カスタム侍女無双~人間最弱の世界に転生した喪服男は能力をいじって最強の侍女ハーレムをつくりたい~

藤原キリオ

文字の大きさ
65 / 421
第三章 黒の主、樹界国に立つ

63:蠢動と思惑と疑念と

しおりを挟む


■ガーブ 獅人族ライオネル 男
■???歳 【天庸十剣】 第四席


「なんだ、久しぶりに来てみれば其方しかおらぬのか、ガーブ爺」

「クナか。儂とていつもおるわけじゃないぞ。たまたまじゃ」


 久方ぶりに来たここ・・で休んでおったら、部屋に入ってきたやつがおった。
 下半身が蛇の女、人蛇族ナーギィのクナじゃ。
 儂の身の丈をゆうに超える大鉈を担いだ、【天庸十剣】が第七席。
 人の事は言えぬが、こやつが顔を出すのも珍しい。


「他のやつらは?」

「知らぬ……ああ、少しは知っておるな。確か樹界国が面白い事になってるとかでボルボラとリリーシュが遊びに行ったわ」

「樹界国か、妾も耳に挟んだぞ。なるほど確かに面白そうだ」


 樹界国の政変からの流れは他国にまでも漏れ聞こえる。
 近年稀に見る大改革と言っていいじゃろうな。
 まぁその改革が誰にとって良いものかは分からんが。

 合点がいったのか、クナがケタケタと笑っていると部屋の扉が開いた。
 入ってきたのは紫めいた黒い肌の男。背中には蝙蝠のような翼が見える。


「その件もあってお呼びしたんですよ。ガーブさん、クナさん」

「儂ら二人だけをか? ドミオ」

「ええ、お二人くらいしか呼べなそうでしたしね」


 ドミオは役者のようにやれやれといった様子で振る舞うと、椅子に腰かけた。
 この妖魔族ミスティオはどうもいけ好かん。


「と言っても急ぎの話でもなし、ただ耳に入れておいた方が良いかと、ええ、それだけです」

「回りくどいのう。用件を言わんか」

「カオテッドに何やら面白そうな雰囲気がありましてねぇ。もしかするとお二人にもご協力頂くことになるかと、ええ」


 カオテッド?
 確か大迷宮と中央区を押さえる為に画策してる途中だったはずじゃな。
 あそこを物にすれば盟主様の目的に近づくと……。
 さっさと【十剣】を送り込んで制圧すれば良いものを、うだうだとやってるらしいが。


「すでに第八席と第十席のお二人はカオテッドに入ってましてね、ええ。今は調査とゴミ掃除をしてもらってるんですよ」

「ほう、あいつらが」

「なんだ妾もそちらに行けば良かったのう。しかし樹界国も気になる」

「樹界国の方も少し繋がってるんですよ、ええ。だからボルボラさんとリリーシュさんに行ってもらった次第でして」


 樹界国の政変騒ぎとカオテッドが?
 共通の事となると……。


「【宵闇の森】か?」

「それが一つですね。もう一つあるんですがこれは未確認でして今は調査中ですよ、ええ」


 なんじゃそれ。
 【宵闇の森】は邪魔じゃからその対処が主目的かと思えば、そうでもないのか。
 相変わらず回りくどい事を考えおって。


「じゃあ儂らはとりあえず暇してろって事かの」

「つまらん。どこかの村でも喰ってくるか」

「ほどほどにして下さいよ、クナさん、ええ、ほどほどにね」


■ヒイノ 兎人族ラビ 女
■30歳 セイヤの奴隷 ティナの母親


「失礼、貴女はもしや南西区の白パン屋の……」


 組合でそう声を掛けられました。
 今日は私とエメリーさん、サリュちゃん、ティナで迷宮に潜ろうと来たところです。
 ご主人様の奴隷となり組合に来るようになって声をかけられたのは初めてで驚きました。

 誰だろうと思ったら、綺麗な顔立ちの導珠族アスラの男性です。


「これはメルクリオ様。ご無沙汰しております」


 エメリーさんがそう言いました。
 そうか、この人が魔導王国の第三王子様でAランクの……。


「ああ、君は侍女長のエメリーだったかな。いきなり声をかけて申し訳ない。もしやと思ってつい声をかけてしまった」

「彼女はヒイノと申しまして、確かに南西区でパン屋を営んでおりました」

「やはりか。実はあの白パンのファンでね、時々買っていたんだ」

「まぁそうだったのですか、あ、ありがとうございます」


 思わず店主だった時のように頭を下げました。
 まさか王子様に買われていたなんて……。
 美味しいと言ってくれると今でも嬉しくなります。


「急に潰れて残念だと思っていたんだ。まさか【黒屋敷】に居たとは思わなかったが……」

「ええ、少し前に店をやめてご主人様の元に仕えております。急に閉店してしまって申し訳ありません」

「いや……ああ、しかし残念ではあるな。あの白パンが食べられなくなるとは」


 私も組合員になってから何度も迷宮には潜っているのですが、タイミングが合わなかったのでしょう。
 どうやらご主人様の元に居ることを知らなかったようです。
 私のパンを食べたいと仰って頂けるのは嬉しいのですが、勝手に渡してしまうとご主人様のご迷惑になるかもしれません。
 せめて許可をとってから御裾分けしたいです。

 エメリーさんなら……とチラリと見てみましたが、何とも言えない様子ですね。
 やはりご主人様に報告してからにしましょう。


「そう言えば、今日は四人で潜るのかい? セイヤやミーティア様は居ないのかい?」

「本日は別件・・がありまして、迷宮へは私たち四人で参ります」

「そうか……」

「何か御用がおありでしたら、お伝えしますが」


 エメリーさんがそれとなく誤魔化しました。
 いくら相手が王子様であってもご主人様が樹界国に行っているなどと吹聴するわけにはいきません。


「いや、聞いているかもしれないが、迷宮内で組合員を狙うやつが居るらしい。セイヤにも伝えようと思ったのだが、君たちが四人で潜るのならば尚の事だ。十分用心してくれ」

「ありがとうございます。ちなみにその犯人の目星などはついていないのですか?」

「僕の知る限りではね。なんせ被害者が加害者の姿形を見ていないそうだし。目的が無差別だとすれば誰が狙われてもおかしくはない」


 イブキさんが仰っていた事件ですね。
 まだ犯人が捕まっていないとは。
 いえ、それどころか何の進展もしていない。
 確かに私たちも気を付けなければなりません。


「お母さんは私が守りますっ!」

「ハハハッ、これは可愛い近衛兵だ。だったら安心かな」

「はいっ!」


 全くこの娘は。
 私こそティナを守らないといけないのですがね。
 ティナが逞しくなりすぎて最近は少し困ります。

 でも気持ちは嬉しいので頭を撫でておきましょう。


■ツェン・スィ 竜人族ドラグォール 女
■305歳 セイヤの奴隷


 迷宮に行かないと暇でしょうがねぇ。
 屋敷の警備っつったって誰か襲って来るわけでもねえしな。

 だからと言って買い出しに連れまわされるのもどうかと思うわけだ。
 好きに酒を買えるわけじゃないし。
 そんな不満を言いながら、あたしはイブキと通りを歩いている。


「別にあたしじゃなくてフロロが行けばいいじゃないか」

「しょうがないだろ。お前を置いていくとキッチンの酒を勝手に飲むだろ」

「飲むか!」


 いや、飲んでいいなら飲むけど!
 しかしあたしが飲んでいい量はご主人様に決められている。
 それ以上、隠れて飲もうものならエメリーの折檻が待っているのだ。


『ご主人様のお金で買ったご主人様のお酒を許可もなく飲もうなどと言語道断です。貴女には奴隷として侍女としての心構えがまだないようですね。いいですか? そもそもご主人様は―――』


 と、セイザをさせられて長時間の説教だ。
 さすがのあたしでも、それを忍て飲もうという気概はない。
 説教モードのエメリーは師匠がかわいく思えるほどだ。

 あの多肢族リームズに勝てる竜人族ドラグォールが果たしているのだろうか。
 種族差とは何だったのか。あたしの三百年は何だったのか。
 そう思わずにはいられない。


「でも屋敷にフロロとジイナだけってのもなぁ。いくら警報の魔道具があるとは言えさ。いやまぁフロロ一人いれば大抵のヤツには勝てるからそこまで心配してない……ん? どうしたイブキ?」


 イブキの足が急に止まった。
 振り返ると、そこには険しい表情のイブキが青ざめた顔をして突っ立っていた。
 一体なんだ?
 目線の先を追うと、人混みの奥に鬼人族サイアン鳥人族ハルピュイの二人組……あいつらを見てるのか?


「大丈夫か?」

「あ、ああ……大丈夫だ」


 全然大丈夫そうじゃない。顔色が悪い。


「知り合いか?」

「まぁ……ちょっとな」


 ……口には出せないか。


「あー、そういえばあっちにあたしの馴染みだった酒屋があるんだ! イブキ、そっち行くぞ!」

「あ、ああ……」


 こりゃ報告しとくかね。ご主人様か、恐怖の侍女長様に。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

異世界帰りの英雄は理不尽な現代でそこそこ無双する〜やりすぎはいかんよ、やりすぎは〜

mitsuzoエンターテインメンツ
ファンタジー
<これからは「週一投稿(できれば毎週土曜日9:00)」または「不定期投稿」となります> 「異世界から元の世界に戻るとレベルはリセットされる」⋯⋯そう女神に告げられるも「それでも元の世界で自分の人生を取り戻したい」と言って一から出直すつもりで元の世界に戻った結城タケル。  死ぬ前の時間軸——5年前の高校2年生の、あの事故現場に戻ったタケル。そこはダンジョンのある現代。タケルはダンジョン探索者《シーカー》になるべくダンジョン養成講座を受け、初心者養成ダンジョンに入る。  レベル1ではスライム1匹にさえ苦戦するという貧弱さであるにも関わらず、最悪なことに2匹のゴブリンに遭遇するタケル。  絶望の中、タケルは「どうにかしなければ⋯⋯」と必死の中、ステータスをおもむろに開く。それはただの悪あがきのようなものだったが、 「え?、何だ⋯⋯これ?」  これは、異世界に転移し魔王を倒した勇者が、ダンジョンのある現代に戻っていろいろとやらかしていく物語である。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【モブ魂】~ゲームの下っ端ザコキャラに転生したオレ、知識チートで無双したらハーレムできました~なお、妹は激怒している模様

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
よくゲームとかで敵を回復するうざい敵キャラっているだろ? ――――それ、オレなんだわ……。 昔流行ったゲーム『魔剣伝説』の中で、悪事を働く辺境伯の息子……の取り巻きの一人に転生してしまったオレ。 そんなオレには、病に侵された双子の妹がいた。 妹を死なせないために、オレがとった秘策とは――――。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

処理中です...