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第三章 黒の主、樹界国に立つ
65:【指令】なるべく穏便に王城へ乗り込め!
しおりを挟む■セイヤ・シンマ 基人族 男
■23歳 転生者
「女神の使徒様、ミーティアを助けて頂いたばかりか樹界国の為に足をお運び頂いたこと深く御礼申し上げます。自らの失態で使徒様にご迷惑おかけした事を恥じ入るばかりでございます」
「あー、えーと、いえいえこちらもミーティアにはいつも助けられていますので、どうぞ頭を上げて下さい」
神殿から急いで塔へと帰ってみればこれだ。
奴隷の両親に頭を下げられるってのはさぁ……まぁポルの時もそうだったんだけど。
こっちは国王様と王妃様だからね。
主人という事を忘れて小市民化してしまうもんなんですよ。
で、どうやら説明と説得はしてもらったらしい。
二人とも王城への乗り込みに付き合ってくれると。
「大丈夫ですか? 俺はミーティアの兄と姉、そして宰相も殺す気でいます。特に兄の方は殺さなければ奴隷が解放されないと思うので。ミーティアにも問いましたが……お二人は自分の子を殺す覚悟があるんですか?」
「…………正直、殺したくはないという気持ちはあります。しかしながら捕らえた所で、犯した罪を鑑みれば極刑は確実。使徒様にもお手を煩わせている現状、躊躇はすべきでないと考えます」
「……分かりました。では協力願います」
腹はくくったみたいだけど、そりゃ子供殺しは嫌だろう。
ミーティアにしたって肉親殺しはして欲しくない気持ちは俺にもある。
だがこの現状、酷なようだが王族として国の為に汚れてもらうしかないだろ。
まぁなるべく俺が殺すつもりではいるけどな。
「じゃあここからは王城にまっすぐ歩いて乗り込む。先頭はミーティア。もうここまで来たら「神樹の巫女が帰ってきた」だの「女神の使徒が来た」だの言っていいから、とにかく王城への道を開けて、やつらを逃がさないように捕らえることを第一にな。俺とネネは絡んでくるやつの露払い。ポルは万が一に備えて陛下と王妃様の警護な」
『はいっ』
本当は『女神の使徒』なんて嫌なんだけどな。
でもどうせ言わずにいた所で、俺らが帰ったあとに王様とかが言うだろ。「あの人、使徒様だから、まじで」って。
だったらご老公の印籠みたいに左手でも見せびらかしながら王城に乗り込んだほうが楽に制圧できるんじゃないかと。
スムーズに行かないと逃げられそうだしな。
そうして六人で『罪滅の塔』を脱出。そのまま王都へ。
さすがに王都を歩けば注目を浴びる。
王様や王妃様はもちろん、罪人となった上に侍女服を着ているミーティアも、王都民にはさすがに顔を知られている。
それが馬車にも乗らず大通りを歩き、さらには基人族の男までいるんだ。
何が何だかって感じだろう。
ヒソヒソ話は聞こえるが、誰も何も言ってこない。
今の圧政を考えれば王族に対して罵声を浴びせても良さそうなものだが。
圧政が他種族に対してのみで樹人族は贔屓しているから、王都民は王族に対して批判的ではないのか?
それとも王様や王妃様、ミーティアの人気が未だに高いのか?
……どうも後者っぽい。
特に王様たちと一緒にいることで、日陰の樹人=ミーティアと分かるらしく
「あの罪人はやはりミーティア様!?」「なんとおいたわしい姿に……」「我らの巫女様が帰っていらっしゃった!」などの声が聞こえる。
ポルも言ってたけど、やっぱミーティア人気あるんだなぁ。
それを侍女奴隷にしている俺……何でしょうね、この優越感。
すいませんね、都民の皆さん、こんな基人族がもらっちゃいまして。ははは。
ゲスいな。これは主人失格ですわ。
凛とせねば。
「ディ、ディセリュート陛下!? 王妃様!? それに……ミーティア様!?」
「ご苦労様、通りますよ」
「ハ、ハッ!」
王城の門兵も思わず敬礼して、その横を通り過ぎるのみ。
王様たちが囚われてるのを知ってるだろうに、どうしていいのか分かんないんだろうな。
こういう人は白だな。
「お待ち下さい! いくら前王陛下と言えども通すわけには参りません! ましてや『日陰の樹人』となったミーティア様や基人族など―――」
こういう輩は黒。
俺とネネで瞬殺……いや、王様の手前、瞬時に気絶させていく。
なんか王様と王妃様が「うわぁ……」「使徒様やべぇ……」って空気を出しているけど無視だ。
ミーティアが「当然です」って顔してるから大丈夫だろ。
さて、お兄様はどこかね?
自室? 執務室? それとも玉座の間かな?
■ユーフィス・ユグドラシア 樹人族 女
■173歳 ユグドル樹界国第一王女 『神樹の巫女』?
聖域の森の伐採が進み、神樹への道が出来上がった。
その報告を受けた昨日、私は初めてその地へと赴いた。
生い茂る森の一本道を進み、目に見えて来る巨大な樹。
目が錯覚を侵したのかと不安になるほど天高く、枝が広がるその大樹はまさしく神の依代。
神樹のある聖域の森の中心部は円形の広場のように草しか生えず、鬱蒼とした森は神樹から一定の距離を離れるように生成されていた。
なるほど、これが神樹。
本来『神樹の巫女』しか近寄る事の出来ない場所。
憧れ続けた風景。
今、私はそこに立っている。
この樹を見て、この地に立って、果たして何を思うのか。私自身、興味があった。
それは感動か。畏怖か。敬畏か。讃仰か。
神の依代の偉大さに膝でもつきたくなるものなのか。
そして今思う事は―――
「これは伐るのに苦労する太さですね」
―――と、これだけである。
なるほど確かに神の依代とまで言われる巨樹。
荘厳かつ神秘的な雰囲気はある。
周りの木を比べても異質なのは間違いない。
ただそれだけだ。
樹は樹だ。
こんなものが信仰の対象となっているのなら伐れば良いではないか。
改めてそう思っただけ。
見ることに満足した私は、今日、伐採の打ち合わせも兼ねて神殿へとやって来た。
相手が神樹という事もあり、神殿から騎士団も導入する。
伐った神樹の素材は高値で売れるだろうから、ズール大司教も大喜びで伐るだろう。
そして立ち寄った朝の神殿。
どうも様子がおかしい。奥の方で騎士団の数名が何やら慌てている。
「どうかしましたか?」
「こ、これはユーフィス様! 実は見回りの交代で向かったところ、二階で警備している兵が気絶させられていたのです。何事かと大司教様の部屋に行ったのですが……その、血痕があり、姿が見えないのです」
「なんですって!?」
襲撃!? ズール大司教を暗殺……!?
いや、死体がないので拉致の可能性も……。
そうなれば神殿という私の後ろ盾が……!
思案を巡らせるも答えは出ない。
現状、手掛かりがないのだ。
どう動いていいのやら……。
と、そこへ駆けこんで来た別の騎士が、息を荒げながら言う。
「た、大変だ! ディセリュート陛下と王妃様が王城に……!」
「なっ! なぜです! 塔に幽閉されているはずでしょう!」
「わ、分かりません……しかも一緒にミーティア様も居たという声が……」
それを聞いて私の頭は真っ白になった。
周りの声が聞こえなくなる頭の奥で、全てが一つに繋がる。
大司教を襲撃したのも、両親を塔から出したのも、全てはミーティア。
ならばその狙いは?
決まっている。私と兄、そして神樹だ。
また私から全てを奪おうというのかあの女は……!
こうしてはいられない。
急ぎ神樹の元へ行き、一刻も早く伐らねば!
ヤツが何をしようと全ては遅かった。
そうさせる為にはヤツより早く神樹の元へ……!
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