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第二章 黒の主、混沌の街に立つ
33:救っちゃおっかな、パン屋
しおりを挟む■サリュ 狼人族 女
■15歳 セイヤの奴隷 アルビノ
南東区へと行った翌日は北西区、その翌日には北東区へと行きました。
北西区では鉱人族の鍛冶屋さんで皆さんの武器、大剣・長剣・短剣・ハルバードを依頼しました。
やはりご主人様の『刀』が気に入られたようで「売ってくれ」とか「貸してくれ」とか言われました。もちろんダメですけど。
しかしタイラントクイーンのドロップである【鉄蜘蛛の甲殻】【鉄蜘蛛の顎】を見せるとこれも気に入ったようで、かなり乗り気になってくれました。
やはり珍しい素材のようで、鉱石に混ぜることで剣にするらしいです。
どんな風になるか楽しみですが、一番嬉しそうなのはイブキさんでした。
他にも別のお店で包丁などの調理道具やカトラリーなどを買いました。
私は料理を作れるようになりたいと思っていたのでとても嬉しかったです。
エメリーさんに色々と教えてもらいながら選びました。
「ハサミはあるのか。小さな鼻毛切り用のハサミが欲しいな。あと爪切りは……握りばさみでいいか。毛抜きもいけるだろ。カミソリ……T字は無理でもとにかく薄い小型ナイフにすればI型っぽくいけるか。あとは調理器具……鍋とかおたま、フライパンはあるな。ホイッパーとフライ返し……あー中華鍋欲しいなぁ―――」
ご主人様はまた色々と注文していました。
内容はよく分かりません。店員さんも困っていました。
翌日の北東区では私とフロロさんの杖、ミーティアさんの短杖を探しました。
これはオーダーメイドではなく既製品です。
私は光、フロロさんは土、ミーティアさんは火属性にあったものを選びました。
新しい杖を買って頂いてとても嬉しかったです。はやく迷宮に行きたくなりました。
ご主人様は魔道具に興味があるようで、色々な魔道具屋さんを巡りました。
戦闘用ではなく生活用のものです。
お屋敷用の警備アイテムとか、調理を便利にするアイテムとか、避妊用の指輪とか、錬金屋さんで髪や身体を洗う薬剤も買っていました。
……避妊用の指輪。
そ、そろそろお呼ばれするのでしょうか。ドキドキです。
いや、まずはエメリーさんとかなんでしょうけど。
なんか尻尾がそわそわして挟みたくなってきます。
結局その日は何事もなく過ぎて、さらに翌日、南西区に来ました。
ここでやっとカオテッド全ての地図がそろいます。
こんなことなら最初に通った時に商業組合によれば良かった、というのは言いっこなしです。
「さすがに金使いすぎたなぁ。明日から迷宮行かないと。ここは食料だけにしておくか」
ご主人様も反省しているようです。
ミーティアさん曰く、王族でもしないような散財の仕方だったそうです。
それだけ持っていたご主人様がすごすぎますが、ほとんど私たちやお屋敷の為に使って下さったお金ですので感謝しかありません。
奴隷の使用人さんを買えるか微妙との事ですから、私もがんばって家事をしようと思います。
もちろん迷宮もがんばります。
昨日から買って頂いた杖を抱いて寝てるくらいなので。
「ここには有名なパン屋があるぞ。柔らかな白パンでな、我も食べたが非常に美味かった」
「へぇ、じゃあ酵母使ってるってことか」
「こうぼ?」
「パンの生地にそれを入れると膨らんで柔らかくなるんだよ。今まで見た事ないから今度俺が作ろうと思ってた」
「ほぉ、ご主人様も作れるのか! さすがだな! これは楽しみだ!」
ご主人様の知識はすごいです。
それとも元いらした世界ではそれが当たり前なのでしょうか。
何にせよ白パンというのは食べたことがないので楽しみです。
「あそこか? なんか人だかりが出来てるな」
フロロさんの教えてくれたパン屋さんの前には店の様子を遠目で伺うように何人かの人がいました。
買う為に並んでいるという感じではありません。
ご主人様はエメリーさんとフロロさんに事情を聞きに行かせました。
「メイド!? あ、ああ、まあいいか。【ヒイノのパン屋】に借金取りが怒鳴り込んできてるんだよ」
「死んじまった旦那の治療の為に借金したらしくてな、もう何年もこんな感じだ。可哀想に」
「ボウルって猪人族の金貸しさ。いい噂は聞かないよ」
「あそこは【鴉爪団】とも繋がってるって噂だぜ。怖くて近づけねえよ」
「さすがにもうダメかもな。美味いパン屋だったんだが」
そんな話を集めて来てくれました。
せっかく買おうと思っていたパン屋さんが……。
「とりあえず近くで様子を見よう。買えそうなら買うし、ダメなら諦める」
ここまで来たのだから、とご主人様は店の入り口に近づきます。
見物している人も借金取りの人が怖いらしく、そこまでは近づいてないようです。
しかし近づくと悲鳴や怒声が聞こえて来たのです。
恐る恐る耳を峙てて、みんなで店内の様子を伺います。
「大変だったんだぞ? 迷宮でディウスを罠にはめるよう依頼したのに結局死なんし、しょうがないから低級ポーションを高級ポーションと騙して売りつけ、高利の契約書を作ってやっと契約させたんだ。そこまでやったのに店は繁盛し続けるもんだから、妨害までやったのになぁ、ここまで時間がかかってしまった。全部ヒイノ、お前の為だ。むしろここまで引き延ばしてやったことに感謝するんだな。ブヒヒヒ!」
笑い声と共にそんな声が聞こえて来たのです。
私は頭が真っ白になりました。
見ず知らずの人とは言え、こんな理不尽な目に会ってるだなんて……。
思わず村で虐められていた記憶が甦ります。涙が出そうになります。
しかし、それを聞いたご主人様はすぐに店に入っていったのです。
その目はネネちゃんを殺そうとしたパーティーの人たちに斬りかかった、あの時の目と同じです。
私たちはご主人様のあとに付いて行きました。
「な、なんだ、基人族とメイド!? 何しに来た!」
「いやぁ、パンを買いにな。お取込み中らしいが」
「ふんっ、こんなパン屋などもう終わりだよ。無能な店主がこさえた借金のせいでな。さっさと帰れ」
「ほう、それで店主とその娘は奴隷になったのか」
ご主人様の目は猪人族の人から、後ろに立っている母娘へと向けられました。
全く感情を見せず、生気のないアンデッドのような目……こんな奴隷契約は……。
「おかしいな。どう見ても借金奴隷ではなく、強制契約を結ばれた闇奴隷にしか見えないが?」
「ブヒヒ! 馬鹿を言うな基人族が! この通り契約書にも書いてある! これは立派な借金奴隷契約なのだよ!」
猪人族の人は懐から紙を出して、ピラピラと見せてきました。
細かい文字が多すぎて読めませんが、おそらくそれが借金した時の契約書なのでしょう。
それを見たご主人様はニヤリと笑いました。
「そうか。持ってるなら好都合だ」
「なにぃ?」
―――ズバッ! ズバッ! ズバッ!
それは<カスタム>によりステータスを強化された私たちであっても、目にも止まらぬ速さでした。
ご主人様は即座に刀を抜き、猪人族の人の周りにいた護衛の二人、そしてローブを着た蛙人族の人を斬り殺し、また即座に<インベントリ>に収納したのです。
おそらく何が起こったのか分かる人はいないでしょう。
気が付けば殺され、気が付けば死体が消えていた。
そこには血が残るだけです。
「な、な、な……なにをした! なにをした貴様あああ!!!」
「理不尽には力で抗うと決めてるんでな。あとはお前を消すだけだ」
刀の切っ先を向けるご主人様。
猪人族の人は怯えたように数歩下がり、腰が抜けて座り込みました。
パン屋の母娘はそれを無表情で見つめます。
「お、お前っ! 俺に何かしてみろ! 【鴉爪団】が黙っちゃいないぞ! い、今なら許してやる! そうだ、何なら俺が雇っt―――」
「五月蠅い」
―――ズバッ!
またも一閃。そして即座に回収。
そこには母娘しか残っていません。
そして二人の死んだような目に光が灯り始めたと同時に、泣いて抱き合いました。
「うわあああん! お母さあああん!」
「ごめんね! ティナごめんね!」
泣き続ける二人を横に、ご主人様は私たちに店内の掃除を命じられました。
飛び散った血を<洗浄>で綺麗にしていきます。
私はもらい泣きしそうになりながらお掃除しました。
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