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第四章 黒の主、オークション会場に立つ
85:新人研修~迷宮編~
■サリュ 狼人族 女
■15歳 セイヤの奴隷 アルビノ
「よーし、準備はいいか? じゃあ出発するぞ」
『はいっ』
今日は新人侍女のみんなの装備が整ったので、初めての迷宮探索です。
ドルチェちゃん、アネモネさん、ウェルシアさんと、装備は持っていたけど迷宮の経験がないポルちゃん。
引率役にご主人様と、念の為の回復役に私です。
「セイヤさん、またそんなに増やして……」
「ハハハ……登録をよろしく」
受付はおなじみの羊人族のメリーさんでした。
もう新人登録も慣れたもので、気楽にお願いできます。
それから六人そろって迷宮へと入りました。
「じゃあ入るぞー。言ったとおり、前衛は俺とドルチェ、中衛にアネモネとポル、後衛にサリュとウェルシアな」
「がっ、がんばりますっ! よっし!」
「ふふふ……ここが冥府への入口……」
「私は前衛で鍬使うんじゃないです?」
「まさか本当にわたくしが迷宮に潜る日が来るとは……不安ですわ……」
……なんか私も不安です。
四人も一気に新人さんを入れたことないですし。
でも私だって先輩さんなので! がんばらないと!
「今日は迷宮のお試しだけだから。本格的に探索するわけじゃないから安心してくれ」
「「ほっ」」
ですよね。四人に教えながらだからCP稼いだりお金稼いだりレベル上げってわけじゃないんですよね。
ご主人様もいつもの探索とは全然違って、歩いては止まって、説明しながら進みます。
フロロさんとかティナちゃんの時は最初から結構攻めたんですけどね。
まぁさすがに四人ですから事情が違いますか。
「ご主人様、次の曲がり角で右からゴブリン二体です」
「了解。えー、今みたいに察知系スキルを持ってるやつが索敵する。敵が襲って来るのが分かるわけだが、言われないからと言って油断しないように。ここは迷宮だからな。なるべく自分で警戒しておくこと」
『はいっ』
「察知系スキルを持ってるのは今のところエメリー、イブキ、サリュ、ネネ、ヒイノ、ティナ、ツェンだな。潜る時は誰かしら一緒のはずだから指示に従ってくれ。アネモネとか今後覚えそうだけどな、なんとなく」
「ふふふ……はい」
みんな<気配察知><危険察知>ばかりで、私だけ<嗅覚強化>と<聴覚強化>なんですけどね。
あ、ツェンさんが<気配察知>と<聴覚強化>持ってるんだっけ?
意外と持ってる人が多い印象ですけど、実際は<危険察知>って迷宮だとあまり使えないそうです。
というのも、<カスタム>で強くなりすぎて魔物が潜んでいても『危険』だと判断されないケースがあるらしく、<気配察知>の方が正確に分かるらしいです。
ヒイノさんとティナちゃんが<危険察知>しか持ってないので、<気配察知>も覚えたいと意気込んでいました。
特にティナちゃんが。
「アネモネ、あの辺りに罠魔法陣があるはずだ。分かるか?」
「<魔法陣看破>……はい、見えました」
「どんなトラップか分かるか?」
「えー、毒矢……ですか?」
「そうだ。アネモネの第一の役割は<魔法陣看破>だから、なるべく注視してくれ。新しい通路に入る時は特にな。床だけじゃなくて、壁と天井もだ。魔法陣を見つけたらみんなに伝える事」
「はい……ふふふ」
あの笑いは『頼られて嬉しい』でしょうか。
『絶望的で笑える』とか『笑ってしまうほど理解不能』とか『生きる指針が見つかった』とか、アネモネさんの含み笑いは結構多様です。
私もやっと最近分かるようになってきました。
「あ、ゴブリンだ! うりゃあああ!」
「ドルチェ! 待て待て待て!」
「はいっ! 待ちますっ!」
「盾役のお前が突貫してどうする。前衛だからって倒すの第一に考えなくていい。お前は後衛陣の守りが第一だ」
「は、はいっ!」
ドルチェちゃんは右手に槍、左手に中盾です。
年下だけど背丈があってカッコイイ。
でもあんまり考えずに勢いのまま突っ込みがちです。
ご主人様が「いのししだな」って言ってましたけど、どういう意味でしょう。
「一回盾で受けてから槍で突くくらいでいい。とりあえず盾は前に出しっぱなしにしてみろ。その陰から槍で刺す感じ。そうそう、それが俗に言う『盾チク』ってやつだ」
「おお! 『たてちく』! これが奥義ですか!」
「奥義にして基本戦術だ」
「おお!」
……どういう事なのか分かりませんが、ひとまず安定しそうなのでいいのでしょう。
……私も『奥義』欲しいなぁ。
「風の刃!」
ウェルシアさんは順調なようです。
風魔法は今まで私たちの誰も持ってなかった魔法属性ですし、それを使うウェルシアさんがとても頭が良いので助かってます。
本当はミーティアさんも使えていたらしいです。『日陰の樹人』になる前は。
だからウェルシアさんもミーティアさんに教わる事も多いそうです。
ただミーティアさんの前で風魔法を使うと時々悲しそうな顔をするらしいです。
ミーティアさんは罪人となった事でご主人様と出会えたので後悔はないそうですが、やはりどこかで考えさせるものがあるのかもしれません。
「ウェルシア、後衛から魔法を放つ時は味方の位置取りに気を付けろ。ターゲットが被るのは時々あるだろうが、魔法の衝撃で味方の体勢が崩れるような事のないように少し離す感じで」
「皆さんがどの魔物を倒すのか吟味して攻撃対象を変えるという事ですか?」
「それが出来れば一番良いけど正直難しい。ネネ、ツェン、ティナあたりと組むと分かるけど、ウェルシアが撃つより速く突貫してるはずだから。だからせめて味方の攻撃軌道から離すくらいの気持ちでいい」
「なるほど」
「それと【魔力】【MP】が低い今のうちに、自分の限界を知っておいたほうが良い。どれくらいの威力でどれくらい撃てば魔力が切れるか、だな」
「はい」
「よし、じゃあ今からウェルシア中心で攻めるぞ。他は防御主体な」
『はいっ』
私も後衛から魔法撃つので、その難しさはよく分かります。
今は大丈夫だけど、前は間違えてイブキさんとかに当てそうになった事も何度か……。
ましてや今の前衛陣は、イブキさん・ツェンさん・ヒイノさん・ドルチェちゃん、あとご主人様も背が高いので私だと見えづらいんですよねぇ。
もう少し大きくなりたいなぁ。
「ご主人様っ! 私、鍬使ってみたいのですっ!」
「えぇぇぇ……」
「ダ、ダメですかっ!?」
ポルちゃんは今まで杖での水魔法・土魔法攻撃を行っていました。
ジイナさんに打ってもらったミスリルの鍬は背負ったまま……。
どうもご主人様はポルちゃんを『純魔』にしたいみたいなんですが、ポルちゃんは村で使い慣れた鍬で戦いたいと。
ご主人様曰く
『一応ポルの希望もあって作らせたけど、鍬が武器と見なされないのか<鍬術>とかないんだよな。だから強くしようと思ったらステータスで誤魔化すしかない。もしくは知られていないだけで<鍬術>がこれから発現するのかもしれんが』
との事です。
スキルがないと技術的な成長が見込めないから、魔法主体のほうが良いんじゃないかと。
私としては鍬を振ってるポルちゃんが可愛いのでどっちも使って欲しいのですが。
「んー、じゃあ、よし! 思い切ってポルの【攻撃】に振ってみるか!」
「わーい! ありがとうなのです!」
「庭の訓練では振ってるんだろ? ものは試しだ。俺と位置交換して、ポルはドルチェと横並びな。俺がすぐ後ろでフォローするから」
「はいっ!」
おお、ポルちゃん前衛ですか!
ご主人様が<カスタム>画面をポチポチいじっているようです。
ポルちゃんは今まで後衛型ステータスだったので、【攻撃】とか全く上げてませんからね。
「来たぞ、ポル!」
「はいです! ていっ!」
『おおっ!』
ゴブリンめがけて振り下ろされた鍬は、頭から足元までザクッと抉り取りました。
剣で攻撃するよりエグいですねぇ。
でも攻撃速度もタイミングも威力も、かなりいいと思います。
「お前、魔法だとあれほど慌ててたのに、なんで鍬だと普通に倒せるんだよ……」
「えっ、そう言われましても……鍬ですし……」
「すげーな、鍬」
しばらくそうして迷宮に初めて挑む新人さんたちの訓練のような事を行いました。
ある程度戦えるのが分かったのでしょう、ご主人様が言ったのです。
「じゃあ少し魔物部屋行ってみようか」
『えっ』
反応したのはドルチェちゃん、アネモネさん、ウェルシアさん。
ポルちゃんは「?」となっています。
「ご、ご主人様、確かに普段から魔物部屋に行かれるのは聞いておりましたが、きょ、今日も行くんですの!? わたくしたち初めて迷宮に来たもので、その……」
「ああ、だから急いで回ったりしないし、戦うのも俺とサリュだけでほぼ終わると思うぞ。体験と見学って感じだな」
「ホッ、そ、そうなのですか……」
私、今日はほとんどお仕事してないですからね。
魔物部屋に行くのならちょうど良かったです。
でもやっぱり皆さん魔物部屋って聞くと躊躇するんですね。
「初日だし、そこは俺だって考慮するさ」
「申し訳ありません、わたくしとんだ誤解を……」
「だから今日は三か所だけ回って終わりだな」
『えっ』
「じゃあ行こうか」
ご主人様がスタスタと行ってしまいます。
皆さん、追いかけないとダメですよ。
「三か所……初日で魔物部屋三か所……」
「こうなりゃもうヤケですよっ! よっしゃあ!」
「ふふふ……そこが私の棺桶……」
「なにやってるです? 行くですよー」
その後、一部屋目は私とご主人様で殲滅しましたが、二部屋目からは皆さんも参加しました。
やっぱ慣れておいたほうが良いですからね、魔物部屋。
次はもっと回る事になるんでしょうし。
ちなみに、この日、ポルちゃんに<鍬術>が生えたそうです。
歴史的事件だそうです。
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それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。