カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

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第三章 黒の主、樹界国に立つ

62:おいでませ、キノコ王国(村)

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■ピピン 菌人族ファンガス 男
■37歳 ポルの父


「おい、ピピン! ポルが帰ってきた!」

「何っ! 本当か!」

「あ、ああ! しかし、その、何というか……」

「ええい! とにかく行くぞ!」


 その報告を受け、とにかく驚いた。
 村の為、泣く泣く送り出した我が娘。
 その涙も乾かぬうちに、もう帰ってきたというのだ。

 何が起こったのか分からないまま、妻のプルと共に村の入口へと走った。


「あっ! お父さんとお母さんなのです! おーい! 帰ってきたのですっ!」


 村の衆に囲まれながら、元気に手を振る姿。
 すぐにでも駆け寄って抱きしめたいところだったが、俺もプルも足が止まってしまった。

 あ、あれ? ポル……だよな?
 なんでメイド服なの?
 そちらの貴族っぽい基人族ヒュームの人は?
 うしろのメイドさんたちは? え、お仲間? 何これ?


 い、いや、風貌がどうであれ、一緒に来た人がどうであれ、ポルが帰ってきたことには違いない!
 かなりテンポが狂ったが「ポ、ポルーーーっ!!!」と抱きつき、涙を流した。


 奴隷として送り出してから、ポルを心配しない日などなかった。
 確かに集落への風当たりは厳しく、次の徴税に怯える現状だ。
 しかしそれ以上にポルはきっと苦労しているに違いない。
 それを思うと俺もプルも″笠″がしおれる思いだった。

 まさか生きているうちにもう一度顔を見られるなんて思わなかった。
 こうして元気な姿を見られるだけで嬉しい。

 しばらく抱き合って泣いたあと、改めて紹介された。


「えっと、こちらはご主人様と、先輩奴隷のネネちゃんとミーティア様なのです」

『ミ、ミーティア様!?』


 集まった村の衆が全員唖然とした。
 基人族ヒュームの主人というのも分からないし、奴隷にメイド服を着させているのも分からないし、何よりミーティア様ってあの・・ミーティア様!?
 ミーティア様が一緒にいて、奴隷で、メイドで、先輩で、罪人で、なんでここに!?

 混乱する俺たちを後目に、逸早く復帰した村長が皆を集会所へと案内する。
 さすがにミーティア様がいらしたのに、村の入口で立ち話するわけにもいかない。
 任意ではあったものの、そこには村のほぼ全員が集まった。

 そこで改めてミーティア様から直々に説明を頂いた。


「まずは国が乱れ、皆さんにご迷惑をおかけしている事をお詫びします」


 そうミーティア様は我々に頭を下げた。
 皆に慕われる『神樹の巫女』様である上に、重税が始まった頃には国外追放になったと聞いている。
 何も責などないはずなのに我々に詫びるその姿に、俺たちは恐縮し、同時に「この方は今も尚『神樹の巫女』様なのだ」と思い知らされた。

 そこから聞く話は信じがたいものばかり。
 罪人とされ、奴隷として売られ、魔物に襲われ、山賊に捕まるという悲劇。
 そこで主人―――セイヤ殿に助けられ、彼の奴隷そして侍女として仕えるようになったと言う。

 カオテッドで迷宮組合員として暮らし、そこの奴隷商に偶然来たのがポルであった。
 そしてセイヤ殿やミーティア様と出会う事になり、ポルはミーティア様と同じくセイヤ殿に仕えることになったと。
 ポルから樹界国の現状を聞きつけ、それを正す為に王都に行くつもりだと仰った。


 とても一概に信じられる話ではない。
 ミーティア様ももちろんだが、セイヤ殿にしても買った奴隷の為にポルをここまで来させ、ましてや国政を正しに王都に行こうなどと正気の沙汰ではない。
 ミーティア様の主人となっている事でただの基人族ヒュームではないと分かっている。
 しかし、とは言え―――


「ご主人様は『女神の使徒』であらせられます。私たちは樹神ユグド様と創世の女神ウェヌサリーゼ様のお導きによって、今この場にいるのです」


 そう言って、ミーティア様もポルも、隣のメイド……いや、侍女さんも左手の甲を見せて来た。
 そこにある奴隷紋は、まさしく女神の紋様。輝かんばかりの美しさに皆から感嘆の声が上がる。

 何という事だ。
 セイヤ殿……いや、セイヤ様は『女神の使徒』様だったのか!
 だからこそミーティア様と出会い、ポルを救い、国を救おうと……!

 誰からともなく平伏した。
 俺もプルももちろん膝をつく。


「やめてくれ、そういうんじゃないから。おい、ミーティアやめさせてくれ、ポルも」


 使徒様は謙虚な方のようで、こうして接するのをお嫌いになるそうだ。
 やはり使徒様は器が違う。
 きっと奴隷にメイド服を着させ、武器を持たせているのにも何か理由がおありなんだろう。

 その後、村の近況と、俺たちが知っている国の現状をお聞かせした。


「噂では神樹を伐ろうと聖域の森の伐採を進めているそうですじゃ。あそこは巫女様以外が普通に入れば必ず迷う森……だからこそ伐採して道を切り開こうと言うのでしょう」

「なんという……! 村長様、伐採はどれほど進んでいるか分かりますか?」

「この目で見たわけはないので何とも……しかし話が出てからしばらく時間が過ぎています。近々神樹まで届いてもおかしくはないと思いますじゃ」


 ミーティア様が鎮痛な面持ちで項垂れる。
 そうだ、やはり今の『神樹の巫女』ユーフィス様は正しい巫女様ではないのだ。
 森を切り開かねば神樹へと辿り着けないのがその証拠。
 罪人となり国を離れて尚、ミーティア様が『神樹の巫女』様なのではないか?
 ご本人はすでに『神樹の巫女』ではないと仰るが……。


 日が暮れかけて、もうすぐ夜になる。
 村長は使徒様方にお泊り頂くようお願いした。
 が、どうやらすぐにでも出立するらしい。


「よ、夜道を行くというのですか!? 危険では!?」

「ここまでも夜だろうが走ってきたからな、もうひと頑張りして王都に急ぐよ」

「なんと……何もおもてなし出来ず恥じるばかりです」

「もてなせる現状じゃないだろう? ああ、そうだ村長、もし俺たちが王都に行っている間に徴税官が来るようならこれで凌いでくれ」


 そう言うと、使徒様は鞄からドサッと重そうな袋を渡した。


「こ、これはっ! こんな大金をっ! さすがに頂けません!」

「気にするな。何、徴税官が来なければ帰りに寄った時にでも返せばいいだろ? それまで預けるだけだ」

「っ……わ、分かりました。有り難くお預かりいたします……本当に何から何まで、ありがとうございます」


 どうやら当座の金を置いて行くらしい。
 なんという慈悲か。
 これから決死の戦いに赴くというのに、我々の心配など……。
 これが『女神の使徒』様というものなのか……。


「ポル、お前は本当についてくるのか? ご両親と一緒に村で待っていたほうがいいんじゃないのか?」

「わ、私はご主人様と一緒にいきたいですっ! 足手まといだと思いますけど……でもっ、何か、ご主人様のお役に立ちたいのですっ! お願いしますっ!」

「分かった。ポルがそれでいいなら一緒に行こう」


 ポルは使徒様について王都に行くと言う。
 娘を危険な王都に行かせることに、もちろん不安はある。
 しかし使徒様にお仕えするという名誉。
 それは出会い、そして奴隷として買われたポルにしか出来ない事。

 女神様の御加護が宿った左手が羨ましくも思える。
 こうして待つしか出来ないこの身が情けなく思える。

 俺はプルと手を繋いだまま、使徒様たちを村の入口から見送った。


「ポルーーーっ! 頑張れよーーーっ!」

「行ってくるのですーーーっ!」


 ブンブンと手を振るポルの背中が小さくなっていく。


 ……いや、正確には使徒様の背中に乗った、ポルの背中、だが。

 ……そんなに手を振ると使徒様の御迷惑だぞ、ポル。

 ……すごく走りづらそうだぞ、自重しろ、ポル。

 ……というかお前、何、当然な顔して使徒様に背負われてんだ。不敬だぞ、ポル。


 ……願わくばポルに神罰が当たりませんように。


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