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第四章 黒の主、オークション会場に立つ
86:とあるAランカーの帰還
しおりを挟む■ドゴール 鉱人族 男
■42歳 Aランククラン【震源崩壊】クランマスター
「おお、やっと帰ってきたのう」
「妙に懐かしく感じるもんじゃな」
「まったくじゃ」
わしらAランクの【震源崩壊】、総勢二〇名。
一年ぶりにカオテッドの迷宮組合へと帰ってきた。
カオテッドの街自体もバカデカいが、組合も相変わらずデカい。
さすが本部と言わざるを得んわ。
たった一年でもカオテッドの街は大きく変わっている。
店は増え、人は増え、活気が増す一方じゃ。
しかし組合の建物は立派なまま。
見入ってしまうのは鉱人族の性じゃろう。
満を持して組合に入る。
ここもまた組合員でごった返している。
迷宮の街なのだから当然じゃがな。
しかし……。
「だーれも何も言ってこんのう」
「『震源崩壊じゃねーか』とか騒がれると思ったんじゃが」
「わずか一年で知名度が下がったか?」
一年前はカオテッドでもバリバリのトップクランじゃった。
組合に入るたびに騒がれ、やれ握手だの、やれサインだの言われたもんじゃ。
それが何の反応もなし……。
まぁ一年も経てば組合員も変わるか。
街の人々以上に、組合員の入れ替わりは激しい。
集まる若者も多いが、命を落とす者や、攻略を諦めて地元に帰る者も後を絶たない。
高難易度の大迷宮なのだからそれも仕方ない。
少し残念な気持ちも抱えながら「まずは酒じゃ」と酒場スペースへ皆で行く。
いつも座っていた席はさすがに空いていないようじゃな。
これもまた一年のブランクのせいか。
メンバーと酒を酌み交わし、一気に流し込む。
ふむ、やはりカオテッドは四か国に跨っているだけあって、酒の種類も豊富で面白い。
しばしそうして飲んでいるとと、わしに近づく男が居た。
「おや、ドゴールと【震源崩壊】の皆さんじゃないですか」
「ん? お前はサロルートか! 全然変わらんのう!」
「ははは、皆さんこそ」
その男は【風声】のクランマスター、樹人族のサロルートじゃった。
わしらと同じく【風声】はAランククラン。
共にカオテッドで鎬を削っていた友でありライバルじゃ。
久しぶりの再会に嬉しくなり、隣の席に座らせる。
「いつ帰ってきたんです? 鉱王国に帰ってたんじゃ」
「今日じゃよ。今さっき来たばかりじゃ」
「あー、お目当てはオークションですか」
「おおよ」
迷宮組合主催のオークションは年に一回ある。
ここカオテッドは組合の本部という事もあって、あちこちから迷宮関係の品が出品される世界的にも大規模なものじゃ。
わしらはそれに合わせて戻ってきたわけよ。
そろそろ登録しておかんと入場も出来ないかもしれんからな。
このオークションのために面倒くさい貴族の依頼を受けて来たようなもんじゃ。
その甲斐あって軍資金は十分。
目ぼしい武器や魔道具を片っ端から買ってやるわい。
「うーん、今年は難しいかもしれませんよ? 大量に買いそうな金持ち組合員がいますし」
「なんじゃそれ、誰じゃ? メルクリオか?」
「いえ、彼も絡んではいますけど完全に別口です」
金持ち組合員って、迷宮で稼いでるってことじゃろ?
そんなのAランククランしかおらん。
となれば【獣の咆哮】か【魔導の宝珠】が有力じゃろうが、【獣の咆哮】は金使いが荒かったからのう。
その点【魔導の宝珠】のメルクリオは魔導王国の王子という事もあって、実力も金も持っておる。
じゃからメルクリオかと思ったんじゃが、違うのか。
誰か新しいAランクでも入ってきたのか?
わしらが打ち立てた『カオテッド大迷宮三階層到達』という偉業は破られてしまったのかもしれん。
「今、最前線はどこじゃ。四階へは行けたのか?」
「いえまだ三階ですね。トップは相変わらず僕らと【魔導の宝珠】、【獣の咆哮】ですよ。まぁすぐにでも抜かされそうですけど」
サロルートはやれやれと言ったポーズで両手を上に向けた。
つまりあれか? その最前線を抜きそうなヤツが『金持ち組合員』ってことか?
一体誰じゃ、そいつは。
そう話し込んでいると、また近づいてくる男がおった。
「やあ、久しぶり、ドゴール。帰ってきたのか」
「おっ、メルクリオ! ちょうどお前さんの話をしておったんじゃ!」
「僕の? サロルート、どういう事?」
「いや、メルクリオが仲良しの例の彼らの事ですよ」
「ああ、セイヤか。別に仲良しってわけじゃないだろ。僕以外の誰も話しかけないだけで」
「はははっ、違いない」
「なんじゃ? 誰じゃセイヤって」
話から推測するに、そのセイヤとかいうヤツが強くて金を持っていると?
わしが話について行けず首を捻っていると、組合の入口ホールの方がザワつき出した。
これは誰か有名人か、厄介者が入ってきたな?
わしらが一年前まで実際に騒がれていたから間違いない。
「どうやらお目当ての彼らがお出ましだね」
今言っていたセイヤとか言うやつか?
どれどれと、わしは小さい身体を乗り出し、入口に目を向けた。
そこに居た集団は、一言で言えば『異様』じゃった。
見ただけで「はぁ?」と言ってしまうくらいじゃ。
真っ黒な貴族服のような基人族の男と、それに付き従うメイドが五人。
そのメイドも杖や盾や槍を持っている。しかも一人は鍬じゃ。なんじゃ鍬って。
まさかあの恰好で迷宮に潜るつもりか?
基人族もか? そもそも基人族が組合員なわけないじゃろ。弱いし。
「ドゴール、先頭の黒い基人族がセイヤだよ」
「あれがか!?」
「通称【黒の主】。Aランククラン【黒屋敷】のクラマスさ」
「Aランク!? うそじゃろ! 基人族じゃぞ!?」
「うそじゃない。ついでに言えばクランメンバーのメイドたちも子供とか非戦闘種族とか色々いるけど、どれも強いらしい。弱そうだからって絡んだりすると投げられて気絶させられるから気を付けるんだね」
「そうそう、彼を基人族とは思わない事です。『見た目詐欺』とかよく言われてますよ」
なんじゃそれ……メルクリオとサロルートが二人揃ってそこまで言うとは。
この二人とてAランククランを纏める強者。
だと言うのにここまで警戒するか。あの基人族を。
「じゃあヤツも三階層で戦っておるのか」
「いや、彼らは最高で二階層じゃないですかね? ですよね、メルクリオ」
「おそらくね。と言うか、二階層に行ったのも一度だけのはずだよ」
は? 最前線を抜かれそうとか言ってたじゃろ。
二階層でさえ一度しか行ってない輩じゃったら大して強くもないじゃろうに。
それでAランクというのもおかしな話しじゃが。
「彼らは基本的に『日帰り』なんですよ。だから遅くても夕方には戻ってくる」
「それで魔石を四百とか五百とか持ってくるからとんでもないんだけどね、ハハハ」
「よっ、四百、五百じゃと!? 一日でか!?」
ありえん! 最低でもそれだけの数の魔物を倒したという事じゃろう!?
一階層のみとは言え、一日でそれだけの量を集めるなど……いや、それだけの数の敵に会うことすら出来んわ。
普通のパーティーが丸一日がんばったとして魔石が百個も集まれば大戦果じゃろう。それの四~五倍じゃと?
「泊まり込みで二階に行った時はミスリル鉱石とかタイラントクイーンのドロップを大量に持ち込んで来たからね。組合で買い取れないほどの量だったよ」
「あの時も二パーティーで三日くらいだったと聞きましたね」
「っ……!?」
いい加減、こいつら、久しぶりに来たわしを騙そうとしてるんじゃないかと思えてきたわ。
三日で二階層往復はもういいわい。最短ルートで行けるじゃろ。
しかしミスリル鉱石は奥地の山岳地帯、そこまで行くのも大変じゃし、敵も強い。
欲に目がくらんだ組合員は、大抵辿り着けず、辿り着けてもろくに採掘できずに戻ってくる。もしくは死じゃ。
おまけにタイラントクイーンなど森林地帯の最奥じゃぞ?
森を延々と探索し、やっと住処についてもタイラントクイーン自体が強すぎる。二階層の【領域主】としては破格の強さじゃ。
そのドロップ品を大量に!? という事は一度の探索で何度も倒したと言うのか!? ばかな!
「おぬしら、わしを誑かしておるじゃろ?」
「そう思われるのは無理もない。僕だって話してて馬鹿馬鹿しいくらいさ。サロルートもそうだろ?」
「嘘だったら良かったんですけどね、本当だから困ったもので。まぁとにかく彼らはそんな活躍のせいでお金持ちなんです。なんせ中央区の北部の高級住宅地に豪邸もってるくらいですからね」
「なっ……! メルクリオと同じとこか!」
「僕らのクランハウスより立派なところだね。全く仮にも王族として立つ瀬がないよ。ハハハ」
もはや言葉が出ない。
この二人が嘘を言っている様子はないが、とても真実とは思えん。
「しばらくすれば嫌でも分かるよ」
そう言い残してメルクリオとサロルートは席を離れた。
わしはどうにも気になって、その日の夕方まで組合の酒場に居た。
そうしたら例の【黒屋敷】とやらが迷宮から戻ってきたのじゃ。
受付に行くヤツらに聞き耳を立てる。
「お疲れさまです、セイヤさん。今日は……134個ですね。やっぱり少なめですね」
「今日は新人教育みたいなもんだからな。ちゃんとした探索は次回からで」
「でもこの数ってことはまた魔物部屋行ったんでしょう! もうっ、新人さんに魔物部屋行かせたら可哀想ですよ! ちゃんとフォローしてあげて下さいね!」
「ははっ、気を付けるよ」
……ちょっとわしには何を言っているのか分からんかった。
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