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第三章 黒の主、樹界国に立つ
66:絶対に油断してはいけない迷宮24時
しおりを挟む■シェイプス 樹人族 男
■298歳 【宵闇の森】構成員
第二王女ミーティアの殺害及び、Aランククラン【黒屋敷】の殲滅。
それを受けて俺たちは組合内の酒場で目を光らせていた。
ミーティア殺害が第一だが、迷宮内で一人だけを狙うのは困難。
ならば【黒屋敷】ごと狙い、仮にミーティアがそこにいなくても戦力の低下は図れる。
狙いやすくなった段階でミーティアを確実に始末すればいいという事だ。
【黒の主】を筆頭に【黒屋敷】の連中はどいつもこいつも不可思議だ。
明らかに弱そうな見た目をして、迷宮の成果は馬鹿げたものを上げて来る。
不明瞭、不確定な部分があるからこそ俺たちは油断しない。
確実に殺れる時に、確実に殺れる場所で、殺る。それがプロだ。
俺たちはこの大迷宮での殺しを秘密裡に続けて来た。
【宵闇の森】は樹王国に古くから巣くう闇組織。
国の上層部との癒着はもちろん、貴族や商会とも組んで国中に浸透し、金を吸い上げて来た。
カオテッドが出来た十年前からもこの大迷宮の資源を奪おうと画策している。
ところがカオテッドという街は特殊で、他の三カ国が目を光らせ牽制し合っている。やたら動くと目立つ。
さらに迷宮への入口は迷宮組合に完全に押さえられ、他国が入る隙間は極めて小さい。
そこをどうにか掻い潜り、迷宮資源を手に入れたいという事だ。
色々と試した結果、幹部連中の中で結論が出たらしい。
迷宮を故意に氾濫させ、迷宮組合ごと潰せばいいと。
大迷宮の規模から考えれば、その氾濫は相当なものになる。
カオテッド自体が潰れる可能性すらある。
だからこそ、真っ新な土地で【宵闇の森】が独占する隙が生まれると。
氾濫を起こすには迷宮内の魔物討伐数を極力減らす必要がある。
魔物を増やし、氾濫の起こしやすい状況を作る為、俺たちは組合員を減らす事を目的としてきた。
ところがだ。
あの【黒屋敷】の連中は、一度の探索で数パーティー分、いやもっとか、とにかく大量の魔物を狩り、その魔石を納品していく。
それが恐ろしいことにほぼ毎日だ。
これまでの努力を無に帰すような真似を、俺たちが何も思わないわけがない。
どうにか出来ないかと思案していた所で今回の依頼だ。
ミーティア一人を狙うより【黒屋敷】全滅に票が流れたのは必然だろう。
ようやくこの機会が訪れた。
そんな思いを顔には出さず、酒場で待ち構えていると……どうやら来たようだ。
相変わらずメイド服の連中だから良く目立つ。
組合のホールも毎回ざわつくから分かりやすい。
……どうやらミーティアは居ない。さらには【黒の主】も居ない。
ついでに言えば厄介そうな竜人族と鬼人族も居ない。
多肢族、狼人族、兎人族が二人……計四人。
仲間と顔を見合わせる。
言葉には出さず、表情で語り合う。
「これ、とんでもないチャンスじゃないか」と。
油断するつもりはないが、誰がどう見たって弱い。紛れもない「カモ」だ。
Aランククランという肩書きさえなければ、組合が慌てて止めるレベルだ。
危険な迷宮に入っちゃいけませんと。
いや、何度も言うが油断はしない。俺たちはプロだ。
だがしかし限度がある。おまけに四人中、二人は子供だぞ?
こんな面子じゃ大迷宮どころか、少し街の外に出るだけで死ぬわ。ゴブリンの群れあたりに殺されるわ。
しかし奴らはメルクリオと少し話してから迷宮の入口へと向かった。
俺たちは少し間を置いてから、迷宮に向かう。
ここからはいつもの仕事。緩みかけた気を張り直す。
俺たちが迷宮でやる殺しでは、なるべく個別撃破を狙う。
大抵のやつらは六人で迷宮に潜る。
こちらは二パーティーを装っているので十二人だが、六人を囲んで一気に殺すという事はほとんどしない。
それは数で勝っていても六人で連携されれば、怪我や死者が出る確率が高まるからだ。
だから、例えば休憩時に用を足すのに離れたり、入り組んだ道の曲がり角を狙ったり、部屋に出入りする時を狙ったりと、出来る限り一人ずつ確殺していく。
一人でも削れればパーティーはもろい。
あとはそれこそ数の勝負で決まる。
これが常套手段であり、その為の場所、殺しやすいポイントも皆頭に入っている。
狼人族は聴覚と嗅覚に優れ、兎人族は危険察知に優れている。
とは言え感知範囲は大体分かるし、何よりその内二人はガキだ。
しかし油断はしない。俺たちはプロだ。
ある程度距離を置き、純粋に探索をしている風を装って後をつける。
しばらくそうしていると、色々と気付く所がある。
……なんであいつらこんな速いの?
……なんで一瞬で魔物が倒されて行くの?
やはり【黒屋敷】は油断ならない。
魔道具か何かで強化されているのだろう。
とは言え、この四人を狙うのがチャンスなのは間違いない。
続行だ。
十人ほどのクランで四人が削れるのは大きい。
そう思い慎重に後をつけて行くと、ヤツらはとある部屋に入っていった。
まるで自室にでも入るように自然に、だ。
いやまて、そこは……
「お、おい、あいつら魔物部屋に入っちまったぞ」
「くそっ! まさか罠の場所も把握せずに探索してるとは!」
「地図見てないからてっきり頭に入ってると思ってたぜ」
狙ってた獲物がまさか魔物部屋に入るなんて……。
こんなのよほどの初心者でもなければ避けて通るのが当たり前だ。
……いや待て、しかし、ラッキーとも言える。
俺たちがわざわざ殺さなくても勝手に死んでくれるのだから。
ただ、死んだか確認の為に魔物部屋に入るわけにはいかない。
扉で待ち受けて、しばらく待って出てこないようなら死亡したと見る。
万が一出て来るような事があれば満身創痍なのは間違いないからそこを叩く。
そういう結論を出して、入口に張り付く。
―――ガチャ
扉のノブが内側から回される。
早い! もう出て来るのか!
まさか誰かが先に入って戦った後だったのか!?
いや、しかしそれでも扉を出た瞬間は完全な奇襲になる。
俺は扉のすぐ近くで構える六人に目で合図し、作戦開始を告げた。
「おらあ―――ぐあああっ!」「ぐはあっ!」「ぎゅえっ!」
な、何が起こった……?
扉を開けた瞬間に仕掛けた連中が、吹き飛ばされ壁に打ち付けられた……。
ピクリとも動かねえ……。
どうする!? 俺たち後続の六人はどう動く!?
仕掛けるか、撤退か……!?
一瞬の迷いに身体が硬直した。
―――ビュン! ドカッ! ドカッ! ドカッ!
それでまた三人がやられる。
倒れる仲間の向こうから姿がゆっくりと見える―――メイドだ。
ハルバードの石突を俺の仲間に当て、気絶させたその姿が目に入る。
な、なんだこいつら、ヤバイぞ!!!
俺は一目散に逃げ出した。
最後尾にいたのが幸いした。
前を遮るものはない。全力で駆ける。
プロの暗殺者を嘗めるなよ! 足なら誰にも負けない!
油断するつもりはないがな―――
「つーかまえたっ!」
!?
目の前に残像のように現れたのは、俺の胸元くらいしか背丈のない、ピンクの兎耳……。
そして衝撃。壁に打ち付けられ……
次の瞬間、俺の視界は真っ暗になった。
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