カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第二章 黒の主、混沌の街に立つ

34:奴隷にしちゃおっかな、母娘

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■セイヤ・シンマ 基人族ヒューム 男
■23歳 転生者


 あー、やっちまったわー。
 やっちまったもんはしょうがないけど。

 ともかく母娘の闇奴隷的な契約は一時的に破棄された。
 死体も証拠隠滅した。
 契約書も手に入れたけど、よくよく考えればこれ一枚とは限らないんだよな。
 借金取りの店に保管してないとも限らん。


「どうでしょうか、あってもおかしくはないと思いますが……」

「店に殴りこんで殲滅の上、家探しすればいいのでは?」


 エメリーでも分からない。そしてイブキは物騒。
 どうもイブキも俺同様に怒っていたらしい。


 そうこうしているうちに母娘が泣き止んで、俺に頭を下げてきた。
 いえいえ、なりゆきですし。パン買いたかっただけですし。
 むしろ今さらだけどやりすぎた感が少しある。


 それでこれからどうしましょうか、という話になった。
 契約書が残っているか分からない状態。
 母娘の奴隷紋は丸枠だけ残っている状態。
 結局、何も解決してないんだよな。


「ご主人様、お二人をご主人様と契約させ屋敷で保護してはいかがでしょうか」

「何言ってんだエメリー。保護は構わないが、奴隷になるのが嫌で今まで頑張ってきたんだろ? 俺の奴隷にする意味はない」

「私もイブキも闇奴隷の仮契約状態でしたから分かります。闇奴隷の強制奴隷契約は契約者をなくしても左手から蝕まれるような感覚が残るのです。体内に残り続ける闇契約……それは生涯奴隷でいる事を強いてくるのです。誰かが正式に契約をし直さなければ、お二人は不安で心が潰されるでしょう」


 ああ、出会った時のエメリーとイブキは全然今の感じと違ったもんなぁ。
 今にして思えば、いきなり「奴隷にしてくれ」って言われたのも不安に駆られての事だったのかもしれない。


「二人はどうしたい? 別に奴隷を強制するつもりはない。こっちは気にせず考えてくれ」

「私は……貴方様の奴隷になろうと思います。この奴隷紋痕が残り続けるのは正直怖いのです。であればお救い頂いた貴方様にお仕えしたいと思います」

「……娘さんは?」

「わ、わたしは、お母さんと一緒がいいです……」

「そうか」


 確かに俺が契約せずに二人で奴隷商館に行ったとして、そして借金奴隷になるとして、買われる先は母娘一緒ってなるとは限らないのか。
 だったら二人まとめて面倒みたほうがいいのかもしれない。


「分かった。じゃあ二人とも正式に契約してうちで保護しよう」

「よろしくお願いします」「お、お願いしますっ」

「あとはこの店をどうするか、だ。仮に借金が消えてるとして店の権利書は残ってるのか?」

「あります。残っているのは店と秘伝のエキスと私とティナ、それだけでした」


 他は全て借金のかたに取られたと。


「保護した上で、店を継続する事は出来るかもしれない。危険性は増すが」

「……いえ、店を畳んだ上で貴方様にお仕えしたいと思います」

「なぜだ? 守り通してきた店なんだろ?」


 彼女は涙を浮かべ、俯きながら言葉を続けた。
 その手を心配そうに握る娘の姿が隣にある。


「私は意固地になって間違い続けました。間違った薬を買い、主人を間違って死なせ、間違った契約を結ばれ、延々とお金を払い続けました」

「間違えるように仕向けたのは借金取りだろ?」

「実際に間違えたのは私です。それでティナに苦しい思いをさせ、奴隷にまでさせてしまいました。私がこの店を、主人との思い出を守ろうと、いつまでも引きずったばかりに……! もっと早くに店を放棄していれば借金も消えていたのです! ティナを苦しめることもなかった! 私は……もう店に囚われるのが恐ろしいのです……また間違えるのが怖いのです……」


 店が大事、旦那さんとの思い出が大事。
 それで大事な娘さんを危険な目に合わせた。
 いや奴隷紋痕が残ってるから現在進行形か。
 悪いのは借金取りだから、そこまで思いつめることないと思うんだけどな。


「それに店を残せば【鴉爪団】に狙われるかもしれません。ボウルあの男が消えたとなれば探りに入ると思います」

「あいつも言ってたな。その【鴉爪団】ってのは?」

「南西区を裏でまとめている闇組織だと言われています」


 マフィアか。なんかカオテッドにいくつかあるって聞いたな。
 借金取りの残党だけじゃなくて、そいつらにも狙われるかもしれないって事か。
 たしかに不安なしで店を続けるってわけにもいかなそうだ。


「分かった。では早めに引っ越しをしよう。俺の家に行ったほうが良さそうだ」

「よろしくお願いします」

「娘さん……ティナって言ったか。お店をやめて、お母さんと一緒に俺の家で働いてくれるか?」

「は、はいっ」


 苦しい目にあってきただろうに、なんと利発で健気な子だろうか。
 思わず笑顔になり、頭を撫でてしまう。よーしよしよし。


「よし、じゃあみんな手伝ってくれ。荷物まとめた傍から<インベントリ>に入れていくぞ」

『はい!』


 てきぱきと片付け始める侍女軍団。
 俺は手あたり次第に<インベントリ>に収納していく。
 あ、あいつらの死体どうしようか。
 剥ぐもん剥いで迷宮に捨てればいいかな。人の死体も消えるって言うし。

 そうこうしているうちに粗方片付いたらしい。
 母親――ヒイノは店先に出て、常連さんたちに店じまいの挨拶をしている。


「やっぱり厳しかったか……今までありがとうよ」

「あの借金取りめ! こんな良い店を潰すなんて!」

「あいつ裏から逃げたのか? どこ行った?」

「ヒイノさんはどうなっちまうんだい? まさかその左手……!」

「ティナちゃんも! あの野郎! なんてことしやがる!」


 色々と誤解があるようだがヘイトは借金取りに向いているようだ。
 まさか借金取りが消えたこの場で「私たちこの基人族ヒュームの奴隷になります」とは言えないのだろう。
 ヒイノは言葉を濁して「ありがとう、心配しないで」とだけ言っている。

 隣近所にも挨拶を済ませ、商業組合へ。
 そこで店の権利書を売る手続きを行った。


「このお金はお渡しします。お世話になる足しにでもして下さい」

「いや、それは自分で持っておけ。ティナの将来の為にでもとっておけばいい」

「そんなっ……ありがとうございます」


 受け取れるもんかよ。
 思い出の店を売った金なんて。


■ディザイ 獅人族ライオネル 男
■40歳 鴉爪団 頭領


「ボウルのやつが消えたぁ?」


 その報告を受けたのは俺たちの隠れ家の一室だ。
 右腕の狼人族ウェルフィン、ロウイが俺の前にいる。
 片目を潰した不愛想なツラで報告を続けた。


「借金取りに赴いた先で行方が分からなくなったそうです」

「なんで部下じゃなくてあいつが自分で出向いてるんだよ。馬鹿か」

「出向いた先は【ヒイノのパン屋】だそうで」

「かぁ~っ! ま~だ狙ってたのか! 女一人ひっかけんのに何年かけてんだ!」


 ボウルは金回りは良いがそれしか取り柄がねぇ、無能すぎる馬鹿だ。
 そのくせバックに俺らが居ると粋がって【鴉爪団】の事を吹聴するようなどうしようもない馬鹿だ。
 いくら罰金を科せても直りゃしねえ、本物の馬鹿だ。

 で、その馬鹿が消えたって?
 まさかヒイノとかいう兎人族ラビの女に殺されたわけでもあるまい。
 いや、相手は誰でもいいが、殺されただけなら問題ない。
 少なからずあの馬鹿が抱えてる俺らとの繋がりをバラされると面倒だな。


「その場に基人族ヒュームの男とそのメイドたちが居たそうです。彼らと共にヒイノとその娘は店を出ていったと」

「はぁ? 基人族ヒュームだと?」


 また訳のわからん話になってきた。
 そいつがボウルを消したってのか? 基人族ヒュームが? ありえねえだろ。
 しかし何らかの事情は知ってるのかもしれねぇな。


「とりあえず素性を調べろ。ヒイノとかいう女がどうなったのかもな」

「はい」

「んで、山賊どもはどうなった」

「はい、全て殺されているのが確認されました。衛兵への引き渡しも行われず殺されています」

「チイッ!」


 ボウルの馬鹿よりそっちのが問題だ。
 カオテッドからイーリスに向かう街道の山沿いにあったいくつかの山賊組織。
 どれもウチと契約結んでる連中だが、連絡が途絶えたのが最近のこと。

 で、調べてみりゃ全滅かよ。
 おかげで収入減もいいところだ。
 商人どもも山賊がいないと気付けばこっちに根回しする必要もねぇからな。

 商人は俺たちに金を払い安全に街道を行ける。
 山賊には奪った物資を売る手立てを提供し、利益の一部をもらう。
 そうした手が取りにくくなっちまった。


「面倒くせぇ流れになったもんだ。なんか良からぬ手が伸びてるのかもな」

「警戒します」


 考えつくので有力なのは他の闇組織の連中だ。
 まさか南西区まで縄張り広げようって腹じゃねぇだろうな。

 ともかく今は調べるしか出来ねえか。
 俺は椅子の背もたれに深く寄り掛り、大きく息を吐いた。


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