カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第二章 黒の主、混沌の街に立つ

42:逆襲の殴り込み

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■フロロ・クゥ 星面族メルティス 女
■25歳 セイヤの奴隷 半面


 我の『星詠み』は不吉な事ばかりが出る。昔からだ。

 組合で専属占い師をしている時もそうだ。
 仮に近々の未来で誰かと出会うにしても、その先にある″別れ″が出る。
 何か得られるとしても、その先にある″損失″が出る。

 それを知り「不吉を回避する為にこうすれば」と考える者もいれば、「不吉なことばかり言いやがって」と怒る者もいる。
 占いとは総じてそのようなものだが、我の場合は極端だったのだ。
 まるで出会う全ての人が呪われているかのように不吉な未来しか見えなかったのだ。


 ―――そう、ご主人様の僕になるまでは。


 僕、奴隷、侍女、仲間……呼び方は何でも良いか。
 神託により導かれ、十年かけて探し出したご主人様。
 そして左手に女神の奴隷紋が刻まれた時、我の運命は変わった。

 運命神リンデアルト様と星詠みを交わしていたからだろうか。
 我にはそれがはっきりと分かったのだ。
 我の、そして世界の運命が変わったと。

 そうして我の『星詠み』も変わった。
 悪しき未来も、良き未来も見えるようになった。
 そしてそれは、もはや「占い」と呼べる範疇になく、「予言」のようなものだと感じた。

 これは恐ろしい力。
 ご主人様にも言っていない、我だけの秘密だ。
 こんなもの、ご主人様のスキルと同様、危険極まりない過剰な力だ。


 我はこの力をご主人様の為だけに使おうと思っている。
 やたら人に対して使うものではない。
 しかし女神の使徒であるご主人様ならば、どんな運命にも抗える力を有しているのだから大丈夫だ。
 おそらくご本人に言うと否定するだろうから、我は言わん。


 我は毎朝、皆が行動を始める前に星詠みをしている。
 その日一日、無事に過ごせるかと確認の為でもある。

 夜襲をかけられた翌日。
 いつものように朝食を食べ、ふらりと迷宮にでも行くように屋敷を出た。
 向かうは南西区だ。

 まるで遊びにでも行くように皆でわいわいと歩く。
 ティナも家に残すほうが危険かと、一応連れてきている。
 なるべくならば見せたくはないものだが、果たしてどうか。

 見たところで最近のティナの様子を見るに、ケロッとしていそうな気もする。
 むしろ自分で剣を持って襲撃してもおかしくはない。
 それだけは止めるよう、ヒイノには頑張って欲しいところだ。


 南西区へと入り、大通りを逸れ、裏道を西へと進む。
 出来てまだ十年のカオテッドにはスラムなどないが、そこは十分それ・・に近いと言わざるを得ない。
 すなわち、すでにヤツらのテリトリーだ。


「とりあえず絡んで来たヤツらだけ黙らせていくぞ。昨日の今日で掛かってくるようなヤツらに容赦はいらん」

『はい』

「ティナ、無理そうなら誰かつけて残らせるがどうする?」

「だ、大丈夫です! 一緒に行きますっ!」

「分かった。でも手出しはするな。ヒイノ、守ってくれ」

「「はい」」


 どうやらティナも付いてくるらしい。
 やはりか。ティナはどうも成長に対する欲求が強い。
 我が心配する前にヒイノとご主人様が見てくれるだろうがな。


 カオテッドに似つかわしくない木造の長屋が並ぶ裏通りを進む。
 時折、我らを見て逃げる者、怒鳴っている者、絡んでくる者がいる。
 まだ朝だと言うのに元気な事だ。

 当然、逃げる者以外は黙らせる。
 いつもならば投げて気絶させるだけだが、今日は【鴉爪団】ごと潰さねばならん。
 加減なしで速攻を決め、ご主人様がすばやく回収する。相変わらずの速さよ。


 そうして歩くように進み、裏通りとは思えない立派な屋敷へと着いた。
 広い庭には、見張りだろうかチンピラどもが幾人も見える。
 報告がいったのか我らをすでに気付いているようだ。


「よし、ここからは本格的に殲滅戦だな。ここで周囲の警戒に当たるのはサリュ、ネネ、ヒイノ、ティナ。他は真っすぐ屋敷に入る。敷地内の人間は全て潰すつもりで行く。下手に残して遺恨が残ると面倒だしな。じゃあ行くぞ!」

『はい!』


 号令一下、我らは敷地に侵入した。正面から堂々とだ。
 庭の連中が向かって来るが適当に倒しながら進む。
 ここを殲滅するのは、通りからサリュが魔法でやってくれる。だから最小限だ。

 屋敷の大仰な扉をぶち破り、お邪魔する。ノックするまでもあるまい。
 広いエントランスには相応の構成員が待ち構えるが、掛かって来ない。

 こちらとしてはさっさと片付けて頭領のディザイとかいう獅人族ライオネルを探さねばならんのだ。
 逃げられでもしたら面倒だ。
 もうここから各人散らばって捜索と殲滅をしていった方が良いのではないか。


 ―――そう思った矢先、構成員の人垣の奥から、前に出て来る人影があった。


「お~、朝からご苦労なこった。あんたが噂の【黒の主】か。ホントに基人族ヒュームなんだなぁ」


 そのは、ご主人様より背が高く、白い肌に蒼い鱗が輝いていた。
 不揃いな長い髪で、頭から伸びる角はイブキのそれとは違う、緩やかに曲がりながらも天に伸びる二本角。


竜人族ドラグォール!?』


 ご主人様以外、我々の声が揃った。
 希少も希少! こんな隠し玉がいたとは!
 捕らえた侵入者から幹部以外も聞き出しておけば良かった!


「ま、あたしも一応、用心棒って形だから迎撃に当たらせてもらうよ。悪く思わないでくれ」


 女はそう言うと、持っていた酒を飲み干し、小樽を投げ捨てる。
 それと同時に素手を振りかざし踏み込んで来た。
 目線の先はご主人様。

 しかしその間に入り込んだのは逸早く動いたエメリーだ。
 四腕で構えるハルバードを盾のように構え、女の拳を受け止め―――邪魔だと言わんばかりに、真横に吹き飛ばされた。

 あのエメリーを吹き飛ばすのか!
 我は思わず目を見開いた。

 イブキまでとは言わずとも、エメリーも前衛。
 ご主人様から攻撃と防御に関するステータスを<カスタム>されておる。
 現に今までエメリーが押し負ける場面など見た事がない。
 だと言うのに、それを抜いてきたのか、この竜人族ドラグォールは!

 吹き飛ばされたエメリーは接触時に身を引いたのかダメージは見られない。
 姿勢を整え無事に着地を果たす。
 しかし力負けしたのは事実。こうなるとイブキに頼るか―――


「こいつは俺がやる。全員屋敷の探索及び殲滅に動け」


 ご主人様は刀を抜き、切っ先を竜人族ドラグォールの女に向けていた。
 エメリーを負かした事に腹を立てているのか。
 いや、そんな様子は見られない。
 単に竜人族ドラグォールを強敵だと、だから自分が戦うのだと、さも当然のように構えたのだ。

 エメリーも含め、我々はご主人様の声に「はい」と返事をし、竜人族ドラグォールを避けるように走り出した。
 周りの構成員を薙ぎ払い、一階と二階に分かれる。
 幹部の部屋は二階にあるらしい。そして地下室もあると聞いている。
 我はイブキと共に一階と地下の探索に当たった。


「ハッハッハ! すごいじゃないか! こりゃ本物だ!」

「そりゃどうもっ!」


 後ろではご主人様と竜人族ドラグォールがぶつかり合う音が聞こえる。
 しかし我らは振り向く事はない。
 ご主人様の強さを誰もが知っているからだ。

 そして我は知っている。
 今朝の星詠みで見たからな。
 ご主人様に不吉は訪れない―――その″予言″を。


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