カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第三章 黒の主、樹界国に立つ

61:囚われし王はただ嘆く

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■セイヤ・シンマ 基人族ヒューム 男
■23歳 転生者


「良かったのですか? あそこまで放出して」


 走りながらミーティアがそう言う。
 ぶっちゃけやり過ぎた感はある。
 でも急ぎだったしな、吟味する時間もないし。


「まぁいいさ。カオテッドに行けばどれも補充出来るものばかりだ」

「ん、また迷宮で稼ぐ」

「だな」


 ネネも満足気にそう呟く。
 少しでも集落の人たちの手助けが出来たから嬉しいんだろう。


「ご主人様はお金持ちですっ! 大盤振る舞いですっ!」

「樹界国の民の為にありがとうございます、ご主人様」

「やめてくれ。金をばらまいたわけじゃないし、元凶を排除したわけじゃない。だろ?」


 そう、何も解決していない。
 一時凌ぎで物を投げ捨てただけだ。
 援助というには心許なすぎる物を。


「重税で巻き上げた金はズールって自称大司教に流れてるんだろ?」

「おそらく、ですが。金に汚い男と評判でしたので……」

「そいつは山賊退治・・・・の対象だ。だから減った物資はそいつから貰うとするよ」


 やってる事は国と軍を使った″賊行為″だからな。
 ミーティアは自国民だから躊躇するかもしれんが、俺は殺すつもりだ。


「え? 大司教様は山賊なのです? 退治するです?」

「ん……山賊は退治するもの。これは常識」

「そうなのですか!」


 年少組が微笑ましい会話をしている。
 だが内容は教育に悪いものだな。
 ポルを連れていくか、ますます悩ましくなってきた。
 村に寄るならポルは置いて、三人で王都に行ったほうが良いかもしれん。


■ディセリュート・ユグドラシア 樹人族エルブス 男
■502歳 ユグドル樹界国前王 ミーティアの父


 不甲斐ない。
 そう思わない日などない。

 息子フューグリスに政変を起こされての強制退位。
 辛苦を共にした宰相ゲルルドの裏切り。
 それ以来、儂は妻ロージアと共に『罪滅の塔』に幽閉されたままだ。

 漏れ聞く話に、ロージアと共に嘆くばかり。

 ミーティアは『神樹の巫女』の座を追われたばかりか、『日陰の樹人』の呪いを受けた。
 そして国外追放という名目で売られたらしい。
 さらには長女のユーフィスが『神樹の巫女』を名乗っているという。


「私の教育が悪かったのですわ……ミーティアを優先しユーフィスを蔑ろにしたのかもしれません。だからあの娘は……」

「儂とて同じだ。フューグリスの偏った思想を更生させられず、ゲルルドの思惑にも気付けなんだ」


 毎日のように傷をなめ合う。反省と後悔の日々。
 罪滅の塔とはよく言ったものだ。
 消えない罪は滅するはずもなく、ただ捕らえ続ける。


 息子たちの悪行はそれだけに留まらず、国を乱し続けている。
 他種族への弾圧、重税、さらには奴隷化。
 我らが命たる森の伐採。

 それらを耳にした時はさすがに血の気が引いた。
 耳を疑ったし、怒り以上の感情が心を支配した。
 どうにかしてここを出なければ、どうにかして止めなければ。
 声が枯れるほど叫ぶ日がしばらく続いた。

 なぜそんな事が出来る?
 誰が聞いたとて、失策だと分かることだ。
 自らの意思で国と共に滅ぼうとしているとしか考えられん。
 そんな事も分からないほど愚かだと言うのか。

 怒りを通り越して悲しくなる。
 自分自身も、息子たちも全てが憐れになる。


 そんなある日、扉の鉄格子から覗いたのはユーフィスの顔だった。


「ごきげんよう、お父様、お母様」

「ユーフィスっ! 貴様っ!」

「ユーフィス! 貴女は自分が何をしているのか分かっているのですか!」


 儂らが何を言おうと、不気味な薄ら笑いをやめようとしない。
 もはや別人。どんな言葉も届かないと感じてしまった。


「そうそう、ご報告がありますの。国外に追放したミーティアがカオテッドで見つかったらしいですわ」

「!?」


 それは儂たちが心配していた事の一つ。
 今や唯一と言っていいだろう、希望を託したい子供の存在。


「残念ですわね、せっかく国を出たら殺されるよう手配していたと言うのに、おめおめと生き延びるなんて」

「なっ!?」


 しかしその口から出たのは信じがたい事実。
 まさか実の妹を殺そうと画策するとは……!
 そして更なる言葉が儂たちに投げかけられる。


「でもご安心下さい。今度こそきっちり始末しますわ。前回と違って【宵闇の森】に手配したはずですもの。確実に殺してくれる事でしょう」

「っ! よ、【宵闇の森】だと!? 貴様、やつらと手を……!」

「止めなさいユーフィス! 貴女、自分の妹を……!」


 なぜ【宵闇の森】がユーフィスと繋がるのだ!
 あれだけ尻尾を掴ませんかった闇組織がなぜここで出て来る!
 まさかフューグリスやゲルルドも……!


「そうそう、最後にお伝えしておきますわ。そろそろ神樹を伐採しようかと思いますの。そういう″神託″が下りましたのでね。一応、『神樹の巫女』様には言っておきませんと」

「ばかなっ……!」

「な、なんて事を……!」


 ではごきげんよう、そう言うと、ニヤリと気味の悪い笑みを浮かべ、ユーフィスは離れていった。
 儂らは鉄格子を掴み、声を上げ叫び続けた。
 その声は誰に届くこともなく、やがて項垂れる事しかできなくなった。

 【宵闇の森】を使って実の妹を殺す。
 樹神の依代たる神樹を伐る。

 過ちを続ける子供を止めることは出来ないのか。
 滅びゆく国を止めることは出来ないのか。
 この部屋にただいるだけの儂らに何が出来ると言うのか。


『創世の女神ウェヌサリーゼ様を崇めよ、そしてその使徒に協力せよ』


 ミーティアの最後となった神託を思い出す。
 これが切っ掛けと言っても過言ではない。

 今、この状況を打破できるのは神しかいない。
 儂らに出来るのは神に祈ることしかない。

 樹神ユグド様は廃れた創世教の女神様を上位に置かれた。
 この神樹の危機という状況にあって、儂らが祈るべきは樹神様だけではないのかもしれない。

 ならばどうか。
 樹神ユグド様、創世の女神ウェヌサリーゼ様。
 何卒この国をお救い下さい。


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