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第三章 黒の主、樹界国に立つ
64:【指令】大司教を暗殺せよ!
しおりを挟む■ディセリュート・ユグドラシア 樹人族 男
■502歳 ユグドル樹界国前王 ミーティアの父
正直に言おう。
まさか祈りが届くとは思わなかった。
儂とて樹界国の樹人族。妻のロージアほどとは言わなくとも日常的に樹神様に祈りはする。
しかしこんな絶望的な状況の中、藁をもすがる思いで込めた祈りが、まさか聞き届けられるとは。
改めて【樹神ユグド】様、そして【創世の女神ウェヌサリーゼ】様に感謝の祈りを捧げるほかない。
それはユーフィスが怨嗟の言葉まがいの言伝をしていった数日後だった。
憔悴し項垂れる儂とロージアの部屋に、音もなく近づく数人の者がいた。
扉の鉄格子から呼びかける声で、初めてその存在に気付いたほどだ。
「お父様、お母様!」
「っ! ミーティアか!?」
「ミーティア! ああっ! 生きていたのね!」
「今、扉を開けます、少々お待ち下さい」
警備兵から奪ったのか、扉の鍵を開けて入ってきたのは確かにミーティア。
『日陰の樹人』となったせいで髪も肌も色が違う。
おまけになぜかメイド服を着ている。
しかしその顔を見間違えるはずもない。その声を聞き間違えるはずもない。
紛れもなく我が娘ミーティアだった。
ユーフィスの言伝からずっと心配ばかりしていた。
祈ってばかりいた。
それがこうして生きて、再び会えることがあろうとは。
疑問点は多々あるものの、儂らはただ抱き合い、涙を流した。
しかしあまり時間がないと、ミーティアは話を切りだす。
「お父様、お母様、詳しいお話の前にまずはご紹介させて下さい。こちらがセイヤ様、私のご主人様であり『女神の使徒』様です」
「っ……コホン、初めまして、セイヤ・シンマです。お助けするのが遅くなりました」
「えっ……ごしゅ……?」
「め、女神の……?」
混乱していたのは確かだ。
儂らはミーティアが何を言っているのか、全く理解できなかった。
何も頭が働かない儂らを見て、彼はミーティアに告げる。
「ミーティア、時間がないから説明は任せる。予定通り俺とネネは神殿に忍び込む。ポルはミーティアとここで待機だ」
『はい』
それだけ言うと彼は闇朧族と思われるメイド少女と部屋を出ていった。
残ったのはミーティアと菌人族のメイド少女だ。
「お、王様、王妃様! 初めましてですっ! 菌人族のポルですっ!」
「あ、ああ……」
「ポル、緊張しなくても大丈夫ですよ。貴女も一緒にお父様とお母様にご説明しましょう。ご主人様とネネならば何の心配もありません」
「は、はいです!」
そして儂らは聞いた。
ミーティアが国を追われて以降の事、セイヤ殿……いや使徒様の事、そして樹界国の現状とこれから為す事。
まるで夢物語。それも良夢と悪夢が混ざったようなとんでもない内容だ。
混乱した頭で理解するには時間がかかった。
■ネネ 闇朧族 女
■15歳 セイヤの奴隷
ミーティアの両親は王都ユグドラシアの外れに建っている『罪滅の塔』という所にいた。
私たちは王都に入らず、外側を回り込んで、塔へと侵入。
察知スキルを全開にして最小限の警備兵を気絶させながら塔を上った。
たぶんしばらく起きないと思う。
最上階に居たのは威厳のあるヒゲのお父さんと、ミーティアそっくりのお母さん。
二人にはこれから王城に乗り込むにあたって説明、説得して一緒に行ってもらうつもりなんだけど、どうも頭が働いていないみたい。
そりゃ「これから助けに行きますよー」とか伝えるわけにはいかないからしょうがないと思う。
いきなりミーティアが来たから驚いたんだね。
説明と説得はミーティアとポルに任せて、私とご主人様はもう一仕事。
倒さなきゃいけない国のトップ連中は四人居て、そのうちミーティアの兄・姉と宰相は王城に居ると思われる。
でも大司教は神殿にいるはず。
どっちかを攻めてる時にどっちかに逃げられるわけにはいかない。
かと言って四人しか居ないし(ポルは戦力的に不安だから実質三人だけど)戦力分散もできない。
だから先に神殿で大司教を暗殺してから、速攻で王城に攻め込むということにした。
大司教の配下の神殿騎士は他種族を苦しめている徴税官でもあるらしい。
本当なら大司教だけじゃなくて配下の騎士も皆殺しにしたいんだけど……ミーティアの手前、空気を読もう。
私、顔色伺うの得意だから。何も言えないけど。
それに暗殺だったら得意分野だから。
これでも闇朧族の端くれだし。
「完璧な暗殺をするつもりはないぞ。適度に会敵するだろうし、絡んで来たら殺すか黙らせる。特に大司教の周りで警備しているような騎士は息がかかってるに決まってるから殺す」
「はい」
「一番危惧するのは大司教をとり逃がすこと。それと神殿の外部に漏れることだ。少なくとも王城を制圧するまでは騒ぎにしたくない」
良かった。殺してもいいって。
やっぱりご主人様もミーティアに遠慮して今まで殺さなかったんだと思う。
塔に侵入するのとかも殺した方が速かったしね。
これで少しはやりやすくなった。
でも今、朝方なんだよね。
出来れば夜にやりたかった。時間的に贅沢は言えないけれど。
時間も場所も暗殺向きとは言えない。
塔を出て、王都に入り、中心部にほど近い樹神教の本神殿へ行かなければいけない。
で、そこの二階に大司教の部屋があるらしいと。
王都に侵入するのと、神殿に近づくのは私の察知スキルを駆使して裏道とか使うけど、さすがに神殿に入るのに見つからないように行くのは無理だ。
もうそこからは強行突破かな。
ひたすら速く、目にした連中から殺していけば……あ、殺しちゃいけないのか。絡んでもらわないと。
私たちの最高速に絡める人がいるのかな。
もう皆殺しでいいんじゃないかな。
そんな事を考えながら、すでに神殿の近く。
朝からお祈りに来る人、普通に通りを歩いている人、大勢います。
「こりゃ正面からは無理だな。どっかから二階に上れないか?」
ご主人様もそう言うけれど、やっぱりこの神殿が象徴的な建物だからか、隣の建物とかと繋がってないし高さも合わないんだよね。
夜じゃないから裏側から壁とか昇ってもバレそう。
「しょうがないな。ネネ、俺の影に入れるか? 二階に上るまで全力でダッシュするわ」
おお、ご主人様の全力ダッシュは私も付いて行けないくらい速いからね。
多分普通の人なら通り過ぎたのも気付けないくらいだから。
じゃあ遠慮なく<影潜り>させてもらいます。
―――ビュンッ!
疾ッ! 恐ろしく速い移動速度。私でなければ見逃しちゃうね。
そうしてどうにか神殿の二階へと侵入を果たす。
ご主人様、ご苦労様です。
二階の廊下にもちらほらと警備兵がいるけど、ここからはもう速攻で気絶か殺すかしていくのみ。
音を立てず、声を出させず、次々に倒して行く。
そして一際豪華な扉があった。
室内の気配は二人。少し聞き耳を立ててみる。
「ははは! また税収が入ってきたぞ! こんなに金が溜まるとはなあ! お主の助言のおかげだ、ペイリーズ!」
「いえいえ、司教様の努力の成果でしょう。私は口を出したに過ぎませんわ」
「すべてが順調だ! 重税に次ぐ重税で金と奴隷が溜まる一方だ! 馬鹿王は奴隷を与えれば満足! 馬鹿巫女は神樹を伐れば満足! この金で国を牛耳るのも時間の問題よ! ははは!」
……うん。
ご主人様と目を合わせる。
うん。殺ります。
ご主人様はスパンと扉を斬り、即座に突貫。私も続く。
「んなっ! 何者d―――」
「だ、誰よアナt―――」
ご主人様がズールとかいうハゲデブを一閃。
私がそばに居た女の首をはねた。
……あ、この女淫魔族だ。
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