬢さん。組合員同士の喧嘩ってやっていいもんなの? 罰則とかある?」
基人族は涼し気な顔で、熊人族の腕関節を決めたまま窓口の受付嬢に質問している。
目の前でそんな光景を見せられている受付嬢もしどろもどろだ。
組合員同士の小競り合いなんか日常茶飯事だから罰則なんてない。
ただもちろん殺したら捕まるし、一方的な過失なら罰則もある。
それこそ熊人族が日常的にやってるような新人いじめとかな。組合から注意喚起され、改善されなければ罰金や除名もあるだろう。
今回のケースを見れば突っかかって来たのは熊人族だから、ぶっ飛ばしたところで基人族の男に罰則なんかない。
まぁ組合長が熊人族みたいに基人族に対して悪感情がなければの話だがな。
ともかく倒して問題ないと確認した基人族は、そのまま熊人族を殴って気絶させると、組合の入口に放り投げた。
「ミミズらしく地べたで寝てろ」
そう言い放つ基人族の男に口を出せるやつは組合の中にはもう居なかった。
みんな感じたようだ。
あの基人族は普通じゃねえと。
それから基人族の男とメイドは組合の登録を済ませる。
担当した受付嬢はまだしどろもどろを引きずっている。可哀想に。
それで帰ると思いきや、今度は倒した魔物の部位を売りたいと、買い取り窓口に行った。
小さな鞄が不自然だったが、やはりマジックバッグのようだ。
あんな高価なもんを基人族が持っている事に、さらなる違和感を感じる。
しかし驚くのはそれからだった。
マジックバッグから出て来るゴブリンの角やホーンラビットの角、毛皮、ウルフの毛皮も大量に出て来る。
最後にはゴブリンキングが丸々そのまま出て来やがった。
どんだけ容量のあるマジックバッグなんだよと突っ込みたいのが一つ。
基人族どころかメイドの鬼人族だって絶対倒せない相手じゃねーかと突っ込みたいのが一つ。
野次馬の俺たちも、受付嬢も、組合の中にいる全てのやつが、目と口を開けたまま止まってしまった。
「どうした? 買い取れないのか?」
「……ハッ! い、いえ買い取ります! 計算しますのでしばしお待ちを!」
どうにか立ち直った受付嬢の努力により、基人族の男は結構な額の金を受け取っていた。
それを羨ましいなんて思わない。
やっぱりあいつはヤバイ、改めてそう思う事しか出来ない。
願わくば、もう会わない事を祈るのみだ。
♦
獣神ダルダッツォ様はどうも俺の祈りを聞いてくれないらしい。
組合を出て武器の修繕をしに、馴染みの武器屋に行ったら……また居た。
基人族と多肢族と鬼人族。
真っ黒な主と、戦闘メイド二人。謎の三人組。
ここの親父は偏屈なんだが腕は良いと評判だ。
当然「戦えもしない基人族ごときが武器なんか持つんじゃねえ!」と怒鳴るかと思ったが、どうやら男が持っていた細身の剣に目を奪われたらしい。
「なんだこの剣! 材質が全く分からねえ! こんな美しい剣を見るのは初めてだ! 傷一つねえがホントにこれで魔物斬ったのか!?」
「ああ、かなり斬ったぞ。修繕する必要がないのならいいんだ、一応見て貰おうと思っただけだからな」
剣に惚れこんだ親父からなんとか奪い返した基人族の男は、使わない武具を売りたいと言って、またマジックバッグから鎧や剣、盾なんかを山のように出し始めた。
……いや、お前あれだけ魔物素材入れてたマジックバッグに、まだこんだけ入れてたのかよ!
国宝級のマジックバッグか!?
さすがに突っ込みたいぞ! 口に出して!
……しませんけどね。
ともかく、基人族の男は驚く親父にそれらを押し付けて、買い取らせた。
またもかなりの金を手に入れていた。
全く羨ましくない。
むしろ恐ろしい。
絶対に何かよろしくない事態に巻き込まれそうな予感がする。
俺は自分の危険察知能力をフル活用し、その場を後にするのだった。
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